監修医師:
高藤 円香(医師)
網状皮斑の概要
網状皮斑(もうじょうひはん)は、皮膚に網目状やレース状の紫色をした模様があらわれる皮膚の症状で、主に女性に好発します。リベドと呼ばれることもあります。
網状皮斑は、形状によって「大理石様皮膚」「分岐状皮斑」「細網状皮斑」の3種類に分類されます。
大理石様皮膚は細い網目状の皮疹が特徴で、網目の輪が閉じていることが多いです。小児や成人女性で多くみられ、皮膚を温めると症状が軽減します。
分岐状皮斑は網目の輪が閉じず、不規則な形をしているのが特徴です。他のタイプよりも長期間残りやすく、一部が潰瘍に発展したり、結節が見られたりすることもあります。
細網状皮斑は、見た目が大理石様皮膚に似ていますが、皮疹が長期間消えずに持続しやすい点が異なります。
網状皮斑の原因
網状皮斑は、皮膚表面近くの小さな血管における血流障害によって引き起こされます。特に寒い時期や温度差が激しい環境下だと、血管が収縮したり拡張したりする調節がうまくいかなくなるため、血流が一時的に滞り、網状皮斑が生じやすくなります。
網状皮斑は、病気が原因で生じるケースと特定の薬剤による副作用として生じるケースがあります。
網状皮斑が生じることのある病気
代表的な病気としては、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群などの膠原病、血管炎、感染症、多発性骨髄腫、サルコイドーシス、抗リン脂質抗体症候群、コレステロール塞栓症などが挙げられます。
これらの病気にともない、血管の内壁に炎症を引き起こしたり、血流障害が起きたりすることで網状皮斑が生じます。
網状皮斑が生じることのある薬剤
パーキンソン症候群や脳梗塞後遺症に使われる「アマンタジン」や広い範囲の感染症治療に使われる「ミノサイクリン」、血が固まるのを防ぐ作用のある「ヘパリン」、注意欠陥他動性障害(ADHD)やナルコレプシーに使われる「メチルフェニデートなどが挙げられます。
なかでもアマンタジンは、服用した40%の患者さんで網状皮斑が生じたという報告があります。
(出典:国立国際医療研究センター国府台病院 リウマチ・膠原病科「網状皮斑(リベド)」)
網状皮斑の前兆や初期症状について
網状皮斑が生じると「大理石様皮膚」「分岐状皮斑」「細網状皮斑」の種類に応じた模様があらわれます。とくに寒い季節や冷たい環境に長時間さらされた場合に、紫色をした模様が濃くなります。
血管を温めることで症状が消失する場合が多いですが、抗リン脂質抗体症候群や膠原病などの血管に異常が起こる病気では、症状が長引く場合もあります。
また、網状皮斑は基本的に痛みやかゆみといった症状をともなうことは、ほとんどありません。
網状皮斑の検査・診断
網状皮斑の診断は、視診で皮膚表面の特徴的な模様を確認します。しかし、視診だけでは、網状皮斑を引き起こしている根本的な原因を特定するのは難しいため、血液検査や皮膚生検、画像検査などが追加で行われることが一般的です。
血液検査
リウマトイド因子や抗リン脂質抗体といった自己抗体の有無を確認することで、膠原病や抗リン脂質抗体症候群などの可能性を調べます。
また、血液が固まりやすくなっていないかを調べるために、血液凝固機能の検査も重要で、「プロトロンビン時間」や「活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)」などが測定されます。
皮膚生検
皮膚の一部を採取し、顕微鏡で血管の状態や炎症の有無を確認することで、血管炎や他の皮膚疾患の可能性を評価します。皮膚生検により、血管内の血栓や炎症が確認される場合、血流に問題があることが確定します。
網状皮斑の治療
網状皮斑の治療は、血流障害を引き起こしている原因によって異なります。薬剤による網状皮斑の場合は、薬剤の変更のみで特別な治療が必要ないこともありますが、持続的な症状が見られる場合には治療が必要です。
自己免疫疾患が原因の場合
網状皮斑が自己免疫疾患によって引き起こされている場合、免疫抑制剤が処方されます。免疫反応を抑えることで血管の炎症を軽減し、血流を改善します。また、ステロイド剤も抗炎症効果が高いため、重症例ではステロイド療法が行われる場合があります。
血管や血栓が原因の場合
網状皮斑の原因が血管の閉塞や血栓である場合、抗凝固薬や血小板凝集抑制薬が使用されます。血栓の形成を防ぎ、血流を改善することで症状を和らげます。
とくに、抗リン脂質抗体症候群のように、血液が固まりやすくなる状態では、長期的な抗凝固薬での治療が必要です。
薬剤による副作用が原因の場合
薬剤が網状皮斑の原因となっている場合、使用中の薬剤の調整や変更が検討されます。 たとえば、脳梗塞後遺症の治療として使用していたアマンタジンの副作用として網状皮斑を引き起こしている場合は、担当医と相談のうえ他の治療薬への変更し、症状が改善するかどうかを慎重に経過を追います。
ただし、自己判断で服用の中断は避け、医師の指導に従うようにしましょう。
網状皮斑になりやすい人・予防の方法
先述したように膠原病、血管炎、感染症といった病気をもつ人は、血管に炎症や血栓ができやすく、網状皮斑があらわれる可能性があります。血液の凝固機能に問題がある人や特定の薬剤(アマンタジンやヘパリンなど)を使用している人も、血流に障害が生じることで網状皮斑が生じやすくなります。
また、網状皮斑は冬の寒い時期に冷気刺激となって、一時的に網状皮斑が生じる傾向があるため、冷えた環境下で長時間過ごすことが多い場合、症状が出やすいです。
網状皮斑の予防方法としては、第一に寒い環境を避けることが重要です。原因が基礎疾患または薬剤のいずれかであっても、冷えが刺激となって網状皮斑が生じるのが一般的なため、寒い環境を避けて血流障害を起こさないようにすることを心がけるようにしましょう。やむを得ない場合は、体をしっかり保温し、血流障害が起こらないようにしてください。
また、自己免疫疾患や血栓性疾患がある場合、血栓ができやすい体質になっている人は、定期的に医師の診察と治療を続けることが網状皮斑の発症予防につながります。
関連する病気
- 閉塞性動脈硬化症
- 全身性エリテマトーデス
- ベーチェット病
- 原発性抗リン脂質抗体症候群
- 強皮症
- レイノー病
- 血栓性血小板減少性紫斑病
- クリオグロブリン血症性血管炎
参考文献