不妊症の原因とその治療方法
子どもがほしいと思い続けているのになかなか妊娠できない、赤ちゃんができないのは不妊症だからだろうか――こんな不安や悩みに胸が押しつぶされそうになっている方は、実は少なくありません。現在、不妊症だと診断されている夫婦やカップルの数は、年々増加しています。
不妊治療を受けている方は、平成14年に46万人を超え、現在はそれを大幅に上回っていると推定されています。その一方で、不妊症や不妊治療についての認知度はさほど高くない――これが日本の現状です。ここでは、悩みを抱えておられる皆さまがご自身の状況を把握しやすいよう、不妊症の定義やその検査方法、原因と治療方法などについて、Medical DOC編集部がお届けします。
巷岡 彩子 (木場公園クリニック 医師)
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不妊症の定義とその原因
なかなか子どもができないのが気になるけれど、この状態を「不妊症」と言うのだろうか、何らかの治療が必要な状況なのだろうか――こうした思いを抱えながらも、積極的に病院を受診したり、相談したりすることもできず、悩んでいる方もおられるでしょう。
しかし今現在、日本の夫婦の6組に1組は不妊症の状態にあるとされています。不妊の状態にあることは、決して珍しいことではありません。専門的な知識をもつ人に相談したり、不妊の原因を探ったりすることなく、時間経過に身を任せていることで、苦しみや悩みを長引かせる可能性もあります。ここではまず、不妊症の定義とその原因について確かめていきましょう。
不妊症とは
「不妊症」と定義されるのは、子どもがほしいと願っているカップルが、一般的な夫婦生活を営んでいるにも関わらず、1年以上にわたって妊娠に至らない状態を指します。一般的には、避妊をしない夫婦生活を行うことでそのうちの8割のカップルが1年以内に赤ちゃんを授かり、2年以内には9割にもなると言われています。これが、1年という期間が定められた根拠にもなっているわけです。
不妊症の原因
1年以上妊娠できない状態が続いた場合、その原因が女性にあると思われる場合が多いようですが、決してそうではありません。不妊症の原因は多種多様。検査の結果、女性にその原因があるケースが41パーセント、男性に原因があるケースが24パーセント、男女ともに原因があるケースが24パーセントと、その48パーセントにおいて、男性に原因があるのです。
検査してもその原因が特定されない「原因不明の不妊」の可能性もありますが、女性に原因がある場合は、排卵障害や卵管障害、子宮内膜症や子宮筋腫、頚管粘液の異常、着床障害などが多く指摘されています。男性に原因がある場合は、精液の中に精子がない、その数が少ない、運動率が悪い、精子を運ぶ過程に問題があるなど、精子に関わる部分への指摘になります。こうした状態を、「無精子症」「乏精子症」「精子無力症」「精路通過障害」などとも称しますが、この他にも原因は考えられます。
不妊治療を受けるべき時期
女性に原因があるケースは約半数である――こうした事実は別にして、女性が年齢を重ねれば重ねるほど、自然妊娠にいたる可能性が低くなるのも現実です。女性が35歳を過ぎてからは、その妊娠率が急激に低下したり、妊娠したにも関わらず、流産したりする可能性が高まります。
最近では、仕事などとの折り合いをつけるため、本格的に妊娠を望んだり結婚したりする女性が高齢化している事情もあります。妊娠を望むようになってから1年を過ぎても赤ちゃんを授からない場合には、女性と男性がきちんと話し合う場を設け、婦人科を受診してみることも大切です。
不妊症の検査方法と不妊のパターン
夫婦やカップルでしっかり話し合いを重ね、妊娠を望む意志が固い場合には、できるだけ早期に不妊治療をスタートさせるのが望ましいとされています。しかし、どういった検査を行い、治療の選択肢にはどういったものがあるのかがわからず、不安が募らせている方も少なくないでしょう。ここでは、不妊症の検査方法や治療の選択肢、その流れを確かめてまいります。
不妊症の検査方法
先にも述べたように、不妊症の原因に、女性・男性の別はありません。ただし、女性の場合は基礎体温をつけたり、血中のホルモン値を測定したり、超音波検査や子宮卵管造影検査などを受けるため、生理周期に合わせる必要があります。
その一方、男性の場合は、精液を採取したうえでその濃度や運動率、奇形率などを確認する精液検査が主流です。双方の検査を行おうとすれば、1ヶ月から2ヶ月といったスパンで準備が必要とされることもあるため、まずは相談を行い、計画を立ててみましょう。
不妊のパターン
不妊症には、先に述べたように、女性にその原因がある場合と男性に原因がある場合、どちらにも原因がある場合の3つのパターンがあります。男性に原因がある場合は精子の問題になりますが、女性の場合は、子宮の炎症や筋腫、無排卵、子宮内膜の発育不全、卵管の狭さ、精子との不適合といった具合に、その原因もさまざまです。また、せっかく妊娠することができても流産したり、早産や死産をたびたび経験したりする不育症なども、子宮や免疫系その他に何らかの問題があると考えられています。
不妊治療の流れと方法
検査を行い、その原因が判明すれば、不妊治療を行うことになります。通常の場合は、不妊の程度や原因、年齢にあわせて、治療方法の選択肢が提示されることになります。ただし、子宮内膜症などの病気が原因で不妊の状態にある場合は、病気の治療が優先される場合があります。どういった治療方法を選択するうえでも、医師としっかり相談し、患者さまとそのパートナーが納得のいく方法であることが重要です。ここでは、不妊治療の方法について大きく3つに分類し、ご説明していきます。
タイミング法・排卵誘発法
これから述べる人工授精もしくは体外受精といった方法をとらなくても妊娠が可能だと判断された場合、より自然な妊娠を目指す場合、若年夫婦の場合などに、最初に選択されるのが、タイミング法と排卵誘発法です。
タイミング法は、基礎体温や黄体化ホルモンの測定結果、超音波検査などから予測される排卵日の少し前にあわせて夫婦生活を行い、妊娠の確率を上げようというものです。排卵日の予測精度が高まれば高まるほど、妊娠率も向上しますが、その費用は数百円から1万円ほどと幅があります。また夫婦生活は回数が多い方が妊娠率が高まることが知られています。
排卵誘発法は、「排卵誘発剤」を用いて卵巣に刺激を与え、卵胞の発育や排卵を促す方法です。排卵が起こりにくい女性を中心に用いられます。内服液や注射といった選択肢があり、費用は、数百円から数千円になります。
人工授精
タイミング法や排卵誘発法で妊娠が難しかった場合に用いられるのが、人工授精です。これは、子宮の中に直接精子を注入し、妊娠をサポートしようとする治療方法で、男性に不妊の原因がある場合にも用いられています。
採取した精液を、遠心分離することで、運動率の良い成熟した精子だけを分離し、子宮に注入します。そうした方法をとるため、勃起不全や射精障害といったケースにも対応可能です。細いカテーテルを挿入して精液を注入するのですが、痛みもほぼありません。1回の人工授精で、かかる費用は1万円から3万円ほどです。
体外受精・顕微授精
人工授精からさらにステップアップする必要がある場合、不妊の原因が精子と卵子の受精の場となる卵管にある場合、高度の男性不妊の場合などに検討するのが、体外受精・顕微授精です。これは、精子と卵子を体外で受精させたのち、受精卵、胚を培養した後に子宮に戻し、妊娠率を高めるものです。
体外受精は、卵巣刺激に使用する薬剤の種類、培養する期間などによって費用は異なるものの、およそ20万円から100万円ほどかかります。ほとんど全ての不妊原因に有効だとされる方法です。受精させるべき精子の状態によっては、顕微授精を行うことになります。
体外受精は、卵子の周りに精子をふりかけ、自然な受精を促すものですが、顕微授精の場合は、卵子に直接針をさして精子を注入します。無精子症の場合などにも、精巣から取り出した精子を顕微授精することで、妊娠の可能性があります。顕微受精にかかる費用は30万円から100万円と高額です。
不妊治療を始める前に確認しておくべき事柄
不妊治療を始めようと決心されるタイミングは、患者さまごとに異なります。通常、35歳を超えた患者さまの場合は、治療をゆっくり行うと、妊娠の可能性が徐々に低くなっていくため、ペースアップする方法がとられます。
第1のステップが、検査やタイミング法など。次のステップで、排卵誘発法や人工授精が検討されるようになります。続いて、体外受精と顕微授精といった方法へと変わりますが、こうした段階を踏むのは、治療にかかる費用と肉体的な負担を勘案してのものです。
ステップアップするにしたがって、経済的な負担と肉体的・精神的な負担は増します。比較的負担が小さなものから次第にステップアップしていくことで、患者さまの意志をひとつひとつ確認しながら治療を進めていくことができます。
治療期間と費用
治療期間は、患者さまそれぞれ異なります。それでも、必要な検査を行うだけで2ヶ月から3ヶ月といった時間が必要だと考えれば、比較的治療期間が短いと言われる方でも、それ相応の時間がかかることは想定できます。
不妊症は、さまざまな肉体的要因、精神的な要因がからみあうもので、それらを解消するのには時間が必要です。また、かけた時間がよい効果につながるわけでもありません。からまった糸を少しずつほどいていくように、注意深くその原因を探り、慎重に作業を進めていかねばならないのです。年に12回しかない妊娠のチャンスを頼みにせざるをえず、その結果が眼前につきつけられるという意味でも、精神的な負担が大きいのは事実です。
また、体外受精や顕微授精といった高度治療に補助金制度が設けられている自治体もありますが、ほとんどの場合は、多額の費用がかかり、治療を継続できない理由にもなるでしょう。こうしたカップルに向けて、不妊症治療に民間の保険運用が2016年に許可され。すでに、いくつかの保険が用意されています。将来的に不妊治療を考えている方は、検討してみるのもよいでしょう。
納得しての治療
子どもがほしい、赤ちゃんを授かりたいという強い思いで不妊治療を始めても、その思いを遂げることができない場合もあります。治療にかけられる期間や費用などに関して、それぞれの考えが異なっていたということもあります。
治療前に重要なのが、カップル間でしっかり話し合い、それぞれの思いを確かめておくことです。治療の結果が出なかった場合、やめどきをいつに設定するのか、どのくらいの費用を想定しているのか――カップルが同じ方向を向いて、継続して治療に取り組むためには、こうした確認を積み重ね、協力し合う必要があります。
また、信頼できる医療スタッフのもとで治療に臨むというのも重要でしょう。徐々にステップアップする治療なだけに、しっかりとした説明があって、納得して治療を受けていかねば継続はできません。精神的な負担をできるだけ軽減しつつ、前向きに治療に取り組んでいくためにも、納得できる治療を目指していってください。
監修ドクター:巷岡 彩子 医師 木場公園クリニック 医師
不妊症でおすすめの産科・婦人科 関東編
木場公園クリニック
出典:http://kiba-park.jp/
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