【闘病】「ただの口内炎」は、まさかの『舌がん』だった…
舌がんは舌にできる、口腔がんの1種です。舌の両脇や裏側など見えにくい部分にできることが多く、逆に舌の表面や先端ではあまりみられません。治療後は、再発や転移がないかを確認しながら生活する必要があります。短くとも5年は経過観察を行わなければいけません。今回はそんな舌がんと診断された、高橋希実さんを取材しました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
高橋 希実
群馬県在住、1994年生まれ。両親、兄夫婦とその子どもと同居(一人暮らしをする妹もいる)。1回目の舌がん診断時は放課後デイサービスの指導員、2回目の診断時は大学研究室助手をしていた。2019年11月に舌がん(ステージⅠ~Ⅱ)と診断。CT、MRI、PET検査を経て同年12月に1回目の手術を行う。退院後の通院で担当医に「病変部は取り除けたが切除部を検査した結果、怪しい部分がまだ残っている」「ただ今はがん化していないものの、今後がんになりうる箇所がある」とのことで2020年1月に2回目の手術を行う。その後定期的にCT検査・診察を行うも2021年10月に再発し(舌がんステージⅠ)、手術を行う。現在、がんは切除され、1ヶ月に1度診察、3ヶ月~半年に1度CT検査を行っている。研究室の助手の仕事を続けつつ、アマチュアのお笑いコンビを組み、地元群馬で活動している。
記事監修歯科医師:
猪股 美菜(歯科医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
ただの口内炎だと思っていたら……
編集部
舌がんが判明した経緯について教えてください。
高橋さん
2019年7月頃から口腔内に痛みがありました。口内炎ができやすい体質なので、「また口内炎だろう」と自然治癒するのを待っていたのです。そこから2ヶ月くらい痛みが出たり引いたりを繰り返し、9月の終わりになっても治る兆しが見えなかったので、さすがに病院で診察してもらおうと思いました。
編集部
舌がんの可能性は、少しでも頭の中にありましたか?
高橋さん
いいえ。その時はがんの可能性など全く考えておらず、軽い気持ちで受診しました。痛みのある箇所を触って確認し、舌に口内炎のようなものができていることは分かったものの、何科を受診すればいいか分からず、近所の耳鼻咽喉科を受診しました。そこでは最初、口内炎と診断され、2週間ほど様子見をしましたが、一向に良くならず。もう一度受診すると、「舌がんの病変はないけど、その兆候が見られますね」「1度大きな病院で診てもらってください」と言われ、市民病院を紹介されました。
編集部
それは心配になりますね。
高橋さん
結局、市民病院で生体検査を行い、同年11月に舌がんの診断が出ました。その後、市民病院では処置ができないとのことで大学病院を紹介され、1回目の手術を受けました。しかし、2021年9月の診察時に病変が見られ、生体検査を受けた結果、舌がん再発と診断されました。
編集部
はじめに身体に起きた異変、初期症状はどのようなものでしたか?
高橋さん
“口内炎のようなもの”ですね。ただ、いつもは唇の裏にできるのに、今回は珍しく奥側だなぁと思いました(最初は舌にできたわけではなかった)。食べ物を飲み込むとき、少し痛みがありましたが、我慢できないほどの激痛という感じではありませんでした。
編集部
舌がんと診断したときの心境について教えてください。
高橋さん
まさかがんと診断されるなんて思っていなかったです。当時の職場で「がんだったらどうしましょ〜」と軽い気持ちで話していたくらいで、いざ診断されても実感が湧かなかったですね。だからといって絶望感もほとんどなく、むしろ「原因不明の口内炎の原因が分かって安心した」という気持ちがありました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
高橋さん
転移もなく、大きさ的にステージI~IIの間とのことでしたので、治療の選択肢としては切除、抗がん剤、放射線の3つがありました。医師からは切除手術を勧められ、私も納得の上で切除の手術を行いました。2回目のときも同じ感じでしたね。
舌がんを早期発見できた恩恵
編集部
舌がんの発症後、生活にどのような変化がありましたか?
高橋さん
特に大きな変化はありませんでした。術後は食べられるものが少し限られましたが、1~2ヶ月後には飲食や会話の際も支障はなかったです。2回目の退院2週間後にはお笑いライブにも出られて、変わらなさすぎて知り合いに、「手術したって言われなかったら分からない」と言われるくらいです(笑)。舌がんが進行するまえに治療できたのが、良かったのかなと思います。
編集部
生活で気をつけていることはありますか?
高橋さん
「舌がんの原因は生活習慣にも影響される」という話を聞いたので、退院後は早寝早起きを心がけ、暴飲暴食をしないようにしていました。現在も健康的な生活を心がけようとは思っているのですが、なかなか続かないですね……。今は飲酒や辛いものを控えているくらいです(笑)。
編集部
現在の体調について教えてください。
高橋さん
1ヶ月半前(取材時)に、再発した舌がんの手術を受けたのですが、家族や職場の方々、友だちからは「あまり変わらないね」と言われました。ただ、熱いものは傷口にしみるし、舌はしびれているし、若干滑舌も悪くなっています。もともと滑舌がそこまで良くないので、はたから見れば変わらないように感じるのでしょうね。でも「らりるれろ」が言いづらいです。
身体に異変を感じたら、すぐに病院へ
編集部
舌がんを意識していない人に一言お願いします。
高橋さん
舌がんに限った話ではありませんが、体調で不安なことがあったらすぐ病院へ行きましょう。舌がんは特に口内炎ができやすい人や喫煙者は気にかけておくと良いと思います。あと、舌関係だったら口腔外科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
高橋さん
私は1回目のがん発覚時に、2度の手術を経験しました。仕方ないことだとは思いますが「なぜ1度で取り切れなかったのか」と思っていました。あとになって、むやみに広範囲の細胞を取ることのリスクを知ったため「手術前にもう少し丁寧に説明していただきたかったなあ」と思う部分があります。ただ、迅速に手術日程を組んでくださったり、術後・入院中はほぼ毎日診察してくださったりしたので、とてもありがたかったです。
編集部
がんになって学んだことや、知っておいたほうが良いことなどあれば教えてください。
高橋さん
舌がん自体に大きな不安感はほとんどなかったのですが、周りの対応で、ひとつだけ心苦しかったことがあります。それは家族や周りの人が心配しすぎること。笑っていても「強がってる」とか「私たちに心配かけさせないようにしている」と思われてしまうのが、逆に辛かったです。家族や友だちが病気を患ってしまったとき、励ましや同情より話を聞いてあげてほしいし、気持ちに共感してあげてほしい、と思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
高橋さん
がんと診断されたら不安になる方もいるかと思います。ただ、不安に思っていても病気は良くならないので、ひとしきり落ち込んだら、あとはお医者さんに任せましょう。私はがんを患うことで失ったものもありますが、それ以上にたくさんの人に出会うことができたり、人の優しさに触れたり、いろいろなことにチャレンジできたりしました。舌がんになったことで得られるものもたくさんありました。当然病気にはならないほうがよいですが、なったからといって不幸というわけではありません。もし病気になってしまっても、失ったものばかり数えず「その分たくさん素敵なことに出会える」ということを心に留めておいてもらえれば、と思います。
編集部まとめ
舌がんと診断された高橋さんですが、ステージⅠ~Ⅱのときに早期発見できたことで、最悪の事態をまぬがれました。身体に異変を感じても「そのうち治るだろう」と放置してしまい、重症化してから病気だと発覚する、というケースが後を絶ちません。「体調で不安なことがあったらすぐ病院へ行きましょう」という高橋さんの言葉が、より多くの方に届くよう、願うばかりです。