歯周組織再生療法「リグロス」「エムドゲイン」 のメリット・デメリットを教えて!
各分野で期待と注目が集まる再生医療、その範囲は歯科領域にも及んでいます。「城山通りデンタルクリニック」の日本歯周病学会専門医、笠井先生によると、歯周病によって減った「顎の骨」は、後から再生できるそうです。その典型的な材料として使われる「リグロス」と「エムドゲイン」について、詳しい話を伺いました。
監修医師:
笠井 俊輔(城山通りデンタルクリニック 院長)
東京歯科大学卒業。慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科入局後、同歯周病外来医長を経た2015年、東京都世田谷区に「城山通りデンタルクリニック」開院。根本から改善する原因療法と、中長期的な治療計画で、将来の健康に備えた治療を提供している。日本歯周病学会歯周病専門医、日本口腔インプラント学会口腔インプラント認定専修医、日本臨床歯周病学会認定医。
再生というより、成長を促す治療方法
編集部
そもそも歯周組織の再生療法とは何ですか?
笠井先生
歯周病とは、歯を支えている骨が溶けてしまう病気です。したがって、歯を支えている歯根膜や歯槽骨などを「元気な状態まで回復」させるのが歯周組織の再生療法であり、その方法として「リグロス」と「エムドゲイン」という材料が使われています。
編集部
どのような方法で治していくのですか?
笠井先生
まずは、歯の周りに付いている歯石をきれいにします。その後、ゲル状の材料を歯根の部分に流しこんでいくと、歯の周りの組織が活性化していきます。材料は成長を促すものであり、ゲルがそのまま歯周組織として生まれ変わるわけではありません。
編集部
歯周組織再生療法のメリットは?
笠井先生
歯周病によって失われた骨が取り戻せること、そして、抜けそうになった歯を抜かずに済ませられることです。再生させず放置しておくと、どんどん歯周ポケットが深くなってしまい、歯が抜けてしまうような事態も起こりえます。総じて、溶けてしまった部分を“補える”ことの意義は大きいと思います。
編集部
一方のデメリットは何でしょう?
笠井先生
組織が再生するまでの期間が半年から1年ほどかかることです。歯肉の手術となるので一時的に腫れや痛みを伴うことがあります。また、全ての部位に適用できるわけではないので、しっかりと診断する必要があります。中には、金銭的な問題や手術自体の怖さを気にする患者さんもいらっしゃいます。
それぞれの違い
編集部
歯周組織の再生療法は保険適用できるのでしょうか?
笠井先生
「エムドゲイン」は保険適用外になります。「エムドゲイン」の費用相場は、1ブロック(すべての歯を6つに分けたブロックの1つ)で5万円から10万円といったところですね。他方の「リグロス」には保険が使えます。ただし、人工骨を混ぜるなど「保険で定められていない治療法」に併用すると「リグロス」も保険適用外になります。どうするのかは、患者さんと相談ですね。
編集部
それぞれの治療方法は異なっていますか?
笠井先生
どちらも同じだと思っていただいて大丈夫です。適応症や応用範囲などについても、ほとんど同じです。
編集部
ほかにも違いがあったら教えてください。
笠井先生
「エムドゲイン」は動物の組織由来、「リグロス」はヒトの組織由来です。短期的な報告では「リグロスのほうが、より多く骨が再生する」とされています。長期的な報告はまだ少ないので今後も注目する必要があります。
編集部
効果が同等と思われ、保険も使えるのであれば、「リグロス」一択という気がします。
笠井先生
この治療法の場合、長期の経過報告が少なく、また、骨補填材など他の材料と組み合わせて応用した場合の報告がまだ少ないです。他の材料と組み合わせた方が良い結果が得られそうな場合はエムドゲインを応用することもあります。また、細胞を増殖させる作用があるので、口腔がんの既往がある患者様には応用できません。
編集部
歯周組織再生療法といわれているのは、この2つだけですか?
笠井先生
患者さん自身の骨を使う方法や、骨補填材やバリア膜を併用する方法など、いくつか方法があります。どの方法で治療していくかは、そのメリット、デメリットをご説明し、患者さんと話し合った上で決めていきます。
患者側の努力が問われる側面も
編集部
歯周組織再生療法を受ける際、気をつけたいことは?
笠井先生
この手術を受ければ、必ず歯周組織が回復するという「夢の治療方法」ではありません。手術を受ける前に、正しいブラッシング方法を習得したり、禁煙したりすることで、お口の中の環境を良くしておく必要があります。さらに、傷の治りが悪くなる糖尿病などの全身疾患の治療をすることによって手術の成功率を上げることができます。
編集部
先生の医院では、どのような進め方をしているのですか?
笠井先生
再生療法の前段階として、お口の中の環境を整える必要があります。ここを、患者様と一緒にどう乗り越えるかが重要ですね。歯垢の染め出し液で歯の汚れを数値化してチェックし、その基準が満たされない場合は再生療法へは進みません。手術後にお口の中の汚れがご自身である程度コントロールできないと、一時的に治っても、すぐに再発するリスクが高いからです。
編集部
「リグロス」や「エムドゲイン」の副作用は、どうなのでしょう?
笠井先生
どちらもきちんとした臨床試験を行った上で、臨床で使われている製剤なので、問題になるような副作用はありません。
編集部
術後の注意点についても教えてください。
笠井先生
再生療法の手術後、人により「痛みや腫れ」が出ます。また、手術直後の患部は組織が再生しきれておらず、ブラッシングできません。手術部位は洗口液できれいにしていただきますが、それでも汚れがたまる可能性があるので、1週間に2度くらいのペースで来院していただき、専門的なケアを受けていただきます。加えて、術後の3カ月から4カ月は、患部でものをかまないようにしてください。
編集部
ちなみに、再生療法を受けたくない場合の治療選択肢は?
笠井先生
再生材料は応用せずに、歯石だけを取り除く方法や「SPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)」と呼ばれる専門的なお掃除を続けて病状を維持するという治療などがあります。しかし、そのままでは隣の歯もダメになってしまいそうな場合は、抜歯をしてブリッジや入れ歯、インプラントなどで補填します。インプラント治療を選択した場合は、重度の歯周病になっていた部分は骨が大きく吸収していますので、そのままインプラントを入れるのが困難になることもあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
笠井先生
見た目では気づきにくく、自覚も少ないのが、歯周病の怖いところです。ある程度の年齢になったら精密検査をして、現状の把握に務めましょう。もし歯周病が認められたなら、早めに治療を開始して「自分自身で予防できるような口腔内環境づくり」をして再発しないようにすることが大切です。「最悪でも再生療法があるから大丈夫」なのではなく、良好な状態を維持することができるようにしていきましょう。
編集部まとめ
再生療法によって自分の歯を残せるメリットは大きいですよね。ただし、治療期間が長いというデメリットもあります。また、今まで続けてきた生活や習慣の一部を「改める」必要性も、軽視できません。すぐにでも改めて歯周病を予防するか、大きなツケになってから再生療法とともに改めるか。考え方ひとつですが、いずれにしても、「やらなくてはいけないこと」といえるでしょう。
医院情報
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