人工透析は新たな人生のスタート【大阪市鶴見区 佐々木クリニック】
肝臓とともに「モノ言わぬ臓器」とされる腎臓。腎臓疾患の多くは自覚症状がないまま静かに進行するため、「まだ大丈夫だろう」と楽観してしまう人は多いようだ。また、人工透析をせざるを得ない状況でありながら、頑なに治療を拒む患者さんもいるという。そんな腎臓に疾患を持つ方に対して、大阪市鶴見区の佐々木クリニックでは専門医がさまざまな対応を行っている。通常の人工透析だけでなく、夜間の寝ている間に行うオーバーナイト透析も実施し、日常生活になるべく影響しない時間帯を選ぶことが可能だ。同院の佐々木公一院長に、腎臓疾患や人工透析について話をうかがった。
佐々木 公一(ささき こういち)
佐々木クリニック 院長
大阪府出身。2006年に医師免許を取得し、大阪大学医学部附属病院腎臓内科に入局。地方独立行政法人りんくう総合医療センター腎臓内科、大阪厚生年金病院腎臓内科(現独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院)で勤務。腎臓内科医長を務めた後、2016年に佐々木クリニックの院長に就任。「患者のQOLを高めたい」と語る。
資格は日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会認定専門医、総合内科専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア認定医、身体障害者(腎機能障害)認定医。
人工透析は医療費助成制度が活用できる
はじめに、人工透析についてご説明をお願いします
腎不全を起こすと多量の老廃物(毒素)が体内に蓄積します。この老廃物を除去する治療法が人工透析です。多量の老廃物を放置していると、高度の倦怠感、嘔気、頭痛を生じるだけでなく命を失います。
人工透析を必要としている患者さんは、国内でどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
慢性腎臓病を患っている患者数は約1,300万人といわれており、その中で人工透析が必要な方が約35万人です。毎年5,000人くらいずつ増え続けており、新しく透析を始める患者さんの平均年齢は71歳です。
しかし、今後も無限に増え続けるわけではないでしょう。人口が減ってきていますから、そろそろピークに達するのではないかといわれています。
透析の患者さんは男性と女性、どちらが多いですか?
男性です。人工透析に至る原因となる高血圧や糖尿病は男性に多いからです。男性は女性より濃い味付けの食事を好む傾向があり、その結果塩分摂取量が増えて高血圧になりがちです。体に良くないとわかっていても、外食が多いなどさまざまな要因で食事の管理ができず、糖尿病となる方も多いです。
人工透析には非常にお金がかかるイメージがあります
もしも全額を自己負担するなら、年間で400万円~600万円くらいかかります。しかし、医療費助成制度が用意されているので、居住地域により若干異なりますが、収入に応じて月に1,000円~2万円程度の負担額で済みます。
人工透析は一回にどのくらいの時間がかかりますか?
透析そのものの所要時間は通常4時間です。ただ着替えたり、穿刺や終わって針を抜いた後の止血する時間などもあるので、それらを合わせれば病院で過ごす時間は5時間ほどになります。自宅との往復時間を加えれば、透析治療はどうしても半日がかりというイメージです。
ただし、透析中にじっと寝ている必要はありません。当院には各ベッドにテレビがありますし、DVDプレーヤーの無料貸し出しも行っています。無料Wi-Fiを使い、ゲームや仕事をしている方もいらっしゃいます。みなさん思い思いに過ごされていますよ。
人工透析にはどんな種類がありますか?
基本的には、「血液透析」と「腹膜透析」の2種類です。国内では透析患者さんの約97%が血液透析です。
血液透析について簡単にいうと、血液中に溜まった老廃物を血液から直接取り出す方法です。16ゲージ(1.2mm)の針を腕に2本差して、一方から血液を採り、人工透析機でクリーニングして、もう一方の針から血管へ戻します。1分間に250mlぐらいの速度で循環します。
腹膜透析は、手術でおなかの中に管をいれ、その管から透析液を出し入れします。自宅にいながら自分でできるので、病院が遠くて往復に何時間もかかったり、仕事のため血液透析をする時間が確保できない患者さんなどに行う方法です。
ただし、腹膜透析には腸閉塞などの合併症を起こすリスクがあり、ほとんどの患者さんは5~8年ぐらいで血液透析に切り替えます。
人工透析に至る前に生活習慣病を予防し、腎機能を維持
腎機能が落ちてしまったとき、透析に至らないようにする治療法はありますか?
SGLT2阻害薬(血糖値を下げる飲み薬)が腎炎や糖尿病に効果がありますが、決定的に効く薬はありません。
他に吸着炭を服用する方法があります。これは腸内の有害物質を吸収して、便と一緒に体外へ出すというものです。有害物質の体内への吸収を遅らせるということで、結果的に透析治療の開始も遅らせることができるといわれていますが、大規模な研究では未だに効果を証明できていません。
腎機能を維持するために、患者さんは生活を送る上で何に気をつけたらよいでしょうか?
基本は食事制限です。たんぱく質の摂取を減らせば、腎機能の悪化は緩徐になることが多いです。しかし、たんぱく質の摂取を減らし過ぎると体力が落ちてしまい、他の病に感染しやすくなります。これでは本末転倒です。
腎炎は年齢に関わらず、誰でも発症する可能性があります。家系的にかかりやすい方もいれば、子どもの頃に小学校の健康診断で見つかることもあります。
透析に至る3大原因は腎炎、糖尿病、高血圧です。高血圧、糖尿病は生活習慣病ですので、適切な食事や適度な運動等の日々の過ごし方で改善することが多いです。
腎臓は悪くなっても自覚症状がないだけに、患者さん本人には人工透析を受け入れるかどうかの判断が難しそうですね?
「患者さん次第」と言うと少し語弊がありますが、腎臓の機能がほとんどなくなり、毒素もたまっているにも関わらず、症状がない方も中にはいらっしゃいます。そんな自覚症状がない方に「人工透析しましょう」と言っても、「今じゃなくていいです」と納得してくれません。
でも、自覚症状がない段階のほうが、実は安全に始められるのです。放置していると動脈硬化が加速度的に進行し、突然心筋梗塞になって命が危険にさらされてしまうこともあります。
そんな患者さんに対し、先生はどのように説得されるのでしょうか?
人工透析を嫌がる患者さんには、飛行機の着陸に喩えて説明しています。パイロットはその道のプロですから、少々の嵐の中でも着陸させることができます。しかし、失敗するリスクはゼロではありません。今あなたの状態が、雨がパラパラ降っている感じとすれば、悪化して「豪雨になってから危険を冒して着陸するか、パラパラの雨で視界が利く今のうちに安全な着陸をするか、どちらを選びますか」とお尋ねしています。
中には豪雨のような状態でありながら、「もうちょっと粘りたい」とおっしゃる方はいます。当院の方針としては、最終的には患者さんの意思を尊重するようにしています。
昼間の時間を有効に使えるオーバーナイト透析
貴院ではオーバーナイト透析を行っていると聞きました。これはどういうものでしょうか?
通常の人工透析は4時間ぐらいで終わるのですが、時間をかけてゆっくり行えば体への負担が軽く済みます。しかし、昼間に8~10時間もかけると、その日は何もできなくなってしまいます。「だったら夜の時間を有効に使いましょう」というわけで、夜寝ている間に行うのがオーバーナイト透析です。当院の場合、午後9~10時くらいから始めて、朝の6~7時にはご帰宅いただけます。
ただ、オーバーナイト透析にもデメリットがあります。透析中は血圧が変動します。透析中に血圧を適宜測りながら、その都度水分を抜く速さや量を細かく設定していくわけですが、オーバーナイト透析では血圧測定の度に患者さんを起こしてしまうことになるため、血圧測定がしづらいです。このため病態が不安定な方にはおすすめできません。
それでは最後に、これから診療や人工透析治療を受けようと考えている方、またMedical DOCのサイトを訪問している読者にメッセージをお願いします
人工透析にはどうしてもネガティブなイメージがついて回りますが、透析開始を新たなスタートととらえていただければと思います。いろいろ不安やお悩みはあると思いますが、その都度お気軽にご相談ください。一緒に治療していきましょう。腎臓内科専門医だからこそできる、生活にあった透析をご提案します。