「子どもの歯並び」が悪くなる原因はご存じですか? 悪化を防ぐ対策・予防法も歯科医が解説!

子どもの歯並びは遺伝だけでなく、食べ方や舌の使い方、姿勢など日々の何気ない習慣が大きく関係しています。将来的な矯正治療を避けるためにも、早めの気づきと対策が重要です。子どもの歯並びにおける早期の予防アプローチの重要性について、「むらかみ歯科クリニック」の村上先生に解説していただきました。

監修歯科医師:
村上 明延(むらかみ歯科クリニック)
目次 -INDEX-
授乳や離乳食にも影響? 子どもの歯並びが悪くなる原因

編集部
子どもの歯並びが悪くなる原因を教えてください。
村上先生
「自分や家族の歯並びが悪いと子どももそうなるのでは?」と不安に思う保護者も多いと思いますが、歯並びが悪くなる原因は遺伝だけとは限りません。たしかに、遺伝的に歯並びが悪くなることもありますが、それ以上に重要なのは生まれた後の生活習慣です。どのようなものをどう食べて、どのように生活してきたかということも、じつは歯並びに大きく関係しています。
編集部
どのような生活習慣の問題が、子どもの歯並びに影響するのでしょうか?
村上先生
問題点として、「前歯が使えない・しっかり噛めないこと」と「舌の位置が悪いこと」の2点が挙げられます。さらにこれら2つの問題はその大元をさかのぼると、授乳や離乳食の与え方に要因があると考えられます。
編集部
「前歯が使えない・しっかり噛めない」という問題について、詳しく教えてください。
村上先生
例えば、離乳食を与えるときに、すり潰した食べ物をスプーンですくって口の奥に入れる親御さんも多いと思います。ただ、そうすると赤ちゃんは前歯や唇を使わずにそのまま飲み込む習慣がついてしまいます。本来であれば、スプーンを下唇の上にそっと置いて赤ちゃん自身が上唇ですくいとり、前歯ですり潰してから飲みこむ動作が理想的です。この動きが前歯やその周りの筋肉の発達を促すわけですが、そういう機会が今は減っていて、前歯で噛めない・使えない子どもが増えている印象があります。
編集部
前歯を使わない習慣が続くと、歯並びにどのような影響があるのでしょうか?
村上先生
食べ物を前歯で噛み切れない子どもは、歯ごたえのある食べ物を口の中に入れるということがほとんどありません。なぜなら、口に入れる前に口に入るサイズにカットしなくてはならないからです。口に入れる前に、お箸やスプーンなどを使ってカットできる食材は柔らかい必要があります。おのずと柔らかい食品を好むようになります。その結果、舌や頬、唇などの口周りの筋肉が正常に発達せず、そのことが歯並びに大きく影響してしまいます。歯がきれいに並ぶためには、舌が内側から押し広げる力と、外側から唇や頬の筋肉が引き締める力がバランスよく働くことが非常に重要です。しかし、どちらかの筋力が不足するとそのバランスが崩れ、出っ歯や受け口、過蓋咬合(下の前歯が上の前歯に隠れてしまう嚙み合わせ)といった不正咬合が起こりやすくなります。
編集部
「舌の位置」も歯並びに関係するとのことですが、具体的にどう関係しているのでしょうか?
村上先生
舌は上あごを内側から押し広げる役割があり、食べ物を飲み込むたびに舌が上あごを刺激することで自然と上あごの骨が広がっていきます。しかし、今の子どもは舌を上に持ち上げる筋力が不足しているため、常に舌が下方に落ちている「低位舌」という状態に陥りやすい傾向があります。その結果、上あごの成長が足りず、歯が並ぶスペースが不足したり、下あごだけが成長したりといった問題が生じやすくなっているわけです。
編集部
なぜ、舌の筋力が不足しているのでしょうか?
村上先生
柔らかい食事が多いことで、その筋力が養われないことが理由の1つです。加えて、母乳の与え方も少なからず影響しています。今のお母さんは比較的母乳が出やすいうえに、横抱きで授乳することが多いため、おのずと赤ちゃんも舌を上あごに押しつけて飲む動作が少なくなります。その結果、舌の筋力が育たないのも低位舌になる要因と考えられています。
編集部
育児や食生活の変化が、子どもの口腔発達にも影響しているのですね。
村上先生
現代は柔らかい食べ物が多く、食事も効率よく与えられる環境が整っていますが、その一方で「吸う」「噛む」「飲み込む」といった基本的な動きが省略されがちです。便利さや栄養の豊富さの裏で子どもたちの口腔機能の発達が追いついていない現状が、歯並びの乱れにつながっていることをぜひ知っていただきたいと思います。
子どもの歯並び対策は何歳から始めるべき? 早期アプローチの重要性

編集部
子どもの歯並びにおいて、早期発見・早期アプローチが重要な理由を教えてください。
村上先生
小さいうちであれば、生活習慣を見直したり、口周りの筋肉を鍛えたりすることで歯並びが悪くなるのを未然に防げる可能性が高くなります。幼い時期であれば特別な装置も使わなくてよいですし、お金も時間もかかりません。さらに、自分の筋肉の力で歯並びをキープするため、仮に矯正治療をしたとしても後戻りのリスクが少なくなります。
編集部
早期にアプローチすることで、治療面にもメリットがあるのですね。
村上先生
はい。例えば、筋力のないまま矯正装置で歯を動かしても、装置を外した途端に歯並びが元に戻ろうとしてしまいます。その点、小さい頃から口周りの筋肉をきちんと育てておけば、矯正治療後もきれいな歯並びを維持できますし、矯正治療をしなくても歯並びが改善される可能性があります。
編集部
そのような早期アプローチは、何歳頃から始めるのがよいのでしょうか?
村上先生
理想は「赤ちゃんがお腹にいる時期」から意識していただきたいのですが、遅くともお子さんが3歳になるまでには一度歯科医院に来ていただくことをおすすめしています。「赤ちゃんのうちに歯医者に行くのは早いのでは?」と思われがちですが、歯並びに影響する習慣やクセは、乳児期からすでに始まっています。したがって、できるだけ早い段階でのアプローチが重要です。
歯科医が教える「子どもの歯並びのための予防的アプローチ」

編集部
子どもの歯並び対策として、ご家庭でできる予防的アプローチを教えてください。
村上先生
まずは、「前歯をしっかり使う習慣」を意識していただきたいと思います。前歯を使わずに食べる習慣がついてしまうと、歯ごたえのある食べ物を噛む力も養われないため、結果的に口周りの筋肉も育たなくなります。普段の食事では食べ物の大きさや硬さに気を配り、「前歯でかじる・かぶりつく」というのを意識していただきたいと思います。
編集部
そのほかに、日常生活で気をつけたい点はありますか?
村上先生
「舌の位置」も非常に重要です。先ほどもお話ししたように、舌の位置が悪いと上あごの発達が妨げられ、歯並びや噛み合わせに影響が出てしまいます。したがって、舌を上あごにしっかりとつける習慣をつけることが大切です。さらに、「姿勢」にも注意が必要です。食事中の姿勢が悪いと、左右均等に噛むことができません。食事の際は片方の手にお箸、もう片方の手にお茶碗をきちんと持って、姿勢よく食べることを意識してください。
編集部
姿勢も子どもの歯並び対策において重要なのですね。
村上先生
はい。最近の子どもたちはゲーム機やタブレットで遊ぶことも多いのですが、ずっとうつむいた姿勢で過ごしていると、重力で歯が少しずつ前に倒れてくることがあります。さらに、ゲームに集中しているときは口がポカンと開きがちで、そうした状態が長時間続くと口周りの筋肉の発達にも悪影響を及ぼします。
編集部
それはどういうことですか?
村上先生
乳歯の下にある永久歯は、歯胚という水風船のような中に入った状態で成長していくため、重力の影響をかなり受けます。姿勢が悪いと身体が傾いた方向に永久歯は傾いていきます。ゲームや動画の視聴をタブレットでしている間、前傾姿勢でいると前歯は前突傾向になるでしょう。こうした日常生活のあらゆるシーンが歯並びに影響していることを早い段階から意識して、ご家庭でもその対策に取り組んでいただきたいと思います。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
村上先生
子どもの歯並びを歯医者さんに相談すると「様子を見ましょう」と言われることも少なくありませんが、もっと早い段階から適切に取り組むことで、矯正治療をしなくて済むケースがあります。したがって、もし具体的なアプローチがない場合は、ほかの歯科医に相談してみるのも方法の1つです。食事の与え方や食べ方、舌の位置、姿勢などの問題をしっかりと理解し、真摯に対応してくれる先生をぜひ見つけていただきたいと思います。そうすることで時間的・経済的な負担も減りますし、お子さんの苦痛も少なく済みます。可能であれば、赤ちゃんがお腹にいる時期から信頼できる歯科医を探しておきましょう。
編集部まとめ
子どもの歯並びの問題は遺伝だけでなく、生まれてからの生活習慣が大きく影響していることがわかりました。前歯を使って食べる習慣や舌の正しい位置、姿勢など、日常生活の小さな心がけが、子どもの歯並びを大きく左右します。こうした習慣を早いうちから整えることで、将来的に矯正治療が不要になる可能性もあります。少しでも気になることがあれば「まだ早い」と思わず、信頼できる歯科医に相談してみましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |