監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
多発性筋炎の概要
多発性筋炎は、自己免疫疾患の一種であると考えられており、筋肉に炎症が起こることで、さまざまな症状を引き起こす疾患です。2024年9月現在、国の指定難病に定められています。
男女問わず発症することがありますが、女性に多く見られる傾向があります。年齢層としては60歳代に発症することが多く、加齢とともにそのリスクが高まるとされています。しかし、若年層でも発症することがあるため、注意が必要です。
(出典:難病情報センター「皮膚筋炎/多発性筋炎(指定難病50)」)
多発性筋炎の発症率は、人口10万人あたり2~5人程度と推定されています。発症率は国や人種によって異なり、発症率が比較的高い欧米諸国と比べると、日本を含むアジア圏ではやや低いと言えます。
発症率の違いは、環境要因や遺伝的要因が影響している可能性がありますが、詳しい理由はわかっていません。
多発性筋炎の原因
多発性筋炎の原因は解明されていませんが、自己免疫異常が大きく関わっていると考えられています。
免疫は外部から侵入してくる病原体や異物を攻撃して体を守る役割を果たしますが、多発性筋炎では自分の筋肉の細胞を攻撃してしまい、炎症が生じます。
このような自己免疫の反応が起こる原因は判明していませんが、以下の要因が影響していると考えられています。
ウイルスや細菌
特定のウイルスや細菌が免疫系を刺激して異常な反応を引き起こす可能性が考えられています。
遺伝的要因
多発性筋炎自体は遺伝病ではありませんが、自己免疫異常の生じやすさは遺伝的要因が影響していると言われています。家族に同様の自己免疫疾患がある場合、発症リスクが高まります。
多発性筋炎の前兆や初期症状について
初期の多発性筋炎では、筋力の低下が症状としてあらわれますが、症状の進行はゆっくりなため、気が付きにくいのが特徴です。
症状が進行するにつれて、肩や腰、太ももなど、体幹に近い大きな筋肉に力が入りにくくなります。例えば、階段を上るのが難しくなったり、椅子から立ち上がる際に支えが必要になったりします。また、腕を高く上げる動作や、重いものを持ち上げる際に違和感を覚えることも多くなります。
筋肉の痛みやこわばりなどの症状が伴うこともありますが、これらは筋肉痛の症状と似ているため、見逃されてしまうこともあります。さらに、全身の倦怠感や疲労感を強く感じることが多く、日常の動作が次第に億劫になっていくことが特徴です。
このような筋力低下や疲労感が徐々に進行すると、日常生活に影響を及ぼすようになります。重篤化すると、喉や呼吸に関わる筋肉にも影響がおよび、飲み込みにくさや息切れなどの症状が現れることがあるため、できるだけ早期に適切な治療をおこなうことが重要です。
多発性筋炎の検査・診断
多発性筋炎の検査・診断ではまず、視診や問診で、レイノー現象(寒冷時に手足の指先が白くなったり紫色になったりすること)のような特徴的な症状がないかを調べます。また、筋力低下の程度や日常生活にどのような支障が出ているかも確認が必要です。
多発性筋炎の確定診断には、以下の検査が必要です。
血液検査
多発性筋炎では、筋肉に炎症が起こり損傷することで、筋肉内の筋肉酵素(CK:クレアチンキナーゼ)が血液中に流れ出します。そのため、血液検査を行うと筋肉酵素の値が上昇しているのが認められます。多発性筋炎の診断だけでなく、進行程度を把握するうえでも重要な指標です。
筋電図(EMG)
筋肉の電気的な活動を記録することで、筋肉や神経の状態を調べます。多発性筋炎の場合、筋肉の炎症や損傷が原因で、筋電図に異常な電気信号が確認されます。
筋力低下が神経によるものではなく、多発性筋炎による筋肉そのものの異常かどうかを判断することが可能です。
MRI
MRIでは、筋肉の内部や炎症の広がりを画像化できるため、多発性筋炎特有の筋肉の異常を視覚的に確認できます。
具体的には、筋肉の炎症や腫れがMRIで映し出されるため、炎症の範囲や重症度を判断できます。また、他の菌疾患との鑑別にも役立ちます。
筋生検
患部の筋肉から一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査方法です。筋生検によって、筋肉の炎症や筋繊維の破壊、異常な免疫細胞などを確認し、多発性筋炎であるかどうかが判断されます。また、他の筋疾患との鑑別にも役立ちます。MRIでも鑑別が難しいケースでは筋生検が決め手になることがあります。
多発性筋炎の治療
多発性筋炎は発病後、早めに治療を始めるほど、回復が良好になる可能性が高いため、診断が確定したら迅速に治療を開始します。
多発性筋炎の治療では、主に薬物療法が行われます。薬物療法のなかでも、ステロイド薬が効果的とされており、大量のステロイドを投与します。その後、筋力の回復や検査結果の改善に合わせて、数か月かけて徐々に服用量を減らしていきます。ただし、急激な減量は病気が再燃するリスクがあるため、慎重に行われます。
ステロイドの大量投与を長期にわたって行うと、感染症に感染しやすくなるなどのリスクがあります。それを防ぐために、メトトレキサートやタクロリムスなどの免疫抑制剤を併用してステロイドの早い減量を目指すことがあります。
ステロイド治療が十分な効果を示さない場合には、代わりにガンマグロブリン製剤での治療が行われることもあります。
また、薬物療法だけでなく、筋力や動作の回復を促すためにリハビリも重要です。一般的には、血液中の筋肉酵素の値が正常に近づき、筋力が順調に回復していることを確認してから、無理のない範囲でリハビリを始めます。無理な運動は症状を悪化させる可能性があるため慎重に進めることが重要です。
多発性筋炎になりやすい人・予防の方法
多発性筋炎は、家族に自己免疫疾患に罹患した人がいる場合、発症リスクが高まると考えられます。特に中高年の女性に多く見られることが知られているため、女性特有のホルモンも影響している可能性があります。また、免疫機能が低下している人や過去に感染症を繰り返した経験のある人も注意が必要です。
多発性筋炎の発症を予防する方法は確立されていませんが、発症リスクを上げる遺伝的要因がないかを確認するために、遺伝子検査を行うのが一つの選択肢です。
遺伝子検査で、自己免疫疾患のリスクがあるとわかれば、定期的な健康診断や日常的に症状の有無に注意を払えるため早期発見・早期治療につなげることができます。
また、ウイルス感染が引き金になる可能性があるため、感染症に対する予防も推奨されます。手洗いやうがいなど、基本的な感染症予防を徹底するようにしましょう。
参考文献