~実録・闘病体験記~ 乳がんが脳に転移した女性「もっと自分の胸に向き合ってほしい」
乳がんは乳房切除などを伴うこともあるため、主に女性にとって失うものが大きいがんの1つです。最近は早期発見のための検査、ホルモン療法、分子標的薬など新技術の開発が目覚ましい分野でもあり、早期発見できれば治癒も期待できます。闘病者の佐々木千津さんは、右側乳がんから脳、そして左側乳房へと転移し、現在も闘病を続けています。そんな彼女に、治療中の体験を詳しく語ってもらいました。
体験者プロフィール:
佐々木 千津
長野県在住、1984年生まれ。現在は父、祖母と同居(ほかに弟もいる)。診断時の職業は介護福祉士。2017年10月に乳がんが発覚し、手術や化学療法を受ける。脳にも転移していることが発覚し、放射線治療を複数回受ける。現在はホルモン療法を続けながら経過観察をしつつ、パートで介護福祉士として働いている。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
乳がんを疑ってから3か月放置してしまったのが原因か
編集部
最初に気づいた症状、乳がんが判明した経緯について教えてください。
佐々木さん
入浴時に右胸に小さなシコリを発見しました。しかし痛みが無く、仕事が忙しいことを理由に3か月ほどそのままにしていました。徐々にシコリは大きくなり、痛みが出てきたので、市立病院の乳腺外科を受診しました。医師からは「シコリの形が気になる」と言われていました。
編集部
どのような検査を行いましたか?
佐々木さん
初診日のうちにエコー、マンモグラフィ、細胞診まで受けました。2週間後の結果説明で、右側乳がんと告知されました。
編集部
乳がんを告知された時の心境はどうでしたか?
佐々木さん
痛みも酷かったので、「もしかしたら……」と思っていたため、私自身は冷静でした。ショックを受けるより、治療中の仕事のことについて考えていました。隣で一緒に説明を聞いている父の姿を見ている方が辛かったですね。
編集部
医師から、最初はどのように治療を進めると説明されましたか?
佐々木さん
乳がんについてはシコリが7cmと大きかったので、術前に抗がん剤治療(AC療法)を3週間おきに投与(4回)、そして手術で乳房全摘と腋窩(えきか)リンパ節郭清をして、そこからはハーセプチン(抗がん剤)を約9か月間投与することになりました。
右側乳がんが脳、そして左側に転移
編集部
治療は大変だったそうですね。
佐々木さん
そうなんです。術後の病理検査でホルモン受容体陽性だったので、タモキシフェン(ホルモン療法で使われる薬)を10年間内服することになると言われましたね。経過観察中の検査で乳がんがまず脳に、その後に反対側の乳房に転移したことがわかりました。脳転移では脳浮腫が出たので、入院して脳浮腫を抑える点滴を投与しつつ、放射線治療(ガンマナイフ5回)、パクリタキセル、ハーセプチン、パージェタなどの薬を使いました。
編集部
左側の胸にも転移したのですね。
佐々木さん
はい。その後に左胸に転移した乳がんについては、シコリが小さかったので早いうちに手術をすることになりました。
編集部
治療にはどのような薬を使いましたか?
佐々木さん
右乳がんの化学療法としてAC療法(アドリアマイシン、シクロフォスファミド)とドセタキセル、ハーセプチン、タモキシフェンです。次の脳転移の時は、脳浮腫もあったのでデカドロン(抗脳浮腫薬 )、オメプラゾール(酸分泌抑制薬)、イソソルビド(利尿剤)、パクリタキセル、ハーセプチン、パージェタを使いました。がんによる痛みには鎮痛薬を使いました。
編集部
抗がん剤の副作用を抑えるのに、どのような薬を使いましたか?
佐々木さん
吐き気を抑える薬や口内炎、便秘のための薬などを使っていました。タモキシフェンによる不眠には睡眠導入剤を使いました。また、放射線治療時は皮膚炎がありますので、リンデロン軟膏とヘパリン類似クリームで保湿をしました。
編集部
治療を開始して生活に変化はありましたか?
佐々木さん
抗がん剤による脱毛や副作用で、気持ちと体調の浮き沈みがありました。味覚障害で、食べたいものが美味しく感じない、食べられないという時もありました。でも体調が良い日は友達や家族と出掛けたり、食べられるものを探したりと、抗がん剤の副作用も自分なりに工夫しながら対応し、発症前と変わりなく過ごしていました。
編集部
治療開始後、仕事にどのような変化がありましたか?
佐々木さん
発症前から現在も介護福祉士として仕事は続けています。現在は両胸を手術で切除し、右側は腋窩リンパ節郭清、左側は大胸筋も取っているので、無理ができません。そのため正社員からパートタイムでの雇用に替わり、勤務時間も減らし、無理なく仕事を続けさせてもらっています。
SNSでのがんサバイバーとの交流が心の支えに
編集部
治療中の心の支えとなったものは、何でしたか?
佐々木さん
SNSで知り合ったがんサバイバーの方々の存在が大きいですね。ブログを見て「同じ抗がん剤で頑張っている人もいるから、私も頑張ろう」と思いながら治療を乗り越えてきました。やっぱり同じ病気の方の書き込み、たとえば「抗がん剤が終わった」、「定期検診をクリアした」などの言葉を見ると、心の支えとなりました。
編集部
もし昔の自分に声をかけるとしたら、どんな助言をしますか?
佐々木さん
「半年に一度の乳がん検診は頑張ってたね。エライエライ。でもシコリを最初3か月も放置したのは馬鹿だぞ。あと、がん保険に入っておくべきだったね」と言いたいですね。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
佐々木さん
術後は力仕事などで腕が疲れたり、痺れたりします。また腕を上げたときなど、筋肉のつっぱりや皮膚のひきつりを感じます。タモキシフェンの副作用でホットフラッシュと滝のような汗、浅い眠りに悩まされていますが、経過観察になって全体的に体調も落ち着いてきたので、無理のない範囲で仕事も続けています。ヨガやジム、習い事などもまた始めようと思っています。
編集部
医療関係者に伝えたいことはありますか?
佐々木さん
「主治医に自分の不安を正直に話せないまま」で、治療することになりました。SNSでもそういう声は見かけます。お忙しいと思いますが、患者の持つ不安や恐怖を聞く時間を作ってほしいですね。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
佐々木さん
がんは治療で失うモノと時間がとても大きい病気です。しかし早期発見・治療すればそれらは少なくて済むと思います。自分は大丈夫と思う方が多いのですが、がんは誰にでも起きる身近な病気です。早期発見のために、そして家族のためにも、がん検診を受けてください。あとお風呂の時などに自分の胸に触れ、胸と向き合う時間を作ってください。
編集部まとめ
今回のお話をお聞きして、乳がん検診の大切さと早期発見、早期治療の大切さを感じました。また様々な治療法があり、それぞれの副作用に対応する大変さも伺うことができました。そして医療関係者ならびに同じくがんと闘う仲間とのつながりが、治療を受ける患者さんの心の支えに必要であるとも思いました。