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本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

咳喘息の概要

咳喘息(せきぜんそく、Cough Variant Asthma; CVA)は、喘鳴(ゼイゼイ、ヒューヒューという呼吸時に気道が狭くなることで発生する音)や呼吸困難を伴わない慢性(8週間以上)の咳嗽(がいそう:咳)が特徴となる疾患です。喘息とは異なり、気管支が狭くならないため、息苦しさや喘鳴がほとんどありませんが、咳が長期間続くため、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。治療をしないと1/3の方が喘息に移行するため適切な対処が大切です。

咳喘息は、成人において慢性咳嗽の主要な原因の一つです。特に非喫煙者やアトピー性疾患(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など)を持つ人に多く見られます。また、咳喘息は季節性があり、特に春や秋に症状が悪化することが多い傾向です。これは、花粉や気温の変化が原因となるためです。 一般的には、咳喘息の症状は夜間に悪化し、睡眠の質を低下させることがあります。これにより、日中の疲労感や集中力の低下を引き起こすこともあります。適切な治療を受けることで、これらの症状を軽減し、生活の質を向上させることが可能です。

咳喘息の原因

アレルギー

咳喘息の主な原因の一つはアレルギー反応です。アレルゲン(花粉、ダニ、カビ、ペットの毛など)が気道に入ることで、気道が過敏になり、咳が引き起こされます。アレルギー性鼻炎アトピー性皮膚炎を持つ人は、咳喘息を発症しやすい傾向にあります。 アレルギー反応は、体内の免疫系が特定の物質(アレルゲン)に対して過剰に反応することによって引き起こされます。この反応により、気道の炎症が起こり、咳嗽が生じます。アレルギー性鼻炎を持つ人は、鼻から喉へと粘液が流れる後鼻漏が起こり、これが咳嗽を誘発することがあります。

感染症

風邪やインフルエンザなどの上気道感染症(のどや鼻の感染症)が咳喘息の発症や悪化の原因となることがあります。これらの感染症により気道が炎症を起こし、咳嗽が長引くことがあります。似たような疾患で感染後咳嗽(風邪やインフルエンザの後に続く咳)がありますが、こちらは感染の刺激によって引き起こされる咳で経過観察で自然に治癒します。

咳喘息の前兆や初期症状について

咳喘息の前兆や初期症状としては、特に夜間や早朝に悪化する乾性咳嗽(痰があまり絡まない咳)が挙げられます。これらの咳は、しばしば季節の変わり目や寒冷な気候の時期に増加します。その他にも、笑ったり、運動したり、冷たい空気を吸い込んだりすることで咳が誘発されることがあります。軽い喉のかゆみや違和感のあることがあります。これが続くと、やがて咳嗽へと進行します。 また、冷たい飲み物を飲んだり、急に気温が変化したりすると咳が出ることもあります。また、アレルゲンにさらされた後や風邪をひいた後に咳が続くこともあります。咳嗽は通常夜間に悪化しやすく、これが睡眠の質を低下させる原因となります。夜間に咳が出ることで、しばしば目が覚めてしまうことがあります。このため、日中の活動に支障をきたすことがあります。

咳喘息の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、呼吸器内科です。咳喘息は慢性的な咳を伴う疾患であり、呼吸器内科で診断と治療が行われています。

咳喘息の検査・診断

咳喘息の診断には、まず症状や病歴を詳しく聞き取ります。次に、スパイロメトリー(肺活量などを測定する検査)や気管支挑発試験(気道の過敏性を測定する検査)などの呼吸機能検査を行い、気道の過敏性を評価します。また、気管支拡張薬(サルブタモールなど)を使用して咳が改善するかどうかを確認することも重要です。喀痰(かくたん:痰)の中に好酸球(アレルギー反応を示す白血球の一種)増多や呼気中の一酸化窒素(NO)の濃度上昇が認められれば、咳喘息の可能性が高いとされています。

胸部X線撮影や、喀痰が採取できる症例では喀痰検査によって、成人の慢性咳嗽の原因となる重篤な疾患である肺癌、間質性肺炎、肺結核などを鑑別することも重要です。

咳喘息の治療

咳喘息の治療には、主に吸入ステロイド薬(気道の炎症を抑える薬)が使用されます。これにより、気道の炎症を抑え、咳の頻度や強度を軽減します。 必要に応じて、気管支拡張薬(気道を広げる薬)や抗ヒスタミン薬(アレルギー症状を抑える薬)も併用されることがあります。気管支拡張薬は、気道を広げることで、呼吸を楽にし、咳を減少させます。抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応を抑えることで、咳喘息の症状を緩和します。大多数の方は咳嗽は速やかに軽快し、薬剤を減量できるが、治療中止によりしばしば再燃することがあります。原則として長期の治療継続が必要であり、喘息と同様に呼吸機能や気道炎症マーカーに基づく長期治療が望まれます。治療は通常、数ヶ月以上継続する必要があります。

治療の目標は、症状の完全な制御と生活の質の向上です。定期的なフォローアップを行い、治療効果を評価しながら、必要に応じて治療計画を調整します。また、自己管理の指導も重要であり、自分で症状を監視し、適切な対応を行うことが求められます。

咳喘息になりやすい人・予防の方法

アレルゲンの回避

咳喘息を予防するためには、アレルゲンの回避が重要です。家の中を清潔に保ち、ダニやカビの発生を防ぐことが推奨されます。また、外出時にはマスクを着用するなどして花粉の影響を最小限に抑えます。 アレルゲンの発生源を特定し、対策を講じることも重要です。例えば、ペットの毛が原因であれば、ペットのケアや住環境の改善を行うことが必要です。定期的な掃除や空気清浄機の使用も有効です。喫煙は気道に悪影響を及ぼすため、禁煙も重要です。また、受動喫煙を避けるため、喫煙者のいる環境を避けることも大切です。

生活習慣の改善

規則正しい生活習慣を維持し、免疫力を高めることも咳喘息の予防に有効です。バランスの取れた食事や適度な運動、十分な睡眠を心がけることが大切です。また、ストレス管理も重要であり、リラクゼーション法や趣味を楽しむことでストレスを軽減します。

参考文献

  • 日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019

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