不妊治療の排卵誘発剤とは? 効果や種類など疑問を婦人科医が回答 使う・使わないの選択の参考に!
不妊治療のなかでよく使われる排卵誘発剤。これは文字通り卵胞を発育させ、排卵を誘発する薬ですが、一体どのような人に適しているのでしょうか。また排卵を人工的に誘発することによるデメリットはないのでしょうか。先進的な不妊治療に取り組むはらメディカルクリニックの宮﨑先生に、Medical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
宮﨑 薫(はらメディカルクリニック 院長)
2004年慶應義塾大学医学部卒業、2013年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教、慶應義塾大学産婦人科助教、ノースウェスタン大学産婦人科(米国シカゴ)研究助教授などを経て2020年5月、医療法人社団暁慶会はらメディカルクリニック院長就任。「最先端の医療で最短の妊娠を」という方針のもと、患者一人ひとりに合った個別化した治療を提供する。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、日本再生医療学会再生医療認定医。
目次 -INDEX-
不妊治療の排卵誘発剤とは? 注射や飲み薬によって妊娠の確率が上がるって本当?
編集部
不妊治療で使われる排卵誘発剤とはなんですか?
宮﨑先生
文字通り、排卵を誘発するために使われる薬剤のことを排卵誘発剤といいます。自然周期では通常1周期に1つの卵子しか排卵されませんが、排卵誘発剤を使って必要なホルモンを補うことで、消えていくはずの卵胞までも育て、治療に有効活用することができます。
編集部
どんな人に排卵誘発剤は適しているのですか?
宮﨑先生
通常は排卵障害のある方に使うことが多いですね。そのほか、体外受精や人工授精を希望する方が妊娠の確率をあげるために使用することもあります。
編集部
どのようにして排卵を誘発するのですか?
宮﨑先生
一般的には、注射や経口薬、点鼻薬などの形で投与します。投与方法によってそれぞれ効果が異なるので、目的に応じて選択します。
編集部
排卵誘発剤を投与する量によって、妊娠の確率は変わるのですか?
宮﨑先生
はい。その前に前提として考えなければならないのは、治療法によって育てる卵胞の適切な数が違うということです。体外受精の場合は、採卵数が多ければ多いほど1回の採卵における妊娠率は高くなります。そのため、安全性を考慮しながら、作用の強い排卵誘発剤を使用して、なるべく多くの卵子を取ることが基本になります。一方、タイミング法や人工授精では、多胎妊娠につながるリスクがあるため、複数の卵胞を育てすぎないようにコントロールしながら排卵誘発剤を投与する必要があります。
編集部
排卵誘発には具体的にどのような方法があるのでしょうか?
宮﨑先生
「低刺激」と呼ばれる誘発方法では、経口薬を用いて誘発します。この場合、育つ卵胞は少なくなります。反対に、注射によって投与する誘発剤は「中刺激」や「高刺激」と呼ばれ、育つ卵胞の数は多くなります。タイミング法や人工授精の場合は低刺激の経口薬を使用し、場合によって注射を併用するのが一般的です。一方、体外受精の場合はその人の年齢や状況によって、低刺激から高刺激までを視野に入れ、その人に合った方法を選択します。
排卵誘発剤の種類や望める効果・メリットとは? 副作用やリスクについても知りたい
編集部
もう少し排卵誘発剤の種類と、それぞれのメリットについて教えてください。
宮﨑先生
たとえば、飲み薬としてよく用いられるのがクロミフェン製剤(クロミッド)です。これは抗エストロゲン作用があり、脳に働きかけて排卵を促す薬。視床下部にある脳下垂体に作用して、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促します。この卵胞刺激ホルモンが卵巣を刺激し、卵胞の発育を促します。経口薬は注射で投与する排卵誘発剤に比べて作用が弱いので、副作用もほとんどありません。
編集部
もう少し排卵誘発効果の高い誘発剤には、どのようなものがあるのですか?
宮﨑先生
経口薬より排卵誘発の効果を高める場合は、注射薬を使います。たとえば、当院でもよく行う注射に、hMG/FSH注射(ゴナドトロピン製剤)というものがあります。通常、脳下垂体から分泌されるゴナドトロピン(FSH及びLH)のうち、卵胞の発育はFSHというホルモンによって促されます。そのため注射でFSHを投与することで、より多くの卵胞の発育を促すことができるのです。
編集部
注射薬には、デメリットがあるのですか?
宮﨑先生
注射薬は卵胞発育の効果が高く、同時に複数の卵胞を育てることができますが、強力であるため、卵巣過剰刺激症候群のリスクが高くなるというデメリットがあります。また、タイミング法や人工授精の場合は、双子や三つ子の妊娠、つまり多胎妊娠のリスクがあることも考慮しなければいけません。
編集部
成熟した卵胞の排卵を促すにはどうしたら良いですか?
宮﨑先生
注射には2種類あり、先ほどお話ししたhMG/FSH注射は卵胞の発育を促すもの。これとは別に、卵子を成熟させて受精可能な状態にするための注射(LHサージ誘起)があります。通常は、hMG/FSH注射を規則的に注射したあと、LHサージ誘起の注射をして、排卵を促します。注射だけでなく、点鼻薬でも同じように排卵を促すこともできます。
編集部
LHサージ誘起の注射をして、どれくらいで排卵するのですか?
宮﨑先生
投与後おおよそ34〜36時間後に排卵が起こるため、比較的正確に排卵時期を特定することができます。
編集部
どれくらいの頻度で通院すれば良いのですか?
宮﨑先生
排卵誘発の刺激量を多くするか、中程度にするかによって注射の回数は変わりますが、高刺激の場合は一定期間、毎日通院しなければならないこともあるでしょう。そのため当院では、特に体外受精の場合、自己注射をお勧めすることもあります。
編集部
自己注射とはなんですか?
宮﨑先生
通院せず、ご自分で注射をしていただくことです。通院回数を少なくすることができるため、仕事と治療の両立がしやすくなります。
排卵誘発剤による不妊治療にかかる費用は? 保険適用でどうなるのかなどを解説
編集部
排卵誘発剤による不妊治療は、どれくらいの費用が必要なのでしょうか?
宮﨑先生
保険適用になるので3割負担の場合、経口薬は300円、注射は1600〜4800円程度です。
編集部
保険が適用になるのはいいですね。
宮﨑先生
超音波検査や再診療なども含めると、1周期あたりの費用はだいたい5000円程度になると思います。ただし、人工授精にかかる費用やもろもろの検査にかかる諸費用も加わるので、総額については直接、かかりつけの医療機関にご相談ください。
編集部
治療を受けたいと思ったら、まず、どうしたら良いでしょうか。
宮﨑先生
まずは不妊治療専門施設の初診に行くことです。初診のハードルが高く感じられる場合は、相談会やカウンセリングなどの機会を設けている医療機関もあるので、そうした集まりに参加して、不明な点を確認しておきましょう。不妊治療は年齢を重ねると成功率が難しくなるため、できるだけ早期に始め、短期で妊娠に結びつけることが大事。そのためにも信頼できる医療機関を選び、納得してから治療を始めることが大切です。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあれば。
宮﨑先生
排卵誘発を効果的に行うことで妊娠率を上げることができます。一人ひとりの状態をみながらその方に適した誘発方法を決定するので、興味がある方はお気軽にご相談ください。当院では、働きながら不妊治療に取り組んでいる女性も大勢いらっしゃいます。「仕事と通院の両立は大変では……」と、不妊治療を躊躇する方も多いのですが、ご自分で注射をする自己注射なら通院の負担を軽減することもできます。年齢が上がれば上がるほど妊娠が難しくなるため、不妊に悩んでいる方は早めにご相談することをお勧めします。
編集部まとめ
排卵誘発剤にはさまざまな手法があり、自分にあった最善の方法を選択することが必要です。まずは相談会やカウンセリングに参加してみると、不妊治療のイメージをつかみやすくなるかもしれません。
医院情報
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診療科目 | 婦人科、不妊治療 |