「体外受精は仕事との両立が可能」大切なポイントは寄り添ってくれる医院探し
不妊治療の1つである「体外受精」。体外受精を検討されている人のなかには、副作用や合併症、治療のスケジュールなどで仕事に支障が出るのではないかと心配になる人もいるのではないでしょうか。そこで今回は、働きながら治療を受けることができるのかなど、体外受精のスケジュールに関する疑問を、「ノア・ウィメンズクリニック」院長の田中先生に投げかけてみました。
監修医師:
田中 宏明(ノア・ウィメンズクリニック 院長)
聖マリアンナ医科大学卒業。慶應義塾大学医学部産婦人科学教室入局。東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター、海老名総合病院などで不妊・周産期医療に携わった後、現職へ。医学博士。日本産科婦人科学会認定医。
体外受精とは
編集部
体外受精は不妊治療の一種ですよね?
田中先生
そうです。不妊治療には3ステップあるのですが、体外受精は最終ステップとしておこなわれる治療法です。
編集部
なるほど。体外受精の前のステップについて知っておきたいです。
田中先生
まず、不妊治療の第一段階として「タイミング法」が試されます。タイミング法とは、排卵日を予測して性交のタイミングをとる方法です。タイミング法を数回実践しても妊娠に至らなかった場合、次のステップである「人工授精」の適応となります。人工授精は、採取した精子を排卵のタイミングに合わせて細いチューブを用いて子宮内に注入し、体内での受精を試みる方法です。人工授精を数回実践しても妊娠しなかった場合には、3ステップ目の体外受精の適応となります。
編集部
最初から体外受精をおこなうことはできないのですか?
田中先生
不妊治療の早期から体外受精が適応となるケースは一部あります。具体的には、「精子の数や動きに異常がある場合」や「卵管が閉塞している場合」などが挙げられます。
体外受精の治療の流れ
編集部
体外受精の流れについて教えてください。
田中先生
「排卵誘発→採卵→体外受精→胚移植」の流れで進めていきます。排卵誘発では、排卵の周期に合わせて、排卵を促すための内服薬、もしくは注射薬を使用します。大まかに、薬をマイルドに効かせる場合には内服薬、しっかりと効かせる場合には注射を使用するといった使い分けです。そして、月経開始日を1日目として、3日目くらいから薬を使用して刺激を与えていきます。
編集部
排卵誘発の後はどうでしょうか?
田中先生
月経開始日から採卵までの間に、2~3回ほど受診していただきます。排卵の時期を調べるためにエコーで卵子の発育状態や大きさ、個数などを観察したり、採血をおこなって卵胞の発育状態を示すホルモンの値などをチェックしたりします。これらの検査によって、「いつ採卵するのが適しているか」、「薬剤の量を調整する必要があるのか」などを判断します。
編集部
次におこなわれるのは、採卵ですね?
田中先生
そうですね。月経開始から14日頃に、卵子をいくつか採取するために採卵をおこないます。採卵では、腟の中に超音波機器を挿入して、卵巣に細い針を刺して発育した卵子を採取します。その後、精子と受精させて、分割した受精卵だけを一度凍結させて保存します。凍結させる理由としては、仮に一度の移植でうまくいかなかった場合に、凍結保存してある受精卵を使用して、もう一度移植を試みることができるためです。
編集部
採卵後はいかがでしょうか?
田中先生
採卵後、だいたい14日で次の月経が始まります。次の月経が始まったら、受精卵を子宮に戻す移植の準備をして、タイミングをみて移植をおこないます。移植後は着床を助けるためホルモン剤の内服や注射をおこなうこともあります。その後、移植してから10日頃に妊娠の判定をおこないます。
編集部
治療の副作用などはあるのでしょうか?
田中先生
排卵誘発の際に使用する薬の影響で、下痢や吐き気、腹痛などを生じることがあります。ときに、排卵誘発剤をしっかり効かせるために注射を使用した場合の方が多い傾向にあります。ほかにも、稀ですが「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」という副作用を生じることも考えられ、喉の乾きや尿量の減少、体重の増加、腰痛、息苦しさなどの症状が出ることがあります。軽症の場合には経過観察で様子を見ますが、重症場合には入院が必要になることもあります。そのほか、採卵時にも感染や腟壁などの出血を起こすことがあるとされていますが、総じて稀なケースと言えるでしょう。
体外受精の治療と仕事を両立するために大切なこと
編集部
働きながら体外受精を受けることは可能なのでしょうか?
田中先生
はい。仕事をしながら不妊治療をおこなっている人は少なくないですよ。実際に私が診てきた患者さんのほとんどは、働きながら治療を受けていました。大変かもしれませんが、仕事と治療を両立することに対して、寄り添ってくれるようなクリニックを見つけられるかが重要だと思います。
編集部
働きながらの治療は、なかなかハードです……。
田中先生
たしかに、仕事と治療との両立は大変ですよね。とくに、治療のためのスケジュール調整が難しいと感じる人もいると思います。体外受精の治療中は排卵周期によって採卵に適した日があるため、「この日は絶対に受診してほしい」という日があります。そのため、採卵日に仕事がある場合には勤務日を調整したり、それが難しい場合には次のサイクルまで治療を休んだりする必要があるケースもあります。ただし、一般的には治療を開始する前に、大まかな治療スケジュールや採卵日を伝えることができるので、あらかじめ調整することは可能です。
編集部
働きながら治療を進める上で、大切なことはありますか?
田中先生
パートナーや家族の精神的なサポートが最も重要なことだと思っています。治療中は、仕事以外に家事なども並行しなければならず、大変なこともあるでしょう。なかには薬剤の影響で副作用が生じたり、忙しい生活に疲れてしまったりすることもあるかもしれません。そのため、全てを1人でこなそうとせず、同居するパートナーや家族を頼ってください。
編集部
職場の理解も大事になってきそうですね。
田中先生
そうですね。企業によっては、不妊治療を受ける際の休暇を設けている制度などもあるようです。そうでなくても、体調やスケジュールに無理が生じそうな場合は有給休暇を利用したり、職場に相談したりしてみるのも1つの方法だと思います。
編集部
最後に、読者のメッセージをお願いします。
田中先生
体外受精では、少なからず薬の副作用や合併症などが生じたり、精神的な不安を抱えたりすることもあるでしょう。ただ、不妊治療には色々進め方や方法があり、しっかり説明をしてもらえるような医療機関を受診することで、安心感につながると思います。忙しいスケジュールだと思われがちですが、思ったよりも少ない負担で治療を受けることもできるかもしれないので、まずは相談してみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
体外受精は、スケジュールや体調に配慮することで、仕事と治療との両立は可能であるということが分かりました。ただし、両立するためには、1人でなんでも抱えるのではなく、周囲の人に頼るのがポイントです。体外受精を検討している人は、パートナーや家族、職場の協力も得ながら、無理せず進めていきましょう。
医院情報
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アクセス | 東急東横線「新丸子駅」 徒歩5分 JR・東急東横線「武蔵小杉駅」 徒歩5分 |
診療科目 | 婦人科 |