気になる「後戻り矯正」の期間や費用と、後戻りが起きる三つの理由
せっかく矯正治療が終わったと思ったのに、もう一度矯正治療をやり直すことになってしまう。これを「後戻り矯正」といいます。その場合、費用は「部分矯正で可能な場合なら、大体20万円」だそうです。全体的な再構築が必要な場合だとどうなのでしょうか。また、そもそも後戻りしないためにはどうしたら良いのでしょうか。しぶたに矯正歯科の渋谷直樹先生に教えてもらいました。
監修歯科医師:
渋谷 直樹(しぶたに矯正歯科 院長)
国立大学法人東京医科歯科大学卒業。同大学院にて歯学博士を取得。公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター歯科・口腔外科・矯正歯科の指導診療医として顎変形症を中心とした矯正治療を担当。(現在非常勤診療医)2017年東京都世田谷区にしぶたに矯正歯科を開院。「エビデンス(医学的根拠)に基づいた、お子様が成人するまでの一貫した治療を提供する」ことをコンセプトに顎変形症などの大学病院と連携した治療にも力を入れている。日本矯正歯科学会認定医。ほか学会発表、論文など多数。
「後戻り矯正」とは?
編集部
後戻り矯正とはなんですか?
渋谷先生
過去に、歯並びや噛み合わせを正すため矯正治療を行ったのに、矯正治療が終わってしばらくすると、歯並びが元に戻ってしまうことがあります。それを「後戻り」といい、再び矯正治療をして歯並びや噛み合わせを改善することを「後戻り矯正」といいます。
編集部
後戻りはよくあることなのですか?
渋谷先生
決して珍しいことではありません。というのも、矯正歯科治療で歯を動かしたあと、歯根の周りの骨がしっかり安定するまでには3〜4年かかるからです。そのため、特にその期間のメンテナンスを怠ると、後戻りが起きやすくなってしまいます。
編集部
なぜ、後戻りしてしまうのですか?
渋谷先生
大きな原因は三つ考えられます。一つ目は矯正治療開始前の治療が不十分なこと。骨格が問題であるにもかかわらず、歯の移動のみに頼って矯正治療を行ったり、歯が並ぶ隙間がないのにスペースを作らず、無理に歯槽骨いっぱいに歯を並べる治療計画を立てたりすると、後戻りしやすくなります。外科的な手術を併用した矯正治療や抜歯はできる限り避けたいですが、原因に対する治療を行わないと元に戻ってしまいます。
編集部
ほかには、どんな原因が考えられるのでしょうか。
渋谷先生
二つ目は、治療終了時にしっかり歯根まで移動していない状態で保定に入ることです。たとえば抜歯して矯正治療を行う場合、抜歯したスペースを閉じる時に歯の萌出(ほうしゅつ)している部分(歯冠)だけ閉じ、骨の中の歯根までしっかり近づいていないと、保定後、元に戻る力が大きく働き、後戻りが起きやすくなります。
編集部
三つ目の原因はなんですか?
渋谷先生
治療後の保定装置(リテーナー)を正しく使用しないことです。歯科医師が保定装置を選択する際にミスをしたり、使用方法の説明が不足していたりすると、歯根の周りの骨が固まるまでの3〜4年の間に、治療前の状態に戻ろうとする力が強くなり、後戻りが起こります。
後戻り矯正はどうやって行うの?
編集部
後戻りが起こった場合、再矯正はどのように行うのですか?
渋谷先生
後戻りの原因に対してアプローチする必要があります。たとえば、でこぼこな状態に後戻りした場合で、顎と歯の大きさのバランスが悪いことに原因があれば、歯冠形態修正(ストリッピング)を行って歯の幅を小さくしたり、必要であれば抜歯を検討したりします。また、歯根までしっかり並んでいない状態が原因であると認められた場合は、再度ワイヤー矯正で歯根をきれいに並べることで、再度の後戻りを防ぐようにします。
編集部
さまざまな手法が考えられるのですね。
渋谷先生
「前歯で噛みきれなくなってしまった」という開咬の状態に後戻りした場合は、骨格性の不正咬合に対し、歯列矯正のみで対応したことが原因とも考えられるため、顎変形症と診断したうえで、保険適用の治療も検討します。
編集部
後戻り矯正の際、ワイヤー矯正とマウスピース矯正のどちらが良いのでしょうか?
渋谷先生
後戻りした原因に対して選択する必要がありますが、実際のところはマウスピース矯正を選択する人が多く、「もう一度ワイヤー矯正を行いたい」という人は、ほとんどいません。おそらく、ワイヤー矯正でツラい経験をされたのでしょうね。
編集部
なぜ、マウスピース矯正を行うケースが多いのですか?
渋谷先生
マウスピース矯正は見た目にわかりにくく、審美的によいというのがメリットです。また、取り外しができるので手入れがしやすいという特徴もあります。そのほか、通院回数もワイヤー矯正よりマウスピース矯正の方が、少なくなることもあり、選択する人が多いようです。
編集部
後戻りのマウスピース矯正は、どのように行うのですか?
渋谷先生
まずは口腔内の状態を確認し、歯型をデジタルの口腔内スキャナーでとったあと、顔や口の中の写真やレントゲン写真などを基にシミュレーションを行います。それに基づき、治療計画を立てて、マウスピースを作ります。通院頻度の目安は6週間から8週間が多いですね。
後戻り矯正をする場合、費用や期間はどれくらいが目安?
編集部
後戻り矯正の治療は、どれくらい期間がかかるのですか?
渋谷先生
後戻りの程度や歯の移動量によりますが、大抵の場合、最初に治療した時より短期間で済むでしょう。それほど歯並びがずれていなければ、治療期間も短くて済むので、後戻りをし始めているなと気づいたら、できるだけ早めに歯科医院へ相談しましょう。
編集部
後戻り矯正治療の治療費用はどれくらいかかりますか?
渋谷先生
これも歯並びや噛み合わせの状態によりますが、部分矯正で可能な場合なら、大体20万円くらいでしょうか。全体的に歯並びを再構築しないといけない場合は、以前の治療と同じ程度の費用がかかってしまうこともあります。ただし、歯科医院によっては保証期間を設定していることがあるので、矯正治療を受けた歯科医院に相談してみると良いと思います。
編集部
後戻り矯正を行う上での注意点を教えてください。
渋谷先生
以前、治療したときと同じゴールを設定して治療を進めれば、また後戻りを起こしてしまいます。そのため、後戻りを起こさないために治療方針をしっかり立ててくれる歯科医院を選ぶことが大切です。また、正しく保定装置を使用することも必要です。
編集部
保定装置はどうやって使えばいいのですか?
渋谷先生
たとえば取り外しできる保定装置を使用する場合、目安として最初の一年間は、食事をするとき以外は就寝中を含め、一日中装着します。次の一年間は毎晩、寝るときだけ、さらに次の一年間は週に一日、寝るときだけ装着します。厳密にいうと、装置を外してから次に装着するときに、きついと感じない状態を保ちながら、装置を外す時間を長くしていくと、後戻りせずに保定装置を卒業することができます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
渋谷先生
後戻りをしないために大切なことは、なにより、後戻りを起こさないような治療方針を立て、それに従って治療を行うことです。根本的な原因にアプローチせず、見た目だけ改善されるようなゴールを設定してしまうと、後戻りを起こす可能性が大きくなってしまいます。本来なら、保定装置の使用を終了したあとも、安定した歯並びをずっとキープしなければなりません。そのため、そうしたゴールから逆算した治療方針を提案してくれるかどうかが、良い歯科医師を見分けるポイントになると思います。
編集部まとめ
「後戻り矯正」は多くの場合、もう一度、最初から矯正治療を行うのと同じくらいの費用や日数が必要になります。苦労して矯正治療を終えたと思ったのに、もう一度、となるのは残念ですよね。後戻りのリスクを減らすために、綿密な矯正プランを練ること、矯正後には保定装置を正しく使うことなどを徹底しましょう。
医院情報
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診療科目 | 一般歯科、小児歯科、矯正歯科 |