スポーツのパフォーマンスが向上 「マウスガード」の効果を歯科医師が解説
「マウスガード」と聞くと、ボクシングやラグビーなど激しい接触のあるスポーツで使用される歯のプロテクターをイメージする方も多いのではないでしょうか? しかし近年、マウスガードは単なる安全具としてだけでなく、スポーツパフォーマンスの向上にも効果があることがわかってきました。そこで、マウスガードの基礎知識から競技力向上のメカニズム、選び方のポイントなどを、おおしか歯科医院の大鹿先生に解説してもらいました。
監修歯科医師:
大鹿 明完(おおしか歯科医院)
目次 -INDEX-
スポーツ時の必需品! マウスガードの基本を知ろう
編集部
マウスガードとは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
大鹿先生
マウスガードは、スポーツ中に起こる歯や口のケガを未然に防ぐための安全具です。ボクシング選手が装着するマウスピースがその代表例で、強い衝撃から歯を守るために高性能な衝撃吸収材でできています。通常、上の歯に装着するのが一般的で、歯や口を守るプロテクターとして、様々なスポーツで使用されています。
編集部
マウスガードにはどのような種類がありますか?
大鹿先生
大きく分けて、「既製マウスガード」と「カスタムメイドマウスガード」の2種類があります。既製マウスガードは、スポーツ用品店で購入できる比較的安価なタイプです。一方、カスタムメイドマウスガードは、歯科医師や歯科技工士が選手一人ひとりの歯並びや口の大きさに合わせて作製します。
編集部
既製品とカスタムメイドの違いについて、もう少し詳しく教えてください。
大鹿先生
既製品は選手が自分で作製・調整するもので、湯に浸して柔らかくしてから成形します。安価で入手しやすい反面、成型が難しく、適合が悪いため「落ちやすい」「呼吸がしにくい」「話しにくい」といった不満の声も多いようです。一方のカスタムメイドは歯科医院で歯型をとり、歯科医師または歯科技工士が作製します。モノレイヤータイプとラミネートタイプの2種類があり、ラミネートタイプは設計の自由度が高く、選手の要望に応じた調整が可能になります。
編集部
マウスガードの装着が義務化されている、または推奨されるスポーツについて教えてください。
大鹿先生
格闘技系では、ボクシング、キックボクシング、空手道の一部、テコンドーで装着が義務付けられています。球技系では、アメリカンフットボール、アイスホッケー、インラインホッケーのジュニア、女子ラクロス、中学・高校生のラグビーなども必須です。そのほかに、バスケットボールや野球などの球技では中学生や高校生の間で歯や口の外傷が多くみられるため、マウスガードの使用を推奨しています。
マウスガードを装着するとどんな効果が? 使用のメリットと注意点
編集部
スポーツ時にマウスガードを装着すると、具体的にどのような効果が期待できますか?
大鹿先生
マウスガードには大きく3つの効果があります。1つは、ボールやほかの選手との接触による舌、歯、顎骨などのケガを予防できることです。また、選手同士が接触する際に、自身の歯で相手の頭部や顔面、目などを傷つけてしまうリスクも軽減できます。くわえて、プレー中の強い噛みしめによって起こる歯の摩耗(歯が削れる)や破折(欠ける・折れる)を予防する効果があります。これら3つの効果により、安全かつ安心してプレーに集中できる環境を整えられるのがマウスガードの利点です。
編集部
スポーツガードの装着は、競技のパフォーマンスにも良い影響があるのでしょうか?
大鹿先生
適切なマウスガードの装着は、スポーツパフォーマンスの向上にも貢献します。実際に、マウスガードの装着で噛み合わせが定まると、体幹が安定して筋力が向上するという研究結果も報告されています。くわえて、接触によるケガへの不安や恐れが軽減されることで、選手がよりリラックスした状態で競技に専念できるという心理面の効果も大きいようです。これらの効果により、競技における集中力と積極性が増し、全体的なパフォーマンスの向上が期待できます。
編集部
これらのメリットの一方で、マウスガードの装着にデメリットはないのでしょうか?
大鹿先生
マウスガードを装着すると、どうしても異物感が伴います。競技で義務化されている場合は装着が必須ですが、任意の場合は選手自身がその異物感とどう向き合うかが課題となります。選手によっては異物感で集中力が低下したり、口の中が気になってプレーに影響が出たりするケースもあるため、そのあたりは慎重な判断が必要です。
編集部
そのほかに、マウスガードの装着にあたって注意点があれば教えてください。
大鹿先生
装着中のスポーツドリンクの摂取はむし歯リスクを高めてしまうため、飲食時は必ずマウスガードを外し、外した後は丁寧なケアを心がけることが大切です。また、顎の成長期にある若い選手の場合は定期的な作り替えが必要となりますので、その点もあらかじめ留意していただきたいと思います。
マウスガードは歯科医院でつくるカスタムメイドがおすすめ! 作製の手順や費用、完成までの期間について
編集部
既製のマウスガードと歯科医院でつくるマウスガードは、どちらがおすすめですか?
大鹿先生
パフォーマンスへの影響を考えるなら、歯科医院で作製するカスタムメイドタイプをおすすめします。既製品は適合が悪いため、競技中に落ちてしまうことも多く、しっかり噛んでいないと使えないことも多々あります。一方のカスタムメイドタイプは、歯科医院で型取りして作製するため適合が良好で、競技中に外れる心配もありません。
編集部
歯科医院でつくるマウスガードには、ほかにどのようなメリットがありますか?
大鹿先生
異物感が大幅に軽減できるほか、選手一人ひとりの要望に応じて細かい調整ができるのも大きな利点です。例えば「もう少し薄くできないか」「長さを短くできないか」といった要望や、噛み合わせの調整などにも対応できます。マウスガードは実際に使ってみないとわからない部分も多いので、装着後も細かい微調整ができるのも既製品と比べて優れている点といえます。
編集部
作製に必要な通院回数や作製期間はどのぐらいかかりますか?
大鹿先生
通常は2回の来院で完成しますが、修正や調整が必要な場合はさらに2回程度の来院をお願いすることがあります。全体の期間としては、1週間から2週間程度で完成するのが一般的です。
編集部
歯科医院のマウスガードに保険は適用できますか? 具体的な費用の目安もあわせて教えてください。
大鹿先生
歯科医院でのマウスガード作製は自費診療となるため、健康保険は適用されません。費用は歯科医院によって異なりますが、一般的な費用の目安は1万5000円~2万円程度です。また、ラミネートタイプは作製に手間がかかるため、モノレイヤータイプよりも高額になります。
編集部
マウスガードの交換時期の目安について教えてください。
大鹿先生
使用していくうちにすり減ってきたり、穴が空いてきたりしたら交換の時期です。また、マウスガードのひび割れや緩みも交換時期を判断する目安となります。成長期のお子さんについては年齢にもよりますが、小中学生で背が伸びる時期は半年に1回程度の交換をおすすめしています。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
大鹿先生
競技で使用が義務づけられている方はもちろん、スポーツに真剣に取り組んでいる方にはぜひ一度、マウスガードを試していただきたいと思います。スポーツによる歯のケガは深刻で、一度折れたり欠けたりしてしまうと元の状態に戻すことができません。マウスガードにはこうした歯の損傷を予防するだけでなく、競技に安心して集中できることで全体のパフォーマンスが向上するというメリットがあります。ぜひ歯科医院でご自身にあったマウスガードを作製し、安全で充実したスポーツライフを送っていただければと思います。
編集部まとめ
マウスガードはボールやほかの選手との接触による歯や顎のケガを防ぐだけでなく、他者に対する外傷の予防にも効果を発揮します。さらに、噛み合わせの安定による体幹強化や、ケガへの不安軽減によるメンタル面での効果も期待できます。既製品とカスタムメイドの2種類がありますが、快適な装着感と高い安全性を求めるなら歯科医院で作製するカスタムメイドタイプがおすすめです。スポーツでの歯の損傷は取り返しがつかないケースも多いため、まずは最寄りの歯科医院でマウスガードについて相談してみましょう。
医院情報
所在地 | 〒395-0817 長野県飯田市鼎東鼎72-1 |
アクセス | 「西友飯田鼎店」から車で2分 |
診療科目 | 歯科、小児歯科、歯科口腔外科 |