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ハブ毒をアルツハイマー治療に活用? 東北大学らの研究によって明らかに

 更新日:2023/09/16
ハブ毒をアルツハイマー治療に活用できる可能性

東北大学らの研究グループは、猛毒を持つことで知られるハブが持つ毒に、アルツハイマー病の原因とされる物質を分解する成分があることを発見しました。このニュースについて甲斐沼先生にお話を伺います。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

研究グループが発表した内容とは?

東北大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回紹介する研究内容は、東北大学らの研究グループが実施したもので2023年8月12日に科学雑誌のToxinsに掲載されています。アルツハイマー病の原因となるアミロイドβ前駆体タンパク質を分解して代謝するプロテアーゼには、ヒトのADAMs(a disintegrin and metalloproteinase)ファミリータンパク質が知られています。研究グループは、ハブ毒の主要成分であるSVMPs(蛇毒メタロプロテアーゼ)というタンパク質分解酵素が、ヒトに存在するADAMsと共通の祖先に由来していることから、アミロイドβの生成に与える影響を解析しました。まず、ハブ毒の成分からSVMPsを精製し、アミロイドβを分泌する細胞の培養液に添加したところ、無添加と比べて培地中のアミロイドβの量が10%まで大幅に減少したことがわかりました。さらに、試験管内でSVMPsと合成アミロイドβペプチドを混合したところ、特定の二カ所を直接切断することが明らかとなりました。これは、ADAMsがアミロイドβ前駆体タンパク質を切断する部位と同じ部位であり、アミロイドβの分解によって無毒なペプチドp3を生成していることを示しています。さらにSVMPsがアミロイドβ線維を切断できるかどうか調べたところ、SVMPsはアミロイドβ線維を生成させる反応中に添加することで、アミロイドβ線維の量を大幅に低下させたことがわかりました。

発表内容への受け止めは?

東北大学らの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

認知機能が低下するアルツハイマー病は「アミロイドβ」などのタンパク質が脳に蓄積されて、神経細胞を傷つけることで引き起こされると考えられています。現在、日本でアルツハイマー病の治療薬として承認されているのは、神経伝達の異常に働きかけるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤NMDA-受容体拮抗薬であり、これらの薬剤は認知症に関連する行動異常の改善を目指すという観点で症状緩和を期待する目的で投与される薬です。昨今においては、認知症を根本的に治療することを目指す薬剤として、抗アミロイドβ抗体を用いた薬(アデュカヌマブ、レカネマブ)が米国で承認されていますが、その有効性や安全性、副作用や高額な治療費に関してはいまだに議論が残っている状況です。今回、東北大学らのチームが発表した研究成果によって、アミロイドβ分解プロテアーゼを用いた認知症に対する治療法の開発が進むことが期待されます。また本実験結果に基づいて、将来的に新たな認知症の治療手段となり得る医薬品開発につながる可能性が十分あると考えられます。

最近注目されているアルツハイマー薬は?

今回の研究内容は新たなアルツハイマー薬の可能性を示唆したものでしたが、最近注目されているアルツハイマー薬について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

最近では製薬大手のエーザイがアメリカのバイオジェンと共同開発したアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」について、厚生労働省の専門家部会が、使用を認めることを了承したことが大きな話題になりましたね。近く厚生労働省が正式に承認する見通しで、早ければ年内にも患者に使われる可能性があります。薬の価格は、すでに承認されているアメリカでは1人あたり平均で年間2万6500ドル、日本円に換算しておよそ385万円と設定されていますが、日本での価格はまだ決まっていません。

まとめ

東北大学らの研究グループは、ハブ毒にアルツハイマー病の原因とされる物質を分解する成分があることを発見しました。新たな治療薬につながる可能性がある発見は、大きな注目を集めそうです。

この記事の監修医師