ホルモン治療は更年期障害に効果的?HRTに使用される薬のタイプ・メリット・デメリットについて解説
のぼせ・ほてり・頭痛・肌荒れ・イライラ・うつ状態など、心身ともにさまざまな症状が出る更年期障害。
更年期障害は大きな個人差があり、ほとんど感じない人もいれば、ときには寝込んでしまう程の重い症状が出る人もいます。
「更年期障害だから仕方ない」とついつい諦めて我慢しがちな更年期障害に、ホルモン補充療法(HRT)が効果的だと知っていますか?
今回は更年期障害にホルモン補充療法(HRT)がどのように効果があるのか、メリット・デメリットも合わせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
監修医師:
山下 真理子(医師)
目次 -INDEX-
ホルモン治療(ホルモン補充療法・HRT)は更年期障害に効果的?
年齢を重ねるにつれて、女性特有のホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が低下して閉経を迎えますが、その前後合わせて10年間を更年期と呼びます。
エストロゲンは生殖器官への作用のほか、脳や血管など身体中にさまざまな影響を与えています。脳内のエストロゲンが減少することによって自律神経失調症が引き起こされ、更年期症状を招くのです。
ホルモン補充療法(HRT)は、年齢とともに減る女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)を補充することで、更年期のさまざまな症状を改善するための治療法です。
更年期症状は身体的症状と精神的症状に大別され、ホットフラッシュというのぼせ・ほてりをはじめ、頭痛・肩こり・肌荒れ・イライラ・うつ状態などがあります。
この症状が日常生活に支障をきたす程に悪化した状態を更年期障害と呼び、ホルモン療法などの治療が必要です。
基本的な治療はエストロゲンの投与ですが、子宮のある女性に対しては子宮体がんを予防するためにプロゲステロン(黄体ホルモン)が併用されます。
患者さんの状態に合わせて、単体または混合で、この2種類のホルモンを補充して治療することが一般的なホルモン補充療法(HRT)です。
ホルモン補充療法(HRT)は、年齢とともに減っていくホルモンの補充を目的に行われる治療法ですので、更年期障害に対して効果的といえるでしょう。
また、エストロゲンの補充だけでなく、細胞の分化・成長に関わるホルモンや体内リズムを整えるためのホルモンなどを総合的に補充する治療法もあります。
どのような治療法が自分に合っているのか検討してみるとよいでしょう。
ホルモン治療(ホルモン補充療法・HRT)に使用される薬のタイプ
ホルモン補充療法(HRT)に使用される薬は、エストロゲン単体のもの、エストロゲンとプロゲステロンを混合したものが一般的です。
主に飲み薬・貼り薬・塗り薬といったタイプがあり、ホルモンの状態・症状・生活スタイルなどの状況に合った適切な方法を選びます。
では具体的な内容を特徴とともにみていきましょう。
飲み薬
飲み薬の特徴は、腸管から吸収され、肝臓を通過した後に効果がみられることです。
一般的にはエストロゲンとプロゲステロンの2種類を併用するのが基本ですが、子宮筋腫・子宮内膜症・子宮体がんなどで子宮を摘出している方にはエストロゲンのみを投与します。
個々の状態によって1日の投与量・服用回数は変わり、服用方法は周期的(休薬期間がある)と連続的とがあります。
例えば2種類のホルモン剤を併用する場合は、「エストロゲンは連続的に服用するがプロゲステロンは周期的に服用する」などの違いがあるので、注意が必要です。
効果的に行うためにも、各ホルモン薬の決められた服用方法を守っていただくことが大切です。
貼り薬
貼り薬は、皮膚から直接的にその成分が吸収されて効果が出てきます。
飲み薬の場合は、胃腸・肝臓への影響が心配される場合もありますが、貼り薬の場合は飲み薬と比べるとその影響が少ないです。
これも飲み薬と同じく、一般的にはエストロゲン単体タイプとプロゲステロン併用タイプとがあり、使用方法も周期的と連続的とがあります。
交換回数は、2日に1回や1週間に2回などさまざまなタイプがありますので、医師の指示を守って使用することが大切です。
皮膚に直接貼るお薬ですので、かゆみ・皮膚かぶれがないかなどにも注意していただき、異常がみられた場合はすぐに相談してください。
塗り薬
塗り薬の特徴は、成分が皮膚から直接吸収されて効果が見込めることです。
使用するホルモン薬は飲み薬・貼り薬と同じく、主にエストロゲン・プロゲステロンの2つの種類の単体または併用が一般的で、プッシュタイプ・一包タイプなどがあります。
塗る際には、各ホルモン薬の用法・用量を守ることが大切です。
また、直接皮膚に塗りますので、かゆみ・かぶれなどの皮膚トラブルにも注意が必要です。
ホルモン治療(ホルモン補充療法・HRT)のメリット
ホルモン補充療法(HRT)の薬のタイプを紹介しました。実際に治療法としてホルモンを取り入れる場合には、どのような効果があるのでしょうか。
主に、更年期症状の改善・骨粗しょう症の予防・美肌効果・動脈硬化の予防などのさまざまなメリットがありますので、一つ一つ詳しくみていきましょう。
のぼせやほてりなどの更年期症状が改善する
更年期のエストロゲンやプロゲステロンなどの減少は、ホットフラッシュといわれるのぼせ・ほてり・発汗をはじめ、不眠症や不安、肌荒れなどの更年期障害の原因となります。
一般的なホルモン補充療法(HRT)では、これら2つのホルモンを補充して更年期の症状の改善を図ります。
8週間程度の服薬で症状が改善されますが、急に服薬を中止すると症状がぶり返すことがあるので注意しましょう。
骨粗しょう症の予防効果がある
骨粗しょう症は、骨を壊す破骨細胞の働きが骨を作る骨芽細胞の働きを上回ることで骨密度が減少して引き起こされる病気で、閉経前後の更年期になってくると多くみられます。
エストロゲンには骨細胞の働きのバランスを調節する機能があります。
エストロゲンが徐々に減っていく更年期、特に閉経後はこのバランスが崩れてしまうので、骨粗しょう症が起きやすくなるのです。
したがって、エストロゲンの補充を目的としたホルモン補充療法(HRT)を行うことは、骨粗しょう症の予防に効果が期待できます。
肌を若々しく保つ効果がある
エストロゲンには、皮膚のコラーゲン量を増やしたり、乾燥を防いだりする作用があります。
これらの作用によって肌の潤い・弾力が保たれてしわも減り、肌を若々しく保つことができるのです。
しかし、更年期になるとこのエストロゲンの減少によって肌の老化が目立ってきます。
ホルモン補充療法(HRT)によって不足したエストロゲンを補充することで、肌質の改善・老化防止など、肌を若々しく保つ効果が期待できます。
動脈硬化の予防効果がある
ホルモン補充療法(HRT)は、動脈硬化の予防にも大きな役割を果たしています。
女性ホルモンのエストロゲンは、動脈硬化の原因となる血中悪玉コレステロールの増加を抑え、善玉コレステロールを増加させて動脈硬化を防ぐ働きを持っています。
閉経後の女性に脳血管障害・心疾患などが増加するのは、体内のエストロゲンが年齢とともに減ってしまい、動脈硬化を起こしやすい体になってしまっているからです。
したがって、減ってしまったエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)は動脈硬化の予防に効果があるといえます。
ホルモン治療(ホルモン補充療法・HRT)のデメリット
ホルモン補充療法(HRT)のメリットを紹介しましたが、もちろんデメリットも併せ持っています。
治療がスムーズに進むように、副作用・使用対象・そのほかのリスクなどのデメリットも事前にしっかり把握しておくことが大切です。
それでは詳しくみていきましょう。
胸や下腹部の張り・吐き気などの副作用がある
ホルモン補充療法(HRT)の一般的な副作用には以下のようなものがあります。
- 胸・下腹部の張り
- 吐き気
- 頭痛
- 肌荒れ・乾燥
- 乳房の痛み・腫れ
- 不正出血
治療開始後すぐに起こりやすい症状ですが、しばらく続けていくと軽くなってくる場合が多いです。
副作用の出方には個人差がありますので、副作用が起こらない場合もあれば、大変強い副作用が起こる場合もあります。
副作用症状の状態によっては、医師の判断のもとで投与方法・用量などの変更を行うこともありますので、医師に相談して確認することが大切です。
体調が整うことで太る場合がある
ホルモン補充療法が直接的に体重増加を招くという事実はありません。しかし、ホルモン補充療法によって太ったという話はよく耳にします。
これは、更年期症状が改善され体調が整ったことで食欲が増したためと考えられます。更年期は代謝が大きく変化する時期です。
ホルモン補充療法の有無に関わらず、食事と運動の習慣を見直し、健康的な体を目指しましょう。
誰でも行えるわけではない
ホルモン補充療法は、一般的に更年期の女性に適した治療法とされています。
ただし、一人ひとりの健康状態やリスク因子などに応じて、治療できるかどうかの医師の判断が分かれる治療法でもあります。
例えば、妊娠や乳がんの既往歴・高血圧・糖尿病・肥満などがある場合はホルモン補充療法(HRT)が行えないこともあるのです。
こうした既往・持病がある方が治療を受けると悪化を招いたり、新たな病気を引き起こしたりする場合があるので、ホルモン補充療法(HRT)は行えません。
医師と相談し、適切な方法を選択することが大切です。
長期間行うと乳がんのリスクがある
ホルモン補充療法(HRT)の副作用、特に乳がんのリスクを高めてしまうかもと心配な方もいるでしょう。
しかし、「ホルモン補充療法ガイドライン(2017年度版)」には、「乳がんリスクに及ぼすHRTの影響は小さい」という記載があります。
ただしこのリスクは、ホルモン治療のタイプ・期間・年齢・健康状態などによって異なります。
ホルモン補充療法(HRT)を行うときに、すでに小さな乳がんが発生していた場合は、ホルモンが補充されることでがんを大きくさせてしまう可能性があるのです。
そのためガイドラインでは、治療を始める前・治療中は1〜2年ごと・治療後5年までは1〜2年ごとの乳がん検査を推奨しています。
一方で、5年以上の治療継続にあたっては乳がんのリスクが高まるとの見解もあります。自己判断で通院や検査を中止せず、継続的に体調を管理することが大切です。
ホルモン治療(ホルモン補充療法・HRT)の開始時期
ホルモン補充療法(HRT)の開始時期は、個々の希望や健康状況によって異なります。
一般的に、更年期症状の影響がひどい時期(45〜55歳の間)、または閉経後できるだけ早めに行うことが推奨されています。
閉経後10年以上経過している場合や60歳以上で治療を開始する場合は注意しましょう。血栓症や認知機能低下のリスクが高まる可能性があります。
ただし効果的に治療を受けるために大切なことは、医師と相談しながらお一人お一人の健康状況やリスク因子などを考慮したうえで、適切なタイミングと方法を決定することです。
編集部まとめ
女性のホルモンバランスが変化することによって引き起こされる更年期障害は、人によっては体の不調だけでなく、心にまで影響を及ぼしてしまう辛いものです。
「更年期障害だから仕方がない」と我慢せず、医師に相談してみましょう。ホルモン補充療法(HRT)で辛い更年期障害を克服できるかもしれません。
また、ホルモン補充療法は将来の骨粗しょう症や動脈硬化のリスクを低減させるほか、認知症への効果も期待されています。
症状や目的に合った治療ができるよう、医師と相談のうえ、治療に臨みましょう。服薬期間・服用方法・副作用などのリスクもしっかりと確認しておくとよいです。
更年期に変化する体とうまく付き合い、心も身体も健康的に過ごしていただければ幸いです。
参考文献