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堀ちえみ「とにかく命を優先して」地獄の闘病生活と、絶対見つけたい舌癌の初期症状 堀ちえみ「とにかく命を優先して」地獄の闘病生活と、絶対見つけたい舌癌の初期症状

日本では口腔がんが増え続けており、患者数は30年前と比較して約3倍に増えているそうです。そんな口腔がんの一つで、「食べる」「喋る」といった生活の中心となる行為を失う可能性のある“舌がん”ですが、口腔がんの中でも最も多いとされている反面、その認知度の低さが患者数の増加に関係していると考えられています。そこで今回は、舌がんの概要と治療についてご自身の経験も踏まえて、堀ちえみさんと歯科医師である松田博之先生に対談していただきます。 ※本記事は2023年7月に取材したものです。

堀ちえみさん
インタビュー堀ちえみ(歌手、女優)
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第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞、芸能界入りし、1982年3月「潮風の少女」でデビュー。1983年に出演したドラマ「スチュワーデス物語」が日本中で大ヒットし、アイドルとして歌にドラマに活躍。現在では7児の母となり、テレビ出演のほか、教育や食育にまつわるトークショー、音楽活動と幅広く活動。
松田博之先生
監修歯科医師松田博之(歯科医師)
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2004年日本歯科大学歯学部(現・生命歯学部)卒業後、口腔外科を専門としたキャリアを歩む。2013年よりロマリンダ大学インプラント科で臨床プログラムを専攻し様々なインプラント関連手術の経験を積む。帰国後は亀田総合病院に入局し、多岐にわたる手術を執刀する。2020年に歯科口腔外科 医長に就任。2022年には日本歯科口腔外科クリニック千葉を開設し、顎・骨・歯の手術を提供し、食事を美味しく噛む喜びと健康を築くための診療に励んでいる。
chapter01 「口内炎だと勘違いしていた」舌がんの発覚~治療を振り返る chapter01 「口内炎だと勘違いしていた」舌がんの発覚~治療を振り返る

松田先生松田博之先生

堀さんが最初に違和感を感じたのは、いつ頃からですか?

堀ちえみさん堀さん

2018年の5月頃です。鏡を見ながら舌を上げるボイストレーニングをしていた時に、舌の裏の左側にたまたま白い点を見つけました。その時は痛くもかゆくもなかったので、そのうち消えるかなと思ってすぐ忘れましたね。

松田先生松田博之先生

その時点では、痛みなどはなかったのですね。

堀ちえみさん堀さん

はい。その年の夏から痛みが始まり、秋口にかけて小さい白い点だった部分の形がクレーターのように変わっていきました

松田先生松田博之先生

その時何か治療はしましたか?

堀ちえみさん堀さん

はい。持病で服用している薬の副作用に口内炎があったので、ビタミン剤や塗り薬、貼り薬で対処していました。

松田先生松田博之先生

その時は口内炎という診断だったのですね。

堀ちえみさん堀さん

そうですね。それから徐々に食べ物もしみるようになり、生活に支障が出てきたので、かかりつけの歯科医を受診して何度かレーザー治療をしていただきました。

松田先生松田博之先生

レーザー治療で良くなりましたか?

堀ちえみさん堀さん

それでも治りませんでした。年末年始には我慢ができないほど痛くなりました。その時は海外に旅行中だったので病院にも行けず、帰国後「口内炎」「治らない」という2つのワードで検索したら、舌がんかもしれないという結果が出てきました

松田先生松田博之先生

なるほど。どのような情報が出てきたのでしょうか?

堀ちえみさん堀さん

私と同じ状態の画像がたくさん出てきました。しこりがあった場合は、進行している可能性があることについても書かれていました。私の舌も横が割れてきて、触ると分厚く固い部分もあったので、震えが止まらなくなりました。

松田先生松田博之先生

不安でしたよね。

堀ちえみさん堀さん

「舌にがんができるの?」と思って頭が真っ白になりました。その日は眠れなかったことを今でも覚えています。

松田先生松田博之先生

最初に白い点を発見してから、どれくらい経っていましたか?

堀ちえみさん堀さん

8ヵ月ぐらいですね。

松田先生松田博之先生

なるほど。すごく長いですね。

堀ちえみさん堀さん

口の中にがんができるという知識がなく、副作用に口内炎がある持病の薬を飲んでいたので、口内炎だと思い込んでいました。それが盲点でした。

松田先生松田博之先生

8ヵ月前から異変に気づいていたのであれば、悔しいですよね。

堀ちえみさん堀さん

私も家族も悔しかったです。ただ過去を振り返るより、治す方向へ気持ちを切り替えないとがんには勝てないと思ったので、その時は一旦忘れようと思いました。

松田先生松田博之先生

忘れることはできましたか?

堀ちえみさん堀さん

術後に残る後遺症でこんなに大変な生活が待っているとは思いもしなかったので、その時は忘れることができました。その後リハビリの大変さを実感して、実際の生活の質が落ちた時に、改めて気づいてもらえなかった悔しさが湧いてきましたね。

松田先生松田博之先生

告知は一人で受けたのですか?

堀ちえみさん堀さん

主人は仕事が外せなかったので、一人で伺いました。

松田先生松田博之先生

舌がんが進行すると首のリンパ節や肺に転移する可能性が高いのですが、堀さんはいかがでしたか?

堀ちえみさん堀さん

首のリンパ節へ転移が見つかりました

松田先生松田博之先生

その時の気持ちはいかがでしたか?

堀ちえみさん堀さん

病院に行くまでに、ある程度の情報はネットで調べてあり、覚悟もできていたので、告知を受けた時はそんなにショックではなかったかもしれないです。

松田先生松田博之先生

なるほど。家族の反応はどうでしたか?

堀ちえみさん堀さん

娘がとにかく泣いていました。当時まだ16歳だったのですが、「例え喋ることができなくても、そばにいてくれるだけでいい」と言われたことを覚えています。

松田先生松田博之先生

娘さんもつらかったでしょうね。基本的に舌がんの治療には、手術で取り切る方法と抗がん剤を使用する方法、放射線治療があります。堀さんはどのように治療方法を選択されましたか?

堀ちえみさん堀さん

口の中がすごく痛くて精神的にも参っていたので「手術をしてこれ以上痛い思いをしたくない」というのが正直な気持ちでした。がんを切除したとしても命の保証が100%ある訳でもないので、このまま何もせずに痛みだけとってもらう緩和治療でもいいと思っていました。

松田先生松田博之先生

そんな心境のなかで最終的に手術を選択した理由はありますか?

堀ちえみさん堀さん

主人と子どもから「とにかく命を優先して欲しい」という想いを聞いたので、5年生存率が最も高い手術を選びました

松田先生松田博之先生

なるほど。

堀ちえみさん堀さん

舌がんでは、一般的にどのような症状が出るのでしょうか?

松田先生松田博之先生

症状は様々で痛みで気づく方もいれば、口の中の違和感を感じる方もいますね。

堀ちえみさん堀さん

原因や年齢についてはいかがですか?

松田先生松田博之先生

原因は不明ですが、多くはタバコやお酒との関連が考えられています。年齢と性別については60代の男性が多いと言われています。若いと20代から、高齢の方では80代で舌がんになる方もいるので、症状が出現した時は医療機関を受診できるように、舌がんに対する認知度を上げていくことが何より大事だと思います。

堀ちえみさん堀さん

症状にも波がありますし、見える部分にできるとは限らないので、舌がんの存在を知っておくことは大事ですよね。早期に発見すると、術後の生活に違いはありますか?

松田先生松田博之先生

がんの発見や治療開始のタイミングが早ければ早いほど、手術後の喋ったり食べたりする機能の低下を防ぐことができると思います。

堀ちえみさん堀さん

ステージが進行して手術をしたとしても、頑張れば仕事復帰もできることを知っていただきたくてリハビリを頑張っているので、同じような苦しみを感じている人も諦めないで欲しいと思います。

chapter02 堀ちえみが壮絶なリハビリを語る〜舌がんの闘いで感じた心境の変化〜 chapter02 堀ちえみが壮絶なリハビリを語る〜舌がんの闘いで感じた心境の変化〜

松田先生松田博之先生

がんの発覚から仕事に復帰するまでの間が一番大変だったと思うのですが、具体的に頑張ったことやつらかったこと、心の支えになったことがあればお話しいただけますか?

堀ちえみさん堀さん

11時間の手術のあと気がついた時はICUにいたのですが、それからが本当に地獄の日々でしたね。

松田先生松田博之先生

特につらかったことは何ですか?

堀ちえみさん堀さん

一番つらかったのは痰が切れなかったことです。気管切開もしていたので体も縛られたままで、自分では何もできませんでした。

松田先生松田博之先生

話すこともできないのでつらかったですよね。

堀ちえみさん堀さん

そうですね。術後はICUで3日間を過ごして、一般病棟に移ってからやっとコミュニケーションも取れるようになりました。医療スタッフの皆さんがずっと気にかけてくださって、嬉しかったこともたくさんありました。

松田先生松田博之先生

どんなことが嬉しかったですか?

堀ちえみさん堀さん

リハビリが始まる時に「話しができるようになるから、頑張って絶対に仕事復帰してくださいね」と言ってくれて、リハビリの資料を入れるファイルをプレゼントしてくださったことですね。

松田先生松田博之先生

それは嬉しいですね。

堀ちえみさん堀さん

病気のつらさや術後の大変さを理解して、一生懸命励ましてくれたこともすごく嬉しかったです。

松田先生松田博之先生

そういった言葉をかけてもらえるとリハビリも頑張れますね。

堀ちえみさん堀さん

はい。医療スタッフの皆さんに恩返しをしたいという想いで、とにかくリハビリに打ち込んでいましたね。リハビリは大変でしたが、術後の過酷な状況でも打ち込めることがあって良かったですね。打ち込むものがなければきっと落ち込んでいたと思います。

松田先生松田博之先生

治療やリハビリを通して、たくさん気持ちの変化がありましたね。

堀ちえみさん堀さん

はい。がんになって失くしたものは多かったですが、得たものもたくさんあったので、今はこういう経験をして良かったと思えるようになりました

松田先生松田博之先生

少しずつ受け入れることができているのですね。

堀ちえみさん堀さん

私は現在手術から4年が経っていて再発をしていないのですが、どれくらいの確率で再発は起こるのでしょうか?

松田先生松田博之先生

再発の確率がだいたい1〜2割と言われていますが、そのリスクはがん細胞の組織によって変わると思います。

堀ちえみさん堀さん

転移についてはいかがですか?

松田先生松田博之先生

何か違和感があれば、検査をすることが重要です。

堀ちえみさん堀さん

患者さんによって状況が異なるので、治療後の経過観察が大切ということですね。

松田先生松田博之先生

その通りです。

堀ちえみさん堀さん

舌がんの予防についてはいかがでしょうか?

松田先生松田博之先生

舌がんの明らかな原因は不明です。ただ最近ヒトパピローマウイルスという子宮頸がんに関連するウイルスへの感染が関係していることも分かってきています

堀ちえみさん堀さん

そうなのですね。子宮頸がんにはワクチン接種も推奨されていますよね。

松田先生松田博之先生

そうですね。

堀ちえみさん堀さん

そのワクチンが口腔がんや舌がんの予防にもつながるということですか?

松田先生松田博之先生

予防できるかはっきりとは分かっていないのですが、結果的にがんになる確率が低いと言われています。現在は男性もワクチンを受けるべきだという意見も出ていますね。

堀ちえみさん堀さん

私もがんになったことで「がんになった人の気持ちは、なってみないと分からない」と改めて感じました。少しでも可能性があるならば予防はしておいた方が良いですよね。

松田先生松田博之先生

その通りですね。

堀ちえみさん堀さん

私は現在も大学病院でリハビリを受けているのですが、リハビリについて教えていただけますか?

松田先生松田博之先生

はい。まず舌がなくなった時の後遺症は大きく分けると4つあります。見た目の問題、言葉を発する発音や構音の問題、物を飲み込む嚥下の問題、食べ物を運ぶ摂食の問題です

堀ちえみさん堀さん

リハビリ内容は決まっているのでしょうか?

松田先生松田博之先生

舌を切除する程度によってリハビリの方法や内容は変わってくると思います。どのくらい回復するかもリハビリ次第ですね。

堀ちえみさん堀さん

その人次第ということですか?

松田先生松田博之先生

はい。理学療法士や言語聴覚士、臨床心理士、歯科医などほか職種が関わってリハビリをしていくのですが、状況も千差万別です。人によってどれくらいリハビリを頑張れるかも異なるので、そこも考慮しながら進めていく必要があります。

堀ちえみさん堀さん

患者さんの努力だけでは、どうにもならないこともありますしね。

松田先生松田博之先生

医療スタッフや患者さん本人だけでなく、それを支える家族にも、長い時間をかけて頑張らなければいけないことは知っておいて欲しいですね。

堀ちえみさん堀さん

本来であればストレス発散になる食事や会話でさえ、苦痛が伴うリスクを背負っているので、舌がんは特に精神面を支える仕組み作りが大切だと思います

編集部より

がん医療の飛躍的な進歩により、5年生存率は少しずつ上昇していると言われています。その一方で、治療を受けた全員が病前の生活に戻れる訳ではなく、治療を続けながら生活する人も多く存在しているのが現状なのだそうです。今回の対談では、ご自身の闘病生活やリハビリの経験を通して「できるだけ多くの人にがんについて知ってもらい、早期発見・早期治療につなげたい」という堀さんの強い想いが感じられました。がんの完治率を上げるには早期発見・早期治療に加えて、がんの存在自体に対する認知度を上げていくことが重要です。この記事が一人でも多くの人に舌がんを知ってもらうきっかけとなることを願います。

この記事の監修歯科医師