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アルコール中毒
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

アルコール中毒の概要

アルコール中毒には、急性アルコール中毒と慢性アルコール中毒にわけられます。 慢性アルコール中毒とはいわゆるアルコール依存症のことを指します。

急性アルコール中毒は、短時間のうちに多量のお酒を飲むことで精神的・身体的に影響を受け、一過性の意識障害を生じます。

症状としては意識レベルの低下、嘔吐、血圧低下、呼吸数の低下などをきたし、命を落とすこともあります。

大学の新入生歓迎会や新社会人の新人歓迎行事などで一気飲みをさせられ、急性アルコール中毒をおこし死亡する事故が毎年発生して社会問題となっています。

慢性アルコール中毒(アルコール依存症)とは、長期間にわたり多量のお酒を飲むことで身体的や精神的にアルコールに依存し、自分で飲酒のコントロールができなくなる状態です。

アルコールと上手に付き合えないと、身体的・精神的な健康被害だけでなく、様々な問題が生じます。DVや児童虐待などの家庭内の問題、飲酒運転や他者とのトラブルなどの社会的問題、欠勤や休職などの就業上の問題があります。これらは人生を台無しにするほどの大きな問題へと発展する可能性があるため、適切な治療が求められます。

アルコール中毒

アルコール中毒の原因

急性アルコール中毒と慢性アルコール中毒(アルコール依存症)は、それぞれ原因が異なります。

急性アルコール中毒

一時的なアルコールの多量摂取が原因です。アルコールは肝臓で代謝されますが、短時間で大量に飲酒すると代謝が追いつかなくなり、血中アルコール濃度が急激に上がります。

慢性アルコール中毒(アルコール依存症)

大量のお酒を長期にわたって飲み続けることが主な原因です。毎日お酒を飲む習慣があるとアルコールに耐性ができ、少量のお酒では酔えなくなります。しだいに飲酒量が増え、お酒に対する精神的な依存が強くなっていきます。

アルコール中毒の前兆や初期症状について

急性アルコール中毒ではお酒を短時間で多量に飲むことで一過性の中毒症状が現れるのに対し、慢性アルコール中毒(アルコール依存症)は慢性的に症状がでることが特徴です。

急性アルコール中毒

急性アルコール中毒は、アルコールの血中濃度によって症状が変化していきます。

①血中アルコール濃度が0.002〜0.1%程度(ほろ酔い) 陽気になる、皮膚が赤くなる、ほろ酔い気分、手の動きが活発になる、気が大きくなる、立つとふらつく、何度も同じことを話す、千鳥足になるなどの症状がみられます。

②血中アルコール濃度が0.3%(泥酔期) もうろう状態となり、意識がはっきりしない、立てないなどの症状が現れます。

③0.4%(昏睡期) 揺り起こしても起きない、呼吸が十分にできないなどの症状が現れ、最悪死に至ります。

慢性アルコール中毒(アルコール依存症)

①飲酒のコントロールができなくなる 毎日お酒を飲んでいると、アルコールに耐性ができます。少量のお酒では酔えなくなり、しだいに飲酒量が増え、お酒を飲みたい気持ちが強くなります。 長期間お酒を飲む生活を続けると、さらにお酒に対する精神依存が強まり、自分では飲酒をコントロールできなくなります。

②精神的な症状 習慣的に飲酒を続けていると、精神依存と呼ばれる症状がでてきます。お酒がないと落ち着かなくなり、飲みたい欲求を強く感じるようになります。 精神依存が強くなると、お酒がないか家中を探したり、家にお酒がないと買いに行くなどの行動がみられるようになります。

③身体的な症状 お酒をやめたり減らしたりした際に、離脱症状と呼ばれる症状がみられるようになります。離脱症状には夜眠れない、手の震え、血圧が高くなる、汗をかく、不安、イライラするなどがあります。重症の場合は、幻覚やけいれん発作が出現します。 お酒を止めると離脱症状が出てしまうので、自分の力だけでお酒をやめることが難しくなります。

アルコール中毒の検査・診断

急性アルコール中毒は、飲酒後の発症であることや血中のアルコール濃度を確認し、診断します。 意識障害の原因となるその他の疾患ではないことを証明する必要があるため、低血糖や外傷、薬物使用を除外する評価をおこないます。

一方、慢性アルコール中毒(アルコール依存症)は、WHOの疾病分類「ICD-10」やアメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」を用いて診断します。飲酒量や飲酒にまつわる行動、離脱症状の有無などを総合的にみて判断されます。

アルコール中毒の治療

急性アルコール中毒はできるだけ早くアルコールを体の外に出すことが重要です。

一方、慢性アルコール中毒(アルコール依存症の治療)は、お酒を一滴も飲まない「断酒」が基本となります。

それぞれの具体的な治療法は以下のとおりです。

急性アルコール中毒

①軽症の場合 嘔吐した際に気道に吐物が入らないように横向きに寝かせます。 意識がある場合は水分摂取をすすめ、意識がぼんやりしている場合には点滴をして、アルコールの排泄を促します。自力でトイレに行けない場合は、尿道バルーンカテーテルとよばれる管を尿道に入れます。 体温が下がっている場合もあるため、寒いとの訴えがある場合は毛布などで体を温めます。

②重症の場合 気管挿管や人工呼吸などをおこない気道を確保します。 体の外へアルコールを出すために大量の輸液をおこない、尿道バルーンカテーテルを入れて尿量の観察をおこないます。脱水や低血圧、低血糖などの症状がみられる場合は、それぞれに応じた治療をおこないます。

慢性アルコール中毒(アルコール依存症)

慢性アルコール中毒(アルコール依存症)の治療では、お酒を完全にやめることが必要ですが、自分の意志だけに頼ってやめようとすると、なかなかうまくいきません。断酒を実現するため、薬物療法・精神療法・自助グループへの参加(アルコホーリクス・アノニマス、断酒会)などをおこないます。

①薬物療法 飲酒後に不快症状を出現させる抗酒薬や飲酒量を減らすための薬、アルコール離脱症状に対して使われる抗不安薬や睡眠薬などがあります。

②精神療法 精神療法には、精神科医や臨床心理士による個別や集団でのカウンセリングや、認知行動療法などがあります。 認知行動療法は、考え方の偏りに気づいて物事のとらえ方を変えることにより、行動を変える方法です。最終的に飲酒行動を変えていくことを目指します。

③自助グループへの参加 自助グループは「アルコールをやめたくてもやめられない」といった同じ悩みを抱える仲間が集まり、互いに支えあうことで困難を乗り越えることを目的とした集まりです。 自分の体験談を語ったり人の体験談を聞いたりすることが、断酒を継続する助けとなります。

アルコール中毒になりやすい人・予防の方法

若年者、女性、高齢者、飲酒後に顔が赤くなるタイプの人は急性アルコール中毒になりやすいです。アルコールの分解が遅いのでアルコールの血中濃度が下がりにくく、リスクが高まると考えられています。

また、未成年から飲酒している人、アルコール依存症の親を持つ人、うつ病などの精神疾患をもつ人は、慢性アルコール中毒(アルコール依存症)になりやすいといわれています。

急性アルコール中毒や慢性アルコール中毒(アルコール依存症)を避けるために、お酒を飲む際には以下を心がけましょう。

①短時間で多量にお酒を飲まない 急性アルコール中毒のリスクを高めます。適度な飲酒を心がけましょう。

②20歳を過ぎてから飲酒する 脳の発育に悪影響を及ぼし、若年者の飲酒はアルコール依存症になる危険性を高めます。

③飲酒前または飲酒中に食事をとる 血中のアルコール濃度が急激に上がることを防ぎ、お酒に酔いづらくします。

④他人へ飲酒を強要しない アルコールの吸収や代謝には個人差があるため、それぞれのペースを守ることが大切です。

⑤飲酒の合間に水やお茶を飲む アルコールをゆっくり分解・吸収できるようにします。水などで割ってアルコール度数を低くしたり、少しずつ飲むなどの工夫もできます。

⑥不安や不眠解消のためにアルコールを飲まない 不安や不眠の解消のために飲酒を続けると、アルコール依存症になるリスクが高まります。またアルコールにより眠りが浅くなり、睡眠リズムが乱れる原因となります。

⑦1週間のうち、飲酒しない日をつくる 毎日飲んでいると飲酒が習慣化し、アルコール依存症の発症リスクを高めます。継続しての飲酒を避けるため、お酒を飲まない日をつくるようにしましょう。

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