

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
自己免疫疾患の概要
自己免疫疾患は、免疫系が誤って自分の体の細胞や組織を攻撃してしまうことで起こる病気です。
本来攻撃しないはずの自分の体の細胞・組織に対して免疫応答が惹起され、組織の炎症・損傷が起こります。
自己免疫疾患は、全身に影響が及ぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異自己免疫疾患に分けられます。
以下に、それぞれについて説明します。
全身性自己免疫疾患
全身のさまざまな臓器や組織に自己免疫のメカニズムによる障害・炎症が起こる疾患のことです。
例として、下記のような疾患が挙げられます。
〈全身性自己免疫疾患の例〉
- 関節リウマチ
- 全身性エリテマトーデス
- 全身性強皮症
- 多発筋炎(多発性筋炎)/皮膚筋炎
- シェーグレン症候群
- 混合性結合組織病
- 血管炎症候群
- 若年性特発性関節炎
- 成人発症Still病
- ベーチェット病
- 再発性多発軟骨炎
- IgG4関連疾患
- サルコイドーシス
全身性自己免疫疾患と似た言葉に「膠原病・膠原病類縁疾患」があります。
もともと、「膠原病」とは真皮・靭帯・腱・骨・軟骨などの「結合組織」を構成するコラーゲンに異常が起こる疾患群として提唱された概念です。
膠原病という概念が提唱された当初は、下記のような疾患が含まれていました。
〈古典的膠原病〉
- 関節リウマチ
- リウマチ熱
- 結節性多発動脈炎
- 全身性エリテマトーデス
- 全身性強皮症
- 皮膚筋炎
このうち、「リウマチ熱」は溶連菌という細菌の感染が関与していることがわかり、現在は膠原病とは考えられていません。
現在では疾患の概念が広がり、ほかの全身性自己免疫疾患の多くも含めて膠原病やその類縁疾患と呼ばれています。
臓器特異的自己免疫疾患
臓器特異的自己免疫性疾患の例としては以下のようなものがあります。
〈臓器特異的自己免疫疾患の例〉
- 潰瘍性大腸炎(大腸)
- クローン病(大腸)
- 若年性1型糖尿病(膵臓)
- 自己免疫性肝炎(肝臓)
- 原発性胆汁性肝硬変(肝臓)
- バセドウ病(甲状腺)
- 橋本病(甲状腺)
- 天疱瘡(皮膚)
- 多発性硬化症(神経)
自己免疫疾患の原因
自己免疫疾患は「自己」に対する免疫応答が原因と考えられています。
本来、免疫系は体の外から入ってきた有害な病原体などから体を守るための仕組みです。免疫のシステム内では、正常な自分の体の細胞や組織(自己)と有害な異物(非自己)を区別できます。そのため、非自己を認識したときのみ免疫反応が起こり、私たちは健康を保っているのです。
自己の成分を認識しても免疫応答を起こさない状態を「トレランス(免疫寛容)」と呼びます。自己免疫疾患はこのトレランスの破綻によるものと考えられています。本来「自己」であるはずの細胞や組織に対して免疫反応が起こることで、組織の炎症・損傷が引き起こされるのです。
では、なぜトレランスの破綻が起こってしまうのかというと、その原因ははっきりわかっていません。現時点では、遺伝的要因とさまざまな環境要因が複雑に関わって起こると考えられています。
自己免疫疾患の前兆や初期症状について
疾患により、さまざまな症状が起こるため、一概には言えません。ここでも、全身性か臓器特異的なものかで分けて考える必要があります。
全身性自己免疫疾患の場合
全身性自己免疫疾患の場合は、発熱・多数の関節の痛み・さまざまな皮疹などが比較的多い症状です。
また、「膠原病」の初期症状として有名なものにレイノー現象があります。寒冷時などに、手や足の指の一部が発作的に白くなるものです。人によっては紫になったり、温めると真っ赤になったりすることもあります。「全身性強皮症」や「混合性結合組織病」をはじめとしたいくつかの膠原病に特徴的な症状です。ただし、膠原病が背景になくても起こることもあるため、レイノー現象すなわち膠原病ではありません。
発熱、関節の痛み、皮膚の湿疹など全身にまたがる複数の症状がある場合や、膠原病のご家族がいて心配されている場合は、膠原病内科・免疫内科を標榜している病院に相談されてください。近くにない、判断に迷うという場合は、まずは一般内科・総合内科で診てもらうのでも良いでしょう。
臓器特異的自己免疫疾患の場合
臓器特異的自己免疫疾患の場合は、臓器特有の症状が現れます。わかりやすいものであれば、天疱瘡は皮膚の水疱ができますし、潰瘍性大腸やクローン病では繰り返す下痢・腹痛・下血などが起こります。ただし、自己免疫性肝炎など初期の自覚症状がほとんどない疾患や、糖尿病や甲状腺疾患など一見してどこの臓器の不調なのかがわかりにくい疾患もあります。
症状が気になって受診をする場合は、その部位の専門科を受診してください。たとえば、湿疹・水疱などであれば皮膚科へ、消化管の症状であれば消化器内科へ受診しましょう。
自己免疫疾患の検査・診断
自己免疫疾患の種類により、診断のために必要な検査が異なります。そのため、自己免疫疾患をそれぞれの疾患の専門の先生から検査計画を立ててもらう必要があります。
一部の自己免疫疾患では、免疫が自分の体を攻撃してしまっていることを示す「自己抗体」があることがわかっています。何かの自己免疫疾患を疑ったとき、この自己抗体も診断の手掛かりになります。ただし、自己抗体がない疾患があったり、健常な方にも検出される自己抗体があったりするため、絶対的な基準ではありません。
多くの自己免疫疾患では、「診断基準」「分類基準」と呼ばれるものがあり、診断の際に参考にされます。しかし、どの疾患でも100%診断できる基準はありません。経過や各種検査所見を踏まえて総合的に診断する必要があります。
自己免疫疾患の治療
多くの自己免疫疾患は、免疫系を抑制することで治療します。誤って自己を攻撃してしまう、いわば免疫の暴走状態を止めることが治療につながるのです。
疾患ごとに治療薬は異なります。その中でも「ステロイド」は比較的よく用いられるため、名前を聞いたことがある方も多いでしょう。副腎皮質という組織が分泌する、「ステロイドホルモン」を薬に応用したものです。免疫抑制作用と抗炎症作用に優れており、効果発現も早いのが特徴です。数多くの自己免疫疾患の治療や、治療の補助として使用されています。
一方で、大量・長期に使用することで、副作用も増えてきます。例えば、感染症にかかりやすくなったり、骨粗鬆症をきたし骨折したり、血圧・コレステロール・血糖値などを高くしたりなどが挙げられます。
ただし、自己免疫性疾患の中にはステロイドの効果がなかったり、逆に病状を悪化させてしまう疾患もあります。確立された治療法がないもの、対症療法のみしかできないものも少なくありません。
最近では、免疫抑制薬や分子標的治療薬(生物学的製剤)なども使用されており、疾患の種類や重症度に応じた治療が行われます。
治療方法の詳細については、医師からしっかり説明を受けましょう。
自己免疫疾患になりやすい人・予防の方法
複数の自己免疫疾患を合併する人がいることから、自己免疫疾患にかかりやすい人が一定数いると考えられます。しかし、確実に発症を予測することは困難です。
多くの自己免疫疾患では、男性よりも女性患者さんが多いことがわかっています。全身性・臓器特異的自己免疫疾患のどちらも、女性は男性の2〜10倍の比率と言われているのです。なぜ女性に多いのか、いくつかの原因が挙げられていますが、特に女性ホルモンの影響は大きいと考えられています。
自己免疫疾患の家族がいる方は、自己免疫疾患にかかりやすい可能性があります。ただし、遺伝因子のほかに環境要因も合わさって発症することから、全員が発症するわけではありません。
原因が完全に解明されていない以上、どうやったら予防ができるかははっきりわかっていません。
参考文献
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/mhc/31/1/31_20/_pdf/-char/ja
- https://www.mmjp.or.jp/nishisonogi-med/sickness42.html
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsci/29/1/29_1_8/_pdf/-char/ja
- http://www.aid.umin.jp/aboutus/
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/57/4/57_329/_pdf/-char/ja
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsci1978/26/4/26_4_164/_pdf/-char/ja
- https://www.dermatol.or.jp/qa/qa7/s1_q10.html




