胎児の健康状態がわかる「胎児ドック」では何がわかるの? 妊娠何週までに受けるべき?
胎児の健康状態について詳しく知ることができる胎児ドック(胎児超音波検査)。受けた方が良いのか迷っていたり、いつ受けたら良いのかわからずにタイミングを逃してしまったりする人も多いのでは? 果たして、胎児ドックでは何がわかるのでしょうか。FMF胎児クリニック東京ベイ幕張の林先生に教えてもらいました。
監修医師:
林 伸彦(FMF胎児クリニック東京ベイ幕張)
胎児ドックとは何?
編集部
胎児ドックとはなんでしょうか?
林先生
胎児ドックとはエコー検査や血液検査などを行い、胎児の手足や内臓の形に異常がないかを調べたり、形を診たりすることにより、ダウン症などの可能性がどの程度かを調べることなどが可能なものです。
編集部
妊婦健診でエコー検査がありますが、それとは違うのですか?
林先生
通常の妊婦健診でもエコー検査を行いますが、それは主に胎児の向きや胎盤の位置を確認するもの。一方、胎児ドックは胎児の健康状態を確認するものなので、目的が異なります。通常の妊婦健診に比べて、胎児ドックの方がじっくり時間をかけて診察をします。
編集部
妊婦健診よりも、詳細に胎児の状態を確認できるのですね。
林先生
そうです。胎児ドックと言っても医療機関によってなにを検査しているのか異なるので一概には言えませんが、妊婦健診と比べると多くのチェック項目があり、使用する機器も高性能である場合も多く、細かく赤ちゃんの状態を知ることができます。
編集部
妊婦健診で問題なしと診断されても、胎児ドックで異常が見つかることもあるのですか?
林先生
そもそも通常の妊婦健診は、基本的に赤ちゃんの病気をみつけるものではありません。赤ちゃんの大きさや羊水量などのチェックはしますが、そこで見つかるのは一部の病気だけです。また、通常の妊婦健診で偶然に異常が見つかった場合、どこまで妊婦さんに伝えるかも施設によって異なります。「病気について知りたくない」という妊婦もいるため、病気が見つかっていても、妊婦さんから尋ねられない限りは伝えないということもあります。
編集部
胎児ドックで異常が見つかったら、伝えてもらえるのですか?
林先生
伝えるかどうかは、受診者の希望次第です。胎児ドックでは、とても細かなところまで見ることができるため、個性の範囲と思うような些細なことが見つかることもあります。当院では、全員に同じ検査をするというよりは、それぞれのカップルの知りたい範囲を理解して検査をするようにしています。検査前に行うカウンセリングで、「命にかかわらない病気は教えないでほしい」「胎児治療できる病気だけ教えてほしい」「わかることは全て知りたい」などの希望を伺います。ダウン症だけを調べる検査と異なり、たくさんのことがわかるため、なんのために調べたいのかということを考える必要があります。
編集部
出生前検査と胎児ドックは違うものですか?
林先生
どちらも明確な定義がないので、なんとも言えません。出生前検査というと「ダウン症をみつける検査」として「羊水検査」や「NIPT」のことを指すことが多いでしょう。一方、胎児ドックはダウン症だけでなく胎児の全身を満遍なく調べる出生前検査です。ダウン症だけが気になる方は、コンバインドテスト、NIPT、羊水検査などの出生前検査が選択肢となり、ダウン症に限らず全体的に不安という方は、まず胎児ドックとお考えいただければ良いと思います。胎児ドックを受けることで、ダウン症らしさもわかるため、ダウン症を調べる検査を受ける必要があるかの判断材料にもなります。
胎児ドックでわかること
編集部
胎児ドックでわかることについて、もう少し具体的に教えてください。
林先生
胎児の発達段階によってわかることが異なるため、当院の場合、初期・中期・後期を目安に計3回胎児ドックを行っています。
編集部
まず、初期の胎児ドックではどのようなことがわかるのですか?
林先生
頭蓋骨・脳、顔面、心臓、脊椎、両腕、両手、両脚、両足、膀胱、臍帯動脈など、胎児の身体の基本構造を確認します。性別もある程度わかります。また、ダウン症、18トリソミー、13トリソミーなどの染色体異常についても、見つけやすい時期です。無脳症、開放性二分脊椎、腹壁異常、手足の欠損なども、ほぼ100%見つかります。また、心臓病や口唇口蓋裂なども、半数以上を見つけることができます。
編集部
初期の胎児ドックは妊娠何週目に受けるのですか?
林先生
当院では12〜13週目に行っています。赤ちゃんの大きさはまだ7cmくらいと小さい頃ですが、ほとんどの臓器ができ始めています。妊娠12週より前だと、確認できる臓器がかなり限定されるため、12週以降の受診が良いと考えていますが、かかりつけ医から胎児に気になる所見を指摘された場合は、週数に関係なく受けていただけます。
編集部
続いて、中期の胎児ドックではどのようなことがわかるのですか?
林先生
初期の胎児ドックで見る項目に加えて、脳の細かな構造や、心臓の形、血管の繋がりや太さ、唇や顎、腎臓、脊椎などを詳しく観察します。初期に比べて臓器が発達しているので、より詳細に診断することができます。この検査は通常、妊娠19〜24週目に行います。
編集部
ダウン症もわかるのですか?
林先生
ダウン症などのトリソミーを見つけるのには、首のむくみや心臓の動きなどを確認します。これらは妊娠初期にみられる特徴なので、エコー検査でトリソミーらしさを知りたい方は、妊娠12~13週頃の受診が適切です。14週0日をすぎると、エコーでは見つけにくくなるため、母体の採血で行うNIPTか「クアトロテスト」あるいは羊水検査が選択肢に挙がります。
編集部
最後に、後期の胎児ドックではどのようなことがわかるのですか?
林先生
胎児の成長が正常範囲かどうか、お母さんの胎盤機能が低下していないかなどを評価します。また、中期以降の発達に問題がないか、また、貧血や腫瘤、脳出血など、後期に起きる問題がないか確認します。これは妊娠30〜32週目に行っています。
編集部
1回の胎児ドックで全てがわかるわけではないのですね。
林先生
はい、妊娠中の10ヶ月は、人生のなかで最も成長する時期とも言えます。生まれてからも、生後1ヶ月、1年、就学時、職場健診など、繰り返し健康診断が必要なのと同じで、胎児期も繰り返しの健康診断が重要です。
編集部
初期や中期よりも後期の方が、たくさんのことがわかると思って、胎児ドックを受けるのを待ってしまう人も多そうです。
林先生
「胎児の成長が進んだ方が、たくさんのことが正しくわかる」と勘違いしている妊婦さんが多いのですが、実際は逆です。胎児は成長が進むと骨がしっかりしてきて、エコー(超音波)が骨に反射して届かなくなります。そうすると心臓や脳などを観察することができなくなります。また、羊水も減るため、顔の表面や、手足の動きなども確認できなくなります。生まれつきの病気を知りたい場合には、初期か中期の胎児ドックを受けましょう。後期はあくまでも、初期・中期を受診した方への補足として捉えてください。
編集部
なるほど。勘違いしている妊婦さんは多そうです。
林先生
妊婦健診で胎児の病気をチェックしていると思っている方が多いことや、妊娠初期に胎児を詳しく見ることのできる医療者がまだ少ないこともあり、多くの人が適切な時期に胎児ドックを受ける機会を逃しています。胎児の健康状態をしっかり確認したいなら、心拍がみえたころには一度家族で話し合ってみたり、遺伝カウンセリングを受けてみたりすることを考えてみましょう。
胎児ドックを受けることのメリットは?
編集部
胎児ドックを受けることのメリットは何ですか?
林先生
まず、胎児の状態を理解できることです。先天的な奇形やダウン症などがわかるので、早いうちから心の準備をすることができ、出産後の環境を整えやすくなります。心臓病や二分脊椎など、妊娠中に治療できる疾患が見つかった場合に、胎児治療を行えるのも胎児ドックのメリットと言えるでしょう。また、家族みんなで胎児の成長を見守ることで、そこにある命への実感ができ、家族としてどう向き合うかを先行して考えはじめられるというメリットもあります。どうしても生まれた瞬間の0歳が人生の始まりというイメージはあるかもしれませんが、-1歳の頃の姿を「見る」ことができるのは、胎児ドックの良さのひとつです。
編集部
胎児ドックを受けることで、流産などの危険はないのでしょうか?
林先生
エコー検査には、流産や死産などのリスクはないので、安心して受けていただけます。「35才以上だから羊水検査」と考えている方もまだ多いのですが、それは1970年代に行われていた方法です。今は胎児をよく観察できるため、まずは安全な方法で胎児評価をし、本当に必要な場合にのみ羊水検査をするのが安全と言えます。
編集部
反対にデメリットはありますか?
林先生
あえていうなら、胎児の異常について明確にわかりすぎてしまうことです。たとえば「指が6本ある」などのように、命に関わらない異常も胎児ドックではわかることがあります。そうしたことを伝えられたご家族は、余計に不安を感じてしまうかもしれません。そのため、「異常が見つかった場合、どこまで正確に知らせてほしいか」を確認した上で胎児ドックを受けると良いでしょう。どんな病気があるのかわからないと、考えることも難しいと思うので、その場合は「遺伝カウンセリング」を受けることで、あなたが感じる不安を整理して、いつどの検査を受けるのが良いか、いつどこまでの情報を知るのが良いのか、を一緒に考えることができます。
編集部
胎児ドックの費用はどれくらいですか?
林先生
医療機関によりますが、約3〜10万円が目安です。なかには、カウンセリグやレポートは別料金のところもあるので、事前に総額を確認しておきましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
林先生
「どんな異常が見つかっても産むから、胎児ドックは受けない」という方がいますが、命の選択というのは出生前検査のひとつの側面に過ぎず、診断されることで救える命がたくさんあります。胎児ドックを受けられる方の中には、前の妊娠のときに、胎児診断されていなかったことで辛い経験をしたという方にもたくさん出会います。本当は、そんな辛い経験を一度もすることなく、初めての妊娠のときから来て欲しいというのが願いです。また、心臓病などほとんどの先天性疾患は年齢に関係なく起こるため、「高年妊娠じゃないから大丈夫」というのは誤解です。妊婦健診の「通常エコー検査」では病気は見つけないため、胎児の健康状態について少しでも不安のある方は、気軽に遺伝カウンセリングを訪ねてほしいです。
編集部まとめ
喜びと不安がいっぱいの妊婦さんのなかで、胎児ドックを受けようか迷っている人も多いと思います。確かに異常が見つかったら不安が増すかもしれませんが、それを上回るほどメリットもたくさんあります。かなり早い段階から異常を見つけ、対処できるのも胎児治療が高度に進化したおかげ。ぜひ、胎児ドックを受けてみては?
医院情報
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診療科目 | 産科(胎児診療) |