【8020運動】歯を残すことの重要性を歯科医師が解説「一番のメリットは食べ物がしっかり噛めること」
「80歳になっても20本以上自分の歯を残そう」というスローガンからはじまった「8020運動」。この運動が開始してから30年以上が経過した今、私たちのお口の健康はどのように変化したのでしょうか。さらに、自分の歯を残す重要性や歯を守るために私たちができることなどを、今回は「長嶋デンタルオフィス」の長嶋先生にお聞きしました。
監修歯科医師:
長嶋 秀和(長嶋デンタルオフィス)
「8020運動」の今とこれから
編集部
8020運動の開始から30年以上が経ちましたが、現状についてどのようにお考えですか?
長嶋先生
8020運動がはじまった当時、最大の課題はむし歯が多いことでした。その点において「80歳で20本以上自分の歯を残そう」という8020運動は一定の成果をあげており、今では多くの人が8020を達成しています。その一方で「むし歯にはなっていないけど、歯周病になってしまった」という人が増えてきました。むし歯が減って歯を残せるようにはなったけれど、それに比例して歯周病が増えているのが新たな問題だと考えます。
編集部
なぜ、歯周病が増えているのでしょうか?
長嶋先生
歯周病は18歳頃から発症すると言われていますが、そこから急に悪化する病気ではありません。とくに若い頃は体の抵抗力もしっかりしているので、歯ぐきが多少腫れたり血が出たりしても、割と早く回復します。しかし、年をとるにつれ、例えば仕事が忙しくなってお口のケアが上手にできなくなると、気づかないうちに少しずつ歯周病が進行していきます。「ちょっとおかしいな」と感じはじめた時には、かなり進行して歯の周りの骨が溶けていた、ということも歯周病では珍しくありません。
編集部
歯周病は知らず知らずのうちに進行してしまうのですね。そうならないために注意すべきことはなんでしょうか?
長嶋先生
むし歯で歯を失うことは少なくなっていますから、これからは残っている歯のケアについて考えていくことが重要です。とくに「むし歯で苦労したことがない」という人ほど、歯周病になりやすい傾向があるので注意してほしいですね。若い頃からむし歯と同じように歯周病にも関心を持っていただき、ご家庭でのケアや歯科医院の定期検診を習慣づけてもらえたらと思います。
自分の歯を残すことの重要性とは?
編集部
自分の歯を残すことは、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
長嶋先生
一番のメリットは「食べ物がしっかり噛める」ということだと思います。例えば、歯が抜けて入れ歯にした場合、部分入れ歯だと噛む力が6割程度にまで落ちると言われています。なかには「入れ歯でも噛める」という人もいらっしゃいますが、よくよく聞いてみると噛めていない食べ物があることがやはり多いですね。さらに、噛むことは脳に刺激を与えるため、認知機能にもプラスの作用をもたらすと言われています。
編集部
「年をとって歯が少ないと、要介護のリスクが高くなる」と聞きますが、本当でしょうか?
長嶋先生
例えば、私たちの体は口を開けた状態だと力が入りません。力を入れるためには、上下の歯でグッと食いしばることが必要です。したがって、高齢になって歯が少ないと、力が入らず足腰が弱ってしまいます。さらに、歯が少なくなって噛む力が弱くなると、栄養バランスが悪くなります。私たちの体は食べるものから作られますから、お野菜やお肉などが食べられなくなれば当然ながら体も弱ってしまうわけです。
編集部
仮に自分の歯がなくなっても、今はインプラントで噛めるようになると思うのですが?
長嶋先生
もちろん、何らかの理由で歯を失った場合には、インプラントなどで歯を補ってあげることも重要です。たしかに、インプラントでもしっかり噛めますし、噛む刺激も脳に伝えられることも最近の研究で判明しています。ただし、そのインプラントも「一生もつのか?」と言えば、必ずしもそうとは限りません。インプラントの生存率は10年で90%以上ですが、20年経つと80%にまで落ちるとされています。仮に50歳でインプラントを入れたとしても、70歳あたりで寿命がきてしまう可能性もあるわけです。
編集部
将来インプラントを入れるとしても、「自分の歯をできるだけ残して治療を先延ばしにする方がいい」ということでしょうか?
長嶋先生
はい。今の若い人は「100歳ぐらいまで生きるかもしれない」と言われていますからね。どんな形であれ、生涯を通じて噛めるようにするためには、いかに自分の歯を長く保つかがカギになります。そのためにも、若い頃から自分の歯を大切にして、できることから少しずつはじめてもらえたらと思います。
自分の歯を守るためにできること
編集部
毎日の歯磨きを頑張れば、自分の歯を残せますか?
長嶋先生
歯磨きも「どこを磨くか」によって予防の効果は変わります。むし歯予防の場合は歯の見える部分を中心に磨いていきますが、この磨き方だけでは歯周病を防ぐことはできません。歯周病の原因菌は、歯と歯ぐきの間にある「歯周ポケット」という溝の中に住みつきます。したがって、歯周病を予防するためにはその入り口となる「歯と歯ぐきのきわ」をしっかり磨いて汚れを落とすことが肝心です。さらに、デンタルフロスや歯間ブラシで歯と歯の間の汚れを落とすことも、忘れずおこなっていただきたいですね。
編集部
「セルフケアが続かない」という人に、何かアドバイスはないでしょうか?
長嶋先生
歯が汚れている状態も長く続くと、それに慣れてしまって歯磨きが面倒になってしまうことがあります。そういう場合は、歯医者さんで一度クリーニングしてもらい、キレイな状態というのがどんな感じなのか体験してみるといいでしょう。自分の部屋もキレイになると、その状態を長く維持したいと思いますよね。それと同じように、お口がキレイになる気持ちよさを知れば、セルフケアのモチベーションも上がると思います。
編集部
歯医者さんの「定期検診」も受けた方がいいでしょうか?
長嶋先生
そうですね。むし歯と歯周病対策は、ご家庭での「セルフケア」と、歯科医院での「プロケア」の両軸で成り立つと言っていいでしょう。先ほど歯科医院のクリーニングをおすすめしましたが、仮にプロケアで歯がキレイになっても、歯石のもとは24時間以内に唾液の成分によってつくられてしまいます。だからといって、毎日歯医者さんに通うのは現実的ではないし、100点満点のセルフケアを続けるのも難しいですよね。したがって、「ご家庭でのケアは80点ぐらいを目指して、残りの20点分を定期的に歯医者さんでキレイにしてもらう」のが理想的だと思います。
編集部
定期的に歯医者さんに通えば、仮にむし歯や歯周病になっても早く見つけてもらえますね。
長嶋先生
おっしゃる通りです。肝臓はよく「沈黙の臓器」といわれますが、歯や歯ぐきも同じで限界になるまで症状がなかなかあらわれません。そのため、定期的にレントゲンを撮ったり検査をしたりしながら、むし歯や歯周病になっていないか、病状が進行していないかをチェックすることも大切です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
長嶋先生
繰り返しになりますが、年をとっても自分の歯を残し、何でも美味しく食べるためには、若い頃からその準備をはじめておく必要があります。とくに歯周病に関しては、50~60代になって症状が出た頃にはかなりの状態にまで進行していることも少なくありません。そうなる前に、定期的に歯医者さんに通って検査やクリーニングを受けていただけたらと思います。
編集部まとめ
私たちの歯は「食べ物を嚙むこと」を通して、体の調子を整えたり、脳の働きを活性化したりすることに貢献しています。歯を1本でも多く残すためには、むし歯だけでなく歯周病の予防にも若い時期から取り組むことが大切です。とくに症状がなくても、定期的に歯医者さんで検査やクリーニングを受ける習慣を身につけましょう。
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