白内障手術と眼内レンズ。適切な選択のために必要なこと【岡山市北区一宮 熊代眼科医院】


年齢を重ねれば誰もが発症するという「白内障」。60歳を過ぎたあたりから見えづらさを感じ始め、眼科を訪ねる人が増えてくるという。手術をすれば改善できる病気だが、多くの人が悩むのは、「眼内レンズをどうするべきか」ということ。選択によっては術後の生活に大きな影響を与えるため、実は重要なポイントとなる。今回は眼内レンズの違いや特徴のほか、何を基準に選べばよいかなどについて、熊代眼科医院の熊代俊院長にお話を伺った。
熊代 俊
熊代眼科医院 院長
2007年埼玉医科大学医学部卒業。祖母の代から続く眼科の院長に2023年就任。それまでの約13年、主に東邦大学医療センターで手術の経験を積む。専門は眼科の中でも手術が難しいといわれる網膜硝子体で、網膜硝子体疾患や白内障の難症例をはじめ、黄斑疾患など手術全般の高い技術を糧に、「眼のホームドクター」として地域医療に力を注ぐ。日本眼科学会所属。
白内障のサインを見逃さず、早期の治療開始を
白内障とはどのような病気でしょうか?
眼の中でレンズの働きをしている水晶体が白く濁る病気のことです。水晶体は外からの光を屈折させ、網膜に画像を映しだすためのピント調節を担っています。この水晶体が濁ると光がうまく届かなくなり、視界が霧に覆われたような症状を発症します。

原因や初期症状にはどんなことが挙げられますか?
白内障の原因で最も多いのは加齢によるものです。特殊な例として先天性の白内障もありますが、一般的には60歳を過ぎた頃から徐々に進行し、ゆくゆくはほとんどの人が発症するといわれており、早いと40代から症状が出始める方もいます。
初期症状は、「何となく目の調子が悪い」「少し見えにくい」といった程度で、生活に支障がないため、気づきにくいことが白内障の特徴です。
症状が進んでいくとどうなりますか?
最も多いのが、目のかすみ(霧視)による視力の低下です。あとは、光が乱反射を起こすため、天気のよい日などに眩しさを強く感じる場合があります。
特に夜間はそれが敏感となり、対向車のライトをいつも以上にギラギラ感じるなど、運転時の変化を訴える人が多くいます。
加齢のほかに、白内障を疑うポイントはありますか?
たとえば近視なら眼鏡をかければ視力が出ますが、それでも改善できない場合は白内障を疑います。よく年配の方が、「免許の更新ができなかった」とか、「眼鏡店で眼鏡がつくれなかった」と来院されますが、それは濁った水晶体の上に眼鏡をかけても視力が上がらないためです。
あとは、糖尿病やアトピーなどの疾患を持つ方、ステロイドを長期間服用している方は白内障の進行を早めるので、定期的に眼科を受診しておくと安心です。
白内障を放置しているとどうなるのでしょうか?
視力は徐々に低下し、少しずつですが、かすみが広がるので視界はぼやけてきます。進行の程度は個人によって異なりますが、自覚症状が出る頃には症状がかなり進行している場合があります。目に見えて白濁が進んでいる、また水晶体の膨化などが見られれば、緊急手術ということもあり得ます。

白内障は治る病気ですか?
濁った水晶体を元に戻すことはできません。視力の回復を見込むためには手術が必要となります。
また、糖尿病やアトピー性疾患など関連する病気だけでなく、白内障と同様に初期症状のまったくない緑内障も考えられるため、視力の低下や視野に違和感がある場合は、早めに検査を行うことが大切です。
自身に合った選択で、アクティブな生活を取り戻す

それぞれのレンズの違いや見え方について教えてください
それぞれのメリット、デメリットはどんなところにありますか?
単焦点の一番のメリットは、保険適用内で手術が受けられることです。デメリットは、遠方・中間・近方のどこか一つにしか焦点を合わせることができないので、たとえば遠方に合わせた場合は手元を見るために老眼鏡が必須となります。
一方、多焦点のメリットは広い範囲に焦点が合わせられるため、ほとんどの生活場面で眼鏡なしで過ごすことが可能になります。ただし、選定医療となるため、高額な眼内レンズ代が患者さんの自己負担となり、それをデメリットと考える方もいらっしゃいますね。
必ずしも生活で眼鏡が不要になる、というわけではないのですね?
レンズの選択で困った際に、重視するべきことはありますか?
一番は、自身の生活スタイルに合わせることです。車を頻繁に運転される方、読書が好きな方など、それぞれの生活や仕事状況を総合的に判断しましょう。
注意が必要な方は、それまで近視だった方が、より遠くが見える眼内レンズを入れることです。なぜなら、裸眼で当たり前に見えていた近方が見えなくなるからです。眼鏡を外せば近くを見ることに支障はなかったのに、眼内レンズを入れることで経験したことのない見えづらさ(裸眼で化粧ができなくなるなど)を感じることがあります。
その逆も同じで、スタイルの変化がストレスにつながる場合もあります。
見え方の違いなど、事前に確認できるのでしょうか?
視力検査で使う眼鏡等を用い、眼内レンズを入れた際に近い状態を体験してもらいます。それを踏まえて眼内レンズの度数を決めたり、見えにくい距離を補助するために生活でどのくらい眼鏡が必要になってくるかを想定します。
そのほかに、レンズ選びで特筆すべき点はありますか?
保険適用となる単焦点眼内レンズの中には、「焦点深度拡張型レンズ」というのがあります。眼鏡からできるだけ開放されたい方、費用を抑えたい方におすすめです。ただし、多焦点眼内レンズに起こるハローグレア現象といわれる光の見え方に少し不具合があり、特に夜間運転が多い方には向いていません。
ちなみに、ハローグレア現象は焦点深度拡張型レンズでは少ないとされるとされていますが、発症程度には個人差があります。

20年先も、クリアな視界で暮らしていたい

手術には入院が必要ですか?
本院もそうですけれど、多くは日帰り手術(※)に対応しています。同日に両眼を行うことも可能ですが、感染リスクなどを考慮して片眼ずつ行うことをおすすめしています。
手術時間は、点眼の麻酔のみでだいたい10分以内と短く、術後にチクチク、ゴロゴロといった多少の違和感はあるものの、手術中に大きな痛みを感じることは少ないです。
(※)術前の検査、術後の経過観察が必要です
貴院で手術を行う際、特に大切にされていること、こだわりは何でしょうか?
まずはカウンセリングをしっかり行います。現在の症状や眼の精密検査はもちろん、それぞれの生活スタイル、手術を受けるとなると視力をどう回復させたいのか、先ほどの眼内レンズの選択肢も踏まえて、何がその方のQOLを上げるのかしっかり検討・相談します。

やはり見えるということはQOL向上にとって大事ですね
見えるようになるためにどういう方法をとるのか、求めているものは人それぞれです。大切なのは、眼科医がその気持ちを聞き、汲み取り、知識のもと説明を行い選択肢を与えてあげること。
何を話したらよいのかわからない方もいらっしゃいますが、本院では医師2名体制で診察を行っているので、一人ひとりの患者さんに十分な時間を取れることも安心材料につながると考えています。
最後に、白内障手術を受けようと思っている方にメッセージをお願いします
白内障手術の技術は格段に上がっています。とはいえ、症状が進行する前に治療を始めたほうが、後のリスクを最小限にできます。そのためには、まずは眼科を受診してもらい、定期的な検査を受けてください。
手術となった場合も、眼内レンズが豊富に揃っているので選択肢に幅が広がり、より希望に沿った治療が受けられますし、回復が早いことでも患者さんの負担を最小限に抑えられます。
年齢を重ねたからとあきらめるのではなく、その先を快適に過ごすための方法を前向きに考えてもらいたいし、そのお手伝いをしたいと思っています。
編集部まとめ
ただ症状を治療するためではなく、アクティブな生活を取り戻すと考えたとき、白内障手術には大きなメリットがあると考えられます。眼内レンズの選び方では、質や料金だけでなく、生活の快適さを重視することがポイントだということもわかりました。
ただ、レンズは安易に交換できるものではないので、十分な事前の検討が欠かせません。まずは相談だけでも眼科を受診し、自分に合っている方法を聞いてみるのもいいでしょう。そこでも大切なのは、何に不便を感じているか、何が改善されると自身のQOLが上がるのか生活スタイルをきちんと見直すことです。丁寧なカウンセリングと確かな技術を持つ熊代眼科医院に、まずは一度相談してみてはいかがでしょうか。





