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がん
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

がんの概要

がんは悪性腫瘍とも呼ばれ、遺伝子が傷つくことで起こる病気です。

私たちの体にある細胞は、生命維持のために分裂を繰り返していますが、分裂する際、遺伝子に傷がつくことがあります。通常であれば傷ついた遺伝子は「修復酵素」と呼ばれる酵素の働きにより修復が行われますが、不完全な修復で終わる場合があります。

修復に失敗した細胞の多くは死んでしまうのですが、中には生きながらえる細胞もいます。この生きながらえた細胞が、突然変異してがん細胞に変化する可能性があるのです。

正常な細胞は、必要に応じて分裂していき、必要がなくなれば分裂を止めます。一方、がん細胞の場合は、止まることなく無秩序に増え続けるのが特徴です。

がんの種類は次のように分けられます。

大分類 小分類 がんの例
固形がん がん腫 大腸がん、肺がん、胃がん、前立腺がん、すい臓がんなど
肉腫 脂肪肉腫、骨肉腫など
血液がん 悪性リンパ腫、白血病など

2022年に厚生労働省と国立がん研究センターが公表した2019年のデータによれば、部位別がん罹患数は、男性だと「前立腺がん」「大腸がん」「肺がん」の順に多く、女性だと「乳がん」「大腸がん」「肺がん」の順に多いと報告されています。
出典:厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況 第7表 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対)」 )

また、厚生労働省が2023年に公表した2022年のデータによれば、部位別がん死亡数は、男性だと「肺がん」「大腸がん」「胃がん」、女性だと「大腸がん」「肺がん」「すい臓がん」の順に多いと報告されています。
出典:厚生労働省「令和2年全国がん登録罹患数・率報告」 )

高齢化の影響もあり、がんの罹患者と死亡者数は増えています。しかし高齢化の影響を除くと、がんで死亡する人の割合は1990年代半ばから減少傾向にあります。

がんの原因

がんの発症は「遺伝要因」と「環境要因」が関与しています。家系内にがんを発症する方が多い、若くしてがんを発症した家族がいるといった場合、遺伝的にがんになりやすい体質である可能性があります。

環境要因に関しては、喫煙や日頃の食生活、飲酒、肥満などの生活習慣、年齢、肝炎ウイルス、ピロリ菌などへの感染、発がん性のある化学物質の取り込みなどが該当します。

生活習慣に関して、喫煙で1.6倍、飲酒で1.4〜1.6倍、肥満で1.22倍、がんの発症リスクが上がると推計されています。
(出典:環境省「がんのリスク(生活習慣)」

それぞれの生活習慣が発症リスクを上げるがんの種類は、以下のとおりです。

  • 喫煙:肺がん・喉頭がん・尿路がん・口腔がん・咽頭がん・子宮頸がんなど
  • 食事:大腸がん・胃がん・食道がん・鼻咽頭がんなど
  • 飲酒:口腔がん・咽頭がん・喉頭がん・食道がん・大腸がん・肝臓がん・乳がんなど
  • 肥満:食道がん・肝臓がん・乳がん・腎臓がん・すい臓がんなど
  • 感染:肝臓がん・子宮頸がん、胃がんなど
  • 化学物質:肺がん・尿路がん・喉頭がんなど

がんの前兆や初期症状について

がんは前兆なく無症状で進行していき、ある程度進行したところで突然症状があらわれることが多いのが特徴です。

【がんの進行の仕方】

  • 正常な組織
  • 正常な組織の中に、遺伝子が傷ついた(変異した)異常な細胞ができる
  • 異常な細胞の中で複数の遺伝子の変異が蓄積して増殖が止まらなくなり、腫瘍(かたまり)を作る
  • 浸潤:異常な細胞が、基底膜(上皮と間質の境目にある膜)を越えて広がる
  • 転移:血管などに入り込んで全身に広がる

がんの種類によって症状が異なりますが、いずれの種類でも見られる症状としては、不調の持続や体重の減少などが挙げられます。他にも、発熱や黒い便、皮膚の黒ずみ、まぶたの腫れ、長引く咳などがあらわれることがあります。

がんの検査・診断

がんでは次のような検査を実施し、検査結果に基づいて診断が下されます。

血液検査
血液の成分を知ることで、がんの可能性があるかどうかが分かります。ただし、血液検査だけでは可能性の範囲にすぎないため、他の検査との併用が必要です。

腫瘍マーカー
腫瘍マーカーとは、がん細胞が増殖したときに作り出される物質のことです。腫瘍マーカーの数値を計測し、がん発症の可能性や発症部位を検査します。しかし、がん以外の病気や加齢、薬剤、飲酒などが数値に影響している場合があるため、複数の腫瘍マーカーを検査しつつ、他の検査と併用する必要があります。

内視鏡検査
食道や胃に内視鏡を入れて、内側の状態を直接観察する検査方法です。すでにがんの発症が判明している場合は、がんの広がりや大きさも調べられます。また必要に応じて、組織を一部採取して検査する場合もあります。

画像検査
CTやMRI、PETといった画像検査で、がんを発見することができます。また、治療中の効果判定やがんの悪性度を診断する目的としても画像検査は行われます。

マンモグラフィ(乳房X線検査)
乳房にX線を照射して、乳房内のがんを見つける検査です。乳腺の重なりによる病変の見逃しを避けるために、乳房を板で圧迫することで薄く伸ばし撮影します。

超音波検査
がんのある場所や形、大きさなどを確認する検査です。超音波を送受信する機器をあてて、体内の組織や臓器から跳ね返ってくる超音波を画像に反映します。前立腺や子宮、肝臓など幅広い臓器を、被ばくの心配なく検査が可能です。

子宮頸部細胞診
子宮の入口である子宮頸部に、異常な細胞がないかを調べる検査です。医師がブラシやヘラで細胞を採取して、顕微鏡でがんの疑いがないかを確認します。

HPV検査
ヒトパピローマウイルス(HPV)がないかを調べる検査です。HPVには発がんリスクの高いものと、発がんリスクの低いものがあるため、HPVが発見された場合はどちらに該当するかを確認します。

がんの治療

がんの主な治療法は、手術療法、薬物療法、放射線治療です。がんの進行や状態に応じて「薬物療法と手術療法」「手術療法と放射線治療」のように、組み合わせて治療していきます。

手術療法は、がん化した部分の除去を目的に行います。手術の方法は、開腹手術や腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術などがあり、がんの状態に合わせて適切な方法が選択されます。

薬物療法には、化学療法、ホルモン療法、分子標的療法などがあります。いずれもがんの進行の抑制や症状の緩和、がん細胞の排除が目的ですが、それぞれ異なるメカニズムで効果をもたらします。

放射線治療は、がんを標的にして放射線を照射する治療法です。その際、正常な組織も放射線の影響を受けますが、自力で修復する力をもっているため、がん細胞だけが死滅します。

また、これらに加えて、免疫療法を行うこともあります。免疫療法は、元々備わっている免疫の力を利用してがんの排除を促す治療方法です。がん細胞は免疫を弱める働きがあるため、免疫療法で免疫の弱体化を防ぎます。効果が証明されている免疫療法は、保険診療で受けられますが、自由診療として行われる免疫療法の中には効果が実証されていないものもあるため注意が必要です。

がんになりやすい人・予防の方法

先述したように遺伝要因をもつ人は、がんになりやすいです。その場合、若い年齢でがんを発症する傾向があります。さらに喫煙や飲酒といった生活習慣を送ることで発がんリスクを高めます。

遺伝要因を取り除くことは困難なため、予防として取り組めることは生活習慣の改善です。ただし、生活習慣を改善してもがんの発症リスクを100%防げるわけではないことは把握しておく必要があります。

またがんに罹患しても死亡するリスクを下げるために「早期発見・早期治療」を心掛けることが重要です。がんを生じてから時間が経過するほど、他の組織への浸潤や転移が進み、治療が困難となってしまいます。定期的にがん検診を受けることで、早い段階でがんを見つけられ、早めに適切な治療を受けることが可能となります。

市区町村で実施しているがん検診は安価で受けられるため、早期発見・早期治療に向けて積極的に受診するようにしましょう。


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