~実録・闘病体験記~ 「タバコは止めろ!」27歳でステージ4のがん宣告を受けた3児の父
闘病中も「1人じゃないよ」と語ってくださった山本さん。孤独を感じながらも、治療を進めていくうちに仲間と出会い、1人ではないことを知りました。27歳という若さでがんと向き合うことになった山本さんの闘病体験を紹介します。
体験者プロフィール:
山本 翔太
愛知県在住、1987年生まれ。2008年に結婚し、妻との間に3人の子どもを授かる。診断時の職業は製造業。2015年、右口腔内に違和感があり受診し、上咽頭の腺様嚢胞がん(せんようのうほうがん)と診断される。その後、重粒子線治療を受け、腫瘍が大きく変化することなく、現在は経過観察中。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
口の中の違和感から始まった闘病
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
山本さん
2015年に口腔内の右側に麻痺があり、近くの総合病院を受診したら、上咽頭の腺様嚢胞(せんようのうほう)がんと診断を受けました。ステージ4でした。翌月には、当時の先進医療であった重粒子線治療を受け、腫瘍が大きく変化することなく6年の月日が経ち、現在は経過観察中です。
編集部
がんの診断後にも他の病気が発覚したとお伺いしました。
山本さん
はい。重粒子線治療を終えてから1年後に胸椎、腰椎、肋骨への転移が発覚し、がんの合併症である高カルシウム血症に対する「ゾメタ」という薬の使用を開始しました。また、白内障が判明し、手術をしました。放射線脳壊死も発覚し、ステロイド治療も開始しましたが、帯状疱疹(たいじょうほうしん)が出たので中止しました。その後、2019年に放射線脳壊死に対するオンマヤ貯留槽留置術を行い、2020年には壊死部分の摘出手術を受けました。また、同じく2019年にニューモシスチス肺炎と大腿骨頭壊死も発覚し、現在経過観察中です。
編集部
上咽頭の腺様嚢胞がんに対して、医師からはどのように治療を進めていくと説明がありましたか?
山本さん
手術も抗がん剤治療も放射線治療もできないと言われたため、重粒子線治療しか選択肢はありませんでした。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
山本さん
自分が27歳という年齢でステージ4の希少がんである腺様嚢胞がんになったなんて、信じられませんでした。ネットで腺様嚢胞がんについて必死で調べたこともありますが、情報が少なく絶望したこともあります。
口が動かしにくいなどのつらい変化
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
山本さん
頭頸部(頭蓋底部から下、鎖骨より上の顔や首の領域)に強く重粒子線の照射を受けたので、開口、嚥下、発声に障害が見られるようになりました。口が1cmしか開かなくなったり、声が出にくくなったり、重度のドライアイになったり、首が痛くて動かしにくくなるなど、様々な変化がありました。現在はリハビリを毎日継続しています。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
山本さん
入院中同室であった方や患者会で知り合った同じ病気の患者さんなど仲間とのつながり、存在が大きいですね。同じ立場の方と交流したことで、悲しみを喜びに変えられました。1人じゃないんだと実感しています。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
山本さん
「たばこを止めろ!」と言いたいですね。世間的に『たばこを吸うと肺がんになる』というイメージは強いと思いますが、肺だけでなく「喉」にも影響が出るということをあらためて、広く知ってもらいたいです。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
山本さん
口が1cmしか開かなくなったため、大好きなハンバーガーや厚切りステーキなど、大きい固形物が食べられなくなったことが非常につらいです。
同じ立場の方との交流で得た励まし
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
山本さん
近年、がんは2人に1人がかかる病気と言われています。いつ誰ががんになってもおかしくありません。明日は我が身なのです。保険に加入したり、健康診断を受けたり、そうなったときのためにできることは、やっておいてほしいです。自分だけではなく家族も含め、病気は決して1人だけのモノではありません。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
山本さん
私は、同じ立場の方と交流したことで、悲しみを喜びに変えることができ、病気で苦しんでいるのは私1人じゃないんだと実感することができました。一方で、治療にはお金が必要ですし、支える家族側もまた同じように悩み、孤独な思いをしているということを知っていただきたいです。人に相談することは、とても勇気がいります。しかし、その一歩を踏み出すことで苦しみが軽減されると思います。
編集部まとめ
「支援および助けを求めるということは、自分自身の病状および現実をしっかりと受け入れ、向き合っている証拠です。決して恥ずかしいことではありません。」と、自身の体験を通して山本さんが語ってくれました。難病は体だけではなく心もむしばんでしまうことがあります。読者の方の中にも病気やがんで苦しんでいる方がいるかもしれません。しかし、この記事を通して、病気だとしても1人ではないことを知っていただければ幸いです。