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心筋炎
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

心筋炎の概要

心筋炎は心臓の筋肉に炎症がおきる疾患です。心臓の筋肉にとどまらず、心膜まで炎症が及ぶと心膜心筋炎と呼ばれます。発症から30日未満のものを急性心筋炎、発症から30日以上のものを慢性活動性心筋炎(心筋細胞の障害を伴うもの)または慢性炎症性心筋症(心筋細胞の障害を伴わないもの)と呼びます。軽症の心筋炎は胸が痛い、なんとなく怠いなどの症状のまま数週間の経過で自然に治ると言われています。しかしながら、一部に重症化する場合があり、慎重な経過観察を要する病気です。

心筋炎の原因

原因は感染性と非感染性に大きく分かれます。感染性としてはウイルスが一番多い原因で、ほかに細菌、真菌、原虫や寄生虫によるものなどがあります。非感染性の心筋炎は薬物、化学物質、放射線、全身性疾患(膠原病やサルコイドーシス)などが挙げられます。近年では新型コロナウイルスやコロナワクチン、免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎が注目されています。

心筋炎の前兆や初期症状について

心筋炎の症状は急性期や慢性期に関わらず、様々な症状を呈します。医師はさまざまな症状から総合的に診断を行います。

急性心筋炎の場合、症状は大きく感冒様症状と心症状に分かれます。 感冒様症状はいわゆるかぜのような症状です。発熱、寒気、頭痛、関節痛、筋肉痛、だるさ、のどの痛み、咳などの症状だけでなく、嘔気、嘔吐、下痢や食欲不振などの消化器症状が出ることもあります。

心症状は胸痛、心不全による症状(呼吸困難、手足の冷感、浮腫、倦怠感)、不整脈による症状(動悸、頻脈、脈の乱れ、失神)などを指します。 心膜炎による胸痛の特徴は、鋭い胸焼けのような痛み、息を吸ったり咳をしたりすると増悪する、座って前傾姿勢になると軽減するなどです。 胸痛は虚血性心疾患でも起きる症状であり、その鑑別は重要です。 慢性活動性心筋炎、慢性炎症性心筋症の場合には、心不全による症状や不整脈による症状を認めることがあります。

一般的なかぜの症状だけでなく心臓の症状があり、心筋炎が心配な場合は循環器内科を受診しましょう。

心筋炎の検査・診断

主に急性心筋炎の検査方法について記載します。

バイタルサインと身体所見

心筋の炎症による発熱だけでなく、心不全をきたすと、低血圧や頻脈、酸素飽和度の低下などのバイタルサインの変化を認めることがあります。また、聴診上、Ⅲ音やⅣ音、湿性ラ音を認めることがあり、僧帽弁や三尖弁の逆流による収縮期雑音を聴取することもあります。心膜炎を合併している場合は、特徴的な心膜摩擦音が聞こえることもあります。

心電図

心筋炎では心電図異常を認めることが多く、約85%の症例で心電図に異常を認めるという報告もあります。急性心筋炎で最もよく見られる所見はST-T異常であり、他にもさまざまな心電図異常をきたしますが、心筋炎に特異的な心電図の所見はありません。急性冠症候群でも同様の変化を認めることがあり、その鑑別は重要です。ST-T異常以外にもQRS幅の延長や左脚ブロック、異常Q波、QTc延長、高度房室ブロック、持続性心室頻拍などを認めることがあり、これらの所見は予後不良を示唆すると言われています。

血液検査

心筋炎に特異的な血液検査所見はありません。炎症マーカー(白血球数、C反応性蛋白(CRP)、赤血球沈降速度(ESR)など)、心筋障害マーカー(クレアチンキナーゼ(CK)-MB、心筋トロポニン(トロポニンT、トロポニンI)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、乳酸脱水素酵素(LDH)など)、心不全マーカー(脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)など)が診断の補助になります。

心筋炎の原因を推定するためにウイルス検査を行うことがあります。ウイルス検査の対象となるウイルスは多く、コクサッキーウイルスB群を含むエンテロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルスなどがあります。

また、非ウイルス検査として血液培養やライム病に対する抗体検査を行うこともあります。それ以外に好酸球数や自己免疫疾患の抗体検査も検査として挙げられます。

心エコー図検査

心エコー図検査は急性心筋炎において重要な検査です。急性心筋炎では、心筋の壁肥厚、壁運動低下、心内腔狭小化、心膜液貯留が主な所見です。所見は時間とともに変わっていくので、経時的に何度か心エコー図検査を行うことが大切です。左室壁運動低下が目立たない場合でも、その後急激に壁運動の低下を認める例もあり、注意を要します。心膜心筋炎は心膜液の貯留により心タンポナーデをきたすことがあり、心エコー図検査はその評価に有用です。 慢性活動性心筋炎や慢性炎症性心筋症の場合は、びまん性の壁運動低下と左室径の拡大が主な所見です。

心臓MRI検査

心臓MRIは心筋の浮腫や壊死、線維化などの診断に有効な検査です。治療経過のモニタリングにも有用な検査ですが、より簡便な心エコー図検査や血液検査をフォローアップに利用することが一般的です。

心臓カテーテル検査、心内膜心筋生検

急性心筋炎は症状や心電図などの検査所見が急性冠症候群と似ていることが多く、急性冠症候群を除外するために心臓カテーテル検査を行うのが一般的です。冠動脈造影を行うことで急性冠症候群を除外できたら、必要に応じてカテーテル検査により血行動態の把握や心内膜心筋生検を行います。心内膜心筋生検は心筋の組織の一部を採取して顕微鏡で調べる検査で、心筋炎の確定診断ができる唯一の検査です。

心筋炎の治療

急性心筋炎の基本的な治療法は、血行動態が不安定な例と安定している例で分かれます。 血行動態が不安定な場合、薬物療法としてはカテコラミン、ホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害薬などを用いますが、それでも血行動態が維持できない症例にはすぐに大動脈内バルーンパンピング(IABP)、経皮的心肺補助装置(PCPS)、補助循環用ポンプカテーテル(IMPELLA)などの機械を用いた経皮的補助循環を行います。補助循環が長期化する場合などで補助人工心臓の植え込みを行うこともあります。 血行動態が安定している場合は、慎重な経過観察を行いながら、心不全に準じた心保護薬(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬、β遮断薬など)を投与します。

急性心筋炎では不整脈を合併することがあり、その場合はそれぞれの不整脈に対する治療も行います。急性期を脱したあとも心室性不整脈を認める場合は、突然死を予防するために植込型除細動器(ICD)や両室ペーシング機能付き植込型除細動器(CRT-D)などの機械を植込む手術を行うことがあります。完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈を合併することもあり、血行動態が不安定な症例には一時ペーシングを行います。症候性の徐脈性不整脈が持続する場合は、恒久的ペースメーカーの植込みを考慮します。 好酸球性心筋炎や巨細胞性心筋炎などの特殊な心筋炎に対しては免疫抑制療法を行います。 薬剤性心筋炎の場合は原因薬剤の中止や変更を行います。

心筋炎になりやすい人・予防の方法

心筋炎は年齢や性別に関わらず、健康な人でも突然発症する病気です。もともと強皮症、全身性エリテマトーデス、多発性心筋炎、多発血管炎性肉芽腫症などの自己免疫疾患と診断されている方は膠原病性心筋炎になるリスクがあります。 感染性の心筋炎に対しては手洗い、うがいなどの一般的な感染予防策が予防の方法となりますが、心筋炎に先行する感冒に罹患することを防ぐという意味合いになります。

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