白内障は多くの方が経験する病気です。年齢を重ねるにつれて白内障と診断される方が増え、見えにくさに悩まされる方が少なくありません。
しかし、日帰り手術が普及したことで、短時間の手術で発症前のクリアな視界を取り戻せるようになりました。
この記事では白内障の原因や症状とともに、手術後の見え方や生活上の注意点・合併症を解説します。日頃から白内障かもしれないと感じている方に、この記事が参考になれば幸いです。
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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
白内障の原因と症状

白内障の原因を教えてください。
白内障はカメラのレンズに相当する水晶体が濁る病気です。水晶体を構成するタンパク質が変性して白く濁ります。主な原因は
加齢による組織の劣化で、早く症状が現れる方では40代から見えにくい症状が出てきます。年齢とともに発症する方が増え、80代ではほぼ全員の方に症状が見られる病気です。加齢以外の原因では以下のようなものが挙げられます。
- 先天的なもの
- 外傷
- 放射線の影響
- ステロイド剤の影響
- アトピー
- 糖尿病
- ぶどう膜炎
先天的な原因として挙げられるのは、遺伝や妊娠中の風疹感染です。また、スポーツや交通事故による傷が原因で濁る場合もあります。病気治療時の放射線・薬剤で濁る場合や、アトピー・糖尿病などの全身疾患・眼の炎症も濁りの原因です。
白内障になると視界はどのような見え方になりますか?
初期の白内障では見え方の異常が少なく、ある程度
進行するまで気付きにくいのが白内障の特徴です。進行するにつれて水晶体の濁りが増し、光が異常に散乱したり透過性が低下したりして、さまざまな症状が出始めます。主な症状は以下のとおりです。
- 視界がかすむ
- 視界に霧がかかったように見える
- まぶしさを感じる
- 視界がぼやける
白内障の進行につれてこうした変化が出て、次第に視力が低下します。水晶体の濁りで網膜に届く光に変化が生じ、鮮明な像が結べなくなった状態です。これが進行すると、白っぽく見えていた視野が黄色く見えるようになります。ものの形もはっきり見えません。さらに進んで後期になると、視力低下で何も見えなくなります。瞳の外観も茶色く濁って見える状態です。
白内障は手術で治る病気ですか?
白内障は手術で治ります。薬物による治療法もありますが、現段階ではすでに生じた水晶体の濁りを薬物で取ることはできません。あくまで濁りの進行を抑制する目的で行う治療法です。そのためごく初期の場合を除き、白内障を治すには手術が唯一の治療法です。手術では濁った水晶体を超音波で砕いて吸引した後、代わりにシリコンやアクリルの眼内レンズを挿入します。この手術によって濁りがなくなり、クリアな視界が戻ってきます。眼内レンズの寿命は長く、特別な異常がない限り生涯使い続けることができます。
白内障手術後の見え方

白内障手術後すぐに視力は回復しますか?
白内障の日帰り手術を受けると、当日は眼帯をしたまま帰宅します。翌日医師の診察を受けて眼帯を外しますが、ほとんどの方はそのときには視力が回復した状態です。濁りが取れてクリアな視界が得られるでしょう。ただ、手術の影響による炎症で角膜に腫れが出る場合があり、そのときははっきり見えるまでに1週間程度かかることがあります。術後は頻繁に点眼を行うので、時間とともに見えづらさは回復します。また、眼内レンズの見え方に脳が慣れていないための違和感もあるでしょう。濁りで見えなかった青い光が見えるようになり、視野が青く見える方もいます。この場合も数ヶ月で回復するはずです。
白内障手術後は近くも遠くもよく見えますか?
白内障の手術後には、挿入する眼内レンズの種類によっては近くも遠くも見えるようになります。眼内レンズには、水晶体のように自動でピントを調整する機能がありません。そのため、自分が見たい範囲に適応した焦点を持つ眼内レンズを選ぶようになります。焦点が2つ以上ある多焦点レンズでは、近くも遠くも見ることが可能です。ただし見え方は鮮明度がやや劣ります。また焦点が一つだけの単焦点レンズの場合は、近焦点レンズを選ぶと遠くが見えにくく、遠焦点レンズでは近くが見えにくいのが特徴です。屋内の生活が主体の方は近焦点レンズ、屋外で仕事をする方は遠焦点レンズを選びましょう。
白内障手術後に眼鏡は必要ですか?
白内障の手術後には、多くの方で眼鏡が必要です。手術で挿入するレンズのうち焦点が一つの単焦点レンズでは、近焦点レンズを選んでも遠焦点レンズを選んでも、それぞれに見えにくい範囲ができてしまいます。そのため見えにくい部分を補うために、眼鏡やコンタクトレンズが必要です。近焦点レンズでは遠くを見るための近視用メガネが必要で、遠焦点レンズでは近くを見るための老眼鏡が必要になります。一方で焦点が2つ以上ある多焦点レンズでは、ほとんどの場合眼鏡なしで生活できます。眼鏡なしで生活したい方や眼鏡のかけはずしが面倒な方に向きますが、健康保険が一部しか適用されず費用は高額です。多焦点レンズで眼鏡が不要になったと言われる方は90%程度で、読書などの場合は眼鏡を使う方も見受けられます。
白内障手術後の生活の注意点

白内障手術後に運転はできますか?
白内障の手術からしばらくは、運転を控えましょう。当日は終日眼帯や保護眼鏡を装着します。その状態で運転する行為そのものは、普通車の場合違法ではありません。ただし開いている眼の視力が0.7以上で左右の視野が150度以上が条件です。しかし片眼では距離感がなく、夕方や夜間は視力も落ちるので安全性の問題があります。そのため手術の当日は、家族に送迎してもらうかタクシー・バスを使いましょう。また、翌日以降も1週間程度は運転を控えます。手術後の眼は開いていても見え方に脳が慣れておらず、視認能力が低下して危険です。
白内障手術後に洗顔や入浴はできますか?
白内障の手術で大きなリスクとなるのが感染症で、場合によっては失明につながるため、万全の注意が必要です。そのため手術当日から1週間程度は洗顔や入浴は禁止されます。ただし、手術の翌日からは、絞ったタオルで顔をふく程度ならかまいません。また、首から下ならシャワーもできますが、眼の周囲はできるだけ触れないようにします。手術から1週間後には、医師の許可があれば洗顔・入浴・洗髪ができるようになります。その場合でも、眼球を圧迫しないように注意するとともに、シャンプーやせっけんが眼に入らないように努めましょう。
白内障手術後に飲酒や喫煙をしてもよいですか?
飲酒は術後1週間程度は控えます。アルコールによって炎症が悪化するリスクが大きくなるためです。どの手術でも同じですが、アルコールの作用で血管が膨張して傷跡からの出血を促す恐れもあります。傷の回復のためにも、飲酒はできるだけ控えるべきです。さらに、お酒を飲んで気分が高揚すると、思わず目の周囲をさわってしまう場合もあり得ます。そのようなリスクを避けるためにも、お酒は控えましょう。また、喫煙も好ましくなく、有害物質を多く含む煙が目を刺激します。傷口の保護のため、術後1週間は喫煙を控えましょう。
白内障手術後に注意すべき合併症を教えてください。
白内障の手術は安全性に配慮して行われますが、手術である以上合併症の可能性が避けられません。リスクが高い合併症に細菌性眼内炎があります。術後数日のうちに細菌感染がおこり、見えにくさと痛みや充血が主な症状です。対応が遅れると失明するので、異変を感じたらすぐに受診しましょう。また、術後時間をおいて発症する後発白内障があります。手術前と同じようなかすみやまぶしさを感じる状態で、眼内レンズが入った袋(後嚢)に濁りが出た症状です。これはレーザーで濁りを取れば回復します。ほかの合併症は水晶体嚢の破れ・チン小帯断裂・レンズのずれ・網膜剥離・角膜混濁などです。
編集部まとめ

この記事では白内障の原因や症状、手術によって改善されることや術後に注意すべきことを解説しました。
手術で眼内レンズに入れ替えればまた視力は回復します。術後の見え方はレンズの種類で違うので、どれにするかは患者さんの生活に合わせて選びましょう。
白内障手術は短時間でできるとはいえ、大変繊細な手術で合併症もあります。しかし術後の注意点に配慮すれば、視力が回復して快適な生活が望めるはずです。もし白内障を指摘されたら、迷わず手術を検討してみましょう。