監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
マルファン症候群の概要
マルファン症候群は、全身の結合組織が弱くなる遺伝性疾患です。結合組織は、骨や皮膚、血管など身体の構造を支える役割を果たしており、弱くなると全身の臓器や組織に異常が生じます。例えば、大動脈瘤や大動脈解離、骨格変異、自然気胸、水晶体亜脱臼などの症状が現れます。
この疾患は、常染色体優性遺伝であり、両親のいずれかが罹患している場合に起こりやすいです。原因はフィブリリン、TGFβ受容体です。フィブリリンは、細胞を構成する物質であり、異常により全身の結合組織が弱くなります。また、TGFβの過剰な活性化が関与しているとも言われています。
マルファン症候群の原因
マルファン症候群の原因は、フィブリリン1(FBN1)遺伝子の変異です。この遺伝子は結合組織の重要な構成要素であるフィブリリンというタンパク質の情報を持っています。フィブリリンは、細胞外マトリックスの一部として、組織の弾性や強度を保つ役割を果たしています。
FBN1遺伝子の変異によりフィブリリンの生成が不完全になり、結合組織が弱くなるのです。結合組織の弱化は、身体の成長と発達に大きな影響を与え、心血管系、骨格系、眼の異常を引き起こします。
マルファン症候群の前兆や初期症状について
マルファン症候群の前兆や初期症状は多岐にわたりますが、主に骨格系、心血管系、視覚系に関連する症状が多く見られます。特に心血管系で大動脈瘤や大動脈解離を合併する可能性が高く、突然死につながるためこれらの症状を早期に発見することは、生命予後に直結します。
骨格系の症状
骨格系の症状としては、長い手足や指、身長の異常な高さ、脊柱側弯症(脊椎が左右に曲がる)などがあります。また、胸骨の中央部がへこむ漏斗胸や胸骨が突出する鳩胸になることもあります。これらの特徴は、成長期で現れ、身体がアンバランスに成長する可能性が高いです。
心血管系の症状
心血管系の症状には、大動脈瘤(大動脈の一部が異常に膨らむ)や大動脈解離(大動脈の壁が裂ける)があります。また、心臓弁の異常により血流の逆流や動脈の拡張が起こり、心疾患を引き起こしやすいです。これらの症状は生命を脅かす可能性があるため、定期的な検査と早期の治療が必要です。
これらの症状がみられた場合、 複数の専門科が関与し、循環器内科、心臓血管外科、整形外科、眼科、呼吸器科、小児科、遺伝科などを受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
視覚系症状
視覚系症状には、緑内障、白内障、水晶体の偏位(異常な位置にずれる)、網膜剥離などが挙げられます。これらの症状は視力に大きな影響を及ぼすため、早期の眼科的診断と治療が重要となってきます。
マルファン症候群の検査・診断
マルファン症候群の診断は、臨床的な評価と遺伝子検査を組み合わせて行われます。マルファン症候群は遺伝性疾患であるため患者さんの家族歴や症状の詳細を問診で聴取するのが大切です。次に、身体検査で骨格系、心血管系、眼の異常をチェックします。
骨格系の検査は、手足の長さや胸骨の形状、脊柱の側弯具合などの評価です。心血管系の異常は、エコー検査やMRIが用いられ、大動脈や心臓弁の状態を詳しく調べます。眼科的な検査では、視力検査や眼底検査が行われ、水晶体の偏位や網膜の状態を確認します。
遺伝子検査は、FBN1遺伝子の変異を確認するための検査です。遺伝子検査の結果は、臨床的な診断を裏付けるものであり、他の家族の診断や遺伝カウンセリングに役立ちます。
診断基準としては、Ghent基準が広く用いられます。これは、主要な臓器系の症状と家族歴の結果を総合的に評価するものであり、正確な診断を下すために重要です。
マルファン症候群の治療
マルファン症候群の治療は、症状の管理と予防を目的とした多面的なアプローチが必要です。治療は、患者さん個々の症状や状態に応じて異なり、多職種の医療チームが連携して行います。
心血管系の治療
心血管系では、人工血管置換術、血圧を下げるための薬物療法が用いられます。心血管系の合併症は予後に直結するため、血圧管理は特に重要です。そのため、定期的な検査と早期の介入を行い、大動脈瘤や大動脈解離のリスクを減らします。h3:骨格系の治療
骨格系の問題に対しては、整形外科的な治療やリハビリテーションが行われます。脊柱側弯症や胸骨の異常に対する手術が必要な場合もあります。成長期の子供に対しては、成長過程を注意深く観察し、必要に応じて早期に介入します。
眼の治療
眼の治療には、視力の矯正や水晶体の手術が含まれます。緑内障・白内障などは視力に影響するため治療が重要です。また、網膜剥離により失明する危険性があるため定期的な眼科検査が推奨されます。
マルファン症候群になりやすい人・予防の方法
マルファン症候群は、常染色体優性遺伝の遺伝性疾患であるため、親が罹患している場合、子どもが発症する確率は75%です。したがって、マルファン症候群の家族歴がある人は、発症リスクが高いです。一方で、約25%の患者さんでは、家族歴がなく突然の遺伝子変異によって発症する場合もあります。
マルファン症候群自体は遺伝や遺伝子の突然変異が原因のため予防できませんが、マルファン症候群による心血管疾患の合併症を予防することは可能です。
心血管疾患の予防
血管に負荷がかかることを避けるのが心血管疾患の予防に繋がります。例えば、カフェインや心血管系を刺激する薬などです。また、心血管症状を早期に発見するためにエコーやMRIなど定期的な検査を受けることが大切です。
さらに、日常生活では、過度な運動を避け、適切な体重管理を心がけることが血管を守るために大切になります。食事や生活習慣にも注意を払い、ストレスを溜めないようにすると、病気の進行を抑えられるでしょう。
参考文献