監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
呼吸不全の概要
呼吸不全とは体に必要な酸素が不足し、呼吸が苦しくなる状態です。血液に酸素を取り入れる能力と二酸化炭素を排出する能力のバランスが崩れて、体の正常な機能が失われることで、息切れや呼吸苦を引き起こします。呼吸不全は血中の二酸化炭素濃度によってⅠ型呼吸不全とⅡ型呼吸不全に分けられます。
Ⅰ型呼吸不全
Ⅰ型呼吸不全とは、血中の酸素濃度が60mmHg以下で二酸化炭素濃度の増加は伴わない(45mmHg以下)呼吸障害です。急性の肺炎や気胸、肺梗塞で発症します。特徴的な症状は、発熱などの全身状態に加えて咳や痰、急激な胸痛や呼吸困難です。酸素療法や原因疾患の治療が第一選択として行われます。
Ⅱ型呼吸不全
Ⅱ型呼吸不全とは血中の酸素濃度が60mmH以下かつ血中の二酸化炭素濃度が45mmHg以上となる呼吸障害です。症状がゆっくりと進行することによって呼吸不全で崩れる血中pHバランスを腎臓で代償が可能なため、症状が出にくいこともあります。典型的な症状は、動作時の息切れであり、進行すると日常生活に支障をきたすことがあります。
肺気腫や慢性気管支炎など慢性閉塞性肺疾患(COPD)が主な原因であり、気管支を広げる薬物療法が治療の第一選択です。
呼吸不全の原因
呼吸不全の原因は主に以下の4つに分類されます。
- 肺胞低換気:肺に入る空気が減ってしまう
- ガス交換障害:肺と血液の間の壁が厚くなり、酸素や二酸化炭素を交換できない
- 換気血流比不均等:肺に入ってくる酸素と二酸化炭素の換気量と血流量のバランスが悪くなってしまう
- 肺内シャント:肺に流れる血管が分岐してしまい、ガス交換をしないで体内に戻ってしまう
これらの状態を引き起こす病気としては急性呼吸窮迫症候群(ARDS)肺炎や肺塞栓症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症、心不全、神経筋疾患などが挙げられます。
呼吸不全の前兆や初期症状について
呼吸不全の症状は呼吸苦や息切れです。COPDの場合、まずは動作時に息切れを伴うようになり、進行すると安静時でも呼吸苦を訴えるようになります。
体内の酸素濃度が低下した状態が続くと、脳への酸素供給が不足する影響で頭痛や意識消失を起こす可能性があるため、注意が必要です。急激に発生した呼吸苦の場合は喘息発作や肺気胸による呼吸不全が疑われます。
また、呼吸苦に胸痛が伴う場合には肺梗塞が考えられるため、すぐに救急車を呼び医療機関への受診を検討してください。
呼吸不全の検査・診断
呼吸不全では血中の酸素や二酸化炭素の濃度、肺に画像上で変化があるかなどを確認します。
血液ガス分析
血液ガス分析とは、動脈に流れている血を分析する検査です。Ⅰ型とⅡ型の呼吸不全を鑑別診断する際にも使用されます。特に二酸化炭素が溜まっているかどうかで、酸素療法をどれぐらい行うべきかの判断が可能です。また、体内の酸塩基反応(血液内の酸素と二酸化炭素による化学反応)を確認し、体内pHが腎臓で調整されているかどうかも確認できます。
経皮的血中酸素飽和度(パルスオキシメーター)
パルスオキシメーターは皮膚の上から動脈血に光を当てて酸素飽和度を測定する機械です。簡単かつ迅速に低酸素の有無を測定でき、94%以下は低酸素の可能性があります。
血液検査
血液検査では心不全の有無を確認できるBNPや腎機能の状態を確認できるBUN/Creなどの数値を確認します。また、貧血の有無をみるHb(酸素を運ぶ能力が分かる)の数値も呼吸不全に関わる大事な要素です。
画像検査
Ⅰ型呼吸不全である急性の肺炎やARDSではレントゲン上、肺が白く移ります。一方、Ⅱ型呼吸不全であるCOPDではレントゲン上では肺の黒が濃くなり、肋骨の間が広がったり平坦になって見える傾向です。MRIでは炎症部分が白く映る様子や、肺の組織が壊れて肺の壁が不均等な様子が見えることがあります。
肺機能検査
スパイロメーターという機械を使用して息を吐いた量(肺活量)や1秒間で息を吐いた量、息を吐いた量の内1秒で吐けた割合(1秒率)を測定します。気道の閉塞の具合や薬の効果があるかどうかの判定でも使用可能です。
呼吸不全の治療
呼吸不全の治療はⅠ型呼吸不全かⅡ型呼吸不全であるかによって大きく変わります。
Ⅰ型呼吸不全
体内の酸素濃度が下がっているⅠ型呼吸不全では、酸素療法が第一選択です。パルスオキシメーターや血液ガス分析の数値をみながら数値が正常になるまで酸素投与量を調整します。
酸素療法でも酸素濃度が上がらない場合は陽圧的酸素療法(NPPV:鼻や口に強い圧力と酸素を押し込んで肺を広げる装置)や人工呼吸器を使用する可能性もあります。
また、呼吸不全を引き起こしている疾患の治療も並行して行うことが重要です。肺炎であれば抗生剤、喘息であればステロイド剤、肺梗塞であれば抗凝固剤の使用、気胸であれば胸腔ドレナージ(肺に管を入れて空気を調整する)などが挙げられます。
Ⅱ型呼吸不全
Ⅱ型呼吸不全で最も頻度が高いCOPDでは、まず気管支を広げる吸入薬での薬物療法を試みます。
また、楽に呼吸できる呼吸法を練習したり、ストレッチや筋力トレーニングで筋力・体力をつけたりする呼吸リハビリテーションも重要な治療です。
それでも進行し、低酸素になってしまう場合は在宅酸素療法(HOT)が検討されます。HOTの導入には定期的な医師の診断に加えて、自宅内に酸素濃縮器(室内の空気を濃縮した酸素に変える機器)の設置や、酸素ボンベが必要です。
呼吸不全になりやすい人、予防の方法
呼吸不全は肺の機能が落ちている人やアレルギー体質の人がなりやすい傾向があります。呼吸不全の予防には、肺への負担を減らす習慣が必要です。肺への負担を減らすために喫煙や。副流煙への暴露に注意してください。
肺に負担をかけやすい風邪などの感染症予防も重要です。
風邪やインフルエンザ等の感染症を防ぐために手洗いうがいを心がける、人混みではマスクをつける、呼吸不全に関わる疾患のワクチン接種などの対策をしましょう。
アレルギーの発生を抑えるためには環境整備も大切になります。
こまめに掃除を行い、普段いる環境を清潔に保つよう心がけてください。
また、定期的な運動や健康的な食生活を心がけることでも肺の健康を維持することができます。
参考文献
- 厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班:昭和56年度研究報告書
- 一般社団法人日本呼吸器学会 急性呼吸不全・ARDS
- 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2023年 第31巻 第 2 号 慢性呼吸不全
- 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2016年 第26巻 第 2 号 呼吸不全の病態生理
- 人工呼吸 Jpn J Respir Care 2020;37:132-145
- 厚生労働省 筋萎縮性側索硬化症
- 日本内科学会 雑誌 第79巻 第6号 ・平成2年6月10日.臨床症状からみた呼吸不全の診断
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022
- 日集中医誌 2014;21:175-176 パルスオキシメーターの低酸素血症検出に関する信頼性の検討