来年の花粉症に備えよう! アレルギー性鼻炎に用いられる「舌下免疫療法」の“学習効果”
花粉症に代表されるアレルギー性鼻炎には、さまざまな治療法が用意されている。そのなかで、「一生、薬要らずでいられる」、「元に戻ってしまった」と賛否両論の声を聞くのが「舌下免疫療法」の不思議な点だ。そもそも、このうわさの真偽はどうなのか。それぞれ正しいとしたら、どのような点が個人差をもたらすのか。そこで、被験者である平瀬氏の同意の元、治療の現場に同席してみた。
監修医師:
司馬 清輝(医療法人社団礼恵会 理事長)
東京医科大学卒業。東京医科大学茨城医療センターや木根淵外科胃腸科病院に勤務後、茎崎アオイ病院で病棟長を務める。2005年、東京都渋谷区に「むすび葉クリニック」開院と同時に、医療法人社団礼恵会を設立。 現在では渋谷が本院となり、西麻布に分院を設けた2院体制。
被験者:
平瀬 智樹(株式会社GENOVA 代表取締役社長)
目次 -INDEX-
免疫システムを再教育する学習要綱
平瀬氏
本日は、よろしくお願い致します。
司馬先生
よろしくお願い致します。平瀬さんはいつ頃から花粉症なのでしょう?
平瀬氏
小学校低学年の頃ですね。春先になると、いつも花粉で悩まされていました。
司馬先生
大変でしたね。血液検査をしたところ、「ダニに代表されるハウスダスト」、「スギ」、「ガ(蛾)」に対するアレルギーが確認されました。「春先になると」と仰っていましたが、季節性のアレルゲンとなるとスギですね。ダニとスギに関しては、「自分の体に、“悪者ではない”と教える抗アレルギー治療方法」が確立されています。それが舌下免疫療法です。
平瀬氏
ありがとうございます。「悪者ではない」とは、どういうことでしょうか?
司馬先生
免疫はもともと、体の外からやってくる悪者と戦うシステムのことで、舌下免疫療法はこのシステムに反応しなくていいものを教え込むことで症状の改善を図ります。一般的なアレルギー治療は、「起こりえるシステムを止める」という考え方で成り立っています。体質として治しているのではなく、妨害しているにすぎません。対する舌下免疫療法は体質改善なので、根本解決が期待できます。根治できなかった場合でも、花粉症のお薬の量を、かなり控えることが可能なはずです。
平瀬氏
どんな人が治療の対象ですか?
司馬先生
事前の血液検査により、スギとダニのアレルギーが確認された方だけです。なおかつ、がんなどの悪性疾患やリウマチといった免疫疾患、ぜんそく、不整脈などで特定のお薬をのんでいる方は受けられません。
平瀬氏
スギとダニ限定ということなんですね?
司馬先生
現在、国内で認可されているのは、その2種類だけです。海外の場合、国によっては、スギとダニ以外の舌下免疫療法も提供しています。例えば牧草などがあるみたいですね。
平瀬氏
スギとダニの舌下免疫療法を同時に進められますか?
司馬先生
これから免疫システムに反応しなくていいものを教え込むわけですが、覚えきらないうちは、副作用のリスクがあります。スギとダニの教育を同時におこなうと、リスクの掛けもちになりかねません。当初は併用注意がされていましたが、最近では併用もするようになっています。まずは通年性のダニからはじめましょう。副作用の強いダニから初めて、安定したらスギを併用という方法があります。
舌下免疫療法ならではの特徴
平瀬氏
舌下免疫療法の仕組みについてはわかりました。ところで、年齢などの制限はありますか?
司馬先生
現在は、スギ・ダニともに年齢制限はありません。2歳で開始したという報告もあります。個人的な所感ですが、「自分の不調が伝えられ、服薬後の運動制限が守れる年齢」になっていないと、やはり怖いですよね。担当医によって判断に差がありますが、私は「10歳前後から安全」という印象です。
平瀬氏
一生続けなければいけないのですか?
司馬先生
一生ではなく、一般には5年間です。5年がたったら、「体質改善ができたであろう」という推測の元に、いったん、治療を終了します。もし再発が起きたら、状況に合わせて再検討していきます。
平瀬氏
引っ越しなどがあった場合、他院へ治療を引き継げるのでしょうか?
司馬先生
もちろんです。他院だからといって「振り出しへ戻る」ということはありません。治療の継続性は担保されます。
平瀬氏
推奨する治療開始のタイミングはありますか?
司馬先生
通年性のダニは、いつでも構いません。他方、シーズンのあるスギの場合は、一般的には6月から12月にかけてが開始時期の目安となります。ただし、翌年の春先に間に合わせるという趣旨ではなく、「スギ花粉の影響が最も少ない時期にはじめる」のが本意です。たまたま翌年の春先に間に合ったという方も、もちろんいらっしゃいます。個人差がありますよね。
平瀬氏
舌下免疫療法以外にも、アレルギーを治療する方法はあるのですよね?
司馬先生
一般的な投薬療法や、鼻の粘膜を焼却する療法など、多彩にあります。これらはいずれも、「アレルギー反応をブロックする」治療方法です。舌下免疫療法のような、「アレルギー反応を少なくする、なくす」方法ではありません。舌下免疫療法と似た考え方で、「注射を毎日打つ」という皮下注射免疫療法もありますが、連日のように注射をおこなうのは現実的ではないでしょう。
平瀬氏
舌下免疫療法の費用面についても知っておきたいです。
司馬先生
保険適用が可能で、初診時のみ、検査費用も含め3割負担を前提に4000円ほどかかります。2回目以降はお薬の処方だけなので、同じく3割負担で2500円ほどになります。院外処方であれば初診1500円、再診600円程度ですが、薬局で薬剤量が別途かかります。
効き目の現れ方と、気になる副作用
司馬先生
さて、ご用意してあるお薬を毎日、服用していただくのですが、経験上、効果が早く現れる方でも4カ月ほどの期間を要します。一般的には、「おおむね1年ほど服用を続けると、今まで使っていた花粉症のお薬が“だいぶ減ってくる”」という印象です。ですから、しっかり覚えこませるためにも、5年間くらいは治療を続けましょう。
平瀬氏
目安として5年続ければ、ダニに平気な体になるのでしょうか?
司馬先生
治療を終えたとしても、実は3割くらいの方が“再発する”と言う話もありますがハッキリしたデータはありません。ですが、根治療法という意味では体に覚えさせる効果はあると思います。他方で、「なかなか、体が覚えられない人」も存在します。ですから、副作用や適応を確認していきましょう。
平瀬氏
5年を待たずとも、効き目が徐々に実感できますか?
司馬先生
適応のある人なら、次第に鼻炎が治まっていくはずです。とくに鼻づまりの解消が顕著で、この効果は集中力とも関係しています。会議や打ち合わせといった大人の事情に限らず、勉強に集中したいお子さんのご相談も多いですね。
平瀬氏
その一方で、副作用のうわさをいろいろと聞きます。
司馬先生
お薬の副作用として怖いのは重篤なショック状態です。数万に及ぶ国内の臨床例のうち20例程度報告されていますが、確定は1例のみです。この1例においても、死に至るようなことはありませんでした。
平瀬氏
なるほど。軽度な副作用は、どういった症状なのでしょう?
司馬先生
症例として多いのは、舌下・口腔内の腫れですね。一般的な服用薬のように直接のみこんでしまうと、アレルギーの原因物質であるたんぱく質が分解されて効果がなくなるので、錠剤を“舌の下”に置いておく服薬法になります。万が一腫れたとしても、4時間前後で引いてきます。つまり、錠剤をのみこむと消化されてしまい、お薬の効果がなくなるので舌下投与と言う事になります。
平瀬氏
もし腫れてきた場合、痛いのですか?
司馬先生
痛みは伴いません。「ボワッとする」と表現する患者さんが多いですね。ほか、耳の中がかゆくなるという方もいらっしゃいます。こうした軽度の副作用は誰でも起こりえますが、おおむね、服用開始から1カ月程度で落ち着きます。
用法・用量も含めた、日頃の注意点
司馬先生
続いては、錠剤ののみ方です。初回の今日は院内で実際に服用していただいて、副作用が出ないかどうか、30〜60分くらい様子を見たいと思います。なんともなければ、明日以降のお薬をお渡しします。薬の種類によって異なりますが、今回出す種類の薬では、今日は1日1回100IR錠を1錠、翌日は100IR錠を2錠、明後日以降は1日1回300IR錠を1錠になります。基本的には、一度に1カ月分のお薬をお渡ししています。
平瀬氏
錠剤を舌の下に置くんですよね。聞いたことがあります。
司馬先生
はい。2分くらいしたら溶けきってしまいますので、唾液と一緒にのみこんでください。その後の5分くらいは、食事したり歯みがきしたりせず、そのままの環境を維持しましょう。
平瀬氏
水分も取らないほうがいいですか?
司馬先生
控えてください。また、服用と前後した1〜2時間、合計して4時間は、激しい運動をしないようにしましょう。飲酒も禁止です。その理由は投薬で体はアレルギー反応が起きやすい、興奮状態にあるからです。総じて、朝に服用する方が多いようですね。
平瀬氏
風邪をひいたときや、体調が優れない場合でも、服用を続けたほうがいいのでしょうか?
司馬先生
服用を一時中断することもありますので、都度、遠慮なくご相談ください。中断の有無をこちらでも把握しておきたいので、むしろ、ご連絡いただいたほうがありがたいです。万が一、強いけいれんが起きたときは、「アナフィラキシーショック」かもしれませんので、遠慮なく、救急車を呼んでください。
平瀬氏
その場合、対応してくれた医師に、舌下免疫療法のことを伝えるべきですよね?
司馬先生
そうしてください。また、「舌下免疫療法に取り組んでいることを示すカード」をお渡ししておきますので、常時、身につけておきましょう。仮にご本人の意識がないまま緊急搬送されたとき、医師にとって“有力な”判断材料になります。
平瀬氏
重篤なショック症状には、どんなものがありますか?
司馬先生
いろいろありますが、呼吸苦や呼吸困難感、吐き気、めまい、皮膚の痒みや胸を強く打たれたような感覚が起きます。そのあとに全身の症状を伴ってきます。ご家族の方には、「こういった症状が起きたら、救急車を呼ぶように」と伝えておいてください。その意味でも、周りのみなさんが起きている朝の服用を推奨します。夜遅くだと、ご家族が寝静まっているかもしれませんしね。
平瀬氏
なるほど、すごく勉強になりました。じつは、甲殻類を食べると、顔などに腫れが出て困っていたのです。そのとき、舌下免疫療法を参考にして、少しずつ食べ続けてみたことがあります。そうしたら、やがて症状が引いてきました。
司馬先生
たまたまうまくいったのでしょうが、少しずつ体に慣れさせた結果なのだと思います。しかし、危険なので自己判断でするのはやめた方が良いでしょう。本題の舌下免疫療法も同様で、最初の1~2カ月は、起きた副作用などを日誌に書き込んでおいてください。ある程度の傾向が、ご自身で把握できると思います。落ち着いてきたら、日誌の記入は不要です。
新型コロナウイルスの流行で注目されるオンライン診療
平瀬氏
舌下免疫療法を、オンライン診療でも受け付けていると便利ですね。
司馬先生
「初めてご相談いただいたときだけ面会するものの、後の診察・処方については数カ月の間であればオンラインでも可」というのが、一般的な診療ルールでした。これが、新型コロナウイルスの流行下で一部緩和され、初診から可能という方向になってきています。ただし、アレルギー治療には血液検査が必要なので初回の受診は必要です。
平瀬氏
血液検査は、お薬をもらう再受診でもおこなうのですか? 治療が効いているかどうか、どうやって確認するのでしょう?
司馬先生
治療目標は「症状を抑える」ことなので、症状が引いていれば、「治療が功を奏している」と判断します。それに、血液検査などの数値と症状は、必ずしも一致していません。もし、患者さんから「数値として知りたい」というご要望があれば、血液検査を実施します。
平瀬氏
5年もの長期なると、治療の途中脱落が気になります。
司馬先生
アレルギーに限りませんが、症状が治まると、「もう、いいか」となりやすいですよね。やはり“学習”ですので、決められた期間は、症状の有無に限らず学び続けていただきたいですね。その点でも、オンライン診療が一役買えると考えています。
平瀬氏
どういうことでしょうか。
司馬先生
オンライン診療のメリットとして考えられるのは、主に3点でしょうか。まず、通院時間を省略できるので、患者さんがおっくうにならないこと。次は、決まった予約時間に、患者さんと定期的なコミュニケーションが図れること。モチベーションが下がっていそうなら随意、励まします。最後は、既存の通院のほうが、むしろ定型で単調な流れに陥りやすいことです。来ていただいた段階で、我々も安心しちゃうんですよね。
平瀬氏
お話をいろいろと伺って、知らなかったことが多いと気付かされました。つい、「治る、治らない」だけに注目してしまうんですよね。
司馬先生
少なくとも、アレルギー性鼻炎の服薬をずっと続けると考えた場合の薬代は大きな負担になりえるでしょう。その点だけでも、試していただく価値はあると思います。加えて、先ほどお話しした集中力や生産性の問題ですよね。授業や会議の内容が身にしみてこないわけですから、成績を左右しかねません。舌下免疫療法の目的が「鼻水を止めること」に限らない点を、ぜひ、知っていただきたいと思います。
編集部まとめ
インタビューの後半、次第に喉のかゆみを感じてきたという平瀬氏。舌下免疫療法の“軽度な”副作用は、「あって当然」なのでしょう。なぜなら、体が学習しきれていない段階での自然な反応だからです。この学習期間をどう受け取るかで、舌下免疫療法の評価が変わってきます。即効性があるものの、終わりのない市販薬を選ぶのか。それとも、時間をかけて市販薬から卒業していくのか。みなさんの症状にもよると思いますので、参考にしてみてください。
花粉症、鼻づまり、くしゃみが止まらない症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
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