監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
急性腎障害の概要
急性腎障害は急激に腎臓の機能が低下することで、老廃物が尿として体外に排泄されにくくなる疾患です。
急性腎障害を発症すると、体内の水分や塩分量の調節ができなくなり、老廃物が血液中にたまることから高血圧や心不全、高窒素血症などの疾患を引き起こすことがあります。
これらの疾患により尿毒症や肺水腫、高カリウム血症、代謝性アシドーシスなどが引き起こされると死に至る可能性があるため、早期の発見と治療が重要です。
急性腎障害は発症の原因によって腎臓血流量の減少により生じる腎前性、腎臓自体に障害がある腎性、尿路の病変により引き起こされる腎後性の3つに分類され、治療法はそれぞれ異なります。
治療は食事療法や薬物療法が行われることが多いですが、高窒素血症の症状が進行している場合は尿毒症を予防するために、血液浄化療法を行うこともあります。
急性腎障害は慢性腎障害よりも腎臓の機能が回復する可能性が高いですが、長期的な予後が不良です。
急性腎障害を発症した場合は定期的に医療機関を受診し、長期的な観察が必要になります。
急性腎障害の原因
急性腎障害の原因は腎前性、腎性、腎後性の3つによって大きく異なります。
腎前性急性腎障害と腎後性急性腎障害は腎臓以外の部位に原因があります。
腎前性急性腎障害は、心筋梗塞や心筋炎、脱水、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)などのの使用によって、腎臓に供給される血流量が減少することで引き起こされます。
腎後性急性腎障害は後腹膜線維症や悪性腫瘍の後腹膜への浸潤、両側水腎症、前立腺肥大などによって、尿路の狭窄や閉塞が生じ、腎臓を通過した尿の流れが悪いことにより引き起こされます。
腎性急性腎障害は腎臓の実質に障害があることにより引き起こされます。急性腎炎や急性間質性腎炎、手術中のショックによる腎臓の虚血、薬剤による急性尿細管壊死などが原因として挙げられます。
急性腎障害の前兆や初期症状について
急性腎障害ではさまざまな初期症状が見られます。
尿量の減少や一時的な増加、尿閉(尿が出なくなる)などが現れます。
身体症状では発疹、むくみ、身体の倦怠感などが現われます。
急性腎障害が重症化し尿毒症を発症した場合は、食欲低下や吐き気などの消化器症状、貧血、心不全、意識障害、けいれんなどの症状が現われることもあります。
急性腎障害の検査・診断
急性腎障害の診断は血液検査による血清クレアチニン値(SCr)や血中尿素窒素値(BUN)の数値、尿検査による尿量をもとに行います。
抗がん剤や造影剤などの使用歴を問診で確認したり、急性腎障害の原因を特定するために超音波検査や胸部レントゲン検査、心電図検査などを行うこともあります。尿検査で腎性腎障害が疑われる場合は、腎臓に直接針を刺して組織を採取する腎生検が行われることもあります。
急性腎障害の治療
急性腎障害の治療は、腎臓の状態を管理する治療法と急性腎障害を引き起こした原因に対する治療法に分けられ、2つの治療法を組み合わせて腎臓機能の回復を目指します。
急性腎障害の管理
急性腎障害を管理する治療には、食事療法や薬物療法、血液浄化療法の3つがあります。
食事療法
急性腎障害の食事療法は、食塩や水分、カリウム、窒素代謝産物などが体内に溜まることを予防するために行います。
食事療法ではタンパク質や塩分の減量、カリウムの摂取が制限された食事による治療が行われます。
薬物療法
腎前性急性腎障害や腎性急性腎障害では、脱水の回復や循環血漿量を増やすために輸液を行うことがあります。
多臓器不全の原因となる敗血症性ショックの治療で腎臓の機能を改善するために、ノルアドレナリンを投与することもあります。
血液浄化療法
血液浄化療法は血液の老廃物や余分な水分を除去する治療法です。高窒素血症や高カリウム血症、アシドーシス、肺水腫などが合併して食事療法や薬物療法で十分な改善が得られなくなった場合や、術後に多臓器不全をきたした場合などで選択されます。
血液浄化療法は血液透析や腹膜透析などの方法があり、血圧の状態や出血傾向の有無を考慮して適切な方法を検討します。
血液透析は血液を透析器に通して老廃物や余分な水分を除去し、血液をきれいな状態にして体内に戻します。
腹膜透析は肝臓や胃を覆っている膜(腹膜)の内側に透析液を注入し、腹膜の働きによって血液の老廃物などを排出させる治療法です。
急性腎障害の原因除去
急性腎障害の治療では腎障害の状態を管理する治療法に加えて、原因疾患の治療も同時に行う必要があります。
原因疾患に対して行うのは主にステロイド薬や免疫抑制剤などの薬物療法です。
腎後性急性腎障害では尿管にステントを挿入して狭窄や閉塞を解消したり、腎臓と尿管の境目にカテーテルを挿入して尿を排泄(腎ろう)させたりします。
急性腎障害になりやすい人・予防の方法
急性腎障害は腎臓の機能が低下している人や、糖尿病患者、高齢者で発症しやすいです。
また、手術や造影剤、抗がん剤、抗生物質などの使用は腎性急性腎障害をきたしやすく、脱水により細胞外液量が減った状態で使用することで、発症のリスクが高まると報告されています。
これらの医薬品を使用する場合はあらかじめ十分な補液をすることで、発症リスクを下げることができます。
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)などの鎮痛剤も腎臓に負荷がかかるため、使用中に疑わしい症状が見られた場合は早めに医療機関に受診しましょう。
参考文献