糖尿病になると失明するってホント?
「糖尿病になると失明する」、と聞いたことはないだろうか。失明は合併症の一つだ。失明までには至らないだろうとたかをくくっていると、とんでもないことになる可能性がある。40歳代になると糖尿病の患者は一気に増えるが、最近は子どもや若い人の発症も増加しているという。ほとんどの糖尿病は体質のほかに、運動不足や高カロリーの食事、肥満などが原因となる。不規則な生活をしている人は要注意だ。日本糖尿病学会糖尿病専門医の根岸先生に、詳細を伺った。
監修医師:
根岸 雅嗣(根岸医院 院長)
帝京大学医学部卒業後、同附属溝口病院に勤務。衛生文化協会城西病院を経て、2016年より祖父の代から続く東京都杉並区天沼の根岸医院院長。地域のかかりつけ医として地域医療に尽力するとともに、糖尿病専門医として糖尿病患者に寄り添い、より高度な治療を提供している。日本糖尿病学会、日本内科学会、日本東洋医学会(漢方)所属。
全員が失明するわけではないけれど
編集部
糖尿病になると失明するといいますが、本当ですか?
根岸先生
知っておきたいのは、失明は糖尿病の合併症の一つである「糖尿病網膜症」が進行して起こるということです。
合併症には、細い血管の合併症と太い血管の合併症があり、網膜症は細い血管の合併症です。網膜には毛細血管が張り巡らされているのですが、高血糖によって毛細血管が詰まったりして徐々にそれらの血管に障害が出て、視界が狭くなったり視力が低下したりなどの症状が進行し、やがて失明してしまうのです。
編集部
突然失明するのではなく、網膜症が進行することが原因なのですね。それを聞いて少し安心しましたが、失明する人は多いのですか?
根岸先生
だからこそ、糖尿病は早期に見つけ、きちんと医師のもとで治療していただきたいのです。そうすれば、合併症を起こさずに普通の生活を送ることもできます。
自覚症状がないから恐い
編集部
網膜症は自分で気づくような症状はありますか?
根岸先生
年齢に関係なく、網膜症の初期では自覚症状はありません。自分ではわからないんですよ。だから怖い。
編集部
気づかないうちに進行するんですね
根岸先生
そうです。糖尿病網膜症は初期の単純網膜症から、増殖前網膜症、増殖網膜症へと進んでいきます。増殖前網膜症まで進むと眼がかすむ、視力が低下するなどの症状が出ることがありますが、単純網膜症はもちろん、増殖前網膜症でも自覚症状がないケースがあります。
編集部
自覚症状が出てくるのは増殖前網膜症または増殖網膜症まで進行した段階ということですね。どのような症状なのでしょうか?
根岸先生
また、糖尿病黄斑浮腫というまったく別の病気があるのですが、これは3つの網膜症のどれにでも合併して起こります。この場合は、失明することは少ないのですが、視力が低下してしまいます。
ですから、糖尿病にかかったらまったく網膜症がない人でも、半年から1年に一度は眼科を受診するよう患者さんには指導しています。すでに網膜症のある人は、眼科医の指示どおりに受診してもらっています。
編集部
眼科ではどのような治療をするのですか?
根岸先生
レーザーでもろくなった血管を焼く網膜光凝固術や、さらに進行した場合には目の中の出血を取り除く硝子体手術という高度な手術をすることもあります。眼科の領域については眼科医が治療しますが、一度視力が低下すると、手術をしてもなかなか視力は回復しないように思います。
多様な合併症。その怖さを知ることも予防のひとつ
編集部
ところで、糖尿病の細い血管の合併症には網膜症以外にどのようなものがあるでしょう?
根岸先生
糖尿病腎症が進行するとたんぱく質や塩分、カリウムを制限をしなければいけなくなります。さらに病態が進むと透析も必要になるので、腎臓内科医と連携して治療することになります。透析とは、糖尿病の進行によって血液のろ過機能を失った慢性腎不全の状態において、人工的に血液中の余分な水分やミネラル、老廃物を浄化する治療法です。
なお糖尿病腎症で透析導入になった方は感染症や心不全になりやすいため、他の疾患で透析になった方より予後が悪く、5年後生きている確率(5年生存率)が47.9%という報告もあります。
編集部
細い血管の合併症は他にもありますか?
根岸先生
なお明らかな自律神経障害を有する方は無痛性心筋梗塞や致死性不整脈が原因で3年後に生きている確率(3年生存率)は47%という報告もあります。
私は、足のしびれの治療には漢方薬を使うことが多く、処方した患者さんの4割くらいで効果が得られています。ある漢方の臨床研究では、7割近くの患者さんに有効であったという報告もあります。
編集部
糖尿病の合併症はずいぶん多様なのですね
根岸先生
なお、網膜症や腎症を合併している人は、無症状でも一定の割合で心臓の血管が狭くなっている(無症候性心筋虚血)という報告もあるので、私は合併症の進んでいる患者さんには心血管の精査もするように心がけています。
編集部
これだけ医学が進歩しても糖尿病の合併症はなくならないんですね
根岸先生
確かにそうなんですが、失明するほど糖尿病が進行するというケースは、恐らく、昔よりはずいぶん減っていると思います。薬が格段に進歩しましたからね。
編集部
そんなに違いますか
根岸先生
さらにインスリンの効きをよくするメトホルミン大量投与の解禁、体重減少作用が強いとされるSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の強力版であるGLP-1受容体作動薬(こちらは注射薬)の発売により、糖尿病治療は格段に進歩しました。
私が医師1年目の頃には、「絶対に入院しないと駄目だろう」という患者さんが数多くいましたが、今は糖尿病だけでの入院はかなり減っていると思います。とはいえ、油断してはいけません。糖尿病の治療は専門医に管理してもらいながら、あきらめずに、一生付き合っていく気持ちで続けることが大切です。
編集部まとめ
根岸先生のお話を伺い、糖尿病の合併症は糖尿病そのものより治療も大変で、命に関わることもあることがわかりました。
健診では大丈夫だったという人も、糖尿病なんて関係ないと思っている人も、肥満には十分気をつけたほうがいいようです。おなかに脂肪がたまる内臓脂肪型肥満の人は、腕やおしりなどに脂肪がつく皮下脂肪型肥満の人に比べると糖尿病を発症することが多いのだそうです。
医院情報
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アクセス | バス停「天沼小学校」から徒歩2分 |
診療科目 | 内科、糖尿病内科 |