将来の要介護リスクを判定できる「ロコモ度テスト」とは
厚生労働省が2012年に提唱した「健康寿命」という新指標は従来の健康寿命と異なり、自立して健康に生活できる期間のことです。「自立して」とは「介護を要しないで」という意味ですが、運動機能の衰えに着目した「ロコモ」のテストで介護の必要性を判定できるのでしょうか。今回は、このテーマについて「矢吹整形外科」の矢吹先生を取材しました。
監修医師:
矢吹 尚彦(矢吹整形外科 院長)
東海大学医学部卒業。大学病院や総合病院などで整形外科領域の診療を積んだ後の2004年、神奈川県横浜市に「矢吹整形外科」を開院。治療に限らず、トレーニングマシンを備え、各種運動のアドバイスもおこなっている。日本整形外科学会専門医。日本骨粗鬆症学会、日本抗加齢医学会の各会員。
ロコモティブ+シンドローム
編集部
まず、「ロコモ」について教えてください。
矢吹先生
日本整形外科学会では、ロコモティブシンドロームについて、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義づけています。固有の症状ではなく、広範囲な“丸っとした”概念です。また、医学用語でいう「シンドローム」は、原因が不明の症状に対して用いられます。
編集部
ロコモという概念が出回ってきたとき、同時に「ロコモチェック」も目にするようになりました。
矢吹先生
そうですね。ロコモチェックは「今、起きている移動機能の低下」を確認することが目的です。その中身は多岐にわたりますが、「横断歩道を青信号の間に渡れない」などのチェック項目もあります。運動というより“移動能力”を重視しているテストです。そのため、総じて動けなくなることがロコモというイメージですね。
編集部
そこで本題です。ロコモ度テストは“将来”の運動・移動機能も測れるのでしょうか?
矢吹先生
※日本整形外科学会「ロコモ度テスト」
https://www.joa.or.jp/media/comment/pdf/20130528_locomo_test.pdf
自分で「健康だ」と思っていても、裏付けがない
編集部
要は、移動機能の低下を「主観」ではなく、「客観」的に捉えましょうということですか?
矢吹先生
はい。主観だと、モノサシがはっきりしないですからね。また、同年代との比較もしがちです。自分では「友人と遜色ない」と思っていても、みなさんが全員「ロコモ度」に該当したら、それなりの対策をはじめるべきだと考えます。
編集部
ちなみに、「ロコモ度」の3段階評価は、どうなっていますか?
矢吹先生
日本整形外科学会は、ロコモ度1を「移動機能の低下が始まっている状態」、ロコモ度2を「移動機能の低下が進行している状態」、ロコモ度3を「移動機能の低下が進行し、社会参加に支障をきたしている状態」としています。
編集部
治療が必要なのは、どの段階からなのでしょうか?
矢吹先生
人によって異なります。治療が必要かどうかは外して、まずはお気軽にご相談いただきたいですね。「健康かどうか」を自分で決めず、医学的に診てみましょう。また、一時ではなく、定期的な経年変化も問うべきです。仮に「コロモ度1」だとしても、長期的にそのレベルで食い止められていれば、「介護リスクも低いまま」ということになります。
運動を楽しめる「気持ちづくり」が大切
編集部
先生は日頃、介護予防のためにどのようなアドバイスをされていますか?
矢吹先生
大切なのは、「動ける体を保ち続ける」ことです。つまり、運動の習慣や食生活の改善、睡眠などの指導はしています。ただし、いずれにしても継続していただくことが基本なので、「気持ち」、つまりモチベーションを重要視しています。「生きたいという気持ち」や「動きたいという気持ち」です。
編集部
たしかに「10回1セットを1日3回」みたいなプロセスって、モチベーションにつながりません。
矢吹先生
そういう人もいらっしゃるでしょう。私は、運動と気持ちが、かなり相関していると考えています。運動していれば元気な気持ちになりますし、元気な気持ちでいれば運動してみようかなと思いますよね。ですから、嫌になるようなプロセスは後回しでいいと考えます。ぜひ、できるところからはじめてください。気持ちさえ入ってしまえば、楽しく運動できるはずです。
編集部
ところで、ロコモ度テストは、認知症による介護リスクとは別の話ですよね?
矢吹先生
いいえ。ロコモと認知症は大きくリンクしています。動いていると脳の刺激にもなりますし、栄養を送る血流も増加しますよね。また、認知症になると転倒によるけがや骨折、つまり、介護リスクが高まるという報告もあります。ただし、「認知症になった人に対して、運動不足を問いただす」つもりはありません。なるときにはなるのが認知症です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
矢吹先生
認知症も含めたロコモ予防には、運動が効果的です。ただし、「はじめどき」の判断が難しいと思われるので、第三者評価による「ロコモ度テスト」を活用してみてはいかがでしょうか。あるいは、運動器を診る「整形外科」へ直接、ご相談いただくのも意義があると思います。
編集部まとめ
「コロモ度テスト」は、「いつか動けなくなるかもチェック」と言い換えていいようです。自ら思うように動けなくなったら、介護が必要になってしまいます。介護の開始時期をでるだけ遅らせるためにも、「ロコモ度テスト」で、自分に運動がどれくらい必要なのかをまずは確認してみましょう。そして、運動の継続を左右するのが「気持ちづくり」ということでした。最初は、「やってみたら気持ちよくて楽しかった」レベルで十分です。むしろ、その楽しさを大切にしてください。
医院情報
所在地 | 〒235-0011 神奈川県横浜市磯子区丸山2丁目3-6 |
アクセス | JR根岸線「磯子駅」 バスで10分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科、皮膚科 |