【漫画付き】「加熱式たばこ」や「電子たばこ」ならCOPDや肺がんのリスクは下がりますか?
近年、爆発的普及をしている「加熱式たばこ」や、フレーバー入りの液体を加熱して吸引する「電子たばこ」。登場して間もないだけに、各国の受け止め方も違えば、規制の枠組みも整っていません。賛否両論が出回るなか、我田引水的な宣伝文句も見かけます。その真偽について、「江北ファミリークリニック」の杉村先生を取材しました。
監修医師:
杉村 久理(江北ファミリークリニック 院長)
アメリカでは、関連する死亡事故も
編集部
そもそも、「たばこの害」ってなんなのでしょう?
杉村先生
一般的な「火をつけるたばこ」を前提とすると、その煙には50種類以上の発がん性物質が含まれていて、肺がんによらず、さまざまな疾患リスクを押し上げます。また、たばこが原因とされる呼吸障害「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」や、血管の収縮による高血圧との関係も広く知られています。一言で言えば「万病の元」ですね。
編集部
疾患リスクだけでなく、死亡そのものにも関わっていますよね?
杉村先生
国立がん研究センターの研究(※1)によると、「たばこを吸う人の死亡率は、吸ったことがない人と比べて、男性では 1.6倍、女性では1.9倍高い」そうです。加えて、たばこによる死亡率は吸った本数に比例すると公表しています。
※1 国立がん研究センター予防研究グループ「多目的コホート研究(JPHC Study)」より
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/252.html
編集部
そこで本題ですが、電子たばこや加熱式たばこの場合はどうなのですか?
杉村先生
その前に、「電子たばこ」と「加熱式たばこ」の違いについて説明した方が良さそうですね。「電子たばこ」はタバコ葉を使用せず、リキッドと呼ばれるものを熱して、水蒸気を吸引しているものをいい、ニコチンが入っておりません。ニコチンを含むリキッドは、日本の薬事法で「医薬品」に指定されていますので、取扱制限を受けます。なお、海外の電子たばこは、ニコチン入りのリキッドを使用しています。
※この記事では、製品を「たばこ」、原材料の植物を「タバコ」と表記しています。
編集部
「加熱式たばこ」はどう違うのでしょう?
杉村先生
iQOSなどの「加熱式たばこ」はタバコ葉を熱して、発生する水蒸気を吸引するものをいい、こちらはニコチンを含んでいます。まず、この違いを知っておいてください。
編集部
わかりました。その上で「電子たばこ」の是非を教えてください。
杉村先生
じつは、“新型”のたばこだけに、科学的な裏付けが十分ではありません。現時点では、「どんなことでも言える」状態にあります。ただし、有害物質が含まれていることだけは事実で、電子たばこに関連していると思われる死亡事故が、アメリカで起きています。海外の電子たばこはニコチンを含んでいるので、一概には言えませんけどね。
編集部
死亡例があるとしたら、慎重にならざるをえません。
杉村先生
世界保健機関(WHO)は、「電子たばこのエアロゾルにさらされると、健康に悪影響をもたらす可能性がある」と警告しています。“香り成分”の中には化学物質も含まれますから、十分に考えられる話ですね。
編集部
「加熱式たばこ」についてはいかがでしょう?
杉村先生
前述の通り、加熱式たばこはタバコ葉を加熱していますので、「健康上の危険性は同じ」なのです。COPDなど呼吸器疾患や、発がんのリスクが認められています。
推奨派はなぜ、「安全宣言」を出しているのか
編集部
しかし、「火をつけるたばこに比べて“害が少ない”」という話も聞きます。
杉村先生
たしかに、イギリスのイングランド公衆衛生局は、「電子たばこは通常のたばこと比べて95%害が少ない」と発表しました。しかし、安全性についてのエビデンスが確認されるまでは、まだまだ時間を要するでしょう。現時点では明らかでなく、見解・主張にすぎません。
編集部
禁煙に役立つという触れこみもありますが?
杉村先生
「新型たばこ」に関する広告規制が追いついていないので、「どんなことでも言える」状態なんですよね。じつは、国立がん研究センターの調査(※2)により、「電子たばこを使用した人は、使用しなかった人より、禁煙成功率が38%少ない」ことがわかっています。
※2 国立がん研究センター 「紙巻タバコの禁煙方法と有効性を調査」より
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2017/1212/index.html
編集部
副流煙による被害はどうでしょう?
杉村先生
電子たばこのエアロゾルは“目に見えない”だけで、空気中に漂っています。エアロゾルに含まれる科学物質によって、近くにいる非喫煙者が二次的な被害を受ける可能性は、大いにありえるでしょう。
編集部
なぜ、誤った情報が出回っているとお考えですか?
杉村先生
繰り返しになりますが、根拠に足るデータが少ないからです。現状では、メーカーの都合に合致しているデータが“たまたま”見いだされることもあります。それを「エビデンス」と称して、主張の根拠にしているのではないでしょうか。少ないデータでは偏差が起こり、逆の結果を示すこともあります。
電子たばこの愛用者は、普通のたばこも併用している
編集部
ここまでの経緯をまとめると、「未知数なので、断言はできない」ということですよね?
杉村先生
そうですね。ただし、世界保健機関(WHO)は2019年7月、世界的な喫煙のまん延に関する報告で、「電子たばこに関連するリスクの具体的な度合いについて、まだ確実な推計はなされていないが、間違いなく有害であり、規制の対象とすべきだ」と言明しました。
編集部
確実な推計がなされていない以上、「リスクが低い」と判明する可能性も?
杉村先生
じつは同報告に、こんな記載がありました。「電子たばこが入手できる大半の国において、電子たばこ使用者の大部分が従来型たばこを並行して使い続ける」。つまり、電子たばこ単体では語りきれず、併用の問題も隠れているようです。ですから、「リスクが低い」という結論には至らないと思います。
編集部
たばこのタイプによらず、禁煙が第一だと?
杉村先生
禁煙が第一です。自分に都合のいい情報だけを取り入れるのではなく、「そもそもたばこは害」であることを自覚しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
杉村先生
当院では禁煙外来も扱っています。多くの患者さんを診ていると「自分のための禁煙」を考えている方ほど、成功率が“下がる”ようです。ですから、「我が子のために」はもちろんですが、「禁煙によって余ったお金でプレゼントを約束した妻のために」とか、「一緒に禁煙宣言した友人を裏切らないために」など、他人を巻き込むことで責任感が生まれ、成功に近づくのではないでしょうか。
編集部まとめ
たしかに、「電子たばこはニコチンを含まないから安全、禁煙の補助ツールとしても有効」という説を見かけます。しかし、化学物質を肺へ吸いこむこと自体に、リスクが隠れているようです。結論を出すには「時期尚早」であるものの、だからといって「安全」とは言いきれないのも事実。あえてリスクに手を出す必要はないと思われます。それよりも、喫煙習慣そのものをやめましょう。
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