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IgA腎症
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

IgA腎症の概要

IgA腎症とは、腎臓の糸球体に免疫グロブリンの中のIgAという蛋白が沈着する病気で、「IgA腎炎」「ベルジェ(Berger)病」とも呼ばれます。 慢性糸球体腎炎の一種であり、慢性糸球体腎炎の中でも、成人で30%以上、小児で20%以上を占めています。糸球体にIgAが沈着すると、炎症や腎障害を引き起こして腎不全に進行し、末期腎不全となった場合には、透析や腎臓移植などの腎代替療法が必要となります。未治療のままだと約4割の方が腎機能が悪化し、透析に至る予後不良の病気です。

IgA腎症は小児から大人まで幅広い年齢で発症しますが、発見時の年齢として多いのは、成人で20歳代、小児では10歳代です。 法律で定められている基準に基づいて医療費助成制度の対象となる「指定難病」であり、日本を始めとするアジア太平洋地域に多く見られますが、北欧や北米では比較すると少ないことが知られています。さらに、北米においても白人に多く黒人ではまれである、という特徴もあり、何らかの人種や遺伝による背景があると考えられています。 日本では約33,000人の患者さんがいると推定され、成人、小児とも男性にやや多い傾向にあります。

IgA腎症の原因

IgA腎症の原因は不明とされていますが、血液中の糖鎖修飾異常IgAや、関連した免疫複合体が糸球体のメサンギウム領域に沈着して生じると考えられています。近年は遺伝的な免疫異常と病態の関係についての研究が進められていますが、免疫複合体を形成する抗原は未だに特定されていません。

さらに、IgA腎症は多くが孤発性に発症しますが、約10%に遺伝が関連する家族性IgA腎症を認めます。また、遺伝子地域や人種によって発症率に差があり、多因子遺伝が関与します。家族性と孤発性では異なる責任遺伝子を持ち、単一遺伝子から多因子遺伝までさまざまです。家族性の中には常染色体優性遺伝を認める家系もあります。 近年では全ゲノム関連解析が行われ、IgA腎症の原因として獲得免疫、自然免疫、炎症の関連が考えられること、遺伝的な要因が関与することが明らかになりました。

IgA腎症の前兆や初期症状について

前兆は特になく、初期は無症状で気が付かないことが多いです。健康診断における尿検査で蛋白尿や血尿などの異常を指摘され、偶然発見されることが多い傾向です。場合によっては発症に気が付かないまま腎障害が進行し、高血圧や血清クレアチニン、血中尿素窒素などの血液検査異常で発見されることもあります。 また、浮腫が発見のきっかけになることがありますが、これは、IgA腎症における急性腎炎のような症状やネフローゼ症候群が引き起こす症状によるものです。 また、急性上気道炎を発症すると肉眼的血尿を認めることがありますが、口蓋扁桃にはIgA腎症に特異的な症状は認めません。

もし尿検査で異常があった、精密検査の指示があった、または原因不明の浮腫が起こっている場合、腎臓内科を受診しましょう。またはかかりつけの内科を受診し、専門科を紹介受診して下さい。

IgA腎症の検査・診断

職場や学校で行われる健康診断の尿検査で偶然発見されることが多いですが、確定診断には腎生検が必須とされています。

尿検査

IgA腎症に特異的な検査所見はありませんが、「IgA腎症診療指針第3版」では尿検査で以下の所見を認めるとされています。

必発所見 持続的顕微鏡的血尿 頻発所見 間欠的または持続的蛋白尿 偶発所見 肉眼的血尿

健康診断などで行われるような定性検査に加えて、24時間畜尿による全尿検査が望ましい場合もあります。 また、検査結果の再現性や持続性を確認するため、尿の異常を診断するには3回以上の検尿を行い、そのうち2回以上は尿沈渣の検査も併せて実施されます。

血液検査

IgA腎症に特異的な検査所見はありませんが、頻発所見として血清IgA値が315mg/dL以上と高値を認めます。また、血清IgA/C3比高値は鑑別に有用な因子の1つであると報告されています。

腎生検

IgA腎症の確定診断には必須の検査で、採取した腎組織の病理検査結果で診断されますが、IgA腎症には多彩な病変を呈する特徴があります。 以下は、Oxford分類で定義されたIgA腎症で見られる主な病変です。

  • メサンギウム細胞増多
  • メサンギウム基質増加
  • メサンギウムへの沈着物
  • 管内細胞増多
  • 係蹄壊死
  • 管外病変
  • 分節性硬化

腎生検の結果は、活動性や確定診断だけでなく、予後の推定や治療を選択する際にも重要な指標です。

IgA腎症の診断

検査結果の項目で示したように、IgA腎症は腎生検によってのみ診断されます。IgA腎症の病理組織所見は「蛍光抗体法または免疫組織化学的に糸球体へのIgAの優位な沈着がみられる腎炎」と定義されていますが、類似した所見を呈する可能性がある以下の疾患との鑑別が必要です。各疾患に特有の症状や検査所見から判断されます。

  • IgA血管炎
  • Alport症候群
  • 肝硬変症
  • ループス腎炎
  • 関節リウマチに伴う腎炎

IgA腎症の治療

現在、主なIgA腎症の治療には以下のようなものがあります。

  • RA系阻害薬
  • 副腎皮質ステロイド薬
  • 免疫抑制薬
  • 口蓋扁桃摘出術(+ステロイドパルス併用療法)
  • n—3系脂肪酸(魚油)
  • 抗血小板薬
生物学的製剤による治療も試みられていますが、現時点では治療効果が不十分です。いずれも腎機能障害の進行抑制を目的とした治療ですが、どの方法を選択するかは組織学的重症度、血尿の程度、血圧、年齢を考慮して決定されます。

また、必要に応じて生活指導も行われます。 血圧管理、食事療法(減塩、脂質管理など)、肥満対策、運動指導、禁煙指導は、慢性腎臓病に対して一般的に効果がある方法です。

IgA腎症になりやすい人・予防の方法

遺伝性のものもありますが、はっきりわかっていないのが現状です。しかし、生活習慣病と腎臓には深いかかわりがあるため、予防法も共通している部分があります。

IgA腎症になりやすい人

IgA腎症は原因不明であり、なりやすいのはどのような人かもはっきりわかりません。しかし、約10%は遺伝性の家族性IgA腎症だと言われています。

また、慢性腎臓病(CKD)になりやすい人の特徴として

  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 糖尿病
  • 肥満
といった生活習慣病が挙げられます。IgA腎症もCKDに該当するため、これらに該当する人は注意しましょう。

IgA腎症の予防法IgA腎症に特化した予防法ではありませんが、CKD全般の予防として生活習慣の改善を心がけることは有効です。 生活習慣病は心血管病(全身の血管に関する病気)の原因となりますが、腎臓の血管も例外ではありません。心臓からポンプ機能で送り出される血液の5分の1は腎臓に流れ込んでいます。腎臓の血管が障害されると人工透析が必要となるような末期腎不全となる可能性もあり、腎臓病が進行すると心血管病も増悪する、といった悪循環になる可能性があるため、

  • 暴飲暴食
  • 運動不足
  • ストレス過多
  • 喫煙
などの生活習慣がある方は、改善するために行動を起こしましょう。さらに、生活習慣病を指摘されている方は、適切な治療を行うことが大切です。具体的には、

  • 栄養バランスの良い食事を採る
  • 野菜を食べるようにし、減塩を心がける
  • 脂質の過剰摂取を控える
  • ウォーキングなどの身体運動を行う
  • 十分に睡眠を撮って心身の回復を促す
といった行動改善を心がけましょう。

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