むし歯が悪化し、痛みや腫れがひどくなると、いわゆる「神経を抜く」治療が行われることがある。このような、歯の根の中にある細菌に侵された神経(正確には歯髄)に対する治療を「
根管治療」という。しかし、
保険適用内の治療内容と、“世界基準”で行う内容との間には、治療結果に驚くほどの差が出てくることはあまり知られていない。そこで、日本の
根管治療に関するスペシャリストである「しのはら歯科医院」の篠原先生に、世界基準の
根管治療についていろいろ語っていただいた。
Doctor’s Profile
篠原 真
しのはら歯科医院 院長
朝日大学歯学部卒。独協医科大学病院にて口腔外科臨床研修医を経た後、臨床助手として勤務。併せて独協医科大学にて医学部学位を取得する。平成9年より群馬県高崎市・ひろかみ歯科医院に勤務。平成11年、埼玉県羽生市にしのはら歯科医院を開院。
日本顎咬合学会認定医。
日本歯内療法学会、日本歯周病学会、など参加学会多数。
細菌に侵された歯髄を処置し、歯を可能な限り守る根管治療
「根管治療」とはどのような治療なのでしょうか?
歯の根っこにあたる管状の部分には、いわゆる歯の神経が収まっています。歯の神経は、正式には「歯髄」といいます。歯髄は通常歯の内部で保護されているわけですが、むし歯で歯に穴が開いたり、事故などで外傷を負って歯の一部分が折れたり割れたりすると、その歯髄が外部に露出してしまいます。すると、それまで無菌状態でいた歯髄が細菌に感染し、いろいろな不具合が起きてきます。
根管治療はそうした不具合に対応するものです。歯髄とそれが収まる根の部分を、
もともとの無菌に近い状態に戻し、日常生活に差し障りなく歯が使えるように処置を施します。その治療を「
根管治療」といいます。
具体的にはどのようなことを行うのでしょうか。
まず、細菌に感染した歯髄や歯質を取り除きます。次に管の内部を殺菌し、悪さをしないくらい徹底的に細菌数を減らした後、しっかりと蓋をして閉じてしまいます。
どんな症状のときに根管治療が必要になるのですか?
歯の中がズキズキと持続的な痛みがある場合。あとは温かい食べ物や飲み物がしみたり、痛みを感じるような場合でしょうか。特に温かいものが歯に触れて痛みが出るという場合は、歯髄の炎症がかなり進み、内部が化膿している状態だと考えられます。
症状が出ているのにそのまま放置しているとどうなりますか?
いろいろなケースが考えられますが、たとえば歯髄が露出する原因となったむし歯も進行していくわけですから、歯の上部がなくなって、ついには根っこだけになってしまいます。こうなると、抜歯をしなくてはならなくなる可能性が高まります。歯は、放置するほどダメージを受けますから。
歯髄を残せる場合と、取ったほうがよい場合は、どのように違うのでしょうか?
本当に初期で「冷たいものがちょっとしみるけど…」という程度なら歯髄を残せるケースもありますが、絶対に残せるとは言い切れません。化膿していたとすると、それはすでに歯髄が死んでいる状態です。歯そのものを長期的に安定させることが優先課題なので、感染して化膿した歯髄はしっかり取り除いていきます。
日本国内で行われる根管治療と、海外で行われているそれは、そもそも「基準」が異なるそうですね。
アメリカやヨーロッパで広く行われている
根管治療は、日本で一般的に行われる治療とは
明らかに別次元のものだという印象です。治療の一連の流れ、筋道は一緒なのですが、そのゴールに達するまでのクオリティが異なるのですね。
そのクオリティとはどんなことでしょうか?
やはり「精密」さですね。治療前の患部の状態を調べるために必要な
歯科用CTでの撮影とか、治療中に根の中を細部まで確認できる
マイクロスコープ、できる限り唾液からの細菌感染を防ぐ
ラバーダム防湿、歯髄を取り除くために用いる
ニッケルチタンファイルという柔軟性に富んだ器具を使用した治療は、海外では当たり前に行われています。しかも器具は使い捨てです。
しかし、日本の医療保険制度下ではさまざまな制限があり、先ほどお話ししたような海外では当たり前に行われている治療、つまり自由診療の範囲まで広げた「世界基準」の治療が行えないのが実情です。
先生が行う根管治療はどのようなものですか?
残念ながら、保険適用内の治療ですと、おのずと限界があります。患者さんに本当はいくつもご提案できるはずの治療の選択肢すら示せないことに私は疑問を抱きましたし、治療しても結果が出せなければ意味がないと感じていました。そこで当院では
「世界基準」の精密根管治療を行っています。
保険適用の治療と自由診療での治療には結果に差が出てくる、と。
効率を重視する保険適用の治療に対して、自由診療では結果を出すために有効なこと、つまり
歯科用CTでの撮影や
ラバーダム防湿などの工程を一つひとつ積み重ねていけますから。特にまだ歯髄を取り除いていない初治療ですと、
治療の成功率も高く、再発がしにくいというメリットがあります。そういうお話ができるのも「世界基準」の治療の特徴のひとつといえるかもしれません。
先生の根管治療を求めて来院される患者さんはどんな方でしょうか? また目立つ年齢層はありますか?
ほかの診療施設で根の治療を何回も受けたけれど、全然痛みが取れなくて困っている方や、治療を受けたけれども、どうも納得がいかないなどの理由で当院に飛び込んでいらっしゃる患者さんもいらっしゃいます。
患者さんの年齢層は幅広いですよ。若い方から70代くらいのシニアの方まででしょうか。
根管治療は、歯科医にとって技術的に難易度の高い治療法なのでしょうか?
私は、
根管治療とは歯科治療として基本的な、まさに「根幹」をなす治療だと思っています。歯髄、つまり神経を取り除くということは、歯の寿命を左右する重要なことですから、それ相応の結果を出さないといけません。難易度うんぬんということよりも、
行うならできて当たり前の治療でなければならないと私は考えています。
時に治療時間以上にカウンセリングに時間を割くことも
結果が大切な、とても高い精度を求められる根管治療ですが、先生が最も留意している点はどんなことでしょうか?
もちろん治療中は細心の注意を払います。それよりも、まず治療前に患者さんのお話をじっくりと伺うことに力を入れています。患者さんが何を求めて来院したのかを把握することが大切です。メリット、デメリットもすべてご説明させてもらい、患者さんのご希望も勘案し、できうる限りの治療方法を提案しています。ですから来院されて3、4回はお話だけで時間が過ぎていく患者さんもいますよ。双方納得した上でなければ治療は始めません。
そして治療中も、毎回治療の様子をビデオで録画して、「今日はこのような治療を行いました」とすべてご説明しています。患者さんは「これまで見たことのないものを見せてもらった」「ちゃんと治療をしてもらえてありがたい」とおっしゃってくださいます。こうしてより納得度、満足度の高い治療を実現しています。
精密根管治療で用いられる設備や器具を紹介していただけますか?
患部を立体的に撮影できる
歯科用CT、患部を拡大してみることのできる
マイクロスコープ、歯髄を取り除く
ニッケルチタンファイルという器具、唾液に触れないよう患部をカバーする
ラバーダム防湿などがあります。これらを用いることで、
治療の成功率を上げることが可能になりました。
ちなみに、ニッケルチタン
ファイルは患者さん専用の、常に新品の「セット」を用意しています。新品を使用するということは、常に切れ味がよいということですから、何回も根の中をぐりぐりといじる必要がないということ。患者さんの負担軽減にもつながります。
診察室内にはモニターがいくつも設置されていますね。
CT画像はパソコンにつながった小さめのモニターに映し出し、そこで確認します。診察台の前方上部にも大きめのモニターを設置していて、
マイクロスコープで患者さんの口の中を覗いている映像が出るようになっています。患部は肉眼ではよく見えませんから、
マイクロスコープで仕事のしやすい拡大率で患部を映し出し、その映像を眺めながら治療を行っています。
モニターは患者さんにも治療中の様子が見えるように設置されたのですか?
治療中、モニターを見ている患者さんはいらっしゃいませんね。「見たい」とおっしゃる方もいらっしゃいますけれど……。治療ごとにビデオ撮影をして記録に残していますから、それは治療後のご説明の際にじっくりと見ていただくことにしています。
診察室にはやはりいろいろな設備がありますね。
治療の際にはもう少し周りに機器を置くのですけど。飛行機のコックピットみたいな感じになりますよ。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
患者さんの希望、症状、歯の根の部分の状態などは一人ひとり異なります。だから、ひと口に
根管治療といっても、その取るべき治療方法は患者さんによって違うはずですし、実際、当院ではひとりとして同じ治療は行っていません。とにかく患者さんにとってよい結果を残すためには、
話し合いを重ねることがとても大事だと考えています。
治療面や費用面など、さまざまな側面から患者さんの歯に対するお考えを聞かせてもらい、それに即した提案をさせてもらう、そして一緒に考える……というのが当院のスタンスです。
特にこのMedical DOCサイトをご覧になっている皆さんは、お口の状態について何か改善策を求めて話を聞きたい、何か自分で未消化な部分があってそれをクリアにしたいと、より積極的に考えている方なのだと思います。ぜひ、その
歯に対する想いや希望を余すところなく聞かせていただければと思います。よりよい治療法を一緒に考えましょう。
できる限り自身の歯を残したいと考えたとき、「根管治療」は重要な選択肢のひとつです。しかし、保険適用内の治療と世界基準(自由診療)の治療には、その方法から結果まで大きな違いがあることがわかりました。その違いを含め、あらゆる可能性について明らかにしてもらうことは、自分にとって本当に必要な治療を自ら選択でき、より納得度、満足度の高い結果を得ることへとつながるのではないでしょうか。
つまり、より適切な治療は何かを患者とともに考え、メリットもデメリットも忌憚なく情報を提示・提案できる歯科医師との連携が重要な鍵となりそうです。
医院情報
しのはら歯科医院