入れ歯で嘔吐反射が起こる原因は?シーン別の対処法や入れ歯ができない場合の治療法を解説

入れ歯は、歯を失った方の治療法の一つです。しかし、入れ歯の型取りや挿入時にオエッとなる嘔吐反射が起こると、治療をためらう方も少なくありません。 嘔吐反射は、お口に異物が入ることで起こる生理反応です。しかし、嘔吐反射によって必要な治療が受けにくくなると、さまざまな支障が出る場合があります。 本記事では、入れ歯で嘔吐反射が起こる原因を詳しく解説します。対処法や入れ歯ができない場合の治療法もあるため、参考にしましょう。

監修歯科医師:
石毛 俊作(大神宮デンタルクリニック)
目次 -INDEX-
嘔吐反射の基礎知識
嘔吐は、異物が体内に入ることに対して起こる正常で生理的な防御反射です。舌の奥には嘔吐を引き起こす神経が通っています。
そのため入れ歯の型取りや歯や舌のクリーニング、むし歯の治療など歯科治療を受ける際に、オエッとえづく嘔吐反射が起こることがあります。
起こり方には個人差があり、特に感じやすいとされているのは上顎の入れ歯です。入れ歯に慣れれば症状は落ち着くことが少なくありません。
しかし嘔吐反射があると、特に入れ歯を初めて使う方には治療を受けることが辛くなるでしょう。
ケースに合わせた対処法があるため、治療前に歯科医師への相談を検討しましょう。
入れ歯の型取りで嘔吐反射が起こる原因
入れ歯の型取りは、お口の奥に材料を入れる工程があるため、人によっては嘔吐反射が強く出る場合があります。
ここでは、主な原因を3つに分けて解説します。
口腔内への刺激による反射
入れ歯の型取りでは、やわらかく粘り気のある印象材(いんしょうざい)をトレーに乗せて、お口のなかに入れることが一般的です。 このドロッとした感触や喉の奥に迫る感覚が、舌の奥や口蓋を刺激し、嘔吐反射を引き起こす場合があります。特に、上顎の型取りで反応が出やすい傾向があります。 歯科医院によっては、嘔吐反射が強い方に印象材を使用せず、小型の3Dスキャナで型取りを提案することも可能です。 小型のカメラで歯や歯茎をスキャンするため、物理的な刺激が少なく、えづきを軽減しやすい方法です。 3Dスキャナの導入は歯科医院によって異なるため、不安がある場合は事前に歯科医院に相談しましょう。不安や緊張など精神的な要因
嘔吐反射は、精神面に深く関係しています。例えば過去の歯科治療で辛い経験をしたことがある場合、治療台に座ったり治療器具を見たりしただけで緊張することがあります。
その緊張が、身体の反射を引き起こす原因になり、歯科医院の受診ができない方も少なくありません。
入れ歯を入れずにいると、しっかりと噛むことができず、お口だけでなく身体の健康に悪影響を及ぼすこともあります。
実際、治療器具の音や匂いだけで吐き気を感じる方もいるとされ、歯科治療に対する不安や恐怖心が根本にあるケースです。
このような場合は、歯科医師に気持ちを伝えることで、治療の進め方を調整できます。
例えば治療中に声かけや休憩を入れたり、緊張を和らげる笑気麻酔を活用したりすることで、治療をスムーズに進められることがあります。
口呼吸の習慣
鼻で息を吸ってお口から吐き出すのが自然な呼吸法です。しかし、お口で呼吸する口呼吸の癖がある方も少なくありません。 口呼吸をしているとお口の奥に空気の流れが集中しやすく、喉や軟口蓋が過敏になって嘔吐反射を起こす場合があります。 口呼吸の方には、次のような特徴があります。- 無意識にお口を開いている
- お口の中が乾きやすい
- 鼻が詰まりやすい
- いびきをよくかく
- 起床時に喉がヒリヒリする
- 口臭が気になる
入れ歯の装着時に嘔吐反射が起こる原因
入れ歯を初めて装着したときや、調整が不十分な入れ歯を使っていると、装着時に嘔吐反射が起こる可能性があります。
これは、物理的な違和感や、新しい入れ歯に慣れていないことが主な原因です。ここでは代表的な2つの原因を解説します。
入れ歯のサイズが合っていない
歯や歯茎の形状の変化により入れ歯のサイズが合わなくなり、少しのズレでも違和感を抱く場合があります。 特に、入れ歯の床(しょう)と呼ばれるピンク色の部分が大きすぎたり、入れ歯を支える歯茎との間に隙間があったりする場合は注意が必要です。 入れ歯が動いたり浮いたりして喉に触れやすくなり、嘔吐反射が起こることがあります。 また吸着が不十分な入れ歯は、話すときや飲み込むときにずれやすく、その動きが反射を引き起こします。 こうした問題を防ぐためには、精密な型取りと定期的な調整が欠かせません。新しい入れ歯に慣れていない
入れ歯は、違和感を覚えやすく慣れるまでに時間がかかるとされています。 特に新しい入れ歯はこれまでにない異物感や圧迫感があるため、違和感を覚えるのは自然なことです。この違和感が、舌やのどの奥を刺激し、嘔吐反射のきっかけになる場合があります。 具体的な症状は次のとおりです。- 話しにくい
- 飲み込みにくい
- 唾液が増える
- オエッという感覚がある
入れ歯の型取りで嘔吐反射が起こる場合の対処法
嘔吐反射があると、入れ歯の型取りを避けたいと感じる方も少なくありません。
しかし、入れ歯は歯を失った方にとって、噛んだり話したりする口腔機能を回復する有効な治療法の一つです。
嘔吐反射が強い方でも、対処法を工夫することで、治療を受けやすくなる場合があります。
型取り時の嘔吐反射を和らげる具体的な対処法を紹介します。
リラックスを心がける
緊張して治療に臨むと、わずかな刺激でも嘔吐反射が出る可能性があります。 そのうえ「すぐに終わるから我慢してください」と言われると、さらに不安や恐怖心が増すこともあるでしょう。 好きな曲やリラックスできる音楽を聞きながら治療を受けると、緊張が和らぎます。 嘔吐症状が出ても必要以上に「我慢しなくてはいけない」と思わず、落ち着いて治療に臨むことで、症状の緩和が期待できます。 治療中に辛いと感じたら、遠慮なく歯科医師に伝えましょう。鼻で呼吸する
口呼吸が習慣になっている場合、型取りで嘔吐反射が起こることがあります。鼻で息を吸ってお口から吐き出す鼻呼吸をゆっくりすることで、症状が緩和される可能性があります。
口呼吸が習慣になっている方は、鼻呼吸を意識しましょう。鼻呼吸に改善するための方法は、次のとおりです。
- お口を閉じて鼻呼吸を意識する
- ガムを噛んでお口の周りの筋肉を鍛える
- あいうべ体操で舌とお口の周りの筋力を鍛える
- 就寝中にお口だけをマスクで覆う
麻酔を使用してもらう
治療に対する恐怖心を軽減させる鎮静法として、笑気麻酔(笑気吸入鎮静法)と静脈内鎮静法があります。 リラックス効果の高い麻酔薬を利用するため、恐怖心や不安感が軽減できます。痛みを抑える効果は少ないため注意しましょう。 笑気麻酔は治療中も会話ができ、入院の必要もありません。笑気ガスを鼻から吸引すると、約5分でリラックスした状態になります。 全身麻酔よりもリスクが低く、呼気によって速やかに体内から排泄されることが特徴です。 静脈内鎮静法は、鎮静薬を腕の静脈から点滴で直接注入する方法です。睡眠に近い状態になり、笑気麻酔よりも高い効果が期待できます。 治療当日は血圧計や心電図などのモニター装着、酸素投与、点滴などの全身管理が行われます。2時間程度の安静が必要で、身体に異常がないことを確認した後に帰宅が可能です。 静脈内鎮静法は、安全性の高い治療を行える設備と技術が必要です。いずれの鎮静法も対応できる歯科医師が限られているため、事前に確認しておきましょう。入れ歯の装着時に嘔吐反射が起こる場合の対処法
入れ歯の型取りが無事に終わっても、実際に装着した際に嘔吐反射が起こり、使用をためらう方もいます。
そのようなときでも、入れ歯の調整や設計の工夫によって症状を軽減できる可能性があります。
我慢せず、早めに歯科医師に相談することが大切です。
入れ歯を調整してもらう
入れ歯を初めて装着した際に嘔吐反射が起こると、「入れ歯は自分に合わない」と諦める方は少なくありません。 しかし自己判断は禁物です。歯科医院での調整で快適に使えるようになる可能性があります。 特に、上顎の奥にある口蓋に入れ歯が当たって嘔吐反射が起こる場合は、入れ歯の後ろの部分を少し削って調整します。 また、入れ歯が動きやすい場合は、固定したり噛み合わせの調整をしたりすることで症状が改善できるでしょう。 入れ歯は一度作製したら治療終了という訳ではありません。初めて製作したときだけでなく、加齢によりお口の状態が変化した際も調整が必要です。 調整回数は個人差があり、4~6回ほど調整を行うこともあります。違和感がなくても、定期的に歯科医院で検診を受けることで、気付かぬうちに進行するズレや不具合にも早めに対処できます。薄い入れ歯に変更する
嘔吐反射が強い方には、薄くて軽い素材で作られた自費診療の入れ歯も一つの選択肢です。
保険診療で一般的に使われるレジン床義歯は、強度を保つためにある程度の厚みが必要です。この厚みが喉の奥を刺激し、違和感や嘔吐反射の原因になることがあります。
そのため、嘔吐反射がある患者さんには、自費診療の入れ歯に変更する選択肢があります。チタン床義歯やXデンチャーなどは、自費診療ならではの素材や技術を用いるため、より薄く軽い入れ歯の作製が可能です。
これにより、口腔内での異物感が軽減され、嘔吐反射が出にくくなる場合があります。
ただし費用が高額になることや、入れ歯を固定する天然歯に負担がかかることなどがデメリットです。
また自由診療の治療法によっては、専門的な技術や設備が必要になる可能性があります。それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、自分に合った入れ歯を歯科医師と相談して選ぶことが大切です。
嘔吐反射が強くて入れ歯ができない場合の治療法
「嘔吐反射が強くて、どうしても入れ歯を装着できない」とお悩みの方でも、口腔機能を回復するための選択肢はいくつかあります。
代表的な治療法は以下のとおりです。
ここでは、それぞれの治療の流れやメリット・デメリット、向いているケースをわかりやすく解説します。治療費やご自身のライフスタイルに合わせて、治療法を選びましょう。
ブリッジ
ブリッジは、歯を失った部分の両隣の歯を支えにして、橋のようにつないだ被せ物を装着する治療法です。 固定式のため、入れ歯のように取り外す必要がなく、装着中の違和感は少ないとされています。 入れ歯の異物感に抵抗がある方にとってはなじみやすい治療法といえるでしょう。ただし、土台となる健康な歯を削る必要があります。 削られた歯は将来的に負担がかかりやすくなるため、長期的なケアも重要です。また、失った歯の本数が多い場合や、支えとなる歯の状態が悪い場合には適応できない可能性もあります。 治療期間は短い傾向にあり、保険診療の対象になる場合もあるため、治療費を抑えたい方にもおすすめです。インプラント
インプラントは、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、歯の形と機能を回復させる治療法です。 入れ歯のように、毎日付けたり外したりする必要がなく、見た目も噛み心地も天然歯に近いことが特徴です。 また口蓋部分を覆わないため、異物感が少なく、嘔吐反射が強い方にも適しています。ほかの歯への傷つける負担が少なく、周囲の歯を削る必要もありません。 さらに、噛む刺激が顎の骨に伝わることは、骨の吸収を抑えるのに効果的です。 ただし外科的な処置が必要なため、インプラントは全身状態の確認や十分な治療期間が伴います。また自費診療となるため、治療費用は高額になる傾向にあります。継続的なメンテナンスも重要です。オールオン4
オールオン4は、片顎に4本のインプラントを埋め込み、固定式の人工歯を装着する治療法です。 総入れ歯が合わない方や多くの歯を失った方に適しているとされています。この方法では、歯の本数分のインプラントは必要ないため、身体的にも経済的にも負担軽減が期待できます。 手術当日に仮歯を装着できるケースもあり、早期に見た目と噛む機能の回復が可能です。 異物感が少なく、取り外しの必要もないため、嘔吐反射で悩む方にとっては大きなメリットになるでしょう。 ただし、顎の骨が極端に少ない場合や、欠損している場合は選択できない可能性があります。またインプラントと同様に外科処置が必要なため、費用も高額です。]まとめ
入れ歯で嘔吐反射が起こる原因には、口腔内への刺激や精神的な要因、さらには口呼吸の習慣といったさまざまな要因が関係しています。 また入れ歯のサイズが合っていない、新しい入れ歯に慣れていないなどの理由で、装着時に嘔吐反射が出る場合もあります。 嘔吐反射が辛くて入れ歯治療を諦めてしまう方は少なくありません。 しかし、症状の程度や原因に応じて対処法があり、工夫や治療を重ねることで改善する可能性があります。 また入れ歯は一度作ったら終わりではなく、お口に合うように調整を重ねたり、定期的に検診を受けたりすることが重要です。 嘔吐反射でお悩みの場合も、まずは一人で抱え込まず、歯科医師に相談しましょう。
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