非喫煙者の肺がんが増えているのはどうして?
肺がんは、大腸がんと胃がんに次いで、罹患(りかん)者数の多いがんといえます。また、死亡者の部位別でみると、肺がんが1位を占めています。こうした傾向が、非喫煙習慣の根付いてきた今でも続いているのは、どうしてなのでしょう。「たなかだて内科呼吸器内科クリニック」の田中舘先生を取材しました。
監修医師:
田中舘 基親(たなかだて内科呼吸器内科クリニック 院長)
新潟大学医学部卒業。東京医科大学病院第一内科(呼吸器内科)入局後、虎の門病院分院呼吸器科、多摩丘陵病院での各勤務を経た2019年、東京都町田市に「たなかだて内科呼吸器内科クリニック」開院。感染症の蔓延防止に注力している。日本呼吸器学会、日本内科学会の各会員。虎の門病院分院呼吸器科非常勤勤務。
禁煙のトリックと、不思議な腺がんの仕組み
編集部
肺がんの罹患者は増えているのですか?
田中舘先生
肺がんは日本人における、がんによる死亡原因の第1位となっています。発生率は50歳を境に、急激に増加していきます。「肺癌診療ガイドライン2019」によると、日本人が生涯のうち、肺がんに罹患する割合は男性で7.4%、女性で3.1%と言われています。
肺癌診療ガイドライン 2019年版(日本肺癌学会)
https://www.haigan.gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=3
編集部
でも、最近の傾向として、喫煙者は減っていますよね?
田中舘先生
そうですね。厚生労働省がおこなっている「国民健康・栄養調査」によると、ここ50年の喫煙率は低下してきていますが、近年は下げ止まりの傾向にあります。2018年の段階では、男性で29%、女性で8.1%でした。また、非喫煙者に比べて、喫煙者が肺がんになるリスクは男性で4.4倍、女性で2.8倍高いと言われています。そして、喫煙開始年齢が若ければ若いほど、喫煙量が多ければ多いほど、肺がんになるリスクは高いと言われています。
国民健康・栄養調査(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
編集部
たばこをもともと吸っていない人はどうでしょう?
田中舘先生
一番の問題は受動喫煙です。受動喫煙により、肺がんのリスクが2~3倍高くなることが知られています。たばこの煙には、約5000種類の化学物質と約70種類の発がん性物質が含まれており、受動喫煙によってこれらの有害物質が肺の中に入っていき、血液を通して全身に運ばれていきます。その結果、肺がんをはじめとする様々ながんや心臓病、脳卒中、ぜんそくなどの病気になりやすくなると言われているのです。
編集部
受動喫煙はわかりやすいです。「たばこの被害をまったく受けていない場合」ですが、原因はなんなのでしょう?
田中舘先生
たばこ以外では、アスベストなどの有害物質を取り扱っていたことやPM2.5などによる大気汚染などが考えられます。また、肺がんの種類によっては遺伝的な要因である可能性も考えられます。
アジア人種の女性は要注意、肺の腺がん
編集部
肺がんにも種類があるのですね。肺がんの種類について、教えてください。
田中舘先生
肺がんには「小細胞肺がん」、「大細胞がん」、「腺がん」、「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」の主に4種類に分けられます。その中で最も多いのが腺がんで、これは非喫煙者の罹患も認められています。線がんには現在、様々な遺伝子変異がわかっており、その中のEGFR遺伝子変異は女性のアジア人に多いと言われています。
編集部
えっ、ということは、女性のほうが肺がんにかかりやすいということですか?
田中舘先生
そういうことです。たばこを吸っていない女性でも肺がんになることがあるということですね。
編集部
それは困りました。どう防いでいくべきでしょう?
田中舘先生
もちろん、たばこを吸わない、受動喫煙を避けるということは重要です。そのほか、肺がん検診などを積極的に受け、早期発見に努めることが重要だと思います。
編集部
「腺がん予防にイソブラボンが有効」とする説を見かけますが?
田中舘先生
どうでしょう。今のところ、科学的根拠に欠ける説と言わざるをえません。
肺がんの早期発見が求められる理由
編集部
肺がんにかかったら、自覚はできるのですか?
田中舘先生
せきやたんなどの症状から、見つかる方もいらっしゃいますが、肺の中には痛みを感じる神経が走っていないので、痛みを感じるのは、がんが肺の奥まで達してからです。したがって、痛みを感じるころには、肺がんはかなり進行してしまっています。肺の血管まで拡大すると、血痰(けったん)や喀血(かっけつ)などを伴うでしょう。
編集部
そうなる前に肺がん検診を受けるべきだと?
田中舘先生
そうですね。「自覚があったときには手遅れ」という怖さを考えると、「自覚のないうちに早期発見すること」が強く求められます。胸部X線検査を、少なくとも1年に1回は受診してください。
編集部
先ほど話題にあった「後天的な遺伝子変異」があるかどうかは?
田中舘先生
現在、10種類近くの遺伝子変異がわかっているので、肺の組織を調べます。検査結果によって、治療法も大きく変わってきます。
編集部
万が一、肺がんが見つかったら?
田中舘先生
進行度合いに応じたステージが4つあります。Ⅰ期〜Ⅲ期の途中までなら、手術をおこないます。Ⅲ期の後半では、放射線治療と抗がん剤の併用、Ⅳ期では抗がん剤治療になります。
編集部
Ⅰ期の生存率って、どれくらいなのでしょう?
田中舘先生
2019年、国立がん研究センターの発表によると、Ⅰ期の肺がん患者の5年生存率(相対生存率)は81.6%でした。相対生存率とは、肺がん以外の原因による死亡を除いた数値のことです。ちなみにⅣ期の5年生存率(相対生存率)は、わずか5.2%となっています。また、ここでの生存率とは、がんと診断された方が5年後に生存していた割合になります。
2010-2011年5年生存率集計 報告書(国立がん研究センター がん対策情報センター)
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv_all_2010-2011.pdf
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
田中舘先生
発見の難しいがんとして「すい臓がん」が知られていますが、じつは、肺がんも同様です。それだけに、自覚のない段階での早期発見が求められます。しかし、たばこが主な原因なので、まずは禁煙することが肝要です。くれぐれも、肺がん検診を他人事と考えないようにお願いします。
編集部まとめ
たばこを吸わなくても発症する肺の腺がん。だったら、禁煙に意味はないのか。そんなことはありません。腺がん以外の肺がんには、喫煙習慣が大きく関わっています。COPDなどの肺の病気も同様です。まずは禁煙するようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、呼吸器内科 |