1980年代になって、その優位性が世界的に知られるようになった
インプラント治療。ただ、歯科医師や患者の理解度が不足していた時代には、治療、および治療後のトラブルも。しかし
近年は、そうしたトラブルがほとんど起こらなくなり、かつ、術式(手術の方法)自体も進化しているとのこと。インプラント治療の現在を「今井歯科」理事長・今井恭一郎先生に教えていただいた。
Doctor’s Profile今井 恭一郎
今井歯科 院長
医療法人社団大志会 理事長
1969年、長野県生まれ。1997年、明海大学歯学部を卒業し、信州大学医学部付属病院歯科口腔外科、六実後藤歯科医院に勤務したのち、2006年に「今井歯科」を開院。2008年に医療法人社団大志会を設立する。開院後、現在に至るまで遺伝子分子生物学の研究を行ない、数々の学会発表、論文提出を続けている。日本口腔外科学会、日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会、ICOI国際インプラント学会など、多数の学会に所属し、インプラントに関する著作も多い。
歯を失った場合の治療法として、入れ歯、ブリッジ、インプラントがありますが、今井院長が考えるインプラントの優位性とはどのようなものですか?
よく言われることですが、
インプラントには
「しっかりと噛める」「見た目が自然」「違和感がない」といったメリットがあります。周囲の歯にダメージを与えないので、「残った歯を長持ちさせられる」という点も大きなメリット。あとは、顎の骨に噛んだ刺激が直接伝わるので、
顎の骨がやせにくいということでしょうか。
治療後の手入れについてはいかがですか?
インプラント治療した部分は、歯周病と同じような
「インプラント周囲炎」になりやすいので、
治療後のメンテナンスは必須です。しかし、日常のケアでいえば、
入れ歯やブリッジよりも手入れが楽だといえますね。
入れ歯は取り外して磨かなければなりませんし、ブリッジは、つなぎの部分などをきれいに磨くのが大変ですから。
治療費が高額であることは、患者さんにとってハードルが高いのではないでしょうか。
しっかり噛めることは、体の健康にもつながります。保険適用にならないため治療費が高額になるのは確かですが、その
メリットを考えていただければ、一概に高額だとはいえないと思います。毎日しっかり噛んでおいしく食事できる、いわゆるQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の観点からも、
インプラントは
入れ歯やブリッジより優れています。
「治療に失敗した」という話を聞くことも、患者さんの不安を増しているように思います。
インプラント治療がはじまった当初は、治療の失敗もあったかと思います。また現在でも、失敗とはいえないまでも、患者さんが満足できる結果になっていないケースは見受けられますね。
しかし近年は、
インプラント治療の実績が増えることによって、
治療に対する医師の理解度や熟練度が上がっていますから、心配されなくていいと思います。もちろん、いい歯科医院、いい歯科医師を選ぶことが前提ではありますが。
いい歯科医院、いい歯科医師を選ぶのも、患者さんには難しいことだと思うのですが。
確かにそうですね。よく言われるのは、
インプラント治療を長年、専門的に行なっている医師を選ぶこと、あるいはCTや
マイクロスコープといった新しい機器を使用していること、でしょうか。日々進歩する術式を学び、手術の腕を磨く向上心も大切です。
これらに加えて、私は
「医療人としての高い意識をもっているかどうか」が重要だと思っています。困っている患者さんにすぐ手をさしのべることができる医師であること。私はこのことを医師であった父から学びましたが、親身に、前のめりになって相談に乗ってくれる歯科医師かどうかというのは、ひとつの判断基準になると思います。
インプラント治療を受けたいと思っていても、できないケースがあると聞きます。
内科的な問題を抱えている場合は、
インプラント治療に限らず、
麻酔や外科手術ができないと判断されることがありますね。
内科的な問題を解決するのが先決ということでしょうか?
そうなりますね。ただ、私は口腔外科での経験が長く、口腔癌などの難症例にも数多く携わったことがあるので、患者さんの抱える内科的な問題については、自分でかなりの部分を判断できます。
もちろん、歯科医師が内科的な問題の治療をすることはできませんので、内科で診ていただくために紹介状を書きますが、患者さんの状態をできるだけ詳しく、具体的に伝えています。こちらが主導権を握り、連携をしっかりとることで、内科的な問題はよりスムーズに解決すると考えています。
ほかに、顎の骨が薄い・足りないといった理由もあるようですね。
骨が足りない場合は、
「サイナスリフト」「ソケットリフト」などの骨移植、あるいは
「GBR」などの骨再生手術を行うことで、
インプラント治療が可能になります。ただし、こうした治療には時間や費用がかかりますし、患者さんの体への負担も大きくなりますので、歯科医師からよく説明を受け、納得してから行うことをおすすめします。
骨移植や骨再生手術を行わないで治療できる方法はないのですか?
骨移植や骨再生手術が必要な患者さんの多くは、多数、あるいはすべての歯を失っている方です。そうした患者さんに対応するための治療法のひとつに
「All-on 4(オールオン4)」というものがあります。これは連結した歯のかたちをした上部構造(歯茎のついた人工の歯)を4本の
インプラント体で支える術式で、
奥歯の骨が足りない患者さんにも対応できます。
これまでの治療法では、歯がまったくない場合、8~14本の
インプラント体を埋め込む必要がありましたが、「All-on 4」は最小限の
インプラント体で済みますから、時間的・費用的な負担が減らせます。
治療にかかる時間はどれくらい変わるのでしょう。
従来の方法ですと、
インプラント体と骨が結合するまで、3~6カ月かかるのが普通です。対して
「All-on 4」では、骨移植が必要なければ、抜歯からインプラント体の埋め込み、仮歯の装着までを1日で行なうことができます。
日帰りで治療ができるのですか?
当院では、短時間で手術を行なう技術力と、知識・経験ともに豊富な麻酔医のチームで、
全身麻酔による日帰り手術を行なっています。「All-on 4」だけでなく、1本のみの
インプラントでも、
治療法によってはその日のうちに仮歯を入れることが可能です。※日帰り手術は術前術後に通院していただく場合がございます。
院内の施設で行えるものなのでしょうか?
日帰り治療を実現させるためには、検査・治療機器も新しいものが必要です。新しい機器を使うには、当然、それに対する歯科医師の知識も必要ですね。
当院では、同じフロアに「今井歯科 HANARE」を開院していますが、ここは日帰り治療に求められる優秀な歯科医師と麻酔医、最高級の機器という、すべての条件を揃えた、頂点ともいえる施設という位置付けになっています。
「All-on 4」以外にも、インプラント治療があると聞きました。
「ザイゴマインプラント」ですね。これはザイゴマ、すなわち
頬骨にインプラント体を埋め込む治療法のことです。ですから、
上顎に限った術式だと理解してください。
「All-on 4」では、前歯部の骨が少ない患者さんの場合は、やはり骨移植手術を行なう必要がありますが、「
ザイゴマインプラント」であれば不要。その日のうちに仮歯を装着することが可能です。
頬骨にインプラント体を埋め込むことで、体への負担は問題にならないのでしょうか。
これは歯科医師によって意見が分かれるところかもしれません。眼窩のすぐ下まで
インプラント体を埋入するということで、失敗したときのリスクが高いと考える方もおられるでしょう。
ですが私は、
口腔外科の経験が長いので、知識・技術が十分にあれば危険な手術だとは思いません。また、骨移植などをして歯科医師が土台をつくるより、もとからある骨(頬骨)を利用するほうが、術後も安定すると考えています。
私は治療に入る際、必ず30年先を考えているのですが、その観点からいっても、ご自身の骨を使うほうがいいというのが自分の意見です。
話は変わりますが、今井院長はインプラント治療において何が重要だと考えておられますか?
相談・カウンセリングにはじまり、術前の精密検査、治療計画、手術、そして術後のメンテナンスにいたるまで、重要でないものはありませんが、精密検査を十分に行なうことは当院のこだわりといえるかもしれませんね。
具体的にはどんな検査を行なうのでしょうか。
通常のレントゲンだけではなく、
CT撮影を行ない、立体的に骨や神経、血管の状態を調べます。土台が悪ければ、
インプラント治療の成功率は下がりますからね。
また、
インプラント治療を受けられる患者さんの多くは歯周病によって歯を失っているのですが、この場合は
インプラント治療に入る前に
歯周病の治療も必要です。歯周病の原因となる細菌が残った状態で
インプラント治療を行なうと、
インプラント周囲炎を起こす可能性が高くなるからです。
インプラント治療で歯のトラブルがすべて解決するわけではないということですか?
なぜ歯を失ったのか、その根本的な原因を把握し、解決することが第一です。歯を失う原因としては、主に4つ挙げられます。
第一は「歯周病菌などの細菌による炎症」。
次に「噛む力」。これは食いしばることで自分の歯を破壊してしまうという状態ですね。
3つ目は、今まで患者さんが受けてきた歯科医療の問題。とくに治療を受ける歯科医師を頻繁に変えている患者さんには、この原因が当てはまることが多いです。
最後に、その患者さんご自身の体質や習慣。歯が1本なくなっただけでも、その原因を多角的に診て確認することが大事なのです。これは
インプラント治療以前の問題ですし、ここをおろそかにすると、治療後に良好な状態を保つのは難しいと考えています。
治療計画についてはいかがでしょうか。
患者さんの希望にできるだけ添えるよう、
治療期間、治療の回数、費用の3つの面を考えながら、術式を提案しつつ、治療計画を立てていきます。たとえば、患者さんの状態を診たうえで、治療期間を短くしたい患者さんには、手術したその日から噛むことができる「埋入即時荷重」や、
骨造成をしなくてすむ
ショートインプラントを提案するというようなことです。
インプラントそのものについて、メーカーなどにこだわりはありますか?
当院では患者さんの予算などに応じるために多くのメーカーの
インプラントを用意していますが、世界一のシェアを誇る
「ノーベルバイオケア」と、そこから独立した
「ネオス」のものを中心に使っています。長い実績があり、数多くの文献データをもつ
インプラントのほうが安心できますからね。もうひとつは純チタン性であること。アレルギーの問題をクリアしやすいというのが理由です。
ほかにもインプラント選びの基準はありますか?
ザイゴマインプラントに対応するインプラントは、「ノーベルバイオケア」にしかないというのも、同社の
インプラントを採用している理由のひとつです。
それと、これは「
ノーベルバイオケア」「ネオス」双方にいえることですが、テクニカルであるということ。マニュアル通りに手術しても失敗はないのですが、高い技術をもつ歯科医師が、目で確認しながら、指先で状態を感じながら手術することで、より確実な治療ができるという点が気に入っています。まあ、これは患者さんにはあまり関係のない話なのかもしれませんが。
検査機器も、かなり高性能なものを使われているようですね。
たとえば、CTについても、いわゆる歯科用CTよりも撮影範囲が広いものを使っています。これは、私に口腔外科の経験があることにも関係するのですが、歯だけでなく、口腔内全体の状態を把握することが大切だと考えているからです。体の健康のためには、「しっかり噛める」だけでなく、「しっかり嚥下(飲み込む)できる」ことが必要ですからね。
治療後のメンテナンスについてはいかがでしょうか。
当院では、術後、3カ月に一度はメンテナンスを受けていただくよう、患者さんにお願いしています。しかし実際は、1~2カ月に一度、来られる方が多いです。歯科衛生士のコミュニケーション能力が高いので、気軽に来院していただけているようです。
こまめに口腔内のチェックを受けることは、予防にも有効ですね。
その通りです。加えて、当院では口腔内だけでなく、体全体の健康にも目を配るように心がけています。継続的に患者さんの口腔内の様子をチェックすることで、内科的な問題に気づくことがありますし、もっといえば会話の様子から体調不良を知ることもありえます。当院は歯科医院ですが、患者さんの体全体の健康を保つ役割を担うことを考えているのです。
最後に、この記事を読まれている方にメッセージをお願いします。
今の話にもつながりますが、私は
口腔外科の経験を通して「口の健康は全身の健康につながる」と考えるに至りました。口腔内でのトラブルがもとで癌などの重大なトラブルに至った患者さんを診ることがあったからです。
当院を開設した後、医療法人社団大志会を設立したのも、歯科は患者さんが生まれてから亡くなるまでに経験する体のトラブルを診る、つまり生活医療をサポートする立場であるという考えからなのです。
インプラント治療に限らず、
まずは口腔内を健全な状態に保つために、当院のような歯科医院を利用していただけると幸いです。
骨移植手術などをせずにインプラント治療が可能、さらには、手術したその日のうちにものが噛めるようになる。「インプラント治療には長い治療期間がかかる」と思っていた方には、目から鱗のような話ではないでしょうか。もっとも、そうした高度な治療は、どの歯科医院・歯科医師でも可能というわけではないようです。いい歯科医院を選ぶことは、とても大切ですね。今井院長の言葉にあった「医療人としての高い意識」があるかどうかは、重要な選択基準となりそうです。
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