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薬剤性難聴
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。

薬剤性難聴の概要

音の聞こえづらさをはじめとして、耳鳴り、耳のつまりなどの症状を呈する難聴の原因には、さまざまなものがあります。その中で、薬剤の使用が原因となる難聴を薬剤性難聴といいます。
原因となりやすい薬剤として、以下の薬剤が挙げられます。

  • アミノグリコシド系(ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマ イシン)の抗菌薬
  • 白金製剤(プラチナ製剤)という種類の抗がん剤
  • サリチル酸剤という解熱消炎鎮痛薬(アスピリンなど)
  • ループ利尿剤(フロセミドなど)

薬剤を使用した後に難聴の症状を確認した場合は、速やかに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。薬剤性難聴が疑われる場合には、原疾患の代替となる治療法があるかなど状況によりますが、可能な限り原因と考えられる薬剤の使用を中止します。アミノグリコシド系抗菌薬、白金製剤が原因の場合では、原因の薬剤使用を中止した後も聴力が正常域まで回復できないことが多いです。その場合、補聴器や人工内耳を用いて聴力を補います。
サリチル酸剤、ループ利尿剤が原因の場合では、原因薬剤の使用中止により、聴力が正常域まで回復することが多いです。アミノグリコシド系抗菌薬による薬剤性難聴では、薬剤性難聴を来す原因の遺伝子変異が判明しています。そのため、血縁者にアミノグリコシド系抗菌薬による薬剤性難聴になった方がいる場合は、薬剤使用前に遺伝子変異の有無を検査することにより、難聴になるリスクを回避できます。

なお、薬剤を正しい使用方法で使用したにも関わらず、副作用によって障害や後遺症をおった場合、医薬品副作用被害救済制度により、医療費などを受給できる可能性があります。医療費などを受給するためには、独立行政法人医薬品医療機器総合機構へ申請する必要があります。申請方法などの詳細については、以下のホームページにて確認できます。
医療費等の請求手続き | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

薬剤性難聴の原因

耳は、外耳、中耳、内耳に分けられます。外耳、中耳は音を空気の振動として伝え、内耳はそれを脳に伝えるための電気信号に変えます。薬剤性難聴は、薬剤の使用により、内耳の有毛細胞が損傷を受けて生じます。原因となりやすい薬剤として、以下の薬剤が挙げられます。

アミノグリコシド系抗菌薬
ストレプトマイシン硫酸塩、カナマイシン硫酸塩、アミカシン硫酸塩、ゲンタマイシン硫酸塩、ジベカシン硫酸塩、トブラマイシン、イセパマイシ ン、アルベカシン硫酸塩など
白金製剤
オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチンなど
サリチル酸剤
アスピリン、サリチル酸ナトリウムなど
ループ利尿剤
アゾセミド、トラセミド、ブメタニド、フロセミドなど

薬剤性難聴の前兆や初期症状について

薬剤性難聴の症状として以下が報告されています。 

  • 聞こえづらさ
  • 耳鳴り
  • 耳の詰まり
  • 声掛け時の反応の鈍化
  • 聞き返しの増加
  • めまい

特に耳鳴りから始まり、次第に聞こえづらさを認識するようになる傾向があります。
また、聞こえづらさの中でも、特に電子音などの高音の聞こえづらさから認識し始め、徐々に会話音域、低音域へと移行することが多いです。

通常は両側の耳で同時に発症し、徐々に進行しますが、ループ利尿剤の場合、薬剤の使用開始後、急速に進行することが報告されています。アミノグリコシド系抗菌薬の場合、めまいを訴える方もいます。内耳が損傷されるため、聴力だけでなく、平衡感覚も障害を受けると考えられています。
これらの症状を確認した場合は、速やかに耳鼻咽喉科を受診しましょう。

薬剤性難聴の検査・診断

受診の際には以下の検査が行われ、診断されます。

  • 症状や薬剤使用歴の確認
  • 鼓膜の視診
  • 鈍音聴力検査

なお、薬剤を正しい使用方法で使用したにも関わらず、副作用によって後遺症が残った場合、医薬品副作用被害救済制度により、医療費などを受給できる可能性があります。医療費などを受給するためには、独立行政法人医薬品医療機器総合機構へ申請する必要があります。受給対象にあたるかどうか、また申請する場合の方法などの詳細については、以下のホームページにて確認できます。

医療費等の請求手続き | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

薬剤性難聴の治療

薬剤性難聴が疑われる場合には、まず可能な限り原因と考えられる薬剤の使用を中止します。その後の治療は、原因となる薬剤によって異なります。

アミノグリコシド系抗菌薬、白金製剤が原因の場合

多くの場合、難聴は不可逆的で、正常域まで回復することは難しいです。
難聴が中程度の場合は、補聴器を用いて聴力を補います。補聴器にて補聴効果が認められない場合には、人工内耳にて聴力を補います。人工内耳は、体外に取り付ける装置と体内に埋め込む装置の二部構成となっており、全身麻酔科での2〜3時間の手術で取り付けます。
有効な薬物治療は確立されていません。

サリチル酸剤、ループ利尿剤が原因の場合

原因薬剤の使用中止により、難聴は正常域まで回復することが多いです。

薬剤性難聴になりやすい人・予防の方法

薬剤性難聴になりやすい人

どの薬剤も高齢者および腎機能が低下している方は、難聴を来すリスクが高くなります。
さらに詳しく見ると、原因薬剤の種類および薬剤の使用方法によってリスクは変わります。

アミノグリコシド系抗菌薬のリスク

ミトコンドリア遺伝子のm.1555A>G 変異および m.1494C>T 変異を持つ方は、アミノグリコシド系抗菌薬の感受性が高く、少量の薬剤の使用でも難聴を来す可能性があります。日本人の1,000〜1,500人に一人は、遺伝子変異を持っていると報告されています。

白金製剤のリスク

以下に該当する方は、白金製剤の使用で難聴を来すリスクが高くなります。
小児、高齢者、腎機能が低下している方、頭部へ放射線照射をしたことのある方、投与前から感音難聴がある方

薬剤の使用方法のリスク

総使用量の上昇、短い使用間隔、耳毒性を有するほかの薬剤との併用によって、難聴のリスクは上昇します。

アミノグリコシド系抗菌薬による薬剤性難聴の予防

ミトコンドリア遺伝子のm.1555A>G 変異および m.1494C>T 変異を持つ方に関しては、アミノグリコシド系抗菌薬の投与を避けることにより、難聴の予防が可能です。アミノグリコシド系抗菌薬による難聴者が血縁者にいる場合には、ミトコンドリア遺伝子変異の有無をあらかじめ検査することでリスクを回避できます。

リスクの高い方は医師と相談のうえ、慎重に薬剤を使用すること、リスクの高くなる使用方法をしないことが難聴の予防となります。

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