目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. ドクターインタビュー
  3. 「血糖値が高い」と言われたら……今日からできる糖尿病予防と生活改善【富山県富山市 いき内科クリニック】

「血糖値が高い」と言われたら……今日からできる糖尿病予防と生活改善【富山県富山市 いき内科クリニック】

 公開日:2025/12/22

「血糖値が高い」と言われたら……今日からできる糖尿病予防と生活改善
「血糖値が高い」と言われたら……今日からできる糖尿病予防と生活改善

糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がなく、気づいたときには神経障害や網膜症、腎臓の障害など、合併症が進んでいるケースも少なくない疾患だ。特に日本人は、欧米人と比べてインスリン分泌能力が生まれつき低いとされ、体重の増加や運動不足、ストレスの蓄積といった生活習慣の変化が、血糖コントロールに影響しやすい特徴がある。そのため、肥満体型に限らず、やせ型の人でも糖尿病になることがある。
富山市のいき内科クリニックは、糖尿病を専門に扱う糖尿病内科を設け、地域に根差した医療を提供している。今回は同クリニックの井城一弘院長に、糖尿病の基礎知識から合併症、治療の進歩、そして同クリニックで行われている診療体制について話を伺った。

Doctor’s Profile
井城 一弘(いき かずひろ)
いき内科クリニック 院長

金沢大学医学部卒業、同大学大学院修了後、石川県立中央病院 消化器内科や金沢大学附属病院 第二内科、氷見市民病院 内科、新湊市民病院 内科などで勤務の後、1999年に「いき内科クリニック」を開院。
日本内科学会認定内科医、総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本医師会認定産業医。

目次 -INDEX-

日本人は糖尿病になりやすい? 体質と生活習慣から考える

まず、基本的な事柄からお伺いします。糖尿病とはどのような病気なのでしょうか?

糖尿病は、膵臓にあるβ細胞が作るホルモン「インスリン」の働きが低下し、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高い状態になる病気です。
インスリンは血糖を下げる唯一のホルモンであり、その量が不足したり、身体がうまく反応しなくなったりすると、血糖値の調整が難しくなっていきます。
特に日本人は、生まれつきインスリンの分泌能力が低いとされ、欧米人と比べて約半分程度ともいわれています。
そのため、体重が少し増えたり、運動量が落ちたり、ストレスや加齢が重なるだけでも、β細胞の負担が増え、血糖値が上がりやすくなるのが特徴です。つまり糖尿病は、「急に起こる病気」ではなく、生活習慣や体質の影響が積み重なることで、じわじわと進行していく病気といえます。

日本人は糖尿病になりやすい? 体質と生活習慣から考える

糖尿病は男性に多いイメージがありますが、実際はどうなのでしょう? また、何歳くらいから増えていきますか?

男女差はそれほど大きくありませんが、やや男性に多い印象があります。背景として、仕事上のストレスを抱えやすいことや、生活リズムの乱れが関係している可能性があります。
発症年齢としては、中年期、特に40歳以降から増えてきます。若い頃は日常生活の中で自然と体を動かす機会が多いのですが、40歳前後になると、現場仕事から管理職に変わり、デスクワークが中心になる方も多いですよね。運動量が減り、体重が増え、インスリンの効きが悪くなることで、糖尿病が顕在化していくことが多い印象です。

糖尿病には1型と2型があると聞きます。違いは何でしょう?

おっしゃるとおり、大きく分けて「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。
日本人の糖尿病の9割以上を占めるのが2型糖尿病です。日本人特有のインスリン分泌能力の弱さに加え、過食・運動不足・内臓脂肪の増加などが重なり、インスリンの効きが悪くなることで、じわじわと血糖が上がっていきます。生活習慣病としての糖尿病であり、長い年月をかけて進行するのが特徴です。
2型糖尿病は、初期~中期であれば食事・運動療法と内服薬でコントロールできる場合が多いですが、発症から30~40年と長く経過すると、最終的にはインスリン分泌が枯渇し、インスリン注射が必要になることもあります。
一方、1型糖尿病はウイルス感染などをきっかけに、膵臓β細胞が壊されてしまうことで起こるタイプです。子どもの頃や若い世代で発症することもあり、短期間でインスリン分泌が大きく低下するため、発症早期からインスリン注射が必要になります。

日本人は糖尿病になりやすい? 体質と生活習慣から考える

糖尿病は遺伝しますか? 家族に糖尿病がいると、やはり発症しやすいのでしょうか?

親が糖尿病だからといって、子どもも必ず糖尿病になるわけではありません。ただ体質は似てくるので、糖尿病になりやすい傾向はあるでしょうね。インスリンが出にくい体質などは遺伝しやすいため、家族歴のない人と比べると、やはり発症しやすいといえます。
ただし、家族に糖尿病がいても、運動習慣や食生活に気をつけていれば、発症を防げることも少なくありません。「自分はなりやすい体質かもしれない」と自覚し、こまめに健診を受けたり、日頃から食事内容や体重に気を配ったりすることが大切です。

自覚症状のないところから始まる、糖尿病の進行と合併症

自覚症状のないところから始まる、糖尿病の進行と合併症

糖尿病の初期に自覚症状はありますか?

実は、糖尿病の初期にはほとんど症状がありません。血糖値がかなり高くならない限り、自分では気づきにくいのが糖尿病の怖いところです。
血糖が非常に高い状態になると、喉が渇いて水をよく飲む、尿の回数が増える、体重が減ってくる、疲れやすくなるといった症状が現れることがあります。
ただし、血糖値が150~250mg/dL程度の段階では、こうした症状が出ないことも多く、300~400mg/dLといったかなりの高血糖になって、ようやく異変に気づく方もいます。その一方で、症状がない間にも、合併症は静かに進行していきます。

糖尿病が進行すると、どのような合併症が起こるのでしょうか?

糖尿病の代表的な合併症として、「神経」「眼」「腎臓」の3つがあります。私たちは覚えやすいように「しめじ」と呼んでいます。
「し」は糖尿病神経障害のことで、高血糖状態が5年ほど続くと、足先のしびれなど、末梢神経の障害が出てくることがあります。じっとしているとジリジリするような感覚があり、進行すると痛みを伴ったり、感覚が鈍くなったりします。
次に「め」は糖尿病網膜症のことで、網膜の血管が傷つき、眼底に出血が起こる病気です。網膜の中心部(黄斑)でなければ視力低下を自覚しにくく、かなり進行してから見えにくさを感じることも少なくありません。進行するとレーザー治療や手術が必要になることもあり、定期的な眼科受診が欠かせません。
そして「じ」は、糖尿病腎臓病(糖尿病腎症を含む腎臓の障害)です。尿中にアルブミンというタンパク質が出てくるところから始まり、徐々に腎臓のろ過機能が落ちていきます。近年は、糖尿病治療薬の進歩により、尿タンパクが目立たないまま腎機能だけが低下していくケースも見られ、「糖尿病性腎臓病」としてまとめて考えられるようになってきました。
腎機能の低下が進めば、最終的には人工透析が必要になることもあります。現在、透析導入の原因疾患として、糖尿病性腎臓病は最も多いもののひとつです。

この3つが代表例ということは、ほかにも合併症はあるということですね?

そうですね。糖尿病は高血圧や脂質異常症とともに、全身の「動脈硬化」を進める要因にもなっています。
脳の血管が細くなれば「脳梗塞」、心臓の血管であれば「狭心症・心筋梗塞」、足の血管であれば、血流障害から潰瘍や壊疽(えそ)を起こし、場合によっては足の切断に至ることもあります。
特に神経障害があると痛みや違和感があまりなく、傷や感染に気づくのが遅れがちです。そこに動脈硬化による血流障害が重なると、傷が治りにくく、重症化してしまうリスクが高まります。

糖尿病になると、日常生活にはどのような支障が出てきますか?

網膜症が進行すれば「見えにくさ」が出てきますし、心筋梗塞や心不全を起こせば、少し動いただけで息切れが強くなるなど、活動量そのものが制限されます。脳梗塞を起こした場合には、片麻痺などの後遺症により、日常生活に大きな支障が出ることもあります。
また、食事面での制限も生じます。かつては、とにかく総カロリーを減らす食事療法が主流で、空腹感を伴いやすく、継続が難しい側面がありました。
現在は、総カロリーを大きく減らすのではなく、ご飯やパンなどの炭水化物を少し減らし、その分、肉・魚・野菜などを増やすといった、「炭水化物を控えめにする食事」が主流になりつつあります。肉や魚、葉物野菜などは血糖を急激に上げにくいため、工夫次第で「ひもじい思いをせずに」血糖コントロールを行うことができるようになってきました。

糖尿病は「一度なると治らない」と聞きますが、本当に治らない病気なのでしょうか?

「インスリン分泌能力がほとんど枯渇してしまった状態」や、「合併症がかなり進んだ状態」まで進行してしまうと、元の状態に完全に戻すのは難しいといえます。
一方で、肥満が関与している2型糖尿病の人の場合、体重をしっかり落とすことで、血糖が正常化する可能性もあります。
内臓脂肪が減るとインスリンの効きがよくなり、少ないインスリンでも血糖をコントロールしやすくなるためです。
ただし、もともとやせ型で、インスリン分泌能力自体が大きく低下しているような人では、これ以上体重を落とすことが逆に危険な場合もあり、生活習慣の改善だけでのコントロールが難しくなります。そのような場合、適切な薬物療法と組み合わせながら、合併症を防ぎつつ長く付き合っていくことが大切です。
以前は糖尿病の方と健常な方では寿命に10年ほど差があると言われていましたが、治療薬やインスリン療法の進歩により、現在では寿命の差はほとんどなくなりつつあります。
「きちんと治療と自己管理を続ければ、糖尿病でも長く元気に暮らせる時代になっている」と考えてよいでしょう。

自覚症状のないところから始まる、糖尿病の進行と合併症

糖尿病を防ぐために知っておきたい、今日から始める予防・セルフケア

糖尿病を防ぐために知っておきたい、今日から始める予防・セルフケア

健康診断で「糖尿病の疑いがあります」と言われたら、何科を受診すればよいですか?

基本的には「内科」ですが、なかでも糖尿病や内分泌を専門とする医師がいるクリニックがおすすめです。
糖尿病専門医がいる医療機関では、その人のインスリン分泌能力、インスリン抵抗性の程度、体型や合併症の有無などを踏まえて、「どの薬を優先して使うか」「食事・運動療法をどう組み立てるか」といった微妙なさじ加減を行うことができます。

先生のクリニックで行っている糖尿病治療の流れについて教えてください

まずは現在の状態を正確に把握することから始めます。血糖値やHbA1c(過去1~2カ月の血糖値の平均)、体格、生活習慣、既往歴などを総合的に確認し、糖尿病がどの段階にあるのかを評価します。
次に、糖尿病のタイプや体質に合わせて治療方針を考えます。たとえば、肥満傾向のある方は「インスリン抵抗性」が強い傾向があり、脂肪量が減ることで血糖値が改善しやすいため、運動療法や食事改善を優先しつつ、必要に応じて抵抗性を改善する薬を使います。
痩せ型の糖尿病の方は、遺伝的にインスリン分泌が低いケースが多く、分泌を助ける薬やインスリン治療が必要になる場合があります。
治療は、薬だけで進めるものではありません。運動の習慣化や、炭水化物量の調整など、日常生活の工夫と並行しながら進めることが大切です。
また糖尿病では、血糖値以外にも神経障害・網膜症・腎臓障害・動脈硬化といった全身への合併症が起こり得るため、必要に応じて眼科や腎機能検査、心血管系の検査なども併せて行っていきます。
治療の進み方は人によって異なりますが、共通して言えるのは、続けられる形で治療していくことが最も大事だということです。

糖尿病にならないために、今日からできる予防やセルフケアはありますか?

まず意識したいのは、炭水化物の摂り方と、身体の動かし方です。極端な食事制限ではなく、ご飯・パン・麺を少し減らし、代わりに野菜やタンパク質を増やすというバランス調整だけでも、血糖の上がり方は大きく変わります。
運動についても、「毎日1時間運動する」といったような大きな目標より、「仕事の合間に立つ」「ひとつ遠いトイレに行く」「10回だけスクワットする」など、細切れの身体活動の積み重ねが血糖改善に役立ちます。
睡眠とストレスケアも重要です。ストレスや長時間の緊張状態、睡眠不足は血糖値を上げやすく、治療効果を弱めてしまいます。
糖尿病予防や改善は、「努力する」よりも暮らし方を微調整することに近いものです。できることからゆっくりでかまいません。

糖尿病を防ぐために知っておきたい、今日から始める予防・セルフケア

もしも糖尿病になってしまったとき、治療において特に大切なことを教えてください

いちばん大事なのは「継続して通っていただくこと」です。
生活習慣病は、今すぐ痛い・苦しいといった症状がないことも多く、仕事が忙しい方ほど通院が負担になりやすいのですが、通院が途切れてしまうと血糖コントロールも一気に悪くなってしまいます。
そのため当院では、忙しい方には少し長めの処方を行ったり、状況に応じてオンライン診療を取り入れたりと、生活に無理が出ない治療スタイルを一緒に考えるようにしています。
また、持続血糖測定器(フリースタイルリブレなど)を使ってご自身の血糖変動を「見える化」していただき、自己管理のコツをつかんでもらうことも進めています。
糖尿病は、一時的に治して終わりの病気ではなく、長く付き合っていく病気です。医師としては患者さんの負担をできるだけ減らしながら、続けられる治療を一緒にデザインしていきたいと考えています。

最後に、Medical DOCのサイトを訪れる読者の方にメッセージをお願いします

糖尿病の「なり始め」の段階から、合併症が出てしまった後の段階まで、当クリニックはどのステージでも安全に、責任を持って診ていけるクリニックでありたいと思っています。
糖尿病から神経障害・網膜症・腎臓病、さらには心筋梗塞などの循環器疾患へとつながっていく流れを、なるべく食い止めたいという気持ちで日々診療しています。
健康診断で血糖やHbA1cを指摘された方、家族歴があって不安な方、生活や仕事の事情でなかなか受診に踏み出せない方も、まずは一度相談していただければと思います。

編集部まとめ

糖尿病は初期症状がほとんどありませんが、進行すると神経障害や腎臓・血管のトラブルなど、全身に影響が及ぶ可能性があります。
日本人は体質的に糖尿病になりやすいといわれていますが、今は治療方法が多様化し、適切に管理できれば日常生活や寿命に大きな差は出にくい時代になってきているそうです。「放置しない」、そして「無理なく続けられる形で向き合う」ことが大切というお話でした。健康診断で血糖値が気になった方や生活習慣に不安がある方は、早めに医療機関へ相談するようにしましょう。

いき内科クリニック

医院名

いき内科クリニック

診療内容

糖尿病内科 一般内科 循環器内科 など

所在地

富山県富山市呉羽町6302-8

アクセス

あいの風とやま鉄道線「呉羽」駅より徒歩13分

この記事の監修医師