「出生前検査」を医師が解説 わかるのは「ダウン症」の有無だけではない
お腹の中の赤ちゃんに、先天性の病気や症候群がないかなどを調べる「出生前検査」。特に、高齢で赤ちゃんを出産しようとしている女性はダウン症などが気になって、出生前検査を受けるケースが多いのではないでしょうか。しかし、出生前検査でわかることはダウン症の有無だけではありません。一体、どんなことがわかるのでしょうか。また、必ず受けた方がよいのでしょうか。FMF胎児クリニック東京ベイ幕張の林先生に教えてもらいました。
監修医師:
林 伸彦(FMF胎児クリニック東京ベイ幕張)
出生前検査とは?
編集部
出生前検査とはなんでしょうか?
林先生
簡単にいうと、妊娠中に胎児の健康状態を確認する検査です。生まれつきの病気や症候群は、生まれる赤ちゃんの25人に1人にみられます。それらの病気や症候群に、出産前に気づいたり診断したりする検査として、胎児超音波検査(通称「胎児ドック」)、NIPT(通称「新型出生前検査」)、絨毛検査、羊水検査、胎児MRI検査などがあります。妊婦健診で行う通常の超音波検査でも、たまたま病気を疑うことはありますが、ここでは、胎児の病気をみつける目的で受ける検査を「出生前検査」として整理します。
編集部
出生前検査によって、どのようなことがわかるのですか?
林先生
心臓病や無脳症などの形態異常や、ダウン症候群などの染色体異常、胎児不整脈や胎児貧血などを見つけることができます。妊娠中にあらかじめ病気を見つけておくことで、胎児のうちに治療をしたり、迎え入れる準備をしたり、出生直後の急変に備えて大病院で出産したり、知ることで見通しを立てられたり、いろんな選択肢を持つことができます。
編集部
生まれつきの病気は、ダウン症だけではないのですね。
林先生
多いのは心臓病で、100人に1人程度の割合で認められます。そのほか、「頭蓋骨がない」「目がひとつしかない」など、一般には想像できないような形の特徴がみられることもあります。出生前検査を受けようかと考えて当院に来られる方の多くは「ダウン症が気になる」と言いますが、よく話を聞いてみるとダウン症しか聞いたことがないだけで、疾患がもっと多いことや、胎児治療できる病気があることを知ると、「それらについても早いうちに知っておきたい」という方が多いですね。
編集部
すべての検査を受けた方が良いのですか?
林先生
いいえ、すべてを受ける必要はありません。まずは生まれつきの疾患・症候群にどんなものがあるかを理解し、妊娠中に何を知っておきたいか、なんのために知りたいのかを考えたうえで、どの検査を受けるのかを考えることをおすすめします。
編集部
検査を考えるにあたって、注意点はありますか?
林先生
注意してほしいのは、なにかひとつの検査によってすべてがわかるというものではないということです。出生前検査には、まずは気になる所見がないかを調べるためのスクリーニング検査もあれば、特定の疾患や症候群について確実に診断する検査もあります。手を見ても足の形がわからないように、検査ごとにわかることが違うため、何をどのくらい確実に知りたいのかを考えるとよいでしょう。
編集部
形態異常はどのような検査でわかりますか?
林先生
心臓病、無脳症、手足の異常、口唇口蓋裂などの形態異常は胎児超音波検査によって調べることができます。胎児超音波検査とは、胎児の全身をくまなく観察する検査です。妊婦健診で使う「エコー検査」と同じものですが、心拍や推定体重、羊水量などの基本項目のみを見る妊婦健診でのエコー検査とは区別して扱われています。妊婦健診をしている医療機関によっては、「中期スクリーニング」として胎児超音波検査を提供していたり、毎回の妊婦健診の際に少しずつ胎児の全身検査をしていたりすることもあります。
編集部
ダウン症候群を調べる検査には、どのようなものがありますか?
林先生
NIPT、コンバインドテスト、NT検査、クアトロテスト、絨毛検査、羊水検査などがあります。それぞれ費用や精度、受ける時期が異なります。
編集部
妊娠して、どれくらいの時期に検査を受けるのがよいですか?
林先生
NIPTは妊娠10週頃から可能です。コンバインドテストは妊娠11週から受けることができ、妊娠13週6日を過ぎるとダウン症があっても首の後ろのむくみなどが自然に消えていくため、検査が受けられなくなります。また、心臓病や背骨の病気なども、妊娠後期になるほど観察しにくくなります。赤ちゃんが育つほど、病気がよくわかると誤解されがちですが、早い時期にしかわからないこともあるので注意が必要です。
染色体異常(トリソミー)を調べるNIPT(新型出生前検査)
編集部
高齢出産が心配な場合、どの検査を受けたら良いのでしょうか?
林先生
妊婦さんの年齢と関係する症候群は、ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーという3つのトリソミーです。トリソミーとは本来2本のペアである染色体が3本になること。これらを見つける場合、かつては羊水検査が主流でしたが、最近ではNIPTを考える方が多いのではないでしょうか。NIPTは、妊婦さんの血液にある胎児側の染色体量を推定し、トリソミーの可能性が高いかどうかを調べます。
編集部
精度はどれくらい高いのですか?
林先生
NIPTではトリソミーがあるかを明確にするのではなく、あくまでも、可能性が高いか低いかを調べるものです。精度99%以上と言われることの多い検査ですが、それは結果が陰性の時の信頼度です。結果が陰性のときは99%の確率で胎児にトリソミーはありませんが、陽性のとき、実際にトリソミーがある確率が99%という意味ではありません。実際の確率は、トリソミーの種類や超音波所見によって異なるため、一概には言えませんが、数〜99%と大きくばらつきがあります。結果が陽性の場合には、大学病院や胎児診療を行う専門の医療機関で相談しましょう。
編集部
3つのトリソミーが起こる確率はどれくらいですか?
林先生
NIPTで主にわかる3つのトリソミーは、生まれつきの病気・症候群の約17%です。最近では3つのトリソミー以外も調べるNIPTも存在しますが、それでも生まれつきの症候群の3分の1も分かりません。NIPTを受ける方も受けない方も、心臓病などの健康状態が気になる場合には、胎児超音波検査も重要です。
編集部
検査で流産のリスクはありませんか?
林先生
NIPTは、妊婦さんの血液で行う検査です。一般的な採血で可能なため、流産のリスクはありません。ただし、陽性の結果で診断のための確定検査を行う場合には、わずかながら流産のリスクを伴います。
編集部
妊娠のどの時期に、NIPTを受けることができるのですか?
林先生
検査施設により異なりますが、妊娠10週頃から受けることができ、おおよそ1〜2週間で結果がわかります。妊娠10週以降であればいつでも検査は可能です。いつまでに赤ちゃんの情報を知っておきたいかはカップルそれぞれですが、陽性の場合に確定検査の相談をするためには、妊娠16週までに受けておくと安心です。
出生前検査の受け方
編集部
出生前検査は、どこで受けることができるのですか?
林先生
検査の種類により、異なります。クアトロテストは、一部の産院でも可能です。一方で、胎児超音波検査やNIPTは、基本的には出生前検査の専門家がいる医療機関で受けられます。
編集部
出生前検査については、どこで相談できますか?
林先生
まずは、かかりつけの医療機関で相談するのが理想ですが、慌ただしい産科外来ではゆっくり相談することが叶わないこともあります。その場合は、遺伝カウンセリングを行っている医療機関を訪れると良いでしょう。遺伝カウンセリングとは、出生前検査を受けるかどうか、どの検査を受けるべきかを相談することができるところ。一般の方が思っている以上に、出生前検査は複雑なので、まずは遺伝カウンセリングを受けるのが安心です。十分に理解しないまま数十万円の検査を受けて大丈夫だったのに、後に致死的な疾患がみつかった、ということもあります。
編集部
出生前検査は保険が使えるのですか?
林先生
いいえ、自由診療になるので保険は使えません。検査の種類や医療機関によって金額が異なるので、費用面についてもしっかり確認したうえで、どこで、どの検査を受けるのか、検討することをおすすめします。同じ名前の検査でも費用にはかなり差があります。多くの場合、金額差には理由があるため、検査についてきちんと理解した上で、受けるかどうかを考えましょう。
編集部
金額差にはどのような理由があるのですか?
林先生
たとえばNIPTは、施設によって検査前後のサポート体制や、調べる症候群の範囲が大きく異なります。胎児超音波検査についても、確認する部位の違いや、診療にかける時間、説明の程度、使用する超音波機器の機能などが異なります。
編集部
出生前検査は、受けた方が良いのでしょうか。
林先生
出生前検査は、みんなが受けなくてはいけないものではありません。「検査を受けるべきか」「どの検査を受けたら良いか」を迷う場合は、専門の医療機関で行っている遺伝カウンセリングや相談会に参加すると良いでしょう。ちなみに英国などでは、8割以上の妊婦さんが胎児ドックを受け、トリソミーに関連して気になるところがある時だけNIPTを追加するという流れになっています。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
林先生
出生前検査を受けるかどうかは、おなかの赤ちゃんへ「いつ」「どう」向き合うかという視点がとても重要。周りがやっているからと流されるのではなく、カップルで話をすることが大切です。また、検査が高額であるにもかかわらず、検査でわかる疾患の範囲を十分理解せずに、とりあえず受けて安心している方も多くいらっしゃいます。ほかの妊婦さんがどうしているかよりも、あなたにとって必要な検査かどうかが大切です。遺伝カウンセリングがなかなか行き届いていない地域もまだありますが、最近ではオンラインで遺伝カウンセリングを行っている医療機関もありますので、後悔しないためにも、気になることがあればまずは気兼ねなく相談してみることから始めると良いでしょう。
編集部まとめ
出生前検査を受ける人は増えつつありますが、まだその内容や意義を理解していない人が多いのも事実。検査を受ける前に、「なぜ、その検査を受けるのか」「先天性の疾患が見つかったらどうするか」をパートナーとしっかり話し合ってから臨むことが大切です。
医院情報
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診療科目 | 産科(胎児診療) |