保険診療での入れ歯治療には制限がある?素材や期間、6ヶ月ルールを解説

歯を失った際の治療法として、入れ歯は代表的な選択肢の一つです。保険診療の入れ歯は費用を抑えて作製できるため、急な抜歯が必要になった場合などは経済的で利便性の高い治療法といえます。しかし、保険診療には素材や再治療に関する独自のルールがいくつか設けられています。この記事では、保険診療で入れ歯治療を行う際に知っておくと役立つ規則について詳しく解説します。

監修歯科医師:
松浦 京之介(歯科医師)
保険で入れ歯を作る際の制限

費用を抑えて作製できる保険診療の入れ歯には、使用できる素材や設計においていくつかの条件が定められています。それぞれの具体的な内容について順番にご紹介します。
使用可能な素材や設計の制限
保険診療の入れ歯は、白い歯の部分や義歯床と呼ばれる歯茎などに密着する部分が歯科用レジンと呼ばれるプラスチック樹脂製の素材で作製されます。シリコンなどの装着感の向上が期待できる素材や、食事の際の違和感を軽減できる金属床の入れ歯などは自費診療の扱いとなり、保険を適用することができません。
また部分入れ歯の場合は、この歯科用レジン製の土台に、隣り合う歯にひっかけて入れ歯を固定するためのクラスプと呼ばれる金属製のバネが付属した形状です。クラスプを白い樹脂製の素材などにすることで目立たない入れ歯が目指せますが、保険診療の場合は金属素材以外が認められていないため、クラスプにこうした素材を利用することができません。
形状に関する制限
保険診療で作製する総入れ歯は、歯茎や顎の形状にぴったりと合わせることで、粘膜との吸着力によって維持する形状です。自費診療でも金属床義歯などは同じような方法で維持しますが、自費診療の場合はインプラントで固定するためのパーツが付属したインプラントオーバーデンチャーなど、さまざまな形状のものがあります。
同様に、部分入れ歯の場合も保険診療と自費診療のものでさまざまな違いがあります。
保険診療の部分入れ歯は、クラスプと呼ばれる金属製の留め具を隣の歯にかけて固定する構造のものに限定されています。このバネが銀色をしているため、装着する場所やお口の開き方によっては目立ちやすいという欠点があります。
一方で自費診療の場合は、バネがないノンクラスプデンチャーのように見た目がよいものや、バネの代わりに入れ歯の内側に用意された入れ歯固定用の穴を、残存歯に設置した金属製のクラウンに被せて固定するコーヌスクローネ義歯などのさまざまな形状があります。
作成工程の制限
保険診療では、あらかじめ決められた標準的な工程に基づいて入れ歯を作製する必要があります。型取りの回数や使用する材料、噛み合わせの確認手順などが細かく規定されているため、一人ひとりの細かな要望に応じた特殊な工程を追加することは困難です。
一方で、自費診療の場合は特にそういった制限がないため、歯科医院が必要に応じてさまざまな検査や工程を行うことができます。より精密な型取りや、お顔の筋肉の動きまで考慮した高度な工程を希望される場合は、自費診療による作製を検討することになります。
治療期間(頻度)の制限
保険診療で入れ歯を作製した場合、再作製に関する期間の制限があります。一度保険で入れ歯を作ると、原則としてその後6ヶ月間は新しく保険で入れ歯を作り直すことができません。これは紛失や破損による再作製であっても同様のルールが適用されます。
そのため、修理で対応できない大きなトラブルが起きた場合でも、半年が経過するまでは全額自己負担での対応となる点に注意が必要です。
保険外診療との組み合わせに関する制限
日本の医療制度では、一つの治療の流れのなかで保険診療と自費診療を混在させる混合診療が認められていません。
例えば、土台となる歯の治療を自費診療で行い、その上に乗せる入れ歯だけを保険診療で作るということは原則として不可能です。一連の治療を保険で行うか自費で行うかを事前に決定し、計画的に進めていくことが求められます。
6ヶ月ルールとは?保険で入れ歯治療を行う頻度の制限

入れ歯は保険診療で作製できますが、6ヶ月ルールという規則が存在します。
これは、保険診療によって過剰に入れ歯が作られるのを防ぎ、保険料の使われすぎを回避するためのもので、保険診療で一つ入れ歯を作ったら、その後6ヶ月は保険診療で入れ歯を作れないという制限です。
作製から半年以内に何かしらの理由で入れ歯を紛失をしてしまい、作り直しが必要になったとしても保険適用ができなくなるため注意が必要です。
保険による入れ歯治療の6ヶ月ルール
保険診療の入れ歯における6ヶ月ルールとは、新しい入れ歯の型取りをした日から半年間は、原則として同じ部位の入れ歯を保険で作り直すことができないという規則です。これは、たとえ別の歯科医院に転院したとしても継続して適用されるルールであるため、別の歯科医院を受診して新しいものを作ってもらうということはできません。
ただし、6ヶ月以内であっても例外的に保険適用が認められるケースがあります。それは抜歯によって残存歯の本数が変わり、以前の入れ歯が構造的に使用できなくなった場合や、前回とはまったく別の場所に新しい入れ歯を作る場合です。ほかにも、災害などのやむを得ない理由で紛失した場合や、使用することで口腔内を傷つけてしまう可能性があるほどに破損してしまっている場合などには、例外として保険診療で作り直しが可能です。
なお、痛みや噛み合わせの不具合については、再作製ではなく現存する入れ歯の調整で対応できることも多いため、まずは歯科医院に相談することが大切です。
新しい入れ歯を作る必要が生じるケース
せっかく作製した入れ歯を紛失したり、破損したりといったトラブルは起こり得ます。
例えば、外した入れ歯をティッシュなどにくるんで間違えて捨ててしまったり、日常動作のなかでふいに外れてしまい、その際に手が届かない場所に落ちてしまったりといったケースが考えられます。
また、入れ歯は適切な使用や保管を続けていれば数年間は使用できますが、使った後そのまま出しっぱなしにしているなどすると、乾燥して破損しやすくなったり、劣化して合わなくなったりして作り直しが必要になる可能性があります。
新しい入れ歯を保険で作れる時期の判断方法
同じ箇所の入れ歯を保険で再作製するには、前回の型取りから6ヶ月以上が経過している必要があります。入れ歯が完成してからではなく、型取りからの期間であるため、思っていたよりも早く新しい入れ歯を作れるようになるということもあります。
一方で、前回の作製箇所とは異なる部位に入れ歯を作る場合は、この期間制限には当てはまりません。さらに、新たな抜歯などによってお口の状態が劇的に変化し、物理的に以前の入れ歯が使えないと判断された場合も、期間に関わらず保険での再作製が可能です。
6ヶ月ルールの制限を回避できるケース
上述したように、口腔内の環境が変化したことによる再作製や、まったく別の部位への作製であれば、半年を待たずに保険診療を受けることができます。
ほかにも、事故などによって大きく破損して使えなくなってしまったような場合などにも、6ヶ月ルールの制限を回避できる場合があります。
保険外診療であれば制限はない
6ヶ月ルールはあくまで保険診療における規定です。したがって、自費診療で入れ歯を作製する場合は、期間の制限を受けることなく、ご自身の必要とするタイミングでいつでも作製を行うことができます。
保険による制限で作れる入れ歯の種類

保険診療で作ることができる入れ歯には、構造や使用感において以下のような特徴があります。
金属の留め具で固定する部分入れ歯
保険診療の部分入れ歯は、白い歯の部分とそれを支えるピンク色の義歯床部分が歯科用レジンで作られ、そこに入れ歯を固定するためのクラスプと呼ばれる金属製のバネが付属している形状のものです。
このバネを残っている歯にかけて支えにするため、笑った際などに銀色の金属が見えてしまい、審美性に欠けるというデメリットがあります。
また、クラスプは入れ歯を固定するために強めの力がかかるようになっているため、付けたり外したりする際に、クラスプをかける天然の歯に負担をかけやすいという難点があります。顎骨が弱くなっているような方の場合、入れ歯を外す際にクラスプをかけている歯が抜けてしまうというケースもあります。
歯科用レジンで作られた総入れ歯
保険診療の総入れ歯は、白い歯の部分とそれを支える義歯床部分のすべてが歯科用のレジンで作製されます。義歯床の形状を歯茎や口蓋などに合わせることで、粘膜と入れ歯の吸着力で入れ歯を維持します。
レジンは歯茎に近い色を再現できる反面、十分な強度を保つためには一定の厚みが必要です。そのため、装着時に違和感が生じやすかったり、食べ物の温度が伝わりにくいことで食事の楽しみが損なわれたりする場合もあります。
また、保険診療の入れ歯は粘膜と入れ歯の粘着力のみで固定しているため、安定感が低く噛む力が弱くなりやすいというデメリットもあります。
一部症例でマグネット義歯が利用可能
マグネット義歯とは、磁石の力を利用して固定するタイプの入れ歯です。歯の根っこが残っている場合に、その根の上に磁石とよく反応する金属(磁性金属)を埋め込み、入れ歯側の磁石と引き合わせることで安定させます。特定の条件を満たし、歯の根を保存している場合に限り、保険適用となることがあります。
制限のない保険外診療なら作成できる入れ歯

保険診療の場合は入れ歯の形状や素材などにさまざまな制限がありますが、保険外診療であれば、機能性や審美性に優れた多様な素材を選択することができます。
保険外診療なら作成できる入れ歯の代表的な種類を紹介します。
金属床義歯
金属床義歯は、入れ歯の土台である床の部分が金属で作られたものです。金属は強度が高いため、レジンに比べてとても薄く作ることができ、装着時の違和感が大幅に軽減されます。強度が高いため、破損などを起こしにくいという点もメリットです。
またレジンと比べて金属は熱伝導率が高いため、食べ物の温かさや冷たさをしっかりと感じながら食事を楽しめるという大きなメリットもあります。
ノンクラスプデンチャー
ノンクラスプデンチャーは、目立つ金属のバネを使用しない部分入れ歯です。歯茎の色に馴染む特殊な樹脂で固定するため、周囲から入れ歯だと気付かれにくいという特徴があります。軽くて弾力性があり、装着感も良好なものが多いといえます。
インプラントオーバーデンチャー
インプラントオーバーデンチャーとは、数本のインプラントを土台にして入れ歯を固定する手法です。インプラントで内側からしっかりと固定するため、通常の入れ歯よりもはるかに安定感があり、硬いものでもしっかりと噛むことができます。また、ご自身で取り外して清掃できるため、メンテナンス性にも優れています。
ただし、インプラントオーバーデンチャーによる治療を受けるためにはインプラントの手術を行う必要があるため、身体に負担がかかったり、治療期間などが長くなりやすかったりといったデメリットもあります。
コーヌスクローネ義歯
コーヌスクローネ義歯はドイツ発祥の特殊な入れ歯の一つで、茶筒の蓋が閉まるときのように、摩擦の力を利用して固定する高度な入れ歯です。
残っている歯に内冠を被せ、入れ歯側に外冠を組み込む二重構造をとることで、とても高い安定性を実現します。バネがないため見た目も美しく、自分の歯に近い感覚で噛むことが可能です。
シリコン入れ歯
シリコン入れ歯は、歯茎に触れる部分にやわらかいシリコン加工を施したものです。歯茎にかかる圧力を分散してくれるため、入れ歯を入れると痛みを感じやすい方に適しています。また、やわらかいシリコンが歯茎に覆いかぶさるため、安定感を得やすいというメリットもあります。ただし、シリコンは経年劣化しやすいため、定期的なメンテナンスや張り替えが必要となる点に留意が必要です。
まとめ

歯を失った際の治療として、保険診療の入れ歯は経済的な負担を抑えられる大変有用な選択肢です。しかし、見た目の自然さや食事の際の快適さ、そして6ヶ月ルールといった制度上の制限については事前によく理解しておく必要があります。
もし現在の入れ歯に満足できない場合や、より長く快適に使用したいとお考えの場合は、制限のない自費診療という選択肢も視野に入れることで、理想的なお口の状態を取り戻せるかもしれません。保険診療で作製した入れ歯を紛失や破損で無駄にしてしまわないよう、日頃から丁寧な取り扱いと管理を心がけることが大切です。

