糖尿病網膜症の硝子体注射ってどんな治療? その効果について医師に聞く
糖尿病の三大合併症のひとつ、糖尿病網膜症。そのまま放置すると失明することもある、危険な疾患です。これに対する治療として、よく用いられるのが硝子体注射。一体、どのような効果が期待できるのでしょうか。注射によって失明を防ぐことはできるのでしょうか。川崎・多摩アイクリニックの高木先生に教えてもらいました。
監修医師:
高木 均(川崎・多摩アイクリニック 院長)
1987年京都大学医学部卒業、1991年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。網膜剥離、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症、黄斑円孔、黄斑前膜など網膜硝子体疾患を専門に30年以上の経験、国内のオピニオンリーダーの一人。特に糖尿病網膜症の診療・研究に関しては聖地といわれるハーバード大学医学部附属ジョスリン糖尿病センター留学などを経て、内科系学会においても要職を担っている。最先端の薬物治療から手術まで最善の治療を提供する。聖マリアンナ医科大学眼科学 元主任教授。日本眼科学会評議員、日本糖尿病眼学会理事、日本網膜硝子体学会理事、日本糖尿病合併症学会評議員、日本糖尿病学会学術評議員。
進行すると失明のリスクもある「糖尿病網膜症」
編集部
糖尿病網膜症とはなんですか?
高木先生
糖尿病網膜症とは、糖尿病腎症、糖尿病神経障害と並んで糖尿病の三大合併症のひとつです。目の中にある網膜がダメージを受け、視力が低下したり、ひどい場合は失明したりする病気です。
編集部
なぜ、糖尿病になると網膜が傷つくのですか?
高木先生
そもそも糖尿病は、血液に含まれる糖が増えることで起こります。血液に多くの糖が含まれると、血液はいわば砂糖水のような状態になり、詰まりやすくなります。また、血管側にも異常が起こり、炎症や詰まりの原因となります。こうしたトラブルは目に限らず、全身のあらゆる部位で起こりますが、特に目は細い血管が無数に走っているため、詰まったり炎症を起こしたりしやすいのです。その結果、網膜が傷つくことになります。
編集部
糖尿病網膜症になると、どうなるのですか?
高木先生
糖尿病網膜症は、病気の進行具合によって三段階にわけられます。まず初期の「単純糖尿病網膜症」では、血管の壁に炎症が起こったり、血管の壁にこぶができたりして、出血や浮腫が起こります。
編集部
進行するとどうなるのですか?
高木先生
中期は「前増殖糖尿病網膜症」といわれ、この頃になると出血が増え、血液の流れが悪くなります。特に網膜の中心部が侵されると視力が落ちることが多くなります。さらに症状が進んで末期になると「増殖糖尿病網膜症」といわれ、血流が不足しているために異常な血管が作られるようになります。この血管は非常にもろく、出血しやすいという特性があり、かすみ目や視力低下の原因になります。また、血管の周辺に増殖膜という組織が作られ、これが網膜を引っ張ることで、網膜剥離を引き起こし、ひどい場合には失明に至ることもあります。
糖尿病網膜症の治療「硝子体注射」とは?
編集部
糖尿病網膜症は、どのようにして治療するのですか?
高木先生
初期であれば、血糖コントロールなど生活習慣を改善するだけでも治癒を見込むことができます。しかし中期以降になると、主にレーザーによる治療が必要になります。場合によっては目の手術をして、出血した血液を吸い出したり、剥がれた網膜を治したりすることもあります。
編集部
ほかにはどのような治療があるのですか?
高木先生
比較的新しく開発された治療で、「硝子体注射」という方法があります。当初は「加齢黄斑変性」という病気に対して行われていた治療法ですが、近年では糖尿病に対しても行われるようになりました。
編集部
硝子体注射とはなんですか?
高木先生
硝子体とは、眼球の内部を満たしているゼリー状の物質のこと。一般に「目玉」と聞いて思い浮かべるボールのようなものの中身と考えれば良いでしょう。硝子体注射は文字通り、この硝子体に注射をすることで、網膜で血液成分が漏れ出すことを抑え、網膜の浮腫や新生血管を抑制する治療法です。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
高木先生
糖尿病網膜症になると、網膜の血の巡りが悪くなり、血管から血液や水分が漏れ出ることがあります。すると、網膜の中心にある「黄斑」という部分にむくみが発生したり、新しく異常な血管が作られ、網膜に重篤な障害が出たりすることがあります。これらの症状は、VEGF(血管内皮増殖因子)の働きによるもの。そのため、硝子体注射ではこのVEGFの働きを抑え、血管から血液が漏れ出るのを防いだり、新生血管が作られるのを抑制したりします。
必要に応じてレーザー治療などとの併用も
編集部
硝子体注射はどのように行われるのですか?
高木先生
まず、点眼麻酔をしてから、目の周りの皮膚を消毒します。続いて目の中をヨード液でよく洗浄し、器具を使って目を開けます。それから、黒目から数mm離れた白目に薬剤を注射します。
編集部
誰でも治療を受けることができるのですか?
高木先生
基本的には、網膜の中心に浮腫ができる「黄斑浮腫」と、異常な血管が作られたことによって起こる「血管新生緑内障」が対象になり、これらの治療を行う際には保険が適用になります。
編集部
硝子体注射だけで、糖尿病網膜症を完治させることができるのですか?
高木先生
症状によりますが、黄斑浮腫に対して、硝子体注射の効果があまり見られない場合には、網膜レーザー光凝固の治療を併用して行うことがあります。
編集部
硝子体注射を受けるにあたって、注意点はありますか?
高木先生
基本的に、注射による行動の制限はあまりありません。ただし、注射当日は直接目に水が入らないようにする、アルコールや運動を控える、デスクワークなどは翌日以降から行う、などの注意が必要です。
編集部
注射による副作用はありませんか?
高木先生
場合によっては、注射を打ったときに感染症にかかったり、薬剤に対してアレルギー反応を示したりすることがあります。もし、注射をしたあとに目が赤くなったり、痛くなったりしたら、早めに治療を受けたクリニックに相談しましょう。異常がなくても、必ず1週間以内に診察を受け、治療後の様子を確認してもらいましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
高木先生
硝子体注射は、眼球に注射を打つだけという非常に手軽な治療法です。その反面、定期的に注射を打つ必要があり、症状にもよりますが、だいたい年4〜5回注射をすることになります。もっと本気で治療をしようと思ったら、最初の一年目で10回、二年目で5回、三年目で3回など、定期的に注射を打つ必要があります。保険適用とはいえ、1回の治療が数万円かかるため、患者さんにかかる負担は大きくなってしまいがちです。とはいえ、VEGFの働きを抑制する治療法は、この硝子体注射しかないのが現状です。レーザーやステロイド薬を併用することで、硝子体注射の回数を減らすこともできますから、長期的な治療計画については、かかりつけの医師と相談すると良いでしょう。
編集部まとめ
糖尿病網膜症は、日本人が失明する理由として、常にトップを争うもの。そのため、糖尿病網膜症のリスクがある人は、できるだけ初期のうちに対処しておくことが必要です。万が一症状が進んでしまった場合には、硝子体注射も含めて治療計画をしっかり立てることが重要です。一般的に、網膜症の治療は長期戦になりますから、信頼できる医師の指示に従い、納得した治療計画を立てることが大切です。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |