「たばこ」と「肺がん」はどれくらい因果関係がある?
たばこは身体に悪いし肺がんの原因にもなると認識している人も多いでしょう。しかし、国の統計によると、喫煙者が減っている一方、肺がんの患者数は増えているようです。このことから、本当にたばこと肺がんに関係はあるのかと疑問に思うのは早計なのでしょうか。数値からは読みとれない現場の事情を、「草加きたやクリニック」の星加先生に教えていただきました。
監修医師:
星加 義人(草加きたやクリニック 院長)
埼玉医科大学医学部卒業、順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。東京厚生年金病院(現・独立行政法人地域医療機能推進機能東京新宿メディカルセンター)内科勤務、順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器内科勤務、越谷市立病院呼吸器科医長就任などを経た2016年、埼玉県草加市に「草加きたやクリニック」開院。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本呼吸器学会専門医。日本プライマリ・ケア連合学会、日本アレルギー学会、日本禁煙学会の各会所属。
ある種の肺がんは「喫煙に関係なく発症する」
編集部
たばこと肺がんとの間に因果関係はあるのでしょうか?
星加先生
肺がんの種類によって、「関係あり」とも「関係なし」ともいえそうです。肺がんは大きく、「腺がん」「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」「小細胞がん」「大細胞がん」の4つに分かれます。このうち「腺がん」に関しては、喫煙以外の原因と関連が強いことが知られています。とくに女性の非喫煙者で顕著ですね。
編集部
それぞれの肺がんの割合を教えてください。
星加先生
約6割が「腺がん」、約3割が「扁平上皮がん」、残りの1割が「小細胞がん」「大細胞がん」といったところです。女性は「腺がん」の割合が、男性は「扁平上皮がん」の割合が、それぞれもう少し多くなっています。
編集部
肺の腺がんは、何が原因で発症するのですか?
星加先生
主に、細胞の遺伝子変異だと考えられています。遺伝子変異は喫煙と関係なく生じるため、この部分に限って言えば、「たばこと肺がんは関係なし」となるでしょう。他方、「扁平上皮がん、小細胞がん」に関しては、「関係あり」という事実が判明しています。
編集部
「たばこと肺がんは無関係」ではなさそうですね?
星加先生
そうですね。私自身の臨床例でも、たばこを吸っていない方の「扁平上皮がん、小細胞がん」はほとんど見たことがありません。加えて、国内における喫煙者の肺がんリスクは、非喫煙者に比べ、男性で「4.4倍」、女性で「2.8倍」高まるとされています。
喫煙者の肺がんは「治療が難しい」
編集部
治療面での「たばこの害」はありますか?
星加先生
喫煙によって肺の機能低下を起こしていると、がん細胞の切除が難しくなります。通常であれば、肺は「片肺」まで取り去っても問題ありません。ところが、仮に7割まで機能低下している喫煙者の肺を「半分」にしてしまうと、呼吸機能が35%しか残らなくなりますよね。
編集部
ほかにも「たばこの害」がありましたら、教えてください。
星加先生
肺の「腺がん」には、かなり有効なお薬が開発されています。間接的な因果関係になってしまうのですが、「たばこを吸わない方の腺がん」には、治療の選択肢が多いわけです。一方、喫煙を原因とするその他の肺がんには、従来の薬のままです。
編集部
肺がん以外の健康被害についてもお願いします。
星加先生
まず考えられるのは、呼吸機能が低下する「COPD」という病気です。また、喫煙によって全身の血管が傷つけられ、心筋梗塞や脳梗塞にかかりやすくなるでしょう。
編集部
COPDとは、どのような病気なのでしょう?
星加先生
たばこの煙のような有害な物質により肺に炎症を起こし、呼吸がしづらくなる病気です。息を吸いにくいというより、「吐きにくく」なります。息を吐くときに、気管支がペタンとつぶれてしまうのです。重篤化すると、死に至る場合もあります。日本では、COPDの原因の90%以上が喫煙です。
禁煙外来の流れと成功率について
編集部
先生の医院では禁煙外来を扱っているのですよね?
星加先生
はい。禁煙外来の保険適用は3カ月間までです。その間、おおむね5回の受診をしていただきます。それまでにたばこをやめられれば「成功」、できなかったら「失敗」です。なお、治療開始3カ月以降の結果までは追うことができません。
編集部
禁煙外来の流れについて、教えてください。
星加先生
正式な病名は「ニコチン依存症」になります。ですから、治療開始に先立ち、「現在の喫煙状況」「ニコチンの依存度」「禁煙への関心度」などを確認します。保険治療ですから、依存度の指標は決まっていて、以下のようになっています。
・ニコチン依存症を診断するテストで、10項目中5項目以上の該当がある
・「1日の平均喫煙本数 × これまでの喫煙年数」の数値が200以上
・1カ月以内に禁煙を始めたいと思っている
・禁煙治療を受けることに文書で同意している
編集部
費用の目安は?
星加先生
保険の3割負担を前提とし、3カ月で1万2000円から1万7000円程度です。
編集部
おおよその成功率はどれくらいですか?
星加先生
7割といったところです。ただし、治療期間である3カ月間の「成功率」です。その後、喫煙を再開し、再び禁煙外来を受ける方もいらっしゃいます。この場合、間に1年の期間があれば、保険を適用できます。個人的な雑感ですが、ご家族のような「他人から勧められたケース」では、失敗することが多いようです。ご本人のしっかりとした意思が求められます。
編集部
加熱式たばこってどうなのでしょう?
星加先生
最近になって、加熱式たばこも、「通常のたばこ同様に害を伴う」ことがわかってきました。両者の差は、ほぼ、周囲へのにおいが多いか少ないかだけでしょう。喫煙している本人への差は、あまりありません。
編集部まとめ
肺がんは大きく4つに分けられ、腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんがあり、このうち腺がんについてだけはタバコとの明確な因果関係がないということでした。ただ、それ以外のがんについては関係があると判別されていて、星加先生も非喫煙者でこちらの肺がんになる人は見たことがないということでした。また、喫煙によって肺の機能低下を起こしているとがん細胞の切除が難しいとのことで治療面においてもタバコは害があるようです。星加先生も、「タバコを吸っていていいことは何もない」とおっしゃるように喫煙者の方は、この機に考え直してみませんか。
医院情報
所在地 | 〒340-0046 埼玉県草加市北谷1−22ー13北谷ビル1階 |
アクセス | 東武スカイツリーライン 獨協大学前(草加松原) 獨協大学前駅(西口)→朝日バス『新田駅』行き→『峰分集会所前』下車すぐ |
診療科目 | 内科・呼吸器内科・循環器内科・アレルギー科 |