眼瞼下垂は埋没法で治療できる?治療の流れやダウンタイムについて解説!
まぶたが重く垂れ下がり、いつも眠そうに見える人を見たことはありませんか? この症状は「眼瞼下垂(がんけんかすい)」と呼ばれるものである可能性があります。眼瞼下垂はものの見え方に影響し、日常生活に支障をきたす場合があるため、その際は手術や埋没法と呼ばれる方法で治療します。埋没法は通常のメスを使った手術と違い、皮膚を切らない治療法です。見え方を修正することも目的の一つですが、目をより本人の希望に合ったかたちにデザインするためにも用いられます。この記事では眼瞼下垂に対する埋没法について、詳しく解説していきます。
監修医師:
柳 靖雄(医師)
目次 -INDEX-
眼瞼下垂とは
「眼瞼」はまぶたを指し、「下垂」は垂れ下がる状態を意味します。眼瞼下垂とは挙筋腱膜やミュラー筋といったまぶたを上げる筋肉が緩んでしまい、結果としてまぶたが下がってしまう状態です。要は、通常自然に開け閉めしているまぶたが上げにくくなる状態をいいます。
私たちは目の中にある瞳孔(黒目の中央部分)でものを見ていますが、眼瞼下垂になるとまぶたで瞳孔が隠され、見えにくさが生じます。
眼瞼下垂の種類
眼瞼下垂は大きく分けて、先天性と後天性のものの2つに分類されます。以下、それぞれの特徴について詳しく説明します。
・先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)
まぶたを上げる筋肉が先天的に弱く、まぶたが下がっている状態を先天性眼瞼下垂といいます。筋肉が非常に薄いのが特徴です。子どもの約8%がこの先天性眼瞼下垂であるとも言われています。
・後天性眼瞼下垂(こうてんせいがんけんかすい)
生まれつき症状がある先天性眼瞼下垂とは違い、こちらは環境や病気が原因で発症します。さらに後天性眼瞼下垂は、いくつかのタイプに分けられます。
・腱膜性眼瞼下垂(けんまくせいがんけんかすい)
挙筋腱膜やミュラー筋といったまぶたを上げる筋肉が正常に機能しなくなるため、まぶたが下がってしまう状態を腱膜性眼瞼下垂といいます。
・皮膚弛緩性眼瞼下垂(ひふしかんせいがんけんかすい)、眼瞼皮膚弛緩症(がんけんひふしかんしょう)
挙筋腱膜やミュラー筋は正常であるものの、まぶたの皮膚がたるみ、目の上からかぶさってくることで視界の上方が見えづらくなる状態です。
これは正確には「眼瞼皮膚弛緩症」とよばれ、まぶた自体が下がっている眼瞼下垂とは全く異なります。しかし実際のところ、「腱膜性眼瞼下垂」と「眼瞼皮膚弛緩症」が混在していることが非常に多いです。
・その他
その他、脳腫瘍、脳動脈瘤、顔面神経麻痺、重症筋無力症など、多くの疾患が眼瞼下垂を引き起こす可能性があります。
眼瞼下垂の原因
眼瞼下垂の主な原因は、加齢やコンタクトレンズ装用者であること、生活習慣病などが挙げられます。以下では、それぞれの詳しい説明をします。
・加齢
加齢は眼瞼下垂の最も一般的な原因です。加齢とともにまぶたを上げる筋肉の働きが弱まることが原因とされるケースが多いです。毎年1歳年を取るごとに、眼瞼下垂になる確率が約5%上昇するとされています。
40歳以上の人の眼瞼下垂の発生率は約13.5%、70歳以上になると、約3分の1の人が眼瞼下垂になるといわれています。
・コンタクトレンズ装用者
コンタクトレンズを使用する人は、まぶたに触れる機会が多く、眼瞼下垂になりやすいです。具体的には、ソフトコンタクトレンズ使用者で23〜57%、ハードコンタクトレンズ使用者で26〜69%が眼瞼下垂になるとされています。
・生活習慣病
高血圧や糖尿病など、動脈硬化を引き起こす生活習慣病によって眼瞼下垂が引き起こされることもあると言われています。
自分が眼瞼下垂か確認する方法
眼瞼下垂の一般的な症状としては、視界が制限される、まぶたが下がって目が開けにくい、おでこのシワが増える(おでこの筋肉を緊張させてまぶたを持ち上げる必要があるため)などがあります。これにより、頭痛や肩こりが慢性的に起こる場合もあります。
その他にも、以下のような症状が見られることが多いです。
自分が眼瞼下垂かどうかを確認する方法の一つに、まぶたの皮膚を細い針金やアイプチで持ち上げてみることがあります。もしまぶたの縦幅が不十分であれば、それは眼瞼下垂である可能性が高いです。黒目の中心からまぶたの縁までの距離が2~4cmであれば軽度の眼瞼下垂、2cm未満であれば重度の眼瞼下垂とされています。
一方、まぶたの縦幅が大きい場合は「眼瞼皮膚弛緩症」という別の疾患の可能性があります。
眼瞼下垂は埋没法で治療できる?
眼瞼下垂の治療には、メスを使ってまぶたを切開する方法と、皮膚を切開しない埋没法があります。眼瞼下垂の症状の進行度によっては、埋没法で治療ができます。
埋没法とは
埋没法は上まぶたの裏側から特殊な糸を用いて、上眼瞼挙筋群(挙筋腱膜とミュラー筋)を引き締め、目の開き具合を改善する手術方法です。
この方法は傷跡が残らず、腫れや内出血も少ないため、ダウンタイムが短いという利点があります。
埋没法の種類
埋没法には、「瞼板法(けんばんほう)」と「挙筋法(きょきんほう)」の2つの手法があります。
瞼板法と挙筋法の主な違いは、糸をかける位置です。瞼板の組織は挙筋より硬いため、それだけ力を入れて針を挿入する必要があり、痛みを感じやすいです。また糸をしっかりと結ぶ必要があるため瞼板が歪みやすく、ラインが無理やり食い込んだり不自然になるリスクがあります。
不自然になった場合はやり直すことができますが、瞼板にしっかり結んでいる糸は取れづらくまぶたに大きな負荷がかかります。それが原因で腫れてしまう可能性もあります。
一方、挙筋は組織が柔らかいため、糸の取り扱いにより繊細さや高い技術が求められます。しかし美しいラインができますし、必要な場合には糸を容易に取り除くことができるため、修正が簡単だというメリットがあります。
30年以上埋没法を行うとあるクリニックでは、仕上がりの綺麗さや患者への負担の小ささから、挙筋法をおすすめしているようです。
埋没法で眼瞼下垂が治療可能なケース
埋没法は、眼瞼下垂の症状が軽度から中程度の場合に適用可能です。ちなみに軽度とは、上まぶたが瞳孔より上の位置にある状態、中度とは上まぶたが瞳孔の中心より上の位置にある場合をいいます。
眼瞼下垂を埋没法で治療する流れ
ここでは、眼瞼下垂を埋没法で治療する際の流れを紹介します。
眼瞼下垂を埋没法で治療する流れ
1. カウンセリング
まずは医師とのカウンセリングから始まります。仕上がり後の希望を伝え、医師と一緒に術後のイメージを確認します。この際、施術に関して不安や不明点があれば、きちんと聞いておきましょう。
2. デザイン
瞳孔の上の方の皮膚に、まぶたを持ち上げたい位置をマーキングします。
3. 麻酔
施術前に、まぶたの裏側から局所麻酔を施します。 痛みや手術中の不安を軽減するため、希望によっては静脈麻酔を行い眠ったままで手術を受ける選択肢もあります。
4. 縫縮・埋没
非常に細く特殊なナイロン糸を使い、縫い縮めていきます。瞼板側に結膜、ミュラー筋をたぐり寄せることによって下垂症状を解消します。
糸は、まぶたを持ち上げる強度に応じて1~3箇所で留めます。医師と患者が目の開き具合を確認し、バランスが良ければ糸を埋没して終了です。デザインから終了まで、20~30分程度かかります。
5.治療直後
手術後5~10分ほど冷やし、軟膏薬を塗って帰宅します。入院はありません。
6.手術後翌日~3日後
翌日から洗顔、シャワーは可能です。1~2日後に抜糸をし、アイメイクは抜糸してから数日後に可能になります。
眼瞼下垂を埋没法で治療するメリット
埋没法はメスを使用しないため、皮膚を切る恐れや傷跡が残るリスクがありません。治療はまぶたの開き易さを改善するだけでなく、見た目もデザイン可能です。また、腫れや内出血が少なく、ダウンタイムも短いというメリットがあります。
眼瞼下垂を埋没法で治療するデメリット
埋没法では重度の眼瞼下垂の改善は難しく、重度の眼瞼下垂の症状の改善は期待できないことがデメリットです。また保険が適用されないため、費用が高額になります。具体的な金額はクリニックごとに異なりますが、とあるクリニックでは20万円ほどと提示していました。
また、糸のみの対処ではまぶたの開き具合を調節することができないため、効果が不十分となる可能性もあります。一時的には改善しても術後早期に糸が緩み、元に戻ってしまうケースもあり得ます。
一方で、手術と同様5~10年間は維持できると言うクリニックもあります。その時のまぶたの状態や治療方法にもよって変わってくる可能性があるため、クリニック選びは納得いくまで慎重に行いましょう。
眼瞼下垂を埋没法で手術した後のダウンタイム
手術の1~2日後から洗顔、シャワーが可能です。また上まぶた以外のメイクは手術後翌日から可能になります。アイメイクは、抜糸してから3日後くらいからできるようになります。
手術後の腫れには個人差がありますが、1週間程度で引いてくることがほとんどです。
埋没法以外で眼瞼下垂を治療する方法
ここでは、埋没法以外で眼瞼下垂を治療する方法について解説します。
埋没法以外で眼瞼下垂を治療する方法
眼瞼下垂には内服薬や注射は効きにくいため、埋没法以外で治療する場合は手術が必要です。なかでも機能的に支障がある(ものが見えづらい、まぶたが開けづらいなど)場合は保険が適用されます。
手術法は大きく3つに分けられます。まぶたを上げるための筋肉は挙筋腱膜(きょきんけんまく)とミュラー筋で、それらにどうアプローチするかによって選ぶ術式が変わってきます。
・ミュラー筋タッキング
ミュラー筋タッキングでは、ミュラー筋を挙筋腱膜との間だけ剥離して結膜を付けます。そしてその状態で瞼板に縫い付ける術式をいいます。
手術時間は両眼で約30分と、他の術式と比べて短いことがメリットです。デメリットは左右差が出やすく、再発の可能性が高いことです。
・挙筋腱膜前転術
挙筋腱膜を周囲の組織から完全に剥離し、瞼板に縫い付ける術式が挙筋腱膜前転術です。
手術時間は両眼で約50~60分。再発が少なく、術後の腫れも少ないというメリットがあります。ただし、重症の眼瞼下垂には対応できません。
・挙筋短縮術
挙筋短縮術では、挙筋腱膜とミュラー筋の両方を周囲から剥離し、瞼板に縫い付けます。
手術時間は両眼で約60分で、重症の眼瞼下垂でも対応可能。デメリットは他の術式と比べて、術後の腫れが強くなる傾向があることです。
眼瞼下垂の予防方法
眼瞼下垂を予防するため、日常生活を送るうえでできる予防方法を紹介します。
・まぶたの負担を減らす
眼瞼下垂を予防するには、まぶたへの負担を最小限に抑えることが重要です。まぶたをこすらない、アイプチの使用頻度を減らす、アイメイクを薄くする、低刺激のクレンジングを選ぶなど。できるだけまぶたに負担をかけずに過ごすことが大切です。
・まぶた周りの筋力を鍛える
眼瞼下垂の予防には、眼輪筋や上眼瞼挙筋といったまぶたを支える筋肉を鍛えることが有効だと言われています。短いエクササイズを日常に取り入れることで、ゆるみにくいまぶたの維持が期待できます。
まぶた周りの筋力を鍛えるエクササイズ
このエクササイズを1日3セット、スキマ時間に行ってみましょう。眼瞼下垂の予防につながります。
まとめ
眼瞼下垂は誰にでも起こりうる症状です。「ものを見ること」は日常生活に直結している機能なので、ここに支障をきたすと生活のクオリティが著しく落ちるリスクがあります。また眼瞼下垂はまぶたが下がるという症状から、見た目にも影響を及ぼします。
眼瞼下垂の症状には程度があり、軽度から中度であれば皮膚を切開しないで済む「埋没法」が適用できます。これはメスを使わないので皮膚に傷跡が残らず、腫れや内出血といった負荷が小さくて済むのでダウンタイムが短いというメリットもあります。
まぶたや見え方に悩んでいる方は、一度医師に相談してみることをおすすめします。
参考文献