痔の日帰り手術って、術前・術後のケアもしてくれるの?
術後の衛生管理や傷の治りが懸念される痔の治療。完治するまで、排便をしないわけにもいきません。出血も、ありえない話ではないでしょう。入院すれば、アフターケアも大丈夫そうですが、日帰りによる痔の手術では、こうした不安の解消やアフターケアは望めるものなのでしょうか。「しらはた胃腸肛門クリニック横浜」の白畑先生に伺いました。
監修医師:
白畑 敦(しらはた胃腸肛門クリニック横浜 院長)
昭和大学医学部卒業。その後、昭和大学藤が丘病院、山王台病院、関東労災病院、横浜旭中央総合病院で経験を積む。2017年、神奈川県横浜市に「しらはた胃腸肛門クリニック横浜」を開院。消化器に関することならなんでも相談できる、話しやすいクリニックを心がけている。医学博士。日本消化器外科学会専門医・指導医、日本外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会認定医、日本乳癌学会認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。日本医師会認定産業医、神奈川県難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
ニーズに合わせたオーダーメイド対応
編集部
痔の手術というと、どうしても「怖さ」を感じてしまいます……。
白畑先生
ご本人では肛門の様子をじかに見ることはできませんし、「なにをされるかわからない」という怖さがありますよね。そうした不安や怖さを少しでも解消しようとしたら、事前の十分な説明が欠かせないでしょう。当院では「ERAS(イーラス:Enhanced Recovery After Surgery)」というプログラムを導入しています。
編集部
ERASってなんですか?
白畑先生
元々は、大腸がんなどの大規模な手術に用いられていた、「術後の回復を高める・強化するためのプロセス」です。その中には、患者さんの不安を低減する術前カウンセリングなども含まれています。「なぜ、この手術をするのか」、「手術をしないとどうなるのか」、「ほかにどのような方法があるのか」などを、エビデンスに基づいてご説明しています。
編集部
説明責任という発想は、以前からあったように思います。
白畑先生
そうなのですが、慣習的に“こなしている”だけなのか、それとも患者さんの症状やキャラクターによって個別に変えているのかで、その中身は違ってきます。もちろん、ERASは後者です。例えば、同じ痔でも、「困っていない人」っていらっしゃいますよね。聞き取りをしたうえで困っていなければ、そもそも手術をする必要はないわけです。
編集部
カウンセリングの中身が個人ごとに違うことはわかりました。続く治療内容も異なってくるのでしょうか?
白畑先生
異なってきます。例えばいぼ痔なら、「切る」、「縛る」、「注射で変質(硬化)させる」、「直腸粘膜ごと取り去ってつなげる」の各方法があります。痔が複数箇所あるときは、それぞれの組み合わせも検討していきます。患者さんの考え方や要望も、反映する必要があるでしょう。
患者が主体で医師はサポート、新しい医療の形
編集部
痔の手術におけるERASの流れ全般について、教えてください。
白畑先生
カウンセリングについては上述のとおりです。次に、術前の過ごし方ですが、当院では、下剤をお出ししていません。絶食も不要です。直腸内に便が残っていても「お掃除すればいい」と考えているからです。これも、患者さんに過分な負担をかけないという考え方に基づいています。下剤や絶食は、つらいですからね。
編集部
手術内容においても、ある程度は患者の希望を取り入れるということでした。詳しく教えてください。
白畑先生
例えば、医師からすると「痔核(じかく)をなくす」ことに意識が向きがちですが、「とりあえず、出血が治まればそれでいい」という患者さんもいらっしゃいます。医師として許容できる範囲なら、それも立派な治療選択肢ですよね。
編集部
麻酔についてはどうですか? 痛みと関わるので知っておきたいです。
白畑先生
痔の手術で一般的に用いるのは、下半身全体を麻痺させる“強い”麻酔です。術後、ほぼ半日は動けません。一方、当院の日帰りで用いているのは、「仙骨硬膜外麻酔(せんこつこうまくがいますい)」という局所的な麻酔です。また、眠ったようになる鎮静剤を併用することがほとんどです。いずれにしても、日帰り手術が終わったら、すぐに動けます。
編集部
麻酔の注射そのものが、やはり怖いです。
白畑先生
針を刺すときが痛いからですよね。麻酔薬が塗布されている貼り薬を貼ってから注射すれば、ほとんど痛みは感じません。また、注射針も「23ゲージ」という細いものを使っています。なお、術後に1週間ほどの除痛効果がある「塩酸キニーネ」を皮下注射しています。「塩酸キニーネ」注射は、関西などで長年用いられてきた秘伝の手法ですが、関東ではあまり見かけません。
医療機関にいる間だけが治療期間ではない
編集部
ERASに代表されるトータルケアの背景には、どのような事情があるのですか?
白畑先生
「病気を治して終わり」ではなく、「いかに患者さんを社会復帰させるか」が問われだしてきたからです。平素な状態まで戻してあげることが治療であって、「切った、縫った」は全体の一部でしかありません。その意味では、がんの手術も痔の手術も同じです。
編集部
その分、コミュニケーションの比率が増えますよね?
白畑先生
そうなります。また、同じ説明をするにも、確たる根拠に基づいていたほうが、納得できるでしょう。なお、カウンセリングは、術後にもおこなっています。中身としては、入浴開始のタイミングやお薬の塗り方ほか、ご家庭で起こりえることの対処法などです。事前に知っておけば、慌てませんしね。
編集部
元どおりの生活が送れるのは、いつごろからでしょうか?
白畑先生
日帰り手術なら、日常生活は翌日から可能です。手術による傷は残っているものの、行動に制限がかからないのは、2週間後くらいからでしょうか。外来終了は2か月後が目安です。その間、何回か通院していただく必要があります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
白畑先生
一例ですが、「日本臨床肛門病学会」の公式サイトを見れば、痔を専門に扱っているドクターが都道府県別に把握できます。術後の痛みやケアについても、それなりに配慮しているはずなので、参考にしてみてください。
編集部まとめ
必ずしも全ての受診先が「ERAS」を導入しているとは限りません。しかし、自宅での回復期も含めて「治療期間」とみなす動きは、広がってきているようです。そして、理にかなった事前説明が、手術への心構えを後押ししてくれるとのことでした。「やってみないとわからない」のではなく、「説明されたとおりに物事が進んでいく」。それこそが、安心を生む重要なファクターといえるのでしょう。
医院情報
所在地 | 〒226-0027 神奈川県横浜市緑区長津田5丁目6−32 |
アクセス | 東急田園都市線・JR横浜線「長津田駅」南口より徒歩3分 |
診療科目 | 内視鏡内科・肛門外科・胃腸内科・漢方内科 |