もの忘れはストレスが関係してる?ストレスによる記憶障害や治療方法
もの忘れとストレスは関係しているのでしょうか。本記事では、もの忘れとストレスの関係について以下の点を中心にご紹介します。
・もの忘れと記憶障害の違い
・ストレスによる記憶障害
・解離性健忘症の治療方法
もの忘れとストレスの関係について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
もの忘れと記憶障害の違い
もの忘れと記憶障害は、いずれも記憶に関連する問題であるものの、性質と影響が大きく異なります。もの忘れは、日常生活において、昨晩のメニューや買うべきものなどを一時的に思い出せない現象で、自覚があります。それに対して、自分では気づかないことが多いことが記憶障害の特徴です。過去の記憶が消えてしまい、知っている筈の情報も思い出せなくなります。
その例として、もの忘れでは財布を忘れたことに自覚があるのに対し、記憶障害では財布を持っていくべきだということ自体を忘れ、盗まれたという被害妄想も起きることがあります。疑わしい症状がある場合は、医師に相談することが重要です。
ストレスによる記憶障害
ここからはストレスが記憶に与える影響について説明します。
解離性健忘症
特定の外傷やストレスによって、起こる記憶障害のことを指します。記憶は数十年前まで失われることがあります。しばしば心的外傷や強いストレスを感じた出来事に関連しています。限局性健忘や選択的健忘、記憶の失い方によっていくつかの種類に分けられます。
健忘症
健忘症は前向性健忘と逆行性健忘があります。前向性健忘は新たな情報の記憶が困難となる現象で、逆行性健忘は過去の出来事や情報を思い出せなくなる状態を指します。症状の軽重により、数分から数時間、さらには長い期間の記憶を失うこともあります。特定の出来事や体験に関連する記憶が失われることが多く、ショックな出来事からの防衛をするため起こることがあります。
記憶障害の種類
記憶障害は何種類あるのでしょうか。以下で紹介します。
短期記憶障害
脳の海馬機能が低下し、短期間で起きた新しい情報や出来事を記憶する能力が減退する現象です。日常の短期間の出来事を思い出せなくなる状態になります。具体的な症状としては、現在の場所がわからない、5分前の話を忘れる、今の日付や季節がわからない、物を置いた場所を忘れる、同じことを何度も繰り返すなどが挙げられます。これらの症状は日常生活におけるコミュニケーションや行動に支障をもたらすことがあり、本人だけでなく、周囲の人々にも影響を与えることがあります。
長期記憶障害
人生の大切な瞬間や長い間保持していた記憶が突然失われる現象があります。結婚の思い出、職場での出来事、家族との時間など、かつては鮮明に思い出せた記憶が、蘇らなくなることがあります。
ヒントを受け取っても記憶が戻らないときは注意が必要です。例えば、一般的に知られている「祝日の名前」や「自分が通った学校の名前」「子供の消息」「自分の職業」などの情報も忘れてしまうことがあります。さらに進行すると、家族の名前や顔まで忘れてしまうことがあるとされています。
長期記憶障害は特定の部分の記憶だけでなく、記憶が失われることもあるため、その影響は極めて深刻です。この症状は認知症の進行とも関連があり、個人の生活に深刻な影響を及ぼすことが多いとされています。
エピソード記憶障害
特定の体験やエピソードを個人が正確に記憶できない状態を示します。例えば「昔の職場での仕事内容」や「最近の食事の内容」など、特定のエピソードに関する記憶が不明確になることが特徴です。
エピソード記憶障害では、断片的な記憶は存在する場合があるものの、それが全体的にどのようにつながっているのか、具体的な内容は何だったのかを理解するのが難しくなります。エピソード記憶障害は、認知症の進行や脳の損傷、強い心的ストレスなどの影響で発症することが知られています。
意味の記憶障害
言葉の意味や概念を記憶する能力が損なわれる障害です。この状態では、言葉の名称を思い出せなくなることがあり、対話の中で「あれ」や「それ」のような指示詞が使われることが増えていきます。具体的な名詞や専門用語を思い出せず、その結果、相手に正確な内容を伝えることが困難になります。
意味の記憶障害は、人とのコミュニケーションを深く影響させるため、社会生活における障壁となることが多いとされています。原因としては、脳の損傷や認知症、精神的なストレスなどが挙げられます。意味の記憶障害を抱える人々は、言葉だけでなく、物事の意味や関連性を理解するのも困難になることがあるため、適切なサポートと理解が必要とされます。
解離性健忘症の治療方法について
前述したストレスによる記憶障害である解離性健忘症はどのように治療するのでしょうか。以下で解説します。
記憶想起法
解離性健忘症の治療において、記憶想起法は重要な役割を果たします。この方法は、失われた記憶を取り戻すために用いられ、特に急いで記憶を回復させる必要がある場合に効果が期待できます。記憶想起法には、催眠や薬物を利用した面接などがあります。
催眠は、患者さんの心の壁を突き崩し、記憶の空白期間に関連する不安や苦痛を軽減するのに役立ちます。薬物を利用した面接では、鎮静薬を使用して患者さんの心の壁を迂回し、記憶を取り戻す助けとなります。
しかし、間違った記憶を作り出す可能性があるため、医師は患者さんに対して再生された記憶が正確でない可能性があることを明確に伝える必要があります。また、極度の感情の乱れを引き起こす可能性もあるため、患者さんと信頼を築くことが重要です。
精神療法
解離性健忘症は、特定のトラウマや強いストレスに起因することが多く、精神療法はその根本的な原因に対処する手段となります。治療のプロセスでは、患者さんとの信頼関係の構築が重要で、患者さんが自分の感情や記憶に向き合えるよう支援します。専門の心理療法士や医師が、患者さんの過去の経験や葛藤を探り、それらと向き合う方法を一緒に探求します。
このプロセスを通じて、患者さんは自己認識を深め、自己同一性の連続性を取り戻す助けとなります。
支持的な環境
解離性健忘症は、トラウマや強いストレスに関連する記憶の喪失として現れるため、患者さんが自分の心の中に向き合えるような環境が求められます。治療の過程で、患者さんがトラウマやストレスの原因となった状況から離れることで、記憶が徐々に回復することがあるため、安定的で支援的な環境が重要です。また、患者さんとの信頼関係の構築も不可欠で、心の壁を突き破り、失った過去を再構築する助けとなります。
ストレスの対処法
もの忘れの原因の1つであるストレスに対処するにはどうすればいいでしょうか。解説します。
ストレスを発散する
ストレスが積み重なったら、自分が興味を持っている活動や楽しい趣味に没頭することで、心のリラックスが促され、ストレスの解消になるとされています。特に体を動かしたり、感情を爆発させるのがいいとされています。スポーツする、感動的な映画を見て思いきり泣く、趣味に没頭する(絵画・読書・旅行など)といった方法が挙げられます。
これらの活動は、すでに溜まっているストレスを発散する助けとなります。ストレスの発散は、記憶障害の予防や改善にも寄与するため、日常生活において意識して取り組むことが推奨されます。
ストレスの原因を探る
ストレスの原因を探るプロセスは、個人がストレスを感じる具体的な要因を特定し、それに対処するための戦略を立てるのに役立ちます。
例えば、仕事がストレスの原因である場合、具体的にどの部分がストレスを引き起こしているのかを考えることが求められます。業務が過多である場合、業務時間外に仕事のことを忘れるよう努め、同僚に仕事を振るなどの対策が考えられます。
このように、ストレスの原因を正確に把握することで、個人に合った具体的な対処法を見つけられるのです。ストレスの原因を探るプロセスは、自己認識と自己管理の向上にも寄与し、全体的な健康と幸福感の向上につながります。
もの忘れの症状はうつ病でも出るのか
うつ病は、もの忘れの症状を引き起こすことがあります。うつ病におけるもの忘れは、新たな事柄を覚える能力、すなわち記銘力の低下として現れます。
例として、新聞を読んでも内容が頭に入らなかったり、仕事の打ち合わせ内容が記憶に残らなかったりすることが挙げられます。一方で、認知症では既知の事柄の記憶そのものが失われることが特徴です。
うつ病の原因は多岐にわたりますが、解離性健忘症などと同様にストレスが大きな誘因となることが多いとされています。ストレスを感じると、集中力が低下し、もの忘れを起こすことがあります。特に、真面目で責任感が強い人は、ストレスを感じやすく、うつ病になるリスクが高いとされています。
うつ病によるもの忘れは、認知症と混同されることがあるため、正確な診断と適切な治療が必要です。うつ病の治療は、薬物療法とカウンセリングが基本で、個人の状態に合わせた対応が求められます。
まとめ
ここまでもの忘れとストレスの関係についてお伝えしてきました。もの忘れとストレスの関係についての要点をまとめると以下の通りです。
・もの忘れは、日常生活において一時的にものを思い出せない現象で、自覚があり、記憶障害は、過去の体験や出来事の記憶が抜け落ち、当然知っているべき情報も思い出せない状態で、自覚がないことが違いとして挙げられる
・ストレスによる記憶障害は、解離性健忘症と健忘症が主に挙げられる
・解離性健忘症の治療方法は、記憶想起法や精神療法、支持的な環境を用意することが挙げられる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。