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~実録・闘病体験記~「マンモグラフィに写らなかった私の乳がん」どうすれば発見できた

 更新日:2023/03/27
~実録・闘病体験記~「マンモグラフィに写らなかった私の乳がん」どうすれば発見できた

乳がんを発見する手段として一般的に用いられている検査には、「超音波によるエコー検査」のほか、「マンモグラフィ」があります。しかし、体験談を語ってくれた新里さんの乳がんは、体内の深部にあり「マンモグラフィで挟める範囲外」だったようです。エコー検査でも、いわゆる「裏に隠れてしまった状態」だったとのこと。こうなると、乳がんの自覚症状は乏しいだけに、発見を遅らせがちです。なにか、取るべき手だてはあったのでしょうか。今回の闘病記では、そんな乳がん検診の“隙間”に焦点を当てました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年7月取材。

新里篤子さん

体験者プロフィール
新里 篤子さん

プロフィールをもっと見る

神奈川県在住、1979年生まれ。結婚して配偶者と2人暮らし。発症当時はIT系の企業に勤めていたものの、現在、抗がん剤治療のため休職中。乳がんのステージIII Aと診断されたのは2020年1月のこと。右乳房の全摘手術と、転移したリンパ節の摘出手術を受けた。闘病中は、新たな自己啓発の一環として英語学習に取り組み、まもなく復職のメドが付いている。

楯 直晃

記事監修医師
楯 直晃(宮本内科小児科医院 副院長)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

企業健診で発見できなかったがん

企業健診で発見できなかったがん

編集部編集部

まずは、乳がんが見つかったきっかけを教えてください。

新里篤子さん新里さん

生理不順が気になっていたので、最初は婦人科を受診しました。しかし、診療所の検査には限度があるらしく、大学病院での精密検査を勧められました。その結果、「乳がんの疑いがある」と。私としては「えっ、まさか」です。考えもしていませんでした。一方で、きっかけとなった生殖器は、なんともなかったようです。

編集部編集部

就労されていたということは、企業健診があったのですよね?

新里篤子さん新里さん

はい。年に1回、マンモグラフィのほか主だった検査を受けていました。ところが、私の乳がんは胸壁の奥にあったので、マンモグラフィには映らなかったようです。エコー検査でも、乳腺が邪魔して見つけられませんでした。ですから、大学病院の精密検査で「PET検査」(※)をしてみて、初めて発覚しました。なお、PET検査では、CTに写る薬剤が、がん組織に集まるとのこと。子宮に集まるのかなと思っていたら右の乳房だったので、驚きました。
※PET検査とは、がん細胞が増殖する時に取り込むブドウ糖の量に着目した、がん細胞の有無を調べる検査。検査薬を使用し、がん細胞に集積されたブドウ糖が多く集まる部位を画像から特定する。

編集部編集部

そのまま大学病院で治療を行ったのですか?

新里篤子さん新里さん

治療するならより良い先生に診てもらいたいと考え、自分で乳がんに詳しそうな病院を探しました。すると、『乳がんプラザ』という医師の方が個人的に運営しているサイトがあって、全国の患者さんからの問い合わせに回答していたんですね。この医院(先生)なら頼れそうと思ったのに加え、大学病院の医師に相談したら、今までの診察データを引き継いでもらえるとのことだったので、転院させてもらいました。

編集部編集部

確定診断や治療を受けたのは、その専門医院ということですか?

新里篤子さん新里さん

そういうことです。右の乳房に加えリンパ節にも転移があったので、「ステージIII A」という所見になりました。私の担当医の先生は淡々としていて、“さらっと告知”するんですよね。大事に構えず事実だけを的確に伝えてもらえたので、その方が私には合っていて良かったです。がんの状態と、今後の治療に必要なことだけをテンポよく投げてくるような先生で、それが逆に今後の治療に対する自信として伝わってきました。対処できないことを、ここまでストレートには言ってこないだろうと。

編集部編集部

その後、右乳房を全摘したとのことですが。

新里篤子さん新里さん

はい。私としてはどうにか部分的にでも残したかったのですが、先生からは「全摘」を強く進められ、先生が言うなら間違いないだろうと迷ういとまもなく覚悟できました。なお、転移していたリンパ節も、乳房の全摘手術と同時に(摘出を)行うそうです。確定診断が付いたのは、摘出した組織を調べた後になりました。

感染症の世界的拡大と並行して行ったがん治療

髪の毛も仕事も、同時には失いたくなかったから

編集部編集部

告知を受けて、最初に頭に浮かんだことはなんでしょう?

新里篤子さん新里さん

自分の命の次に「仕事の中断」ですね。実は、手術後の初手として抗がん剤治療をはじめて、その後に放射線治療という予定でした。しかし、抗がん剤による吐き気などの副作用があると仕事に差し障るので、先に放射線治療をしてもらえるようお願いしたのです。ですから、手術の直後には休職していません。約1年間の業務引き継ぎ期間を置いてから休職して、抗がん剤治療に取り組みました。

編集部編集部

術後の治療方法に融通が利くのですね?

新里篤子さん新里さん

抗がん剤を使うと、その後の再発率を10%程度下げられるそうです。その一方、吐き気や抜け毛、“白血球の減少”などの副作用が避けられないとのこと。白血球が減少すると感染症が重症化するリスクもあるので、私の場合は大事を取って休職することにしました。そんな抗がん剤治療にはためらいがあったものの、最終的に夫の強い勧めもあって決意しましたね。ただし、抗がん剤治療を約1年先送りする代わりに、放射線治療が今すぐ必要という流れです。放射線治療の目的も、同じ再発防止ということでした。

編集部編集部

感染症の流行を考えると、難しい選択だったのではないですか?

新里篤子さん新里さん

時を同じくして有名な女優さんが、がん治療中に新型コロナウイルスの感染で亡くなったんです。その影響で、治療を中断する患者さんも少なくなかったでしょう。しかし、感染症による死亡とがんによる死亡は比較できませんから、治療を続けました。それも、やっと来週で終わりです。

編集部編集部

リンパ節を切除した右腕の様子についても教えてください。

新里篤子さん新里さん

今でも違和感が残るものの、痛みはないですし、動作の不自由もありません。多少、右腕の上げづらさを感じるくらいですかね。ほか、乳房以外の影響といえば、やはり頭髪の悩みです。今は自宅用の簡便なウィッグですが、来月からの復職に備え、もう少し精密なものを探している最中です。

編集部編集部

治療継続時、気になったことはありましたか?

新里篤子さん新里さん

気がかりだったのは再発です。同病患者さんのブログを拝見すると、結構、目につくんですよね。しかし、担当医いわく、「再発した方が書いているだけの話で、再発していない方は、わざわざそのことを書かない」とのこと。そりゃそうだなと、妙に安心したことを覚えています。

「失うもの」を最小化するための必要経費

「失うもの」を最小化するための必要経費

編集部編集部

治療中、キーパーソンのような方はいらっしゃいましたか?

新里篤子さん新里さん

薬剤師の先生が抗がん剤を処方するとき、必ず一声かけてくれたので、心の支えになりました。薬の副作用って、細かなものまで含めると、いろいろと起きるんですよね。副作用を止めるお薬にも副作用があります。薬剤師の先生は、私の訴えに応じて、治療の担当医師との間に立ってくださったようです。処方薬を変更したり、予定していた投与期間を短くしたりしてくれました。副作用の中身も、むくみのような辛い症状から、不眠や吐き気のような「比較的やりすごせる」ものへと変化していきました。

編集部編集部

「これが辛かった」と思える症状や出来事は?

新里篤子さん新里さん

比較的やりすごせる程度とはいえ、薬の副作用ですね。「いつまで続くのかな」と、終わりが見えなくて辛かったです。医師の説明によると、2週間ほどで慣れて消えるとのことでした。ですから、同じ経験をした患者さんのブログを読みまくって、「もう少しで消えるんだ」と励みにしていました。

編集部編集部

がんを意識していない人に一言お願いします。

新里篤子さん新里さん

「全身の検査を1年に1回は受けましょう」ということでしょうか。体の異常は、自分が気になっている以外の部分でも起こりえます。私の場合、生殖器ではなく乳房でした。特にがんを見つけるとしたら、一般的な検査よりPET検査推奨という印象です。なにも異常が見られなかったら、それでいいじゃないですか。隠れているがんを放置していると、「見つかってから失うもの」が多々あります。大切なものを失わないための対策として、PET検査がオススメです。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

新里篤子さん新里さん

治療中、考えることがいっぱい出てくると思います。そんなとき、紙に書いてリスト化すると、思いのほか整理されますよ。文字化して目の前に置いておくだけでも、かなり違ってきます。書き出した順が、そのまま「やる順」になっていると思いますね。何かのお役に立ててみてください。

編集部まとめ

エコー検査は乳腺に邪魔される、マンモグラフィは機器の間しか調べられない。これが、一般的な乳がん検診に潜む落とし穴なのでした。その落とし穴を克服するPET検査の有用性が現れた事例だったと思います。また、2020年以降、PET検査の一部に保険が適用されるようになりました。ただし、「見つけるための検査」ではなく、本件のような「見つからなかったことをよりどころにするための検査」として受ける場合は、自費になるかもしれません。好発年齢にもよるでしょうが、この差を、どう受け止めるかです。現状のがん検診の精度と合わせて、ご自分なりに考えてみてください。

この記事の監修医師