「夜間頻尿だから睡眠が浅い or 睡眠が浅いから夜間頻尿」それぞれの問題を泌尿科医が解説
夜中に1回でもトイレに起きると夜間頻尿とみなされます。しかし、本当は朝まで眠れていたのに、眠りが浅くて起きてしまって、もう一度寝る前に“念のために”オシッコをしておくというパターンも考えられるでしょう。問題は膀胱(ぼうこう)にあるのか、それとも睡眠にあるのか。「神楽坂泌尿器科クリニック」の室宮先生を取材しました。
監修医師:
室宮 泰人(神楽坂泌尿器科クリニック 院長)
帝京大学医学部卒業。東京女子医科大学病院での研修後、同病院や一般医院にて泌尿器科を中心に臨床を重ねる。2020年、父親が営んでいた銭湯を建て替える形で、東京都新宿区に「神楽坂泌尿器科クリニック」を開院。対話を大切にした相談しやすいクリニックをめざしている。日本泌尿器科学会専門医。日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会、日本抗加齢医学会、日本性感染症学会、日本臨床腎移植学会、日本透析医学会の各会員。
目次 -INDEX-
夜間頻尿と睡眠不足の関係
編集部
夜間頻尿と睡眠不足は、セットで語られるイメージがあります。
室宮先生
そうかもしれませんが、中身の性質が違います。つまり、「睡眠障害の人が夜、起きたついでにトイレに行くケース」と、「過活動膀胱の人が、尿意で起きてしまうケース」にわけられるということです。前者の問題点は眠れないことで、後者の問題点は尿意を感じる尿量だと言えます。
編集部
なるほど。睡眠薬を使って対策したとしても、尿意は無視できなさそうですね。
室宮先生
そうですね。尿意は本能的で強いので、睡眠薬を用いても起きてしまうでしょう。ですから、過活動膀胱の人の睡眠をアシストしても解決にはなりません。実際に多いのは前者の睡眠障害のパターンで、こちらであれば睡眠薬が手助けとなります。
編集部
自分でどちらのタイプだかわからない場合、診断は付けられるのでしょうか?
室宮先生
「排尿日誌」を付けていただくと、診断の手がかりになります。排尿日誌の観点は「回数と排尿量」で、とくに排尿量が参考になりますね。付ける期間は、24時間の連続した記録が2日分あれば十分です。48時間連続でも、24時間ずつ別の日でも構いません。
編集部
尿量の多寡が、診断とどう関係してくるのでしょうか?
室宮先生
通常であれば、350~400mlほどたまるまでは、尿意を自覚しません。そして、1晩を通せるわけです。しかし、尿意を感じる量が仮に200mlだとすると、夜中に起きてしまいます。つまり、排尿量の少ない人は、尿を十分にためておけないということです。この場合、過活動膀胱などの病気を疑います。
夜間頻尿の治療法
編集部
尿量が減っている場合の治療方法は、どうするのですか?
室宮先生
日中と夜間を問わず200mlを切っていたとしたら、膀胱が硬くなり、ふくらまなくなっているかもしれません。これは過活動膀胱の典型ですね。その場合、膀胱を柔らかくする薬で治していきます。
編集部
夜間頻尿対策の市販薬もありますが、有効でしょうか?
室宮先生
実際に試してみて、効き目を感じて1晩を過ごせるなら否定はしません。ただし、処方薬の方が効き目はあるはずです。注意したいのは、泌尿器科ではなく、一般内科などで過活動膀胱用お薬を“漫然と”処方されるケースです。もしかしたら過活動膀胱ではなく、尿の排泄障害で尿量が少ないのかもしれません。タンクではなくホースの問題だとしたら、治療目的が異なります。この状態で膀胱を広げたら、かえって残尿が増すでしょう。
編集部
一方で、排尿量が通常だったら、睡眠の質を問題視するわけですか?
室宮先生
そういうことになりますが、患者さんは口をそろえて「オシッコで目が覚める」と話されます。ところが、排尿日誌を見ると日中の排尿量は通常であるケースもあるのです。つまり、「尿をためられる膀胱」をもっているということですよね。にもかかわらず、夜間の排尿量が少ないとしたら、じつは尿意で起きていないのかもしれません。よく眠れていないから目が覚め、ついでにタンクを空にしているということなのでしょう。
編集部
あと、寝付きをよくするために「寝酒」をする習慣もあると思うのですが?
室宮先生
むしろ、アルコールによって「眠りが浅くなる」ことが報告されています。寝酒も、よく眠れていないから目が覚める原因です。加えて、寝る前に水分を取れば、オシッコが近くなりますよね。ですから、寝酒は寝付きという1点のみに効果的な習慣と言えそうです。アルコールによる肝臓の弊害も起こり得るので、睡眠薬の活用をおすすめします。
受診の目安
編集部
睡眠の相談は睡眠外来などですればいいでしょうか?
室宮先生
泌尿器科でも構いません。泌尿器で起きている不調があれば調べることができます。そのうえで、睡眠障害であれば、精神科の受診をアドバイスいたします。実際は、オシッコのお悩みが主なのか、眠りのお悩みが主なのかで、患者さんが受診先を決めているのではないでしょうか。
編集部
尿の悩みで、泌尿器科以外の受診を勧められることはありますか?
室宮先生
はい。夜間頻尿は、呼吸器疾患や循環器疾患、消化器疾患、内分泌疾患などでも起こり得ます。例えば、夜間の血流量が多ければ、より多く尿をつくってしまいますよね。とくに心臓疾患では、夜間や朝一番の排尿量が日中よりも多くなります。また、高齢になると、寝ている間の利尿作用を減らそうとするホルモンの分泌が不足してきます。
編集部
ほかにも、「いびき」で起きてしまって、夜間頻尿と睡眠不足に悩まされる場合も考えられますよね。
室宮先生
それも実際にあり得る話でしょう。したがって、「泌尿器の治療で解決できる部分は多いけれど、それだけに限らない」ということですね。悪循環を断ち切る方法は1つに限りませんし、1つで終わるとも限りません。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
室宮先生
※日本排尿機能学会「夜間頻尿診療ガイドライン」
http://japanese-continence-society.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20200527162817-C7663AC8D3BD1607BA2885D44531DBB7EA5250FAB0C5105F9E54CE0B1BC9BB49.pdf
編集部まとめ
夜間頻尿と一括りに考えていた中身は2パターンあるとのことでした。夜中、尿漏れに近いような切迫感で起きること。先に目が覚めて、落ち着いて眠りたいためにトイレを済ませておくこと。この両者には、それぞれ別のアプローチが求められます。自分でどちらのパターンかわからない場合でも、泌尿器科が窓口になるそうですから、遠慮なく相談してみてください。
医院情報
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診療科目 | 泌尿器科・女性泌尿器科・内科 |