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透析アミロイドーシス
井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

透析アミロイドーシスの概要

透析アミロイドーシスは、長期間の透析治療によって起こる合併症の1つです。アミロイドというタンパク質が骨や消化器などの全身の臓器に沈着して、骨の破壊、腱や神経の機能不全、嘔吐や腹痛などが現れる病気です。

透析アミロイドーシスでは、アミロイドが骨や関節に沈着しやすいことが特徴であり、手根管症候群や透析脊椎症などによるしびれや痛みなどの症状が見られます。
悪化すると正常組織の破壊が進んで骨折の原因となったり、虚血性腸炎や心不全などをきたしたりする場合もあるため、早い段階で病気の進行を抑えることが重要です。

透析アミロイドーシスは、透析の開始年齢や透析期間の長さなどが発症リスクに関与するため、予防のためにはできるだけ早い段階でベータ2ミクログロブリンを除去する必要があります。

透析アミロイドーシスは、国内に1-2万人の患者がいると推測されています。
医療技術の発展により透析患者の長期生存の実現が可能となったため、透析アミロイドーシスの予防が非常に重要です。

すでに透析を受けている場合は透析アミロイドーシスを完全に予防することは難しく、病気の進行を抑制するための予防治療や、現れた疼痛や関節痛などの症状に対して対症療法や外科的治療が選択されます。

透析患者の予防治療では、アミロイドの除去に優れた透析方法への変更が第一選択ですが、腎移植による治療が行われる場合もあります。

透析アミロイドーシス

透析アミロイドーシスの原因

透析アミロイドーシスの原因は、ベータ2ミクログロブリンという異常なタンパク質により形成されたアミロイドの臓器への沈着です。

ベータ2ミクログロブリンは、通常の透析膜(血液をろ過して血中の不要なものを除去しきれいにする)では除去が難しく、血中にとどまってアミロイドを形成し、臓器に沈着すると言われています。

透析アミロイドーシスが骨や関節に沈着しやすい理由は現時点ではわかっていませんが、加齢にともなう組織の変性がアミロイドの沈着につながる可能性があります。
アミロイドの沈着が組織内であらゆる反応を引き起こし、アミロイドの沈着と組織の破壊を助長すると考えられています。

透析アミロイドーシスの前兆や初期症状について

透析アミロイドーシスの主な症状は、手や肩、股関節、膝関節などの全身の関節の痛みや、手根管症候群による手指のしびれや痛み、脊髄が背骨とアミロイドが沈着した靭帯に圧迫されることによる腰や足びしびれ(脊柱管狭窄症)、指を曲げたり伸ばす動作がこわばったり難しくなる(ばね指)などが挙げられます。

とくに手根管症候群は透析アミロイドーシス患者に多く見られる症状であり、透析治療を受けている人で手の痛みやしびれが見られた場合には注意が必要です。

重症化すると正常組織の破壊が進み、骨の中に空洞(骨のう胞)ができます。
骨のう胞ができると骨が薄くなってもろくなり、骨折をきたしやすくなります。
とりわけ透析アミロイドーシスは大腿骨の頸部骨折をきたす場合が多いと言われています。大腿骨頸部骨折をきたした場合には治療が難しく、生活の質の低下や心理的喪失感につながりやすいため、骨折を防ぐことが重要です。

骨や関節以外にも、虚血性腸炎や心不全などの症状が見られることがあります。

全身の関節の痛みやしびれ、突然の腹痛とそれにともなった下痢、真っ赤な下血がみられた場合、息切れや足のむくみなどが目立つ場合は、できるだけ早めに主治医に相談しましょう。

透析アミロイドーシスの検査・診断

透析アミロイドーシスは症状をもとに診断を行いますが、変形性関節症や関節リウマチなどの類似した症状を示す疾患と鑑別する目的で画像検査(レントゲン検査、CT検査、MRI検査など)や血液検査、病理検査などが行われることがあります。

画像検査は、骨の内部に空洞や変形、アミロイドの沈着によって正常構造を圧迫している箇所の確認や、骨折部位や消化器の出血原因を探す目的で行われ、撮影する部位に応じて適切な撮影方法が選択されます。

血液検査は、炎症反応を確認する目的で血液中の白血球数やC反応性タンパク質(CRP)を測定し、関節リウマチや化膿性関節炎のような炎症性の疾患と透析アミロイドーシスを鑑別します。

病理検査では、病変部分から採取した組織を特殊な液体で染めて顕微鏡で観察することによって病変にアミロイドが含まれているかを確認できます。

透析アミロイドーシスの治療

透析アミロイドーシスを発症した場合、沈着したアミロイドを除去することは難しく、現れた症状に対しての対症療法や手術が検討されます。

関節や骨の痛みが現れた場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与が第一選択です。
症状が強い場合には副腎皮質ステロイド薬が使用される場合もありますが、長期的な服用はリスクが高いため、手術が選択されるケースもあります。

しびれや身体を動かしにくいなどの症状が見られるケースや、関節の機能低下、骨折をきたしたケースも症状の緩和を目的として手術が検討されます。

手根管症候群の治療では圧迫された神経を開放させる手根管開放術、透析脊椎症の治療では神経の開放にあわせて椎体の固定をおこなう固定術が選択されます。

軽度の虚血性腸炎がみられる場合は、基本的には特別な治療は必要ありませんが、腸に穴が空いたり、腹膜炎などが生じたケースでは、手術が選択される場合もあります。

透析アミロイドーシスになりやすい人・予防の方法

透析アミロイドーシスの根本的な予防は透析を受けないこと、すなわち腎臓機能を低下させないことです。
腎臓機能の悪化の予防には、生活習慣の改善が重要です。
禁煙に取り組み、適度な運動やバランスのとれた食事を心がけ、飲酒もほどほどに控えるとよいでしょう。
定期的に健康診断を受診し、高血圧や糖尿病の状態を把握することも有効です。

透析アミロイドーシスは、透析を開始した年齢や透析方法、透析期間の長さ、加齢などが発症のリスクを高めます。
このため透析期間の長い高齢患者は、透析アミロイドーシスになりやすいと言えます。
透析を開始後10年で40%、20年で90%の患者が透析アミロイドーシスを発症することが報告されています。

透析を受けている場合は、透析アミロイドーシスの発症原因となるアミロイドを除去することも重要です。
生体適合性のよい透析膜を使用した効率の高い透析の実施や純度の高い透析液の使用、高効率でアミロイドの原因となるベータ2ミクログロブリンを除去できる透析方法の選択などが効果的です。


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