霰粒腫は「自然治癒するのか?」「放置するとどうなるか」を眼科医が解説
突然、目にしこりができる霰粒腫(さんりゅうしゅ)。急性の場合は炎症を起こしているため、かゆみや痛みを伴うことも多く、「このまま放置しても大丈夫なの?」と悩む人も多いのではないでしょうか? 一体、霰粒腫は自然治癒するものなのでしょうか? ごたんだ眼科クリニックの逢坂さやか先生に聞きました。
監修医師:
逢坂 さやか(ごたんだ眼科クリニック 院長)
金沢大学卒業。その後、金沢大学医学部眼科学教室入局。八尾総合病院眼科医長、北里大学眼科講師、静岡市立清水病院眼科医長、大崎眼科クリニック院長などを経て、ごたんだ眼科クリニック開設。院内には多彩な検査機器を完備。一般診療に加え、ものもらいの切開や新生児の涙と目ヤニ(先天性鼻涙管閉塞)の治療も行う。患者の気持ちに寄り添い、女性医師ならではのきめ細やかな心配りと声かけで、安心して診察を受けてもらえるクリニックをめざしている。
霰粒腫(さんりゅうしゅ)の症状や原因
編集部
「霰粒腫」とはどのようなものですか?
逢坂先生
まぶたの裏には、脂質を分泌するマイボーム腺と呼ばれるものがあり、ときどきこのマイボーム腺が腫れたり、詰まったりすることがあります。そうすると、分泌した脂がまぶたの内側にたまり、肉芽腫(にくげしゅ)というしこりになってしまいます。この状態を「霰粒腫」といいます。
編集部
マイボーム腺はどのような役割を果たしているのですか?
逢坂先生
マイボーム腺は、主に脂質を分泌しています。この脂質は涙の蒸発をコントロールする役割を担っており、そのおかげで瞳が潤った状態をキープできるのです。
編集部
なぜ、そのマイボーム腺が詰まってしまうのですか?
逢坂先生
原因はさまざまだと言われています。たとえば、アイメイクなどの化粧品が詰まってしまったために、マイボーム腺が詰まることがあります。また、ホルモンバランスが乱れたことにより、分泌液の粘度が高まってしまったために起こることもあります。そのほか、疲れや免疫力の低下、脂っぽいものを好む食生活が原因となって起こることもあります。
編集部
霰粒腫はどのような症状が見られますか?
逢坂先生
急性期には痛みやかゆみ、赤み、腫れなどが起こります。また、しこりが大きくなったり、数が増えたりすると、異物感を強く感じることもあります。さらに症状が進むと、まぶたの皮膚がただれてしまうこともあります。
ものもらいとの違いとは?
編集部
目にできる腫れ物というと、ほかにも「麦粒腫」(ばくりゅうしゅ)があると聞きました。霰粒腫と麦粒腫は、どう違うのですか?
逢坂先生
麦粒腫は別名で「ものもらい」とも呼ばれ、確かに霰粒腫と同じくまぶたが腫れる病気です。しかし、ものもらいと霰粒腫では、原因や症状が違います。ものもらいは、まぶたの汗腺やまつげの毛根、脂腺などにぶどう球菌などの細菌が感染し、炎症を起こす疾患。しかし、霰粒腫は物理的に脂が詰まってしまう病気であり、感染症ではありません。
編集部
症状も違うのですか?
逢坂先生
症状だけを見ると、それほど違いはありません。霰粒腫も急性期には痛みやかゆみなどの症状が起こりますが、ものもらいもまぶたの縁が赤くなる、押すと痛むという症状から始まり、次第に瞼が腫れて、痛みや異物感が強くなったり、目ヤニが出たりします。また、症状が進むと、まぶた全体が腫れることもあります。
編集部
なるほど、霰粒腫とものもらいでは見分けるのが難しそうです。
逢坂先生
急性霰粒腫の場合は、ものもらい同様、痛みを伴うため、急性期では霰粒腫なのか、ものもらいなのか、見分けがつきにくいこともあります。そのため、目にしこりができたり、違和感を覚えたりしたら、早めに診察を受けましょう。
編集部
霰粒腫とものもらいは他人に感染するのですか?
逢坂先生
ものもらいは細菌感染が原因のため、人にうつることはありません。霰粒腫も分泌腺の詰まりが原因なので、人にうつることはありません。
霰粒腫の治療方法
編集部
霰粒腫のしこりが小さかったら放置しても大丈夫ですか?
逢坂先生
とても小さな霰粒腫なら、しこりを残さず完治することもあるかもしれません。しかし、なかなか治らない場合は、悪化する可能性もあります。できるだけ症状が軽いうちに眼科で治療をした方がよいでしょう。特に、「しこりに加えて赤み、痛み、腫れがある」「しこりが次第に大きくなる」「しこりが多発している」「1か月以上しこりが続いている」という症状が見られる場合は、症状が悪化している可能性があります。早めに診察を受けた方が良いでしょう。
編集部
霰粒腫の治療は、どのように行われるのですか?
逢坂先生
痛みや赤みを伴う場合は、抗生物質の目薬や軟膏で治療します。腫れ物が大きい場合や目薬を使っても治らない場合は、まぶたを切開して腫れ物の内容物を除去する手術が必要になることもあります。
編集部
まぶたを切開するのですね。皮膚も薄いし、痛そうです。
逢坂先生
たしかにまぶたは痛みを感じやすい部位ですが、たとえば当院では点眼麻酔、皮膚の湿潤麻酔、局所麻酔という、3種類の麻酔を組み合わせることで、できるだけ痛みを軽減するようにしています。手術は10〜15分程度で終了しますし、麻酔がきちんと効いていれば、手術中の痛みはほとんどありませんので、ご安心ください。
編集部
一度治療を行っても、再発することはありますか?
逢坂先生
なかには何度も繰り返す人もいます。アイメイクをきちんと落としていない人、日常的に目の周りが汚れやすい人などは気をつけた方がいいでしょう。また、普段からドライアイの人も、霰粒腫になりやすいことがわかっています。
編集部
なぜ、ドライアイの人は、霰粒腫になりやすいのですか?
逢坂先生
脂質の分泌腺が詰まるということは、涙のなかの脂質の層が少なくなるということ。そうなると、ドライアイになりやすくなります。また通常、涙には免疫を上げる物質が含まれているのですが、ドライアイになって涙が不足すると、この免疫物質も少なくなり、霰粒腫になりやすくなります。そうした相互作用によって、ドライアイの人は霰粒腫になりやすいのです。
編集部
霰粒腫にならないため、気をつけた方がいいことはありますか?
逢坂先生
まぶたの脂腺がつまらないよう、洗顔の際には洗い残しがないようにしましょう。また、普段から汚れた手で目をこすらず、目の周りを清潔に保つことも大切です。それからバターやチョコレートなど、油脂の多い食べ物は、食べ過ぎないことも予防に役立つでしょう。もちろん、寝不足や疲労など免疫力を低下させることは改めましょう。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
逢坂先生
まぶたの手術は痛そう、怖いといって、受診を躊躇する方も少なくありません。しかし、そのまま放置しておくと、どんどん大きくなったり、炎症がひどくなったりすることもあります。術中は、麻酔がしっかり効いていれば痛みの心配はありませんから、ぜひ、安心して眼科を受診していただきたいと思います。
編集部まとめ
1mm程度のまぶたのしこりなら、あまり日常生活に支障がなく、審美的にも気にならないかもしれません。しかし、もしかしたら少しずつ大きくなったり、悪化したりすることもあります。できるだけ早めに医師の診察を受け、正しいケアを行いましょう。
医院情報
所在地 | 〒141-0031 品川区西五反田2-15-9 ブルーベルビル2F |
アクセス | JR・東急・浅草線「五反田駅」より徒歩4分 |
診療科目 | 眼科、小児眼科 |